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第22章『呪いより恐ろしいもの』
第161話
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「おはよう。ご飯できてるから、」
「お姉ちゃん」
翌朝、珍しく穂乃が引き止めてきた。
「何かあったのか?」
「そういうわけじゃないんだけど…」
そう言いながら後ろ手に何かを隠しているのが丸見えだ。
「後ろのそれは何だ?」
「あ、えっと…これ、学校で作ったの。ご家族に渡してくださいって。
私が渡したいのはお姉ちゃんしかいないから…いつもありがとう」
生花をスプレーのようなもので固めて綺麗に編まれたリースは、見ているだけで元気になれそうだ。
「私の方こそいつもありがとう。穂乃のおかげで楽しく過ごせてるよ」
自室のプレートの下に釘を打ち、ついていた紐を使ってリースをかける。
「大切にする」
「嬉しいな…」
「ご飯、先に食べててくれ。多分今日も遅くなる。…ごめん」
「いいの。お姉ちゃん、いつも時間作ってくれるから」
いってらっしゃいと手をふる穂乃に無理をしている様子はない。
そこだけは安堵しつつ、いってきますと家を出た。
「…あ、詩乃ちゃん」
校門前で待っていたということは何かあったということだろう。
「おはよう。どうしたんだ、瞬」
「あのね、変な噂の出どころを辿ってたんだけど…これ見て」
瞬が持っていたのは、古い紙の切れ端。
そこに書かれている内容は朝から憂鬱になるものだった。
【学校なんて燃えちゃえ!】
「どこで見つけたんだ?」
「空き教室だよ。部屋から出たらこの紙だけが落ちてたんだ。もしここが燃えちゃったらどうしよう…」
「大丈夫だよ。燃えそうだって分かっているなら、」
話の途中で大きな爆発音がした。
校舎前にいた生徒たちがパニックになりながら走り出す。
その生徒たちを押しのけて逆方向に進むと、職員室付近が燃えていた。
「あ、あ……」
「瞬、先生ならきっと大丈夫だ。今は足元で倒れてる奴を運ぼう」
「そう、だね。うん、そうだ。先生はそんな簡単に死なない。大丈夫、大丈夫…」
瞬は自分を落ち着かせた後、すぐに手を貸してくれた。
足元で血まみれになっている男の顔から火傷の痕と思われるものが消えていく。
「陽向、もうすぐだからな」
人気がない旧校舎の1階まで運ぶと、陽向の体はもうほとんど回復していた。
爆弾にしては小規模だったので、恐らくなんらかの化学反応がおきたのだろう。
「刺激臭はしなかったな」
「何の反応だったんだろう?それに、どうしてひな君が近くにいたのかな?」
「不審物があったから調べてたんだよ。油断した…」
陽向がゆっくり体をおこすと、上から白衣がふってきた。
「着替え、持ってないんだろ。これでも羽織っとけ」
「ありがとうございます」
いつの間に近づいていたのか、先生が階段の上から降りてくる。
先生の姿を確認した瞬はすぐに駆け寄り抱きついた。
「どうした?」
「よかった…全然気配を辿れないから、何かあったんじゃないかと思ってたんだ」
「……悪かった。相手から逃げるのに必要だったんだ。怪我してないか?」
無事だった喜びを分かち合っている間に白衣を羽織った陽向から話を聞くことにする。
「何があったんだ?」
「相手は黒い靄みたいな塊でした。なんか持ってうろうろしてて、生徒に入りこもうとしてたからつい触っちゃったんです。
そしたらいきなり目の前で火花が飛び散る大きな花火みたいなのに酸素をスプレーで吹きつけて…」
「線香の炎を見る実験の巨大版ってことか」
燃えた原理は理解した。
ただ、それが普通の人間にも見えるような威力になったのは問題だ。
思案していると、先生が瞬を撫でながら教えてくれた。
「ひのこさんという噂が流れていたようだ。見るもの全てを恐怖に陥れるような炎を出せるらしいと…。
恋愛電話が被害に遭いかけたらしいから気配を消していたんだが、まさか普通の人間たちにも被害を及ぼすほどになっていたとはな」
「これだけの騒ぎがあったら今日の授業は中止かな…。私としては嬉しいけど」
燃え残った陽向の制服を調べていると、古い紙が貼りついていた。
「…次は音楽室だな」
「え、先輩!?」
まだ完治していない手足を動かしながら音楽室に辿り着く。
【ピアノのレッスンなんて行きたくない】
そう殴り書きされた古いノートの切れ端は先日確認したものと全く同じものだった。
「…勝負だ、具現化ノート」
「お姉ちゃん」
翌朝、珍しく穂乃が引き止めてきた。
「何かあったのか?」
「そういうわけじゃないんだけど…」
そう言いながら後ろ手に何かを隠しているのが丸見えだ。
「後ろのそれは何だ?」
「あ、えっと…これ、学校で作ったの。ご家族に渡してくださいって。
私が渡したいのはお姉ちゃんしかいないから…いつもありがとう」
生花をスプレーのようなもので固めて綺麗に編まれたリースは、見ているだけで元気になれそうだ。
「私の方こそいつもありがとう。穂乃のおかげで楽しく過ごせてるよ」
自室のプレートの下に釘を打ち、ついていた紐を使ってリースをかける。
「大切にする」
「嬉しいな…」
「ご飯、先に食べててくれ。多分今日も遅くなる。…ごめん」
「いいの。お姉ちゃん、いつも時間作ってくれるから」
いってらっしゃいと手をふる穂乃に無理をしている様子はない。
そこだけは安堵しつつ、いってきますと家を出た。
「…あ、詩乃ちゃん」
校門前で待っていたということは何かあったということだろう。
「おはよう。どうしたんだ、瞬」
「あのね、変な噂の出どころを辿ってたんだけど…これ見て」
瞬が持っていたのは、古い紙の切れ端。
そこに書かれている内容は朝から憂鬱になるものだった。
【学校なんて燃えちゃえ!】
「どこで見つけたんだ?」
「空き教室だよ。部屋から出たらこの紙だけが落ちてたんだ。もしここが燃えちゃったらどうしよう…」
「大丈夫だよ。燃えそうだって分かっているなら、」
話の途中で大きな爆発音がした。
校舎前にいた生徒たちがパニックになりながら走り出す。
その生徒たちを押しのけて逆方向に進むと、職員室付近が燃えていた。
「あ、あ……」
「瞬、先生ならきっと大丈夫だ。今は足元で倒れてる奴を運ぼう」
「そう、だね。うん、そうだ。先生はそんな簡単に死なない。大丈夫、大丈夫…」
瞬は自分を落ち着かせた後、すぐに手を貸してくれた。
足元で血まみれになっている男の顔から火傷の痕と思われるものが消えていく。
「陽向、もうすぐだからな」
人気がない旧校舎の1階まで運ぶと、陽向の体はもうほとんど回復していた。
爆弾にしては小規模だったので、恐らくなんらかの化学反応がおきたのだろう。
「刺激臭はしなかったな」
「何の反応だったんだろう?それに、どうしてひな君が近くにいたのかな?」
「不審物があったから調べてたんだよ。油断した…」
陽向がゆっくり体をおこすと、上から白衣がふってきた。
「着替え、持ってないんだろ。これでも羽織っとけ」
「ありがとうございます」
いつの間に近づいていたのか、先生が階段の上から降りてくる。
先生の姿を確認した瞬はすぐに駆け寄り抱きついた。
「どうした?」
「よかった…全然気配を辿れないから、何かあったんじゃないかと思ってたんだ」
「……悪かった。相手から逃げるのに必要だったんだ。怪我してないか?」
無事だった喜びを分かち合っている間に白衣を羽織った陽向から話を聞くことにする。
「何があったんだ?」
「相手は黒い靄みたいな塊でした。なんか持ってうろうろしてて、生徒に入りこもうとしてたからつい触っちゃったんです。
そしたらいきなり目の前で火花が飛び散る大きな花火みたいなのに酸素をスプレーで吹きつけて…」
「線香の炎を見る実験の巨大版ってことか」
燃えた原理は理解した。
ただ、それが普通の人間にも見えるような威力になったのは問題だ。
思案していると、先生が瞬を撫でながら教えてくれた。
「ひのこさんという噂が流れていたようだ。見るもの全てを恐怖に陥れるような炎を出せるらしいと…。
恋愛電話が被害に遭いかけたらしいから気配を消していたんだが、まさか普通の人間たちにも被害を及ぼすほどになっていたとはな」
「これだけの騒ぎがあったら今日の授業は中止かな…。私としては嬉しいけど」
燃え残った陽向の制服を調べていると、古い紙が貼りついていた。
「…次は音楽室だな」
「え、先輩!?」
まだ完治していない手足を動かしながら音楽室に辿り着く。
【ピアノのレッスンなんて行きたくない】
そう殴り書きされた古いノートの切れ端は先日確認したものと全く同じものだった。
「…勝負だ、具現化ノート」
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