195 / 302
第22章『呪いより恐ろしいもの』
第160話
しおりを挟む
「それってつまり、場所が曖昧だからたまたまここが選ばれたんじゃ…」
「その可能性が高いな」
そんな雑な内容でも、ぼろぼろのノートに書いたとなればかなりまずい。
《実雪さん、小夜さんが奥の部屋にいるから一緒に休んでいてもらえないかな?
後でニナさんにも食事を持っていくから、今だけ小夜さんの側にいてほしいんだ》
「分かりました。無理したら怒りますからね」
南雲実雪は一礼して、そのまま奥の部屋へと消えていく。
その姿を見送った直後、ハーブティーのようなものを出された。
《もしよろしければどうぞ。心配しなくても、変なものは入れてないから》
「ありがとう。それから、突然押しかけて申し訳ない」
《いや、お客様ならいつでも歓迎するよ。最近実雪さんが不安定になりがちだったのは知っていたから、どうしたものかと他のみんなとも話していたんだ》
「さっきから他のみんなって言ってるのが気になるんですけど、このお店には他にも従業員さんがいるってことですか?」
店主さんは少しだけならと教えてくれた。
自分が死ぬとき見送ってくれた人たちが従業員を買って出てくれていること、死んだ後は地縛霊として存在していること、自分で噂を訂正することができないこと…。
とにかく迷惑をかけたくないと考えていることは理解した。
「気持ちは分かるけど、ひとりでどうしようもないことってあると思うんだ。
だから、噂の件は私たちに協力させてほしい。恐らく原因は古いノートだろうから」
《どういうこと?》
「俺たちや実雪さんが通ってる学校で、具現化ノートの噂ってやつが流行ってるんだ。
それがかなりの大物で、負の感情を溜めこんだ人間の前に現れては色々な噂を暴走させてる」
ただでさえ怪異たちに影響が出やすい町なのに、おかしな形にしてしまう怪異があるというのはかなりまずい。
他の一件でもそうだったが、あれがある限り暴走する噂は増えてしまうだろう。
「今度こそ決着つけたいですね」
「そうだな」
《お客様を巻きこむような真似は、》
「いいんだ。これは私たちがあのノートの噂に止めをさせなかったのが原因かもしれないから」
「そうそう。こんなに美味しいお茶をごちそうになったんだし、それくらいはさせてください!
店長さんにだって護りたいものがあるんでしょ?」
陽向の言葉に店主は小さく頷いた。
《護りたいもの…そうですね、沢山あります》
「私たちにできるのは手伝い程度のことだけど、何かあればすぐ言ってほしい」
《申し訳ないのですが、手伝っていただけませんか?ここには心が傷ついたお客様が大勢いらっしゃいます。…お客様の存在に支えられることも多いのです。
それに、この場所だけは護り抜くと決めているので…。従業員として働いてくれているあの子たちがここを大切に想ってくれる限り、屈するわけにはいきません》
誰が何の目的で改変したのかはっきりとは分からないが、具現化ノートが使われたのはほぼ間違いない。
…いや、確定はしていないものの唆したであろう人間はあの男だ。
「店長さん、お茶を持っていってもいいですか?」
《構わないよ。そこにある摘みたてハーブを使って淹れると美味しくなると思う》
「ありがとうございます!」
ティーセットを運ぼうとするぬいぐるみを抱えた少女に声をかける。
「…南雲実雪さん」
「なんですか?」
「このお店のこと、必ず護るよ。苦悩して見つけた大切な場所を理不尽に壊される辛さは分かるから」
しばらく驚いた顔をしていたが、ゆっくり口が動いた。
「……です」
「え?」
「感激です。昼間制の監査部って怖そうって思ってましたけど、優しい人たちでできているんですね」
合同部会のとき眉ひとつ動かさなかった彼女はとても楽しそうに笑っている。
この笑顔を護ったのも店主なのだろう。
「僕もできる限り調べてみます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
手を差し出すと、やんわりと握りかえされる。
幸福のカフェを護るための作戦をたてつつ、具現化ノートと本格的に決着をつける戦いがはじまった。
「その可能性が高いな」
そんな雑な内容でも、ぼろぼろのノートに書いたとなればかなりまずい。
《実雪さん、小夜さんが奥の部屋にいるから一緒に休んでいてもらえないかな?
後でニナさんにも食事を持っていくから、今だけ小夜さんの側にいてほしいんだ》
「分かりました。無理したら怒りますからね」
南雲実雪は一礼して、そのまま奥の部屋へと消えていく。
その姿を見送った直後、ハーブティーのようなものを出された。
《もしよろしければどうぞ。心配しなくても、変なものは入れてないから》
「ありがとう。それから、突然押しかけて申し訳ない」
《いや、お客様ならいつでも歓迎するよ。最近実雪さんが不安定になりがちだったのは知っていたから、どうしたものかと他のみんなとも話していたんだ》
「さっきから他のみんなって言ってるのが気になるんですけど、このお店には他にも従業員さんがいるってことですか?」
店主さんは少しだけならと教えてくれた。
自分が死ぬとき見送ってくれた人たちが従業員を買って出てくれていること、死んだ後は地縛霊として存在していること、自分で噂を訂正することができないこと…。
とにかく迷惑をかけたくないと考えていることは理解した。
「気持ちは分かるけど、ひとりでどうしようもないことってあると思うんだ。
だから、噂の件は私たちに協力させてほしい。恐らく原因は古いノートだろうから」
《どういうこと?》
「俺たちや実雪さんが通ってる学校で、具現化ノートの噂ってやつが流行ってるんだ。
それがかなりの大物で、負の感情を溜めこんだ人間の前に現れては色々な噂を暴走させてる」
ただでさえ怪異たちに影響が出やすい町なのに、おかしな形にしてしまう怪異があるというのはかなりまずい。
他の一件でもそうだったが、あれがある限り暴走する噂は増えてしまうだろう。
「今度こそ決着つけたいですね」
「そうだな」
《お客様を巻きこむような真似は、》
「いいんだ。これは私たちがあのノートの噂に止めをさせなかったのが原因かもしれないから」
「そうそう。こんなに美味しいお茶をごちそうになったんだし、それくらいはさせてください!
店長さんにだって護りたいものがあるんでしょ?」
陽向の言葉に店主は小さく頷いた。
《護りたいもの…そうですね、沢山あります》
「私たちにできるのは手伝い程度のことだけど、何かあればすぐ言ってほしい」
《申し訳ないのですが、手伝っていただけませんか?ここには心が傷ついたお客様が大勢いらっしゃいます。…お客様の存在に支えられることも多いのです。
それに、この場所だけは護り抜くと決めているので…。従業員として働いてくれているあの子たちがここを大切に想ってくれる限り、屈するわけにはいきません》
誰が何の目的で改変したのかはっきりとは分からないが、具現化ノートが使われたのはほぼ間違いない。
…いや、確定はしていないものの唆したであろう人間はあの男だ。
「店長さん、お茶を持っていってもいいですか?」
《構わないよ。そこにある摘みたてハーブを使って淹れると美味しくなると思う》
「ありがとうございます!」
ティーセットを運ぼうとするぬいぐるみを抱えた少女に声をかける。
「…南雲実雪さん」
「なんですか?」
「このお店のこと、必ず護るよ。苦悩して見つけた大切な場所を理不尽に壊される辛さは分かるから」
しばらく驚いた顔をしていたが、ゆっくり口が動いた。
「……です」
「え?」
「感激です。昼間制の監査部って怖そうって思ってましたけど、優しい人たちでできているんですね」
合同部会のとき眉ひとつ動かさなかった彼女はとても楽しそうに笑っている。
この笑顔を護ったのも店主なのだろう。
「僕もできる限り調べてみます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
手を差し出すと、やんわりと握りかえされる。
幸福のカフェを護るための作戦をたてつつ、具現化ノートと本格的に決着をつける戦いがはじまった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる