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第20章『蹴鞠の噂と幸福の鞠人形』
第150話
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「小鞠、よかった…。怪我はない?」
《大丈夫》
《突然いなくなったからみんな心配していたのよ?》
《…ごめんなさい》
手鞠と小鞠が話している間、八尋さんが私に駆け寄ってきて頭を下げた。
「ふたりのことを護ってくれてありがとう。特に詩乃さんが頑張ってくれたんだって、他の人たちから話を聞かせてもらったよ」
「私は特別なことは何もしていません」
色々あったが、ふたりを護りきれたことに対する安堵が1番大きい。
「俺がしっかりしないといけないのに…本当にごめん」
八尋さんは自分の不注意で今回のことがおきたと思っているのかもしれない。
「誰も悪くないです。八尋さんがそんなふうに落ちこんでいたら、小鞠がずっと気にします。
手鞠だって自分がしっかりしないとって自分を責めるだろうから、申し訳ないってあんまり思わないでほしいです」
「そうか…。分かった。ふたりを助けてくれてありがとう」
それから幸福の鞠人形たちは八尋さんに抱えられ、そのまま監査室を去っていく。
《お世話になりました》
《ばいばい》
「うん。また」
扉が閉まった直後、体から力が抜ける。
「先輩、取り敢えず座ってください」
「ごめん。そうさせてもらうよ」
様子を見ていてばれたのか、先生が救急箱を持って駆け寄ってくる。
「右手と左足、できるだけ動かすな」
「…ごめん」
「もう少し怪我を減らせれば上出来なんだがな」
先生は苦笑しながら、慣れた手つきで消毒液をガーゼに染みこませる。
「岡副、木嶋。今夜はもう帰った方がいい」
「でも、」
「折原は俺が見ておくから心配するな」
「先生がいるなら安心ですね。お疲れ様です!」
「おやすみなさい」
「お疲れ。ふたりとも、ありがとう」
ふたりは手を繋いで部屋を出る。
「詩乃ちゃん、大丈夫?」
「私は平気だよ。瞬たちは怪我してないか?」
「してないよ、してないけど、詩乃ちゃんが傷ついてるのを見ると心が痛い」
そんなふうに話す瞬を見て申し訳なく思った。
もう少し力をつけられれば怪我を減らせるだろうか。
「取り敢えず今夜は宿直室のベッドで横になってろ。誰か来てもドアを開けなくていいから。いいな?」
先生の有無を言わさぬ言葉に、ただ頷くことしかできない。
布団に入ったものの、ほとんど眠れずに朝を迎えた。
「建物が古くて助かったな」
「…ごめん。まさかあそこまですごいことになるとは思ってなかったんだ」
翌朝、明るくなってから確認した体育館の損傷はかなり酷いものだった。
古かったこともあり、突如崩落したということで話がまとまったらしい。
「先輩、おはようございます」
「おはよう」
「旧校舎の体育館、立入禁止になってしまいましたね」
「そうだな」
そういえば、まだあの人形に宿っていた魂について調べていない。
「後で調べ物につきあってほしいんだけど、いいかな?」
「俺でよければ全然手伝います!」
「ありがとう。頼りにしてる」
私ひとりで調べるにはあまりに時間がかかる。
相手のためにもどんな人物なのかできるだけ早く知りたい。
「何かあったらすぐ言え」
「ありがとう。だけど、先生も少し休んだ方がいいと思う」
「まあ、これから新月の日くらいは休みたいところだな」
先生は苦笑を残して職員室の方へ歩きだす。
生徒たちが体育館の前でざわつきはじめたところで監査室に向かう。
「昨日の相手、強かったんですね」
「満月だったら私は今ここに立ってなかったと思う」
「先輩がそれを言うなんて、本当に強かったんですね。俺も行けばよかったな…」
まだ少し寒さを感じてズボンのポケットに手を入れると、昨夜見つけたものが指先に触れる。
何度思い出しても不快な思いがこみあげてしまう。
「先輩?」
「ごめん、なんでもない」
この紙に対する感情を、今は笑顔の底に沈めておこう。
何故ここまでして私にちょっかいをかけてくるのだろうか。
わら半紙を強く握りしめた手から血が滲んだ。
《大丈夫》
《突然いなくなったからみんな心配していたのよ?》
《…ごめんなさい》
手鞠と小鞠が話している間、八尋さんが私に駆け寄ってきて頭を下げた。
「ふたりのことを護ってくれてありがとう。特に詩乃さんが頑張ってくれたんだって、他の人たちから話を聞かせてもらったよ」
「私は特別なことは何もしていません」
色々あったが、ふたりを護りきれたことに対する安堵が1番大きい。
「俺がしっかりしないといけないのに…本当にごめん」
八尋さんは自分の不注意で今回のことがおきたと思っているのかもしれない。
「誰も悪くないです。八尋さんがそんなふうに落ちこんでいたら、小鞠がずっと気にします。
手鞠だって自分がしっかりしないとって自分を責めるだろうから、申し訳ないってあんまり思わないでほしいです」
「そうか…。分かった。ふたりを助けてくれてありがとう」
それから幸福の鞠人形たちは八尋さんに抱えられ、そのまま監査室を去っていく。
《お世話になりました》
《ばいばい》
「うん。また」
扉が閉まった直後、体から力が抜ける。
「先輩、取り敢えず座ってください」
「ごめん。そうさせてもらうよ」
様子を見ていてばれたのか、先生が救急箱を持って駆け寄ってくる。
「右手と左足、できるだけ動かすな」
「…ごめん」
「もう少し怪我を減らせれば上出来なんだがな」
先生は苦笑しながら、慣れた手つきで消毒液をガーゼに染みこませる。
「岡副、木嶋。今夜はもう帰った方がいい」
「でも、」
「折原は俺が見ておくから心配するな」
「先生がいるなら安心ですね。お疲れ様です!」
「おやすみなさい」
「お疲れ。ふたりとも、ありがとう」
ふたりは手を繋いで部屋を出る。
「詩乃ちゃん、大丈夫?」
「私は平気だよ。瞬たちは怪我してないか?」
「してないよ、してないけど、詩乃ちゃんが傷ついてるのを見ると心が痛い」
そんなふうに話す瞬を見て申し訳なく思った。
もう少し力をつけられれば怪我を減らせるだろうか。
「取り敢えず今夜は宿直室のベッドで横になってろ。誰か来てもドアを開けなくていいから。いいな?」
先生の有無を言わさぬ言葉に、ただ頷くことしかできない。
布団に入ったものの、ほとんど眠れずに朝を迎えた。
「建物が古くて助かったな」
「…ごめん。まさかあそこまですごいことになるとは思ってなかったんだ」
翌朝、明るくなってから確認した体育館の損傷はかなり酷いものだった。
古かったこともあり、突如崩落したということで話がまとまったらしい。
「先輩、おはようございます」
「おはよう」
「旧校舎の体育館、立入禁止になってしまいましたね」
「そうだな」
そういえば、まだあの人形に宿っていた魂について調べていない。
「後で調べ物につきあってほしいんだけど、いいかな?」
「俺でよければ全然手伝います!」
「ありがとう。頼りにしてる」
私ひとりで調べるにはあまりに時間がかかる。
相手のためにもどんな人物なのかできるだけ早く知りたい。
「何かあったらすぐ言え」
「ありがとう。だけど、先生も少し休んだ方がいいと思う」
「まあ、これから新月の日くらいは休みたいところだな」
先生は苦笑を残して職員室の方へ歩きだす。
生徒たちが体育館の前でざわつきはじめたところで監査室に向かう。
「昨日の相手、強かったんですね」
「満月だったら私は今ここに立ってなかったと思う」
「先輩がそれを言うなんて、本当に強かったんですね。俺も行けばよかったな…」
まだ少し寒さを感じてズボンのポケットに手を入れると、昨夜見つけたものが指先に触れる。
何度思い出しても不快な思いがこみあげてしまう。
「先輩?」
「ごめん、なんでもない」
この紙に対する感情を、今は笑顔の底に沈めておこう。
何故ここまでして私にちょっかいをかけてくるのだろうか。
わら半紙を強く握りしめた手から血が滲んだ。
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