209 / 302
第23章『白フードの男-異界への階段・参-』
第168話
しおりを挟む
「先生も知ってたんだな、おかげさんのこと」
「そこまで詳しいわけじゃないが、流山から話は聞いている。
どうすればいいか迷ってるあいつに生きていく術を教えたうちのひとりが御蔭さんだったってな」
おかげさんは私の影から上半身だけ乗り出して、くすくすと笑った。
《君のことを話すわけにはいかなかったし、これ以外方法が思いつかなかったんだ。
あの子は律儀な子だよ。俺みたいなもの相手に感謝の言葉なんて述べてくれるんだから》
「…なあ、どうしておかげさんはおかげさんっていうんだ?影を移動できるからか?」
《秘密は多い方がいいっていうでしょ?だからまだ教えてあげない》
おかげさんは楽しそうな笑い声をあげているものの、やはりフードの下の表情は見えなかった。
《じゃあ、俺はもう行くね。詩乃ちゃん、気をつけて》
「助けてくれてありがとう」
おかげさんが去った後、陽向たちに詰め寄られた。
「先輩はひとりでどうにかしようと頑張りすぎです。人間とはいえあんなやばい考えのやつを相手するなんて…」
「他の人が傷つくのを見るのは嫌なんだ。だから私はあいつを止めたい」
もしあの男が噂そのものになろうとしているならもう手遅れかもしれない。
そこまで堕ちてしまっているなら、いい加減過去の呪縛と決別したいとも思っている。
私ひとりを襲うならいいが、実際周囲の人たちにまで被害が及んでいるので片をつけるしかない。
「相変わらず全部ひとりで抱えこもうとするんだな。俺たちは仲間だろ?…巻きこみたくない気持ちは分かるが諦めろ。
自分たちの仲間も助けられないのに他の誰かを助けるなんて無理だ。助けを求めるのが苦手なら、もし相手が同じ状況に陥ったときどうするか考えろ」
先生の言葉がすとんと落ちてくる。
もし他の誰かが迷っていて大丈夫だと笑っていたら、嫌がられても手を伸ばすだろう。
「…そうか。それと同じなのか」
「先輩?」
「なんでもない。…神宮寺義仁は始業式前から私を狙ってた。けど、いつもと様子が違ったんだ」
やはりあれは、噂になりかけているのではないか。
ふたりを戸惑わせてしまうと思っていたのに、私よりすんなり受け入れていた。
「先輩にそう見えたなら、きっとそうなんですよ」
「実際そういうこともあるだろうな」
「そんなのか?」
「あの男は負の感情にこだわっているように見える。悪いものを抱えすぎたらいい影響があるはずない。
そう考えると、何かの噂と融合したというより、噂を広めすぎたツケが回ってきてるのかもな」
言われてみればそうだ。
あの男は噂を捻じ曲げ改変し、人間たちの負の感情をひたすら集めていた。
それを数年前からずっと続けているとしたら、その分蓄積されたものに耐えられなくなっているということだろうか。
或いは、新しい噂を造り出そうとして失敗したのかもしれない。
「警戒は怠らないようにするよ」
「遭遇したらすぐ連絡しろ。いいな?」
「そうですよ。先輩はひとりじゃないんですから」
「ありがとう、ふたりとも」
陽向がいてくれるから夜仕事が楽しくなった。
先生がいてくれるから心が軽くなってきている。
他の人たちとも繋がって楽しくて仕方がない。…その世界を壊そうとするなら、今度こそあの男と決着をつけよう。
「そういえば、今日は瞬を見てないな」
「たしかに…。先生、一緒じゃないんですか?」
「いつもくっついてきてるわけじゃないが、嫌な予感がするな」
問題児が攻めこんできた日に限って現れない友人。
探してみようという話になり廊下を歩いていると、階段の方で呻き声がした。
「や、やめ、て…」
「おまえが素体になれ」
「い、嫌だ、やめて……」
廊下が真っ赤に照らされるのと同時に、ナイフで相手に切りかかった。
「やっぱり来たな、俺の汚点!」
「誰が汚点だ。少なくとも、私の仲間に手を出す卑怯者に言われたくない」
「詩乃、ちゃ、」
「…瞬、走れるか?陽向と先生が旧美術室の方にいるんだ、そこまで逃げろ」
「詩乃ちゃんは?」
不安げに瞳を揺らす瞬の頭をできるだけ優しく撫でる。
「こいつを片づけたら行く」
何か言いたげな顔をしていた瞬を送り出し、できるだけ平静を装って男に話しかけた。
「あんたは怪異が嫌いなのに怪異になろうとしてるのか?…それとも、その気配は無自覚なのか?」
「そこまで詳しいわけじゃないが、流山から話は聞いている。
どうすればいいか迷ってるあいつに生きていく術を教えたうちのひとりが御蔭さんだったってな」
おかげさんは私の影から上半身だけ乗り出して、くすくすと笑った。
《君のことを話すわけにはいかなかったし、これ以外方法が思いつかなかったんだ。
あの子は律儀な子だよ。俺みたいなもの相手に感謝の言葉なんて述べてくれるんだから》
「…なあ、どうしておかげさんはおかげさんっていうんだ?影を移動できるからか?」
《秘密は多い方がいいっていうでしょ?だからまだ教えてあげない》
おかげさんは楽しそうな笑い声をあげているものの、やはりフードの下の表情は見えなかった。
《じゃあ、俺はもう行くね。詩乃ちゃん、気をつけて》
「助けてくれてありがとう」
おかげさんが去った後、陽向たちに詰め寄られた。
「先輩はひとりでどうにかしようと頑張りすぎです。人間とはいえあんなやばい考えのやつを相手するなんて…」
「他の人が傷つくのを見るのは嫌なんだ。だから私はあいつを止めたい」
もしあの男が噂そのものになろうとしているならもう手遅れかもしれない。
そこまで堕ちてしまっているなら、いい加減過去の呪縛と決別したいとも思っている。
私ひとりを襲うならいいが、実際周囲の人たちにまで被害が及んでいるので片をつけるしかない。
「相変わらず全部ひとりで抱えこもうとするんだな。俺たちは仲間だろ?…巻きこみたくない気持ちは分かるが諦めろ。
自分たちの仲間も助けられないのに他の誰かを助けるなんて無理だ。助けを求めるのが苦手なら、もし相手が同じ状況に陥ったときどうするか考えろ」
先生の言葉がすとんと落ちてくる。
もし他の誰かが迷っていて大丈夫だと笑っていたら、嫌がられても手を伸ばすだろう。
「…そうか。それと同じなのか」
「先輩?」
「なんでもない。…神宮寺義仁は始業式前から私を狙ってた。けど、いつもと様子が違ったんだ」
やはりあれは、噂になりかけているのではないか。
ふたりを戸惑わせてしまうと思っていたのに、私よりすんなり受け入れていた。
「先輩にそう見えたなら、きっとそうなんですよ」
「実際そういうこともあるだろうな」
「そんなのか?」
「あの男は負の感情にこだわっているように見える。悪いものを抱えすぎたらいい影響があるはずない。
そう考えると、何かの噂と融合したというより、噂を広めすぎたツケが回ってきてるのかもな」
言われてみればそうだ。
あの男は噂を捻じ曲げ改変し、人間たちの負の感情をひたすら集めていた。
それを数年前からずっと続けているとしたら、その分蓄積されたものに耐えられなくなっているということだろうか。
或いは、新しい噂を造り出そうとして失敗したのかもしれない。
「警戒は怠らないようにするよ」
「遭遇したらすぐ連絡しろ。いいな?」
「そうですよ。先輩はひとりじゃないんですから」
「ありがとう、ふたりとも」
陽向がいてくれるから夜仕事が楽しくなった。
先生がいてくれるから心が軽くなってきている。
他の人たちとも繋がって楽しくて仕方がない。…その世界を壊そうとするなら、今度こそあの男と決着をつけよう。
「そういえば、今日は瞬を見てないな」
「たしかに…。先生、一緒じゃないんですか?」
「いつもくっついてきてるわけじゃないが、嫌な予感がするな」
問題児が攻めこんできた日に限って現れない友人。
探してみようという話になり廊下を歩いていると、階段の方で呻き声がした。
「や、やめ、て…」
「おまえが素体になれ」
「い、嫌だ、やめて……」
廊下が真っ赤に照らされるのと同時に、ナイフで相手に切りかかった。
「やっぱり来たな、俺の汚点!」
「誰が汚点だ。少なくとも、私の仲間に手を出す卑怯者に言われたくない」
「詩乃、ちゃ、」
「…瞬、走れるか?陽向と先生が旧美術室の方にいるんだ、そこまで逃げろ」
「詩乃ちゃんは?」
不安げに瞳を揺らす瞬の頭をできるだけ優しく撫でる。
「こいつを片づけたら行く」
何か言いたげな顔をしていた瞬を送り出し、できるだけ平静を装って男に話しかけた。
「あんたは怪異が嫌いなのに怪異になろうとしてるのか?…それとも、その気配は無自覚なのか?」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

コバヤシ君の日報
彼方
ライト文芸
日報。それは上司や他の責任者への一日の報告書。必ずしも書かないといけないものではないが(データを送るだけでもいい)昇級を狙う責任者たちは社長や会長という普段接点のないお偉いさんへアピールする場であるためなるべく書くようにと上司に指示される。
麻雀『アクアリウム』という全国展開している大手雀荘には日報をグループLINFでやり取りするというシステムを採用しており、そこにひと際異彩を放つ日報書きがいた。
彼の名は小林賢。通称『日報の小林』
【登場人物】
小林賢
こばやしけん
主人公。いつも一生懸命な麻雀アクアリウム渋谷店バイトリーダー。
渡辺健司
わたなべけんじ
麻雀アクアリウム渋谷店副店長。小林の相棒。
鈴乃木大河
すずのきたいが
麻雀アクアリウム会長。現場は引退して側近たちに任せている。
上村大地
かみむらだいち
麻雀アクアリウムの関東エリア担当スーパーバイザーにして会長側近の1人。
杜若蘭
かきつばたらん
麻雀アクアリウム上野店のチーフ。ギャルをそのまま大人にしたような女性。スタイル抜群で背も高い魅力的な上野店の主力スタッフ。

【完結】試される愛の果て
野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。
スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、
8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。
8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。
その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、
それは喜ぶべき縁談ではなかった。
断ることなったはずが、相手と関わることによって、
知りたくもない思惑が明らかになっていく。
シャウトの仕方ない日常
鏡野ゆう
ライト文芸
航空自衛隊第四航空団飛行群第11飛行隊、通称ブルーインパルス。
その五番機パイロットをつとめる影山達矢三等空佐の不本意な日常。
こちらに登場する飛行隊長の沖田二佐、統括班長の青井三佐は佐伯瑠璃さんの『スワローテールになりたいの』『その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー』に登場する沖田千斗星君と青井翼君です。築城で登場する杉田隊長は、白い黒猫さんの『イルカカフェ今日も営業中』に登場する杉田さんです。※佐伯瑠璃さん、白い黒猫さんには許可をいただいています※
※不定期更新※
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※影さんより一言※
( ゚д゚)わかっとると思うけどフィクションやしな!
※第2回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました。ありがとうございます。※
疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 〜彩る季節を選べたら〜
若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
ライト文芸
「一緒の高校に行こうね」
恋人である幼馴染と交わした約束。
だが、それを裏切って適当な高校に入学した主人公、高原翔也は科学部に所属し、なんとも言えない高校生活を送る。
孤独を誇示するような科学部部長女の子、屋上で隠し事をする生徒会長、兄に対して頑なに敬語で接する妹、主人公をあきらめない幼馴染。そんな人たちに囲まれた生活の中で、いろいろな後ろめたさに向き合い、行動することに理由を見出すお話。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ある家族と戦争のニュース
寸陳ハウスのオカア・ハン
現代文学
2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した。
これはそのニュースが報道されてから数日後の、日本のある家族の一日を描く物語である。
*一部、実際の情勢とは違う形で話が展開しますが、これは作者が想定する最悪のシナリオを反映させたためになります
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる