夜紅の憲兵姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
215 / 302
第24章『サバトにて』

第173話

しおりを挟む
深夜、人気がなくなった学園で巡回する警備員たちを避けながら恋愛電話の前へ向う。
「先輩、その服買ったんですか?」
「だいぶ前から着てるお気に入り、かな。ブランド物ではないけど、着心地がいいからこの会社の服は気に入ってる」
「かっこいい…」
「ありがとう」
桜良が着ているのは可愛らしいワンピースで、私が着ているのはボーイッシュな服だ。
陽向が服の話題を出したのは桜良のためだったのだろう。
「ひとりずつこの番号に電話をかけなさい」
「ありがとう結月」
結月もいつもとは違う格好をしていて、椿柄の浴衣が特徴的だ。
「これでも羽織った方がいいかも。寒いだろ?」
「なんで持ってるのよ…」
陽向は羽織を差し出しながらにこりと笑い、言われた通りの番号を恋愛電話に打ちこむ。
「じゃ、結月も楽しんで」
その姿は一瞬で消えていった。
他のみんなも番号を順番に打っていき、私と結月だけが残る。
「楽しんできなさい」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
番号を打った瞬間、体が鉛のように重くなる。
くらくらする頭をおさえると、先生に声をかけられた。
「ついたぞ」
「え、なんだこれ!?」
「すごい…初めて見たけど、こんなに賑わってるんだね」
楽しそうに集う妖たちに紛れ、そのまま道なりに進んでいく。
人があまりいない場所に集まり、そこで先生が風呂敷で包んでいたものを見せてくれる。
「食べても人間に害が及ぶことはないから、欲しいものがあるならここにあるものを使って交換しろ」
「物々交換なのか」
「ああ。ふたりは服にこれをかけたか?」
「一応かけたよ」
「私は背中がまだです」
「かして」
陽向が桜良の背中にスプレーをかけていた。
私も桜良も服にラメでも散りばめられているかのようにきらきらしている。
「ばらばらになるとまずいから一先ずこのまま見ていこう。欲しい物が見つかったら言ってくれ」
団体で買い物なんて旅行気分で楽しい。
それに、ここにいる妖たちは私たちを見ても襲ってこないのだからゆっくりできそうだ。
「あ、射撃…」
「…やってみるか?」
「ちょっと、やってみたいかも」
瞬の一言を聞き逃さないのが先生のすごいところだ。
他のみんなもそれぞれやってみることになり、先生が店主の妖に声をかけた。
「これでいいか?」
《まいど》
コルク弾と銃が手渡され、すぐ構える。目の前の的に向かって迷わず撃つと、狙っていた缶の隣にあるぬいぐるみに当たった。
「詩乃ちゃん上手だね」
「狙いが外れた。…それに、私より上手いやつがいるんだ」
銃を構えた桜良は無言でターゲットを撃ち抜く。
百発百中で当て続け、あっという間に大量の景品が袋に入れられた。
「桜良ちゃん、すごい!」
「無感情でやれば当たる気がして…いつも無心を心がけているだけ」
「先生も上手なんだよ」
重い銃を片手で撃つ姿は美しいとしか表現できない。
どんどん景品に当てていき、私が当て損ねた缶も倒した。
「先生、特訓でもつんできたんですか?」
「別に何もしてない。…それより岡副は手を動かそうか」
「あ、はい」
アクセサリー類を狙い続け、なんとかふたつ倒した。
「桜良、見た?見た?」
「…今度軸がぶれにくい持ち方から教えてあげる」
ふたりも楽しそうで安心した。
それからいろいろな出店を少しずつ回っていく。
食べるまで味が分からない飴に綺麗な植物、食べる度に味が変わるおにぎり…とにかく満喫した。
「なんか思ったより全然物騒じゃないんですね」
「そうだな」
「どういうものを想像してたんだ…」
しばらく道なりに歩いていると、大きな神社が見えてくる。
「毎年ここに通ってる」
「綺麗なところだね」
「結構すごい神様が祀られているらしいという噂だけが残っているが、詳細は不明だ」
話がお参りする流れになったとき、ぱたぱたと小人のような妖たちが慌てているのが目に入る。
なんだか放っておけなくて声をかけた。
「…何か困りごとか?」
《掃除が間に合わなくて…》
《参拝客の方にそれ言っちゃ駄目だろ》
《だけど、まさかあんな高いところを汚されるなんて…》
鳥居をよく見ると、たしかに汚れがついている。
小人たちが持っていた雑巾を借り、勢いをつけて思いきり飛んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...