夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第21章『夜紅の源』

第155話

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できるだけ騒ぎにならない方法をとりたいが、あまり自信がない。
「こんな廃墟まで足を運ぶような物好きはいない。もっと暑くなったら肝試しにはうってつけかもしれないが、そもそもこの場所を発見できる人間なんて滅多にいないだろう」
「そうなのか。小さい頃から来てたけど知らなかった」
ただ、思い返してみるとたしかに人と会ったのは今日先生とが初めてだ。
それだけ見つけづらいのか、結界のようなものがあるのか…それはさておき、もう少し大きく動いても問題はないかもしれない。
「先生、糸ってもう少し伸ばせるか?」
「これが限界だな」
視界にうつる限りの土人形たちを捕まえた無数の糸はぴんと張られている。
「充分だ」
流石にナイフだけでは追いつかない。
…瞬を救えたときのように糸越しに人形たちを燃やしてみよう。
「──爆ぜろ」
本物の人形に辿り着くまでどれほど時間がかかるか分からないが、ひたすら炎を放ち続ける。
先生の糸を切らないよう気をつけながら、絡めとれていない分の人形たちを斬り刻む。
視界が塵で霞む頃にはほとんどの人形を倒せているようだったが、まだ奥からわいて出てくる。
「しぶといな」
「けど、これだけ粉末を集められたら大丈夫そうだな」
「どういうことだ?」
これだけ土埃を作ったのには理由がある。
奥の方に見える石像が原因でこの土人形たちが動いているなら、そこまで攻撃を届かせるだけだ。
「…先生、必要最低限のものだけ持って糸を解いてくれ」
「いいのか?」
「うん。寧ろ片をつけるには先生に逃げててほしいんだ」
「…何かあったらすぐ呼べ」
「ありがとう」
籠を持った先生が走るのとほぼ同時に、足元に集まった土を石像に向かって投げつける。
団子の形にしたおかげで石像に当たるまで崩れず届いた。
石像の方から何か音がしはじめた直後、残りの札全てを投げつけて霊力をこめる。
「──燃やし尽くせ」
爆発音とともに、何かが呻き声をあげる。
それを無視して足元に転がっている紅日虹を持って出口に向かって走った。
途中で先生と合流しかけたところで、足を何かに掴まれる。
それは、石でできた手だった。
「折原」
「先生は周りを蹴散らしてくれ」
足元の石の手にはナイフをお見舞いする。
千切れて半分ほどの効力しか発揮できない札に力をこめた。
「…刺される方が好みだったか?」
ナイフから放った炎は一瞬のうちに燃え広がり、足を自由に動かせるようになった私は先生に駆け寄る。
「まだ走れるか?」
「うん。早く出よう」
先生に追い払ってもらいながらなんとか先に進む。
ようやく外に出たところで向けられたのは、不安がこもった視線だった。
「怪我はないか?」
「増えてない。大丈夫だよ」
「…監査室で傷を診る」
それからゆっくり歩きながら少し話をした。
「どうやって倒した?」
「粉塵爆発ってあるだろ?本体が奥にある石像だって分かったから、砂を丸めて投げつけた」
「成分が小麦粉に似てたってことか。…土を採取してみればよかったな」
「先生は研究熱心すぎる。もう少し休みをいれるのが先だと思うけど…」
そんな話をしていると、ポケットに入れていたラジオから陽気な声が流れてくる。
『先輩、やっと繋がった…』
「何口ずさんでたんだ?」
『聞かなかったことにしてください。桜良と一緒に先輩に繋がらないか確認していたんです。
突然ぷっつり切れるもんだから焦りましたよ…。大丈夫ですか?』
「特に大きな問題はないよ。噂を片づけたから、消えた人間たちも明日には戻ってくるだろう」
『え、先輩ひとりでやったんですか!?』
「先生が一緒だったんだ。これから学園に行くから一旦切るぞ」
陽向のいつもどおりの声を聞いて少し安心する。
霊力を削りすぎたせいか若干目眩がしていたが、特に問題はない。
「学園内で休むように」
「え?」
「そんなふらふらな状態の生徒をひとりで帰すわけにはいかないだろ」
……やっぱり先生相手に隠し事は難しい。
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