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第24章『サバトにて』
第173話
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深夜、人気がなくなった学園で巡回する警備員たちを避けながら恋愛電話の前へ向う。
「先輩、その服買ったんですか?」
「だいぶ前から着てるお気に入り、かな。ブランド物ではないけど、着心地がいいからこの会社の服は気に入ってる」
「かっこいい…」
「ありがとう」
桜良が着ているのは可愛らしいワンピースで、私が着ているのはボーイッシュな服だ。
陽向が服の話題を出したのは桜良のためだったのだろう。
「ひとりずつこの番号に電話をかけなさい」
「ありがとう結月」
結月もいつもとは違う格好をしていて、椿柄の浴衣が特徴的だ。
「これでも羽織った方がいいかも。寒いだろ?」
「なんで持ってるのよ…」
陽向は羽織を差し出しながらにこりと笑い、言われた通りの番号を恋愛電話に打ちこむ。
「じゃ、結月も楽しんで」
その姿は一瞬で消えていった。
他のみんなも番号を順番に打っていき、私と結月だけが残る。
「楽しんできなさい」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
番号を打った瞬間、体が鉛のように重くなる。
くらくらする頭をおさえると、先生に声をかけられた。
「ついたぞ」
「え、なんだこれ!?」
「すごい…初めて見たけど、こんなに賑わってるんだね」
楽しそうに集う妖たちに紛れ、そのまま道なりに進んでいく。
人があまりいない場所に集まり、そこで先生が風呂敷で包んでいたものを見せてくれる。
「食べても人間に害が及ぶことはないから、欲しいものがあるならここにあるものを使って交換しろ」
「物々交換なのか」
「ああ。ふたりは服にこれをかけたか?」
「一応かけたよ」
「私は背中がまだです」
「かして」
陽向が桜良の背中にスプレーをかけていた。
私も桜良も服にラメでも散りばめられているかのようにきらきらしている。
「ばらばらになるとまずいから一先ずこのまま見ていこう。欲しい物が見つかったら言ってくれ」
団体で買い物なんて旅行気分で楽しい。
それに、ここにいる妖たちは私たちを見ても襲ってこないのだからゆっくりできそうだ。
「あ、射撃…」
「…やってみるか?」
「ちょっと、やってみたいかも」
瞬の一言を聞き逃さないのが先生のすごいところだ。
他のみんなもそれぞれやってみることになり、先生が店主の妖に声をかけた。
「これでいいか?」
《まいど》
コルク弾と銃が手渡され、すぐ構える。目の前の的に向かって迷わず撃つと、狙っていた缶の隣にあるぬいぐるみに当たった。
「詩乃ちゃん上手だね」
「狙いが外れた。…それに、私より上手いやつがいるんだ」
銃を構えた桜良は無言でターゲットを撃ち抜く。
百発百中で当て続け、あっという間に大量の景品が袋に入れられた。
「桜良ちゃん、すごい!」
「無感情でやれば当たる気がして…いつも無心を心がけているだけ」
「先生も上手なんだよ」
重い銃を片手で撃つ姿は美しいとしか表現できない。
どんどん景品に当てていき、私が当て損ねた缶も倒した。
「先生、特訓でもつんできたんですか?」
「別に何もしてない。…それより岡副は手を動かそうか」
「あ、はい」
アクセサリー類を狙い続け、なんとかふたつ倒した。
「桜良、見た?見た?」
「…今度軸がぶれにくい持ち方から教えてあげる」
ふたりも楽しそうで安心した。
それからいろいろな出店を少しずつ回っていく。
食べるまで味が分からない飴に綺麗な植物、食べる度に味が変わるおにぎり…とにかく満喫した。
「なんか思ったより全然物騒じゃないんですね」
「そうだな」
「どういうものを想像してたんだ…」
しばらく道なりに歩いていると、大きな神社が見えてくる。
「毎年ここに通ってる」
「綺麗なところだね」
「結構すごい神様が祀られているらしいという噂だけが残っているが、詳細は不明だ」
話がお参りする流れになったとき、ぱたぱたと小人のような妖たちが慌てているのが目に入る。
なんだか放っておけなくて声をかけた。
「…何か困りごとか?」
《掃除が間に合わなくて…》
《参拝客の方にそれ言っちゃ駄目だろ》
《だけど、まさかあんな高いところを汚されるなんて…》
鳥居をよく見ると、たしかに汚れがついている。
小人たちが持っていた雑巾を借り、勢いをつけて思いきり飛んだ。
「先輩、その服買ったんですか?」
「だいぶ前から着てるお気に入り、かな。ブランド物ではないけど、着心地がいいからこの会社の服は気に入ってる」
「かっこいい…」
「ありがとう」
桜良が着ているのは可愛らしいワンピースで、私が着ているのはボーイッシュな服だ。
陽向が服の話題を出したのは桜良のためだったのだろう。
「ひとりずつこの番号に電話をかけなさい」
「ありがとう結月」
結月もいつもとは違う格好をしていて、椿柄の浴衣が特徴的だ。
「これでも羽織った方がいいかも。寒いだろ?」
「なんで持ってるのよ…」
陽向は羽織を差し出しながらにこりと笑い、言われた通りの番号を恋愛電話に打ちこむ。
「じゃ、結月も楽しんで」
その姿は一瞬で消えていった。
他のみんなも番号を順番に打っていき、私と結月だけが残る。
「楽しんできなさい」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
番号を打った瞬間、体が鉛のように重くなる。
くらくらする頭をおさえると、先生に声をかけられた。
「ついたぞ」
「え、なんだこれ!?」
「すごい…初めて見たけど、こんなに賑わってるんだね」
楽しそうに集う妖たちに紛れ、そのまま道なりに進んでいく。
人があまりいない場所に集まり、そこで先生が風呂敷で包んでいたものを見せてくれる。
「食べても人間に害が及ぶことはないから、欲しいものがあるならここにあるものを使って交換しろ」
「物々交換なのか」
「ああ。ふたりは服にこれをかけたか?」
「一応かけたよ」
「私は背中がまだです」
「かして」
陽向が桜良の背中にスプレーをかけていた。
私も桜良も服にラメでも散りばめられているかのようにきらきらしている。
「ばらばらになるとまずいから一先ずこのまま見ていこう。欲しい物が見つかったら言ってくれ」
団体で買い物なんて旅行気分で楽しい。
それに、ここにいる妖たちは私たちを見ても襲ってこないのだからゆっくりできそうだ。
「あ、射撃…」
「…やってみるか?」
「ちょっと、やってみたいかも」
瞬の一言を聞き逃さないのが先生のすごいところだ。
他のみんなもそれぞれやってみることになり、先生が店主の妖に声をかけた。
「これでいいか?」
《まいど》
コルク弾と銃が手渡され、すぐ構える。目の前の的に向かって迷わず撃つと、狙っていた缶の隣にあるぬいぐるみに当たった。
「詩乃ちゃん上手だね」
「狙いが外れた。…それに、私より上手いやつがいるんだ」
銃を構えた桜良は無言でターゲットを撃ち抜く。
百発百中で当て続け、あっという間に大量の景品が袋に入れられた。
「桜良ちゃん、すごい!」
「無感情でやれば当たる気がして…いつも無心を心がけているだけ」
「先生も上手なんだよ」
重い銃を片手で撃つ姿は美しいとしか表現できない。
どんどん景品に当てていき、私が当て損ねた缶も倒した。
「先生、特訓でもつんできたんですか?」
「別に何もしてない。…それより岡副は手を動かそうか」
「あ、はい」
アクセサリー類を狙い続け、なんとかふたつ倒した。
「桜良、見た?見た?」
「…今度軸がぶれにくい持ち方から教えてあげる」
ふたりも楽しそうで安心した。
それからいろいろな出店を少しずつ回っていく。
食べるまで味が分からない飴に綺麗な植物、食べる度に味が変わるおにぎり…とにかく満喫した。
「なんか思ったより全然物騒じゃないんですね」
「そうだな」
「どういうものを想像してたんだ…」
しばらく道なりに歩いていると、大きな神社が見えてくる。
「毎年ここに通ってる」
「綺麗なところだね」
「結構すごい神様が祀られているらしいという噂だけが残っているが、詳細は不明だ」
話がお参りする流れになったとき、ぱたぱたと小人のような妖たちが慌てているのが目に入る。
なんだか放っておけなくて声をかけた。
「…何か困りごとか?」
《掃除が間に合わなくて…》
《参拝客の方にそれ言っちゃ駄目だろ》
《だけど、まさかあんな高いところを汚されるなんて…》
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