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第24章『サバトにて』
第176話
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「折原、抑えろ」
苛立つ私に気づいた先生が小声で囁く。
ひとりなら飛び出していたかもしれないが、背中でぐっすり寝ている健吾がいる限り下手な動きはできない。
「ここに他にも人間が閉じこめられているなら、なんとか出してやりたい。
迷いこんだだけで売り買いされるなんて理不尽なことを、見逃すわけにはいかない」
「あいつらは操られてる」
先生がそう断言する理由が分からなかった。
確かに話し方は暴走しかけたときの怪異に似ているが、耳への響き方が違う。
「先生はどこを見てそう思ったんだ?」
「…全員腰のあたりに紐がついてる」
目を凝らしてみると、たしかに鎖のようなものが刺さっている。
頭に血がのぼっているせいか、きちんと認識できていなかった。
「つまり、あの紐の持ち主さえ倒せればいいんだな」
「何をするつもりだ?」
「先に健吾を帰しに行くんだよ。取引を潰すにしても、無関係の人間を巻きこむわけにはいかない」
集まっていた妖のようなものたちが去っていくのを確認して、申し訳ないと思いつつ健吾を起こす。
「あれ、お姉さん…?」
「この扉を開けて、元の世界に帰るんだ」
「お見送りしてくれるの?」
「うん。私たちが一緒にいられるのはここまでだ」
「助けてくれてありがとう。僕を助けてくれたお姉さんのこと、お願いします」
しっかりした口調でそう話すと、手を振りながら扉に手をかけた。
そのまま健吾は入っていき、扉が閉まるのとほぼ同時にインカムから呼びかけられる。
『先輩、聞こえますか?』
「陽向…もう動いて大丈夫なのか?」
『地味に死にましたけど、もう元気です。一旦合流したいんですけど、神社まで戻れますか?』
「俺たちは大丈夫だ。子どもを帰し終えた」
『そう…帰れてよかったです』
『実は僕たち、今神社にいるんだ。人がほとんど来ないから騒ぎになることもないと思う』
「分かった。すぐに向かう」
ふたりで来た道を戻ると、陽向たちが賽銭箱の前で話しているのが見えた。
見たところ怪我をしている様子もなく一先ず安心だ。
「お疲れ様です。そうだ、あの子が言ってたお姉さんらしき人を見つけました。
さっき神社の中に入っていったんですけど、なかなか出てこなくて…」
勝手に入るのは失礼だろう…というより、そもそも社の中に入っていいのだろうか。
緊急時だからという理由が通るとは思えない。
「声をかけてみるか」
「…あの、すみません!僕たち、子どもを助けたお姉さんを探していて…お姉さんなんじゃないかと思うんです」
瞬が正直に話すと、あっさり出てきてくれた。
作り物とは思えない角が生えていて、人間ではなかったのだとすぐに理解する。
《あの子は帰れましたか?》
「私たちで帰したよ。囮になってくれたお姉さんを助けてくれって頼まれた」
《助ける…でしたら、私の願いを叶えていただけませんか?》
その女性は弟とサバトに来ていてはぐれてしまったのだという。
弟だと思って手をとった相手が健吾だったらしい。
《ずっと探していたのですが、見つけられないまま…どうかお願いします。弟を探してください》
人探しがさらなる人探しに繋がるなんて思っていなかったが、今にも泣き出しそうな顔で頭を下げられてしまっては断れない。
「…みんな、もう少しだけつきあってくれ」
「勿論です!困ってる人無視して楽しむなんてできませんから」
陽向はそう言っていつものように手にグローブをはめている。
他の面々もその場で頷き準備をはじめた。
「おまえはここに隠れていた方がいい。神に仕える種族だろ」
《分かってしまいましたか》
珍しいから狙われたのなら弟の命はかなり危険な状態かもしれない。
「必ず連れて帰るから、心配せずここで待っていてくれ」
《ありがとうございます》
決意をたしかに神社を一旦後にする。
本拠地に目星がついたわけではないが、なんとなくの位置なら掴めるはずだ。
「多分こっちだ」
「え、なんで分かるんですか?」
「鎖が擦れる音がしてるから」
ここで選択を誤ったら終わりだ。
それが分かっていても進まずにはいられなかった。
苛立つ私に気づいた先生が小声で囁く。
ひとりなら飛び出していたかもしれないが、背中でぐっすり寝ている健吾がいる限り下手な動きはできない。
「ここに他にも人間が閉じこめられているなら、なんとか出してやりたい。
迷いこんだだけで売り買いされるなんて理不尽なことを、見逃すわけにはいかない」
「あいつらは操られてる」
先生がそう断言する理由が分からなかった。
確かに話し方は暴走しかけたときの怪異に似ているが、耳への響き方が違う。
「先生はどこを見てそう思ったんだ?」
「…全員腰のあたりに紐がついてる」
目を凝らしてみると、たしかに鎖のようなものが刺さっている。
頭に血がのぼっているせいか、きちんと認識できていなかった。
「つまり、あの紐の持ち主さえ倒せればいいんだな」
「何をするつもりだ?」
「先に健吾を帰しに行くんだよ。取引を潰すにしても、無関係の人間を巻きこむわけにはいかない」
集まっていた妖のようなものたちが去っていくのを確認して、申し訳ないと思いつつ健吾を起こす。
「あれ、お姉さん…?」
「この扉を開けて、元の世界に帰るんだ」
「お見送りしてくれるの?」
「うん。私たちが一緒にいられるのはここまでだ」
「助けてくれてありがとう。僕を助けてくれたお姉さんのこと、お願いします」
しっかりした口調でそう話すと、手を振りながら扉に手をかけた。
そのまま健吾は入っていき、扉が閉まるのとほぼ同時にインカムから呼びかけられる。
『先輩、聞こえますか?』
「陽向…もう動いて大丈夫なのか?」
『地味に死にましたけど、もう元気です。一旦合流したいんですけど、神社まで戻れますか?』
「俺たちは大丈夫だ。子どもを帰し終えた」
『そう…帰れてよかったです』
『実は僕たち、今神社にいるんだ。人がほとんど来ないから騒ぎになることもないと思う』
「分かった。すぐに向かう」
ふたりで来た道を戻ると、陽向たちが賽銭箱の前で話しているのが見えた。
見たところ怪我をしている様子もなく一先ず安心だ。
「お疲れ様です。そうだ、あの子が言ってたお姉さんらしき人を見つけました。
さっき神社の中に入っていったんですけど、なかなか出てこなくて…」
勝手に入るのは失礼だろう…というより、そもそも社の中に入っていいのだろうか。
緊急時だからという理由が通るとは思えない。
「声をかけてみるか」
「…あの、すみません!僕たち、子どもを助けたお姉さんを探していて…お姉さんなんじゃないかと思うんです」
瞬が正直に話すと、あっさり出てきてくれた。
作り物とは思えない角が生えていて、人間ではなかったのだとすぐに理解する。
《あの子は帰れましたか?》
「私たちで帰したよ。囮になってくれたお姉さんを助けてくれって頼まれた」
《助ける…でしたら、私の願いを叶えていただけませんか?》
その女性は弟とサバトに来ていてはぐれてしまったのだという。
弟だと思って手をとった相手が健吾だったらしい。
《ずっと探していたのですが、見つけられないまま…どうかお願いします。弟を探してください》
人探しがさらなる人探しに繋がるなんて思っていなかったが、今にも泣き出しそうな顔で頭を下げられてしまっては断れない。
「…みんな、もう少しだけつきあってくれ」
「勿論です!困ってる人無視して楽しむなんてできませんから」
陽向はそう言っていつものように手にグローブをはめている。
他の面々もその場で頷き準備をはじめた。
「おまえはここに隠れていた方がいい。神に仕える種族だろ」
《分かってしまいましたか》
珍しいから狙われたのなら弟の命はかなり危険な状態かもしれない。
「必ず連れて帰るから、心配せずここで待っていてくれ」
《ありがとうございます》
決意をたしかに神社を一旦後にする。
本拠地に目星がついたわけではないが、なんとなくの位置なら掴めるはずだ。
「多分こっちだ」
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