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第24章『サバトにて』
第172話
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「先輩、おはようございます」
「おはよう。相変わらず元気だな」
今年もハロウィンの警備計画を練る時期に入り、ここで過ごせるのもあと半分だと思うと寂しくなる。
それでも、他のメンバーが動きやすいようになんとかシフトを組み終えた。
「これ、みんなに配っておいてくれ」
「分かりました。あの、先輩」
「どうした?」
「先輩がやってる仕事、もうちょっと俺に回してください。
来年部長やるならもっと覚えたいんです。じゃないと生徒を護れないでしょ?」
最近ますます陽向が頼もしくなった気がする。
寄りかかり方というものは分からないが、たしかに仕事の内容は引き継ぎで困らないようにしておくに越したことはない。
「…ふたりとも、少しいいか?」
「先生、と…どうしたんだ、瞬」
何故か先生の後ろにぴったり張りついている瞬に声をかけると、何か言いづらそうに俯いてしまった。
「明後日予定あるか?」
「特にない」
「俺も大丈夫ですけど、何かあったんですか?」
「ちょっとつきあってほしい」
先生が頼みごとなんて珍しい。
「構わないけど、何をするんだ?」
「サバトに行く」
「サバトってあのサバトか?」
「人間が近寄ったらまずいんじゃ…」
サバトというのは本来であれば魔女たちの祭典だ。
そこに怪異が混ざっていても不思議ではないが、私たちはどうだろう。
下手をすれば売り物にされる可能性だってある。
何も策がない先生ではないだろうが、切り抜ける方法があるなら知りたい。
「人間だってばれなければいい。折原と木嶋にはこれを体に吹きかけてもらう必要があるが、岡副はそのままでいい」
「え、俺だけそのままですか?」
「怪しい動きをしなければ人間だってばれないだろう」
「何度も死んでるからってことか…嬉しいけど複雑です」
先生が作ったものなら副反応まで予測してできているのだろう。
「私は今夜特に予定もないから行ってみようかな。興味もあるし」
「穂乃ちゃんはいいんですか?」
「修学旅行なんだ。午後から出発」
人がいない家に戻っても苦い思い出を噛みしめることになる。
それならいっそ他で時間を潰そうと思っていたところだ。
『私も行っていいんですか?』
「おまえが行きたいと思っているなら。木嶋はどうしたい?」
『行きたいです。用意しておきます』
桜良もわくわくしているのか、いつもより声が明るい気がする。
「あとは服をどうするかだな」
「…なあ、本当に私たちも行っていいのか?瞬は先生とふたりがいいんじゃ、」
「違う。そうじゃなくて…みんなを誘いたいって言ったの、僕なんだ。
だけど、急に言ったからみんな行けないかもって…今ちょっとほっとしてる」
瞬なりに気を遣ってくれたのだろう。
「友だちと出掛けてみたかったらしい」
「先生、それは黙っててくれるって、」
「俺は言わないとは言ってない」
瞬がむうっと膨らませた頬をつつきながら、先生は私に尋ねてくる。
「折原、着物なら大丈夫そうか?」
「…ごめん、多分無理」
「それなら私服で来てほしい。制服だと普段人間界に溶けこんでる奴等が怪しむかもしれない」
「分かった。今日のバイト終わりに着替えてくるよ」
バイト先にいくつか着替えを置かせてもらっておいてよかった。
こんなにわくわくするのは久しぶりで、どんな場所なのか今から気になっている。
「ちび」
「なに…?」
「俺たちも行ったことないからよく分からないけど、楽しもうな」
「うん」
瞬はかなり照れているらしく、先生にしがみついて離れようとしなかった。
一旦お開きになり、バイト先での時間もあっという間に過ぎていく。
「詩乃ちゃん、楽器の手入れありがとう」
「お役に立てたならよかったです」
仕事をいつも以上にしく楽しみ、楽器屋の更衣室を借りる。
「お疲れ様でした」
急いで学園に戻ると、もうみんな集まっていた。
「おはよう。相変わらず元気だな」
今年もハロウィンの警備計画を練る時期に入り、ここで過ごせるのもあと半分だと思うと寂しくなる。
それでも、他のメンバーが動きやすいようになんとかシフトを組み終えた。
「これ、みんなに配っておいてくれ」
「分かりました。あの、先輩」
「どうした?」
「先輩がやってる仕事、もうちょっと俺に回してください。
来年部長やるならもっと覚えたいんです。じゃないと生徒を護れないでしょ?」
最近ますます陽向が頼もしくなった気がする。
寄りかかり方というものは分からないが、たしかに仕事の内容は引き継ぎで困らないようにしておくに越したことはない。
「…ふたりとも、少しいいか?」
「先生、と…どうしたんだ、瞬」
何故か先生の後ろにぴったり張りついている瞬に声をかけると、何か言いづらそうに俯いてしまった。
「明後日予定あるか?」
「特にない」
「俺も大丈夫ですけど、何かあったんですか?」
「ちょっとつきあってほしい」
先生が頼みごとなんて珍しい。
「構わないけど、何をするんだ?」
「サバトに行く」
「サバトってあのサバトか?」
「人間が近寄ったらまずいんじゃ…」
サバトというのは本来であれば魔女たちの祭典だ。
そこに怪異が混ざっていても不思議ではないが、私たちはどうだろう。
下手をすれば売り物にされる可能性だってある。
何も策がない先生ではないだろうが、切り抜ける方法があるなら知りたい。
「人間だってばれなければいい。折原と木嶋にはこれを体に吹きかけてもらう必要があるが、岡副はそのままでいい」
「え、俺だけそのままですか?」
「怪しい動きをしなければ人間だってばれないだろう」
「何度も死んでるからってことか…嬉しいけど複雑です」
先生が作ったものなら副反応まで予測してできているのだろう。
「私は今夜特に予定もないから行ってみようかな。興味もあるし」
「穂乃ちゃんはいいんですか?」
「修学旅行なんだ。午後から出発」
人がいない家に戻っても苦い思い出を噛みしめることになる。
それならいっそ他で時間を潰そうと思っていたところだ。
『私も行っていいんですか?』
「おまえが行きたいと思っているなら。木嶋はどうしたい?」
『行きたいです。用意しておきます』
桜良もわくわくしているのか、いつもより声が明るい気がする。
「あとは服をどうするかだな」
「…なあ、本当に私たちも行っていいのか?瞬は先生とふたりがいいんじゃ、」
「違う。そうじゃなくて…みんなを誘いたいって言ったの、僕なんだ。
だけど、急に言ったからみんな行けないかもって…今ちょっとほっとしてる」
瞬なりに気を遣ってくれたのだろう。
「友だちと出掛けてみたかったらしい」
「先生、それは黙っててくれるって、」
「俺は言わないとは言ってない」
瞬がむうっと膨らませた頬をつつきながら、先生は私に尋ねてくる。
「折原、着物なら大丈夫そうか?」
「…ごめん、多分無理」
「それなら私服で来てほしい。制服だと普段人間界に溶けこんでる奴等が怪しむかもしれない」
「分かった。今日のバイト終わりに着替えてくるよ」
バイト先にいくつか着替えを置かせてもらっておいてよかった。
こんなにわくわくするのは久しぶりで、どんな場所なのか今から気になっている。
「ちび」
「なに…?」
「俺たちも行ったことないからよく分からないけど、楽しもうな」
「うん」
瞬はかなり照れているらしく、先生にしがみついて離れようとしなかった。
一旦お開きになり、バイト先での時間もあっという間に過ぎていく。
「詩乃ちゃん、楽器の手入れありがとう」
「お役に立てたならよかったです」
仕事をいつも以上にしく楽しみ、楽器屋の更衣室を借りる。
「お疲れ様でした」
急いで学園に戻ると、もうみんな集まっていた。
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