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第23章『白フードの男-異界への階段・参-』
番外篇『手紙』
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「お姉ちゃん、ご飯だよ」
「ああ、ごめん」
書いていた手紙を隠し、一旦部屋を出る。
久しぶりに帰った私を穂乃はただ笑って迎えてくれた。
帰ってくるかもしれないからとわざわざ朝食の用意をしてくれたらしい。
自分でも気づかないうちに疲れていたのか、しばらくは死んだように横になっていた。
今は少し気力がわいてきて、少しずつ手紙を書いている。
「お姉ちゃん、なんだか疲れてるね」
「そうか?」
「絶対疲れてる」
穂乃に心配をかけたくなくてできるだけ明るい笑顔を作ったが、穂乃はむすっとした顔でこちらを見た。
「隠したり誤魔化そうとしないで。疲れてるなら今日は私が全部家事代わるよ」
「気持ちはありがたいけど、流石に全部任せるわけにはいかない。
だから、デザートの試食をお願いしてもいいかな?」
「それ、お手伝いになるの…?」
「私にとってはなるんだ」
気晴らしに作ったプレッツェルを見せると、穂乃は目をきらきらさせていた。
「これ、全部お姉ちゃんが作ったの?」
「一応な。食べてくれるか?」
「勿論!いただきます」
食後のデザートにしては量が多いかと思ったが、口にする度楽しそうな姿を見られてよかった。
「ごちそうさまでした」
「食器は私が片づけておくから行ってこい。図書館で集まる約束をしてるんだろ?」
「そうだった…いってきます」
「いってらっしゃい」
手をふる穂乃を見送り、続きを書こうと部屋に戻る。
相手を傷つけないよう細心の注意をはらいながら少しずつ書き進めた。
「…これでいいか」
手紙のやりとりはちょくちょくやっているが、こちらから相手にふる話題はあの少女と無関係なものにしている。
いつか向こうから話してくれたときは訊いてみようと思っているが、道のりはまだ遠い。
郵便受けから音がしてポストを見てみると、まだ返事を返していないのに手紙が届いた。
【今日は死んだ友だちから手紙が届きました。私の誕生日を覚えてくれていたみたいで、贈り物だって図書券と好きな会社のキーホルダーが入ってました。
私があの子を支えられていたら未来を変えられたのかな?】
後悔する気持ちは分かる。
残された側は寂しくて辛い。そして、いつまでも悲しみを忘れられないのだ。
あの日の悔しさをよく覚えているが、どう返すのが正解だろう。
【本当に大切な人だったんですね。どんな思い出があるか、聞いてもいいですか?もっとあなたの話が聞きたいんです】
手紙の最後にそんな文章を付け加えてポストへ投函した。
これでもう少し心を開いてもらえるといいんだが、正直自信がない。
やはり人間と関わるのはどうしても気が重いというか、慣れないというか…とにかく難しいし疲れる。
人相手なら話せるのに、何が違うんだろう。
「…不快に思ったことがないからか」
人間相手には理不尽なことをされたり虐げられてきたが、妖たちは私を受け入れてくれた。
信頼関係を築くのは大変だが、話を聞かせてくれたり置き土産を残していったり…一緒にいて楽しいと感じる。
私はどこまで人間向きではないのだろう…そんな事を考えていると、パソコンのチャット通知が鳴った。
『先輩、お疲れ様です!メッセージを送ったんですけど…』
「ごめん。このアプリ、まだ使い慣れてないんだ。できるだけ早く慣れるよ」
早く使いこなせるようになりたいのには理由がある。
『詩乃ちゃんの部屋とひな君のノートが見える…』
このシステムを使いこなせれば、先生の私用パソコンと繋がれる。
個人間で繋がるのは規則違反になる可能性があるので、名目は『放送部の相談』だ。
瞬の反応を見て陽向がふっと笑う。
「なんだか楽しそうだな」
『悪い。ビデオ通話を使ったことがなかったらしいんだ』
『俺も初めてのときはわくわくしたからその気持ちは分かる…。先輩はどうだったんですか?』
「私もそうかもしれない。色々な人と距離が近くなるんだって思うと、少し楽しみになった」
『私も楽しいです』
今まで使っていたシステムは私と陽向しか使えなかったが、これなら瞬の姿もばっちり見えるし桜良のパソコンも繋げられた。
近くにいる人たち相手ならこうして話した方が早いだろう。
ただ、遠くにいる相手と話す手段として手紙でのやりとりも楽しみだ。
みんなと話しながら、皐月から送られてきたものとは別の封筒を握りしめた。
「ああ、ごめん」
書いていた手紙を隠し、一旦部屋を出る。
久しぶりに帰った私を穂乃はただ笑って迎えてくれた。
帰ってくるかもしれないからとわざわざ朝食の用意をしてくれたらしい。
自分でも気づかないうちに疲れていたのか、しばらくは死んだように横になっていた。
今は少し気力がわいてきて、少しずつ手紙を書いている。
「お姉ちゃん、なんだか疲れてるね」
「そうか?」
「絶対疲れてる」
穂乃に心配をかけたくなくてできるだけ明るい笑顔を作ったが、穂乃はむすっとした顔でこちらを見た。
「隠したり誤魔化そうとしないで。疲れてるなら今日は私が全部家事代わるよ」
「気持ちはありがたいけど、流石に全部任せるわけにはいかない。
だから、デザートの試食をお願いしてもいいかな?」
「それ、お手伝いになるの…?」
「私にとってはなるんだ」
気晴らしに作ったプレッツェルを見せると、穂乃は目をきらきらさせていた。
「これ、全部お姉ちゃんが作ったの?」
「一応な。食べてくれるか?」
「勿論!いただきます」
食後のデザートにしては量が多いかと思ったが、口にする度楽しそうな姿を見られてよかった。
「ごちそうさまでした」
「食器は私が片づけておくから行ってこい。図書館で集まる約束をしてるんだろ?」
「そうだった…いってきます」
「いってらっしゃい」
手をふる穂乃を見送り、続きを書こうと部屋に戻る。
相手を傷つけないよう細心の注意をはらいながら少しずつ書き進めた。
「…これでいいか」
手紙のやりとりはちょくちょくやっているが、こちらから相手にふる話題はあの少女と無関係なものにしている。
いつか向こうから話してくれたときは訊いてみようと思っているが、道のりはまだ遠い。
郵便受けから音がしてポストを見てみると、まだ返事を返していないのに手紙が届いた。
【今日は死んだ友だちから手紙が届きました。私の誕生日を覚えてくれていたみたいで、贈り物だって図書券と好きな会社のキーホルダーが入ってました。
私があの子を支えられていたら未来を変えられたのかな?】
後悔する気持ちは分かる。
残された側は寂しくて辛い。そして、いつまでも悲しみを忘れられないのだ。
あの日の悔しさをよく覚えているが、どう返すのが正解だろう。
【本当に大切な人だったんですね。どんな思い出があるか、聞いてもいいですか?もっとあなたの話が聞きたいんです】
手紙の最後にそんな文章を付け加えてポストへ投函した。
これでもう少し心を開いてもらえるといいんだが、正直自信がない。
やはり人間と関わるのはどうしても気が重いというか、慣れないというか…とにかく難しいし疲れる。
人相手なら話せるのに、何が違うんだろう。
「…不快に思ったことがないからか」
人間相手には理不尽なことをされたり虐げられてきたが、妖たちは私を受け入れてくれた。
信頼関係を築くのは大変だが、話を聞かせてくれたり置き土産を残していったり…一緒にいて楽しいと感じる。
私はどこまで人間向きではないのだろう…そんな事を考えていると、パソコンのチャット通知が鳴った。
『先輩、お疲れ様です!メッセージを送ったんですけど…』
「ごめん。このアプリ、まだ使い慣れてないんだ。できるだけ早く慣れるよ」
早く使いこなせるようになりたいのには理由がある。
『詩乃ちゃんの部屋とひな君のノートが見える…』
このシステムを使いこなせれば、先生の私用パソコンと繋がれる。
個人間で繋がるのは規則違反になる可能性があるので、名目は『放送部の相談』だ。
瞬の反応を見て陽向がふっと笑う。
「なんだか楽しそうだな」
『悪い。ビデオ通話を使ったことがなかったらしいんだ』
『俺も初めてのときはわくわくしたからその気持ちは分かる…。先輩はどうだったんですか?』
「私もそうかもしれない。色々な人と距離が近くなるんだって思うと、少し楽しみになった」
『私も楽しいです』
今まで使っていたシステムは私と陽向しか使えなかったが、これなら瞬の姿もばっちり見えるし桜良のパソコンも繋げられた。
近くにいる人たち相手ならこうして話した方が早いだろう。
ただ、遠くにいる相手と話す手段として手紙でのやりとりも楽しみだ。
みんなと話しながら、皐月から送られてきたものとは別の封筒を握りしめた。
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