222 / 302
第24章『サバトにて』
第180話
しおりを挟む
「なあ、知ってるか?生きているものに共通してるであろう、最大の弱点」
《し、知るか!》
陽向はにっこり笑うと、迫ってきた守衛に拳をお見舞いする。
「顎だよ。脳震盪をおこす」
「じゃあ、その馬たちも…」
「俺、命令されて従わざるを得なかった奴を殺すほど馬鹿じゃありませんから。
…というか、まだ殺したことありませんし予定もありません」
売り物搬入口から次々現れる敵に、陽向は微笑み拳を構える。
「ちゃんと戦える奴が来てくれないと、君たちのリーダーから潰すぞ」
その口調はいつものような相手を茶化すものではなく、本気の殺意がこめられていた。
《弱イもので強クナルことの、何ガ悪い?》
「あ、それこの人の前で言っちゃうんだ」
陽向の言葉を全部聞かず、火炎刃で周りにいた3人ほどを蹴散らす。
そのうちひとりは体が崩れ、そのまま消えていった。
《ば、バケモノ…!》
腰を抜かす者、震えている者、逃げようとする者…糸がかかっていない奴だけを狙って思いきり火炎刃をふる。
自分より弱ければ狩っていいというなら、自分たちが狩られることも覚悟しているはずだ。
「…集団でひとりによってたかっていじめるような雑魚より、捕まってた人たちの方がずっと強い。
化け物?そうかもな。けど、私からすればあんな残酷なことをできるあんたたちの方が化け物だ」
ひたすら燃やし続けていると、後ろからやんわり押さえられる。
「そこまでにしましょう。…先輩、かなり疲れてるでしょ?」
「いいんだ。こいつらに何かしないと気がすまない」
『誰かに痛みを与えるために腕を磨いたわけじゃないだろ』
インカムから聞こえた声にはっとする。
そうだ、私はただ護りたくて鍛錬してきたんだ。
誰かを傷つけて見下す為じゃない。
「…大切なことを忘れるところだった。けど、どうしてもこいつらを許せない」
人を顎で使う奴等が嫌いだった。
傷つけられる人たちを救える力が欲しかったんだ。
「…今の私は化け物だな」
薙ぎ払った相手を見ながら思わずそんな一言が零れる。
陽向を困らせたくはなかったが、近くでただ俯いた姿を見て安心した。
『【みるみる体が動かなくなります。…そして最後は地下に姿を現すのです。…ゾンビのように】』
インカムから桜良の声が聞こえてくると同時に、必死で足を止めようとしている妖が現れた。
「俺、先輩ほど強くないし、いつも死んでばっかりだし…。けど、先輩のことかっこいいとしか思ったことありませんよ」
「陽向…ありがとう」
「目の前の奴等、とっとと片づけちゃいましょ!」
「そうだな」
拳を構えなおした陽向に頼もしさを感じながら、もう1度火炎刃を持ちあげる。
恐らくこれで失敗したら次はない。
鎖を焼きながら峰打ちになるよう相手に押しつけていく。
《くそ、あの計画書どおりにシタノニ》
「計画書?」
《裏切ッタナ、フード!》
そう叫んだ妖は爆弾を起動したようだ。
「みんな、すぐ脱出しろ。いいな?」
『詩乃ちゃんはどうするの?』
「ちゃんと出るよ。盗まれたであろうものを取ってからな」
ショーケースごと運べる出入り口はない。
できるだけ傷がつかないように気をつけながら、中に入っていたもの全てを取り出す。
柘榴の石がついた髪飾りだけは別にしておいた。
「先輩、行きましょう!」
「そうだな。これなら転がってる奴等も死なないだろうし」
バリケードのようなものを作り、すぐにその場を離れる。
ショーケースに入っていた1枚の紙を見て胸騒ぎがした。
【君なら辿り着いてくれると思ったよ】
「…先輩?どうしました?」
地上について陽向に心配されたが、なんでもないと誤魔化した。
まだ確証はないが、次があるというならかなりまずい。
「全員いるな?怪我してないか?」
「僕は平気」
「私もなんともない」
「俺も死ななかったです!珍しい…」
「……こほ」
力を使って声が出ないのか、桜良は悲しそうに咳きこんだ。
私も立っているのがやっとの状態ではあるが、なんとかみんな無事だった。
「これを落とし物のところに届けて、残りのサバト楽しんじゃいましょう!」
「ひな君に賛成!僕、何か食べたいな…」
「先にやることやってからな」
一旦手分けすることになり、集合場所は神社になった。
近くにいた妖に声をかけ、髪飾りを見せる。
「探しものはこれで合ってたかな?」
《し、知るか!》
陽向はにっこり笑うと、迫ってきた守衛に拳をお見舞いする。
「顎だよ。脳震盪をおこす」
「じゃあ、その馬たちも…」
「俺、命令されて従わざるを得なかった奴を殺すほど馬鹿じゃありませんから。
…というか、まだ殺したことありませんし予定もありません」
売り物搬入口から次々現れる敵に、陽向は微笑み拳を構える。
「ちゃんと戦える奴が来てくれないと、君たちのリーダーから潰すぞ」
その口調はいつものような相手を茶化すものではなく、本気の殺意がこめられていた。
《弱イもので強クナルことの、何ガ悪い?》
「あ、それこの人の前で言っちゃうんだ」
陽向の言葉を全部聞かず、火炎刃で周りにいた3人ほどを蹴散らす。
そのうちひとりは体が崩れ、そのまま消えていった。
《ば、バケモノ…!》
腰を抜かす者、震えている者、逃げようとする者…糸がかかっていない奴だけを狙って思いきり火炎刃をふる。
自分より弱ければ狩っていいというなら、自分たちが狩られることも覚悟しているはずだ。
「…集団でひとりによってたかっていじめるような雑魚より、捕まってた人たちの方がずっと強い。
化け物?そうかもな。けど、私からすればあんな残酷なことをできるあんたたちの方が化け物だ」
ひたすら燃やし続けていると、後ろからやんわり押さえられる。
「そこまでにしましょう。…先輩、かなり疲れてるでしょ?」
「いいんだ。こいつらに何かしないと気がすまない」
『誰かに痛みを与えるために腕を磨いたわけじゃないだろ』
インカムから聞こえた声にはっとする。
そうだ、私はただ護りたくて鍛錬してきたんだ。
誰かを傷つけて見下す為じゃない。
「…大切なことを忘れるところだった。けど、どうしてもこいつらを許せない」
人を顎で使う奴等が嫌いだった。
傷つけられる人たちを救える力が欲しかったんだ。
「…今の私は化け物だな」
薙ぎ払った相手を見ながら思わずそんな一言が零れる。
陽向を困らせたくはなかったが、近くでただ俯いた姿を見て安心した。
『【みるみる体が動かなくなります。…そして最後は地下に姿を現すのです。…ゾンビのように】』
インカムから桜良の声が聞こえてくると同時に、必死で足を止めようとしている妖が現れた。
「俺、先輩ほど強くないし、いつも死んでばっかりだし…。けど、先輩のことかっこいいとしか思ったことありませんよ」
「陽向…ありがとう」
「目の前の奴等、とっとと片づけちゃいましょ!」
「そうだな」
拳を構えなおした陽向に頼もしさを感じながら、もう1度火炎刃を持ちあげる。
恐らくこれで失敗したら次はない。
鎖を焼きながら峰打ちになるよう相手に押しつけていく。
《くそ、あの計画書どおりにシタノニ》
「計画書?」
《裏切ッタナ、フード!》
そう叫んだ妖は爆弾を起動したようだ。
「みんな、すぐ脱出しろ。いいな?」
『詩乃ちゃんはどうするの?』
「ちゃんと出るよ。盗まれたであろうものを取ってからな」
ショーケースごと運べる出入り口はない。
できるだけ傷がつかないように気をつけながら、中に入っていたもの全てを取り出す。
柘榴の石がついた髪飾りだけは別にしておいた。
「先輩、行きましょう!」
「そうだな。これなら転がってる奴等も死なないだろうし」
バリケードのようなものを作り、すぐにその場を離れる。
ショーケースに入っていた1枚の紙を見て胸騒ぎがした。
【君なら辿り着いてくれると思ったよ】
「…先輩?どうしました?」
地上について陽向に心配されたが、なんでもないと誤魔化した。
まだ確証はないが、次があるというならかなりまずい。
「全員いるな?怪我してないか?」
「僕は平気」
「私もなんともない」
「俺も死ななかったです!珍しい…」
「……こほ」
力を使って声が出ないのか、桜良は悲しそうに咳きこんだ。
私も立っているのがやっとの状態ではあるが、なんとかみんな無事だった。
「これを落とし物のところに届けて、残りのサバト楽しんじゃいましょう!」
「ひな君に賛成!僕、何か食べたいな…」
「先にやることやってからな」
一旦手分けすることになり、集合場所は神社になった。
近くにいた妖に声をかけ、髪飾りを見せる。
「探しものはこれで合ってたかな?」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。
ある家族と戦争のニュース
寸陳ハウスのオカア・ハン
現代文学
2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した。
これはそのニュースが報道されてから数日後の、日本のある家族の一日を描く物語である。
*一部、実際の情勢とは違う形で話が展開しますが、これは作者が想定する最悪のシナリオを反映させたためになります
夜紅前日譚
黒蝶
キャラ文芸
母親が亡くなってからというもの、ひたすら鍛錬に精を出してきた折原詩乃。
師匠である神宮寺義政(じんぐうじ よしまさ)から様々な知識を得て、我流で技を編み出していく。
そんなある日、神宮寺本家に見つかってしまい…?
夜紅誕生秘話、前日譚ここにあり。
※この作品は『夜紅の憲兵姫』の過去篇です。
本作品からでも楽しめる内容になっています。

ギフテッド
路地裏乃猫
ライト文芸
彼の絵を見た者はいずれ死に至るーーー
死や悲しみ、怒り――作品を通じて様々な影響を鑑賞者に与えてしまうアーティスト、またの名を〝ギフテッド〟。彼らの多くは、国家によって管理、秘匿されている。
そんな中、最も厄介な〝死のギフト〟の保持者である主人公、海江田漣(かいえだれん)は、そうとは知らないまま公共物の壁に落書きし、偶然目にした人々を死に追いやってしまう。
人命を奪ってしまったことを悔やみながら、それでもなお表現を諦められない漣。そんな漣のギフトを巡り、さまざまな人間、組織の思惑が交錯する。
おもな登場人物
海江田漣(かいえだれん) ギフト「死」
都内の医大に通う大学生。病院を経営する父親に医者への道を強制され、アーティストの夢を断たれる。その鬱憤を公共物への落書きで晴らしていたところ、それが〝死〟のギフトを発現、多くの人々を死に追いやってしまう。
自らの罪を悔やみつつも絵筆を捨てきれず、嶋野の勧めでギフテッドの保護施設へと隔離されるが、そこで彼を待っていたのはギフテッドを巡る人々の戦いだった。
嶋野凪(しまのなぎ) ギフト「権威」
ギフテッドの保護監視組織『藝術協会』所属のキュレーター。自らもギフテッドであり、ギフトを駆使し、未知のギフテッドの発見と保護に努める。協会では漣の心の支えとなるが、一方で協会の目を盗み、ある人物の理想のために暗躍する。
東雲瑠香(しののめるか) ギフト「克服」
藝術協会の施設内で漣が出会った女性。他者との関わりを何よりも重んじ、慣れない施設暮らしに戸惑う漣を助ける。普段は明るく振舞うが、実はギフトをめぐって悲しい過去を持つ。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ファーナーティクスへの福音
ベアりんぐ
ライト文芸
なにかを信じることは、弱いことか?
なにかを求めるのは、卑怯なことか?
望むことは傲慢か?見捨てることは薄情か?
人は何かに縋らなければ生きていけない。
これは、なにかを信じ、崇め、絶望する話。
05
※こちらの作品は「アルファポリス」以外にも「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載されています。
バベルの塔の上で
三石成
ホラー
一条大和は、『あらゆる言語が母国語である日本語として聞こえ、あらゆる言語を日本語として話せる』という特殊能力を持っていた。その能力を活かし、オーストラリアで通訳として働いていた大和の元に、旧い友人から助けを求めるメールが届く。
友人の名は真澄。幼少期に大和と真澄が暮らした村はダムの底に沈んでしまったが、いまだにその近くの集落に住む彼の元に、何語かもわからない言語を話す、長い白髪を持つ謎の男が現れたのだという。
その謎の男とも、自分ならば話せるだろうという確信を持った大和は、真澄の求めに応じて、日本へと帰国する——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる