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第24章『サバトにて』
第179話
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《お、お姉さん、誰…?》
暗いのもあってか、相手はかなり怯えているようだ。
「君を助けてほしいってお姉さんに頼まれたんだ。上に仲間がいるんだけど、床が抜けて落ちてしまった」
《お姉さんは、怖い人じゃないんだね》
ほっとしたような声を出す少年に手を伸ばすと、小さな手で握り返される。
「…先生、持ち上げられないか?残念なことにあまりに暗すぎて自力で登るのは無理そうだ」
『やってみるから少し待ってくれ』
「私にしっかり掴まっていてくれ」
《ありがとう》
少年の腕は細く、あまり食べていない印象がある。
《…お姉ちゃん、怒ってなかった?》
「怒ってない。心配はしてたけど…それよりご飯ちゃんと食べてるのか?」
《今年は凶作であんまりとれてないから、ご飯が少ないんだ。だけど、ここでならお腹いっぱい食べられるかもって…》
普段住んでいる集落はとても小さいもので、長雨だったこともあり様々な食べ物の収穫量が半分以下だったのだという。
《お姉ちゃんは神官さんをやっているから僕よりはもう少し食べられてるみたいだけど、神殿の関係者以外の人は食べちゃ駄目なんだ》
「巫女じゃなくて神官なのか」
《力がうんと強いから選ばれたんだって。お姉ちゃんの晴れ乞いの歌はすごいんだよ》
少しずつ体が上がっていく感覚に安心していたが、残念なことにすんなり地上に出してはもらえそうにない。
《お姉さん?》
「私を蹴ってすぐに上にあがれ。怖いかもしれないけど、私を信じてほしい」
真下から聞こえる呻き声は操られている妖たちのものだろう。
「頼む、みんなで受け止めてくれ」
『おまえはどうするんだ』
「…こんなオークション会場なんてぶち壊す」
『待ってください、先輩』
「ごめん。逃げるのは無理なんだ」
腰を何かに掴まれ、そのまま下に落ちていく。
なんとか押しあげた小さな体は、光のなかから伸びてきた複数の手に抱えられた。
先生の糸を軽く燃やし、そのまま妖たちについていく。
《目玉、綺麗…美味シソウ》
《耳モ美味イゾ》
《まずハ足カラダロ》
ぐだぐだ話しているものの、私を解体するつもりはないらしい。
今夜が満月だったら勝てなかったかもしれないが、幸いにも新月だ。
…新月なのに、こんなに大量の糸を操れる妖がいるのか?
《立テ、商品》
嵌められた足枷がかなり重く、そのままずるずる引きずられてしまう。
「さあ、本日の目玉商品です!」
声の響きが妖たちと違う。もしかすると、仮面をつけたオークショニアは人間なのか?
私以外に新月に力を落とさないタイプがいるという話は聞いたことがない。
それなら、どうやって弱点を補っているんだろう。
《欲シイナ…》
《助けて!》
まだ何人か別室に残されていたらしく、値札がつけられた妖たちが並んでいる。
『先輩、今どこですか?』
「大丈夫だよ。…もう終わるから」
火炎刃を握りなおし、まずは足枷を焼き払う。
闇オークションに参加していた妖たちは青ざめていたが、そんなことはどうでもいい。
「──爆ぜろ」
客席を燃やし、一先ず買おうとする妖たちを追い払う。
逃げ道はひとつしかない。
「…走れるか?」
《あの、あなたは…》
《もしかして、噂の夜紅!?》
「どんな噂なんだろうな…。それより、走れるならこの地図を頼りに逃げてくれ。今から檻を壊す」
燃やして、燃やして、ひたすら燃やして…止めに入ろうとする主催側なんておかまいなしに逃した。
それから、近くにあったショーケースの中に探してほしいと言われた髪飾りが入っているのを確認する。
《ナンテコトヲ…》
「ルール違反をしたのはそっちだろ?この場から立ち去るか、私の炎に焼かれるか選べ」
紅をさした今の私は、新月で力が弱っている妖に負けたりしない。
《く、くそ!こうなったら…》
頭がふたつある馬が私に向かって突進してくる。
少し後ずさると、前に何かが飛び出してきた。
「まったく、滅茶苦茶じゃないですか」
「陽向…早かったな」
目の前には戦闘準備をしてきた陽向と泡を吹いて倒れる馬の姿があった。
暗いのもあってか、相手はかなり怯えているようだ。
「君を助けてほしいってお姉さんに頼まれたんだ。上に仲間がいるんだけど、床が抜けて落ちてしまった」
《お姉さんは、怖い人じゃないんだね》
ほっとしたような声を出す少年に手を伸ばすと、小さな手で握り返される。
「…先生、持ち上げられないか?残念なことにあまりに暗すぎて自力で登るのは無理そうだ」
『やってみるから少し待ってくれ』
「私にしっかり掴まっていてくれ」
《ありがとう》
少年の腕は細く、あまり食べていない印象がある。
《…お姉ちゃん、怒ってなかった?》
「怒ってない。心配はしてたけど…それよりご飯ちゃんと食べてるのか?」
《今年は凶作であんまりとれてないから、ご飯が少ないんだ。だけど、ここでならお腹いっぱい食べられるかもって…》
普段住んでいる集落はとても小さいもので、長雨だったこともあり様々な食べ物の収穫量が半分以下だったのだという。
《お姉ちゃんは神官さんをやっているから僕よりはもう少し食べられてるみたいだけど、神殿の関係者以外の人は食べちゃ駄目なんだ》
「巫女じゃなくて神官なのか」
《力がうんと強いから選ばれたんだって。お姉ちゃんの晴れ乞いの歌はすごいんだよ》
少しずつ体が上がっていく感覚に安心していたが、残念なことにすんなり地上に出してはもらえそうにない。
《お姉さん?》
「私を蹴ってすぐに上にあがれ。怖いかもしれないけど、私を信じてほしい」
真下から聞こえる呻き声は操られている妖たちのものだろう。
「頼む、みんなで受け止めてくれ」
『おまえはどうするんだ』
「…こんなオークション会場なんてぶち壊す」
『待ってください、先輩』
「ごめん。逃げるのは無理なんだ」
腰を何かに掴まれ、そのまま下に落ちていく。
なんとか押しあげた小さな体は、光のなかから伸びてきた複数の手に抱えられた。
先生の糸を軽く燃やし、そのまま妖たちについていく。
《目玉、綺麗…美味シソウ》
《耳モ美味イゾ》
《まずハ足カラダロ》
ぐだぐだ話しているものの、私を解体するつもりはないらしい。
今夜が満月だったら勝てなかったかもしれないが、幸いにも新月だ。
…新月なのに、こんなに大量の糸を操れる妖がいるのか?
《立テ、商品》
嵌められた足枷がかなり重く、そのままずるずる引きずられてしまう。
「さあ、本日の目玉商品です!」
声の響きが妖たちと違う。もしかすると、仮面をつけたオークショニアは人間なのか?
私以外に新月に力を落とさないタイプがいるという話は聞いたことがない。
それなら、どうやって弱点を補っているんだろう。
《欲シイナ…》
《助けて!》
まだ何人か別室に残されていたらしく、値札がつけられた妖たちが並んでいる。
『先輩、今どこですか?』
「大丈夫だよ。…もう終わるから」
火炎刃を握りなおし、まずは足枷を焼き払う。
闇オークションに参加していた妖たちは青ざめていたが、そんなことはどうでもいい。
「──爆ぜろ」
客席を燃やし、一先ず買おうとする妖たちを追い払う。
逃げ道はひとつしかない。
「…走れるか?」
《あの、あなたは…》
《もしかして、噂の夜紅!?》
「どんな噂なんだろうな…。それより、走れるならこの地図を頼りに逃げてくれ。今から檻を壊す」
燃やして、燃やして、ひたすら燃やして…止めに入ろうとする主催側なんておかまいなしに逃した。
それから、近くにあったショーケースの中に探してほしいと言われた髪飾りが入っているのを確認する。
《ナンテコトヲ…》
「ルール違反をしたのはそっちだろ?この場から立ち去るか、私の炎に焼かれるか選べ」
紅をさした今の私は、新月で力が弱っている妖に負けたりしない。
《く、くそ!こうなったら…》
頭がふたつある馬が私に向かって突進してくる。
少し後ずさると、前に何かが飛び出してきた。
「まったく、滅茶苦茶じゃないですか」
「陽向…早かったな」
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