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閑話『真夏の合宿』
特訓其の肆
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こんなときくらい大人しくしてくれればいいものを、何故こうもタイミングが悪いのか。
「…いや、先へは行かない」
「新月が近づいてるのに、無理して戦ったら大変なことになるだろ」
「それなら向こうだって同じことだろう?」
「違うよ。あっちは弱ってなんかない」
あの男の狙いは私だ。私が本領発揮できるのが半月の夜だと知らないあいつは、私を殺すため今も隠れているかもしれない。
「ふたりにどんな影響をもたらすか分からないから行ってくれ。すぐ追いつくから」
「……気をつけろ」
「できれば桜良も連れて行ってくれ。無理しようとしたら止めてほしい」
「分かった。ふたりとも、気をつけてね!」
不安そうな顔をする桜良に、大丈夫だと笑ってみせた。
本来であればひとりで片づけたいところだが仕方ない。
本気で相手を倒す用意をしている陽向に逃げてもらえるような言葉を私は知らないから。
「話、通じそうにないですね」
「倒すしかないってことか」
相手はかなりのでかぶつで、先生たちに逃げてもらっている間も旧校舎の廊下を破壊しながら歩いていた。
「ここじゃ分が悪い。いつ校舎を壊されてもおかしくないし、一旦外におびき寄せる」
「そんなことできるんですか?」
《ぐおおん!》
普通ならかなり手こずるだろうが、今回に限っては絶対にできる自信がある。
「ほら、こっちにおいしい食事があるぞ!」
《ゴハン…?》
ぎょろりとこちらに向けられた大きな目は私を捉え、屋上から飛び降りたところを追いかけてくる。
紅は塗っておいたし、あとは着地できれば大丈夫だろう。
「先輩!」
陽向が大声で叫んでいるのが聞こえたが、そんなことを気にしてはいられない。
近くの枝に手を伸ばし、遠心力を使って木から飛び降りた。
《ゴハン!》
「ごめん。私の名前、ご飯じゃないんだ」
無理矢理力をあげられているのか、ずっとご飯としか話さない。
「……ごめん」
いつものように矢を放つと、相手の体は一瞬で灰になった。
まさか無事に終わると思っていなかったので少し動揺する。
もう一発はかかると思っていたのに、どうやら相手はまだ本気ではなかったらしい。
灰になった相手に手を合わせる。
矢を回収していると、小さい体なのに凶暴な妖ものが陽向に思いきり拳を当てられた。
「先輩、お疲れ様です。まさか死んじゃうつもりなのかと思って焦りましたよ」
「ごめん。下に木があるのは分かってたから、飛び降りる場所だけ確認してたんだ。
ワイヤー無しでも怪我しないように気をつけたから怪我は増えなかった」
陽向は首を傾げながら質問をぶつけてきた。
「あれだけでかい相手なら狭いところの方が有利な気がしたんですけど、どうして校舎の外で戦おうと思ったんですか?」
「第一に、旧校舎を破壊されたら困る。第二に、狭い場所ででかぶつと戦っていたら自分たちの安全な足場が減る。
第三に、他の敵が現れたら対処しきれなくなるから視界がひらけていた方がいい」
ただ説明しただけなのに、何故か陽向が目を輝かせている。
「先輩、さっきの一瞬でそれを判断したんですか!?」
「相手が前にも見たことがあるやつだったっていうのもあって、すぐ作戦をたてられたよ」
「戦略のたて方、俺にも教えてください!」
陽向のわくわくした様子にどう返せばいいか分からない。
少し迷っていると、校舎内から先生が走ってきた。
「怪我はないか?」
「私も陽向もしてないよ。そっちは襲われたりしなかったか?」
「してない。…が、木嶋が帰りを待ってるから急ぐぞ」
「ええ、折角先輩の授業を受けられると思ったのに…」
目的の教室へ向かいながら、できるだけ簡潔にまとめて話す。
「小さいやつと広いところで戦うのは難しい。基本的に足が速いから、広いところだと見つけられなくなる。
けど、逆に大きいのは狭いところで戦うと無関係の人を巻きこんで大変なことになるかもしれない」
「成程、だから体育館で戦うことが多いんですね!」
「自分と、あるいは場所と大きさを比較すると作戦がたてやすいんだ」
話していると辿り着くのはあっという間で、部屋いっぱいに星が散りばめられた教室に足を踏み入れる。
後ろから先生に本当にすごいなと小声で褒められたのは、私だけの秘密にしておこう。
「…いや、先へは行かない」
「新月が近づいてるのに、無理して戦ったら大変なことになるだろ」
「それなら向こうだって同じことだろう?」
「違うよ。あっちは弱ってなんかない」
あの男の狙いは私だ。私が本領発揮できるのが半月の夜だと知らないあいつは、私を殺すため今も隠れているかもしれない。
「ふたりにどんな影響をもたらすか分からないから行ってくれ。すぐ追いつくから」
「……気をつけろ」
「できれば桜良も連れて行ってくれ。無理しようとしたら止めてほしい」
「分かった。ふたりとも、気をつけてね!」
不安そうな顔をする桜良に、大丈夫だと笑ってみせた。
本来であればひとりで片づけたいところだが仕方ない。
本気で相手を倒す用意をしている陽向に逃げてもらえるような言葉を私は知らないから。
「話、通じそうにないですね」
「倒すしかないってことか」
相手はかなりのでかぶつで、先生たちに逃げてもらっている間も旧校舎の廊下を破壊しながら歩いていた。
「ここじゃ分が悪い。いつ校舎を壊されてもおかしくないし、一旦外におびき寄せる」
「そんなことできるんですか?」
《ぐおおん!》
普通ならかなり手こずるだろうが、今回に限っては絶対にできる自信がある。
「ほら、こっちにおいしい食事があるぞ!」
《ゴハン…?》
ぎょろりとこちらに向けられた大きな目は私を捉え、屋上から飛び降りたところを追いかけてくる。
紅は塗っておいたし、あとは着地できれば大丈夫だろう。
「先輩!」
陽向が大声で叫んでいるのが聞こえたが、そんなことを気にしてはいられない。
近くの枝に手を伸ばし、遠心力を使って木から飛び降りた。
《ゴハン!》
「ごめん。私の名前、ご飯じゃないんだ」
無理矢理力をあげられているのか、ずっとご飯としか話さない。
「……ごめん」
いつものように矢を放つと、相手の体は一瞬で灰になった。
まさか無事に終わると思っていなかったので少し動揺する。
もう一発はかかると思っていたのに、どうやら相手はまだ本気ではなかったらしい。
灰になった相手に手を合わせる。
矢を回収していると、小さい体なのに凶暴な妖ものが陽向に思いきり拳を当てられた。
「先輩、お疲れ様です。まさか死んじゃうつもりなのかと思って焦りましたよ」
「ごめん。下に木があるのは分かってたから、飛び降りる場所だけ確認してたんだ。
ワイヤー無しでも怪我しないように気をつけたから怪我は増えなかった」
陽向は首を傾げながら質問をぶつけてきた。
「あれだけでかい相手なら狭いところの方が有利な気がしたんですけど、どうして校舎の外で戦おうと思ったんですか?」
「第一に、旧校舎を破壊されたら困る。第二に、狭い場所ででかぶつと戦っていたら自分たちの安全な足場が減る。
第三に、他の敵が現れたら対処しきれなくなるから視界がひらけていた方がいい」
ただ説明しただけなのに、何故か陽向が目を輝かせている。
「先輩、さっきの一瞬でそれを判断したんですか!?」
「相手が前にも見たことがあるやつだったっていうのもあって、すぐ作戦をたてられたよ」
「戦略のたて方、俺にも教えてください!」
陽向のわくわくした様子にどう返せばいいか分からない。
少し迷っていると、校舎内から先生が走ってきた。
「怪我はないか?」
「私も陽向もしてないよ。そっちは襲われたりしなかったか?」
「してない。…が、木嶋が帰りを待ってるから急ぐぞ」
「ええ、折角先輩の授業を受けられると思ったのに…」
目的の教室へ向かいながら、できるだけ簡潔にまとめて話す。
「小さいやつと広いところで戦うのは難しい。基本的に足が速いから、広いところだと見つけられなくなる。
けど、逆に大きいのは狭いところで戦うと無関係の人を巻きこんで大変なことになるかもしれない」
「成程、だから体育館で戦うことが多いんですね!」
「自分と、あるいは場所と大きさを比較すると作戦がたてやすいんだ」
話していると辿り着くのはあっという間で、部屋いっぱいに星が散りばめられた教室に足を踏み入れる。
後ろから先生に本当にすごいなと小声で褒められたのは、私だけの秘密にしておこう。
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