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第21章『夜紅の源』
番外篇『たまの息抜き』
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こんなことになるとは思ってなかったけど、結果オーライな気がする。
「…というわけで、男子会をはじめます!」
「俺もいないと駄目か?」
「駄目。ひな君、続けて」
このメンバーで集まって話をするのが珍しい、もう少し俺たちから話を聞きたい…そんなちびの願いを叶えるため、男子会をしてみようということになった。
先輩はぐっすり眠っていて起きないし、ラジオから声がしないということは桜良も寝てるし、たしかに3人で話すのは珍しい。
「あの、まず俺から質問していいですか?」
「なんだ」
「…先生っていつ休んでるんですか?」
1番訊いてみたかった。
先輩もそうだけど、先生はいつ休んでいるんだろう。
いくら未来予知日記の噂の管理人という半怪異の立場でも、不眠不休なら体が持たない。
妖の部分も怪異の部分も、無理をして力を使えば絶対に倒れる。
「休み時間や仕事が終わったとき、あとは睡眠」
「え、睡眠?」
少し困った様子の先生を見て、ちびが苦笑しながら答える。
「先生って1日3時間以上寝ないと体が動かなくなっちゃうんだって。原因は過労らしいよ」
「先生、体弱いんですね」
「貧弱なわけじゃない。…予知日記に妖力を分ければ誰だってそうなる」
なんでもとはいかなくても、未来予知なんてとんでもないことができる日記が何の代償もなしに使えるはずがない。
「まあ、元々体が強い方でもないからな」
「色々あるんですね。けど、思ったよりちゃんと休めてるみたいでよかった…」
ほっとひと息つこうとすると、じっと目を見つめられる。
「…そういうそっちはどうなんだ?1番休憩しなければならないはずだが」
先生に痛いところをつかれ、一瞬黙ったままやり過ごそうか考えた。
「今度はそっちが答える番だろ?」
真面目に答えてもらった以上、何も言わないわけにもいかない。
「大体4時間くらいは寝てます。桜良がいるときはもっと寝る時間が長くなることも多いです。先生よりは休んでますよ、俺」
「ひな君、ちゃんと寝なさいってこの前桜良ちゃんに怒られてたもんね」
今度はそう言って楽しそうに笑っているちびに疑問を投げかける。
「そういうちびはちゃんと寝てるのか?」
「知ってる?霊体は寝なくても平気なんだよ。食事も睡眠も毎日必要ってわけじゃないんだ。まあ、時々寝るけど…」
その後はもごもご話していて聞き取れなかったけど、なんとなく何を考えているかは分かる。
だから、そっかとだけ答えて深くつっこまないようにした。
「じゃあ、いつからふたりは甘党なの?昔から?」
「俺は昔からだな」
「僕は先生の影響もちょっとあるかな。だけど、苦いものより甘いものの方が好きだよ」
生前のちびが置かれた環境はかなり酷いものだったって先輩から聞いている。
夜眠れないのは悪夢を見るから、周囲のいい人の影響を受けたのは今までいなかった大切な人だから…全部訊かなくても想像できた。
…昔の俺がそうだったから。
「…ちび。もう寂しくないか?」
「寂しくないよ。今が1番楽しいかもしれない」
「そっか」
今日もちびの友だちでいられてよかったと思う。
「そういえば、先生寝なくて大丈夫なんですか?」
「問題ない」
ちびがにやにやしながら先生をからかう。
「眠いなら子守唄歌おうか?」
「いらない。おまえは俺をなんだと思ってるんだ」
「えっと…恩人?」
あまりに素直すぎる言葉に、先生は照れてしまったらしい。
耳まで真っ赤にして俯いたままになってしまった。
「嫌だった?」
「…そういうわけじゃない」
「じゃあ、そう思っててもいい?」
「おまえがそれでいいなら」
なんだかふたりの会話って友だち以上恋人未満に感じる。
とにかく、お互いがお互いに1番心を開いているのは間違いない。
「あ、詩乃ちゃんもうすぐ起きちゃうかも」
「そういうの、ちびはいつも分かるのか?」
「勘というか気配というか…上手く説明できないんだけど、分かるときもあるよ」
「すごいな」
「ありがとう。…色々話せて楽しかったよ。さっき言ってたお菓子、今度ちょっと分けてほしいな」
「今度買ってくる。あと、内職の給料もやる」
「やった!ありがとう」
やっぱり頭を撫でられるのが好きなのか、今も嬉しそうにしている。
あまりに平穏な時間を過ごしすぎて、大切なことを忘れていた。
──この後、俺たちはわら半紙のノートに振り回されることになる。
「…というわけで、男子会をはじめます!」
「俺もいないと駄目か?」
「駄目。ひな君、続けて」
このメンバーで集まって話をするのが珍しい、もう少し俺たちから話を聞きたい…そんなちびの願いを叶えるため、男子会をしてみようということになった。
先輩はぐっすり眠っていて起きないし、ラジオから声がしないということは桜良も寝てるし、たしかに3人で話すのは珍しい。
「あの、まず俺から質問していいですか?」
「なんだ」
「…先生っていつ休んでるんですか?」
1番訊いてみたかった。
先輩もそうだけど、先生はいつ休んでいるんだろう。
いくら未来予知日記の噂の管理人という半怪異の立場でも、不眠不休なら体が持たない。
妖の部分も怪異の部分も、無理をして力を使えば絶対に倒れる。
「休み時間や仕事が終わったとき、あとは睡眠」
「え、睡眠?」
少し困った様子の先生を見て、ちびが苦笑しながら答える。
「先生って1日3時間以上寝ないと体が動かなくなっちゃうんだって。原因は過労らしいよ」
「先生、体弱いんですね」
「貧弱なわけじゃない。…予知日記に妖力を分ければ誰だってそうなる」
なんでもとはいかなくても、未来予知なんてとんでもないことができる日記が何の代償もなしに使えるはずがない。
「まあ、元々体が強い方でもないからな」
「色々あるんですね。けど、思ったよりちゃんと休めてるみたいでよかった…」
ほっとひと息つこうとすると、じっと目を見つめられる。
「…そういうそっちはどうなんだ?1番休憩しなければならないはずだが」
先生に痛いところをつかれ、一瞬黙ったままやり過ごそうか考えた。
「今度はそっちが答える番だろ?」
真面目に答えてもらった以上、何も言わないわけにもいかない。
「大体4時間くらいは寝てます。桜良がいるときはもっと寝る時間が長くなることも多いです。先生よりは休んでますよ、俺」
「ひな君、ちゃんと寝なさいってこの前桜良ちゃんに怒られてたもんね」
今度はそう言って楽しそうに笑っているちびに疑問を投げかける。
「そういうちびはちゃんと寝てるのか?」
「知ってる?霊体は寝なくても平気なんだよ。食事も睡眠も毎日必要ってわけじゃないんだ。まあ、時々寝るけど…」
その後はもごもご話していて聞き取れなかったけど、なんとなく何を考えているかは分かる。
だから、そっかとだけ答えて深くつっこまないようにした。
「じゃあ、いつからふたりは甘党なの?昔から?」
「俺は昔からだな」
「僕は先生の影響もちょっとあるかな。だけど、苦いものより甘いものの方が好きだよ」
生前のちびが置かれた環境はかなり酷いものだったって先輩から聞いている。
夜眠れないのは悪夢を見るから、周囲のいい人の影響を受けたのは今までいなかった大切な人だから…全部訊かなくても想像できた。
…昔の俺がそうだったから。
「…ちび。もう寂しくないか?」
「寂しくないよ。今が1番楽しいかもしれない」
「そっか」
今日もちびの友だちでいられてよかったと思う。
「そういえば、先生寝なくて大丈夫なんですか?」
「問題ない」
ちびがにやにやしながら先生をからかう。
「眠いなら子守唄歌おうか?」
「いらない。おまえは俺をなんだと思ってるんだ」
「えっと…恩人?」
あまりに素直すぎる言葉に、先生は照れてしまったらしい。
耳まで真っ赤にして俯いたままになってしまった。
「嫌だった?」
「…そういうわけじゃない」
「じゃあ、そう思っててもいい?」
「おまえがそれでいいなら」
なんだかふたりの会話って友だち以上恋人未満に感じる。
とにかく、お互いがお互いに1番心を開いているのは間違いない。
「あ、詩乃ちゃんもうすぐ起きちゃうかも」
「そういうの、ちびはいつも分かるのか?」
「勘というか気配というか…上手く説明できないんだけど、分かるときもあるよ」
「すごいな」
「ありがとう。…色々話せて楽しかったよ。さっき言ってたお菓子、今度ちょっと分けてほしいな」
「今度買ってくる。あと、内職の給料もやる」
「やった!ありがとう」
やっぱり頭を撫でられるのが好きなのか、今も嬉しそうにしている。
あまりに平穏な時間を過ごしすぎて、大切なことを忘れていた。
──この後、俺たちはわら半紙のノートに振り回されることになる。
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