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第25章『迷える夜』
番外篇『大切なぬくもり』
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「ちび、ちょっといいか?」
先生の診察の後、ひな君が会いに来てくれた。
「ひな君、どうして…」
「無理するな。過労で倒れたのに動き回ったら意味ないだろ?」
体を起こそうとした僕を止めて、ベッドで寝ているように諭される。
「具合は大丈夫そうか?」
「うん。だいぶよくなったよ」
「ならよかった」
どうしていきなりひな君が来たのかよく分からないまま、少し沈黙が流れる。
「ひとりだと退屈だろ?だから、昼食のリクエスト聞きに来た」
「お昼ご飯、作ってくれるの?」
「今の時間は授業出なくていいし、時間だけはあるからな」
ひな君の笑顔が眩しくて、見ているだけで元気になった気がした。
「…卵粥がいいな」
「分かった。じゃあ昼前に持ってくる」
人から看病されたことがないからこれでいいのか分からないけど、ひな君の優しさは理解できた。
「ありがとう」
「感謝されるようなことはしてない。というか、具合が悪いときくらい頼ってもらえた方がありがたい」
予鈴が鳴るまでひな君はずっと側にいてくれた。
授業に行くひな君を引き止められなくて、手をふって見送る。
ひとりでも罵られるはよりずっといい。
『早く起きて家事しなさい。風邪なんてすぐ治るでしょ?』
肺炎になるまでこじらせたこともあったけど、付き添いを拒否されて病院でひとりきりだった。
ぼんやりしているうちに、いつの間にかお昼の時間になったらしい。
「頼まれてたもの、持ってきたぞ」
「ついでに林檎も持ってきた。食べられそう?」
「桜良ちゃんも来てくれたんだ…嬉しいな」
「ちょっと触らせてもらう」
そっと額に置かれた手はひんやりしていて気持ちいい。
「…熱が上がってきてるみたい」
「先輩と先生に知らせといた方がいいな。…ちび、起きられそうか?」
「うん。ふたりが作ってくれたお昼ご飯、食べたいな」
「食べられるだけ食べたら残していいからな」
一口、また一口とゆっくり食べてみる。
ふたりが作ってくれたものだからか、あんまり得意じゃないお粥もさらさら食べられた。
残り3分の1くらいになったところでスプーンを置く。
「ごちそうさまでした」
「あなたは結構少食だとは聞いていたけど、多かった?」
「ごめん。ちょっと多かった…」
「謝る必要ないんだって。俺も桜良も、ただ食べてほしかっただけなんだから」
林檎を4かけ食べたところで眠くなってきた。
「それじゃあ、俺たちは行くから」
「うん。…ありがとう」
その後は猫さんが来てくれて、ただ隣にいてくれた。
死者だって体調を崩すことはあるんだから気をつけなさいって言われた気がするけど、よく覚えてない。
「結月、どんな様子だ?」
「見てのとおりよ。少し熱があがってきているのが心配ね」
「詩乃、ちゃん……?」
おでこに冷却シートを貼られてびっくりしたけど、詩乃ちゃんの心配そうな顔を見ていたら何も言えなくなる。
「そういえば、教会の事件はちゃんと片づいたよ。瞬が薔薇園を見ててくれたおかげだ。ありがとう」
今回もちゃんと役に立てたみたいでよかった。
猫さんは首元の汗を拭いてくれて、詩乃ちゃんは少し離れたところで誰かと話している。
「…いいから少し休んでなさい。しばらくは私たちが側にいるから」
「ありがとう…」
だんだん瞼が重くなってきて目を閉じる。
みんなが来てくれたからか、悪夢を見ることはなかった。
「……」
「先生?」
次に目を開けたときに見えたのは、心配そうに僕の顔を覗きこむ先生の姿だった。
「悪い、起こしたか」
「ううん。ずっと側にいてくれてありがとう」
「…熱、少し下がったな。薬飲めるか?」
小さく頷くと、小粒を手のひらにのせられる。
「苦くないから飲んでみろ」
「…本当だ、苦くない」
先生は黙って頭を撫でてくれる。
みんなが来てくれて嬉しかったけど、先生の手が1番安心するのはどうしてだろう。
「…ねえ、先生。手、繋いで?」
「普段もこれくらい素直ならいいんだが。…これでいいか?」
「ありがとう先生。大好き」
「……!」
自分でも何を言ったか分からないままもう1度眠りにつく。
「早くよくなるといいな、瞬」
先生の呟きに言葉を返せないまま眠ってしまった。
こんなに周りに愛される日がくるなんて思っていなかったからすごく嬉しい。
他のみんなともだけど、ずっと先生の側にいられるといいな。
先生の診察の後、ひな君が会いに来てくれた。
「ひな君、どうして…」
「無理するな。過労で倒れたのに動き回ったら意味ないだろ?」
体を起こそうとした僕を止めて、ベッドで寝ているように諭される。
「具合は大丈夫そうか?」
「うん。だいぶよくなったよ」
「ならよかった」
どうしていきなりひな君が来たのかよく分からないまま、少し沈黙が流れる。
「ひとりだと退屈だろ?だから、昼食のリクエスト聞きに来た」
「お昼ご飯、作ってくれるの?」
「今の時間は授業出なくていいし、時間だけはあるからな」
ひな君の笑顔が眩しくて、見ているだけで元気になった気がした。
「…卵粥がいいな」
「分かった。じゃあ昼前に持ってくる」
人から看病されたことがないからこれでいいのか分からないけど、ひな君の優しさは理解できた。
「ありがとう」
「感謝されるようなことはしてない。というか、具合が悪いときくらい頼ってもらえた方がありがたい」
予鈴が鳴るまでひな君はずっと側にいてくれた。
授業に行くひな君を引き止められなくて、手をふって見送る。
ひとりでも罵られるはよりずっといい。
『早く起きて家事しなさい。風邪なんてすぐ治るでしょ?』
肺炎になるまでこじらせたこともあったけど、付き添いを拒否されて病院でひとりきりだった。
ぼんやりしているうちに、いつの間にかお昼の時間になったらしい。
「頼まれてたもの、持ってきたぞ」
「ついでに林檎も持ってきた。食べられそう?」
「桜良ちゃんも来てくれたんだ…嬉しいな」
「ちょっと触らせてもらう」
そっと額に置かれた手はひんやりしていて気持ちいい。
「…熱が上がってきてるみたい」
「先輩と先生に知らせといた方がいいな。…ちび、起きられそうか?」
「うん。ふたりが作ってくれたお昼ご飯、食べたいな」
「食べられるだけ食べたら残していいからな」
一口、また一口とゆっくり食べてみる。
ふたりが作ってくれたものだからか、あんまり得意じゃないお粥もさらさら食べられた。
残り3分の1くらいになったところでスプーンを置く。
「ごちそうさまでした」
「あなたは結構少食だとは聞いていたけど、多かった?」
「ごめん。ちょっと多かった…」
「謝る必要ないんだって。俺も桜良も、ただ食べてほしかっただけなんだから」
林檎を4かけ食べたところで眠くなってきた。
「それじゃあ、俺たちは行くから」
「うん。…ありがとう」
その後は猫さんが来てくれて、ただ隣にいてくれた。
死者だって体調を崩すことはあるんだから気をつけなさいって言われた気がするけど、よく覚えてない。
「結月、どんな様子だ?」
「見てのとおりよ。少し熱があがってきているのが心配ね」
「詩乃、ちゃん……?」
おでこに冷却シートを貼られてびっくりしたけど、詩乃ちゃんの心配そうな顔を見ていたら何も言えなくなる。
「そういえば、教会の事件はちゃんと片づいたよ。瞬が薔薇園を見ててくれたおかげだ。ありがとう」
今回もちゃんと役に立てたみたいでよかった。
猫さんは首元の汗を拭いてくれて、詩乃ちゃんは少し離れたところで誰かと話している。
「…いいから少し休んでなさい。しばらくは私たちが側にいるから」
「ありがとう…」
だんだん瞼が重くなってきて目を閉じる。
みんなが来てくれたからか、悪夢を見ることはなかった。
「……」
「先生?」
次に目を開けたときに見えたのは、心配そうに僕の顔を覗きこむ先生の姿だった。
「悪い、起こしたか」
「ううん。ずっと側にいてくれてありがとう」
「…熱、少し下がったな。薬飲めるか?」
小さく頷くと、小粒を手のひらにのせられる。
「苦くないから飲んでみろ」
「…本当だ、苦くない」
先生は黙って頭を撫でてくれる。
みんなが来てくれて嬉しかったけど、先生の手が1番安心するのはどうしてだろう。
「…ねえ、先生。手、繋いで?」
「普段もこれくらい素直ならいいんだが。…これでいいか?」
「ありがとう先生。大好き」
「……!」
自分でも何を言ったか分からないままもう1度眠りにつく。
「早くよくなるといいな、瞬」
先生の呟きに言葉を返せないまま眠ってしまった。
こんなに周りに愛される日がくるなんて思っていなかったからすごく嬉しい。
他のみんなともだけど、ずっと先生の側にいられるといいな。
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