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第20章『蹴鞠の噂と幸福の鞠人形』
第147話
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霊力や妖力を力に変えて戦うとき、新月になるとほとんど使えなくなる。
相手も最低限の力しか使えなくなっているが、祓い屋や術者も力を発揮できないのだ。
《あがり》
「え、もうあがっちゃったの!?小鞠強いな…」
陽向が小鞠の相手をしてくれている間に桜良と話をする。
「ごめんなさい、詩乃先輩」
「謝る必要なんてない。今夜が新月だってこと、すっかり忘れてたんだ」
「私のはちょっとよく分からないけれど、陽向は息を吹き返すのが遅くなります」
「はじめから陽向ばかりに負担をかけるつもりなんてないから心配しないでくれ」
新月に戦うのを避けてきたので、作戦を組むのが予想以上に大変だった。
まともに動けるのは私だけ、あとの面々はいつもより動けない可能性が高い…。
「僕、包丁さばきはそのままだよ!縄とか薬を出せるかは怪しいけど…」
「俺も本数は減るがある程度の糸なら使いこなせる」
鞠人形たちが結月と遊んでいる隙に陽向が近づいてきて、
「俺は死に帰りが遅くなります。あと、多分パンチの威力が弱まります」
「あのグローブに霊力を注ぎこまないといけないんだったな。…つまり今夜は自分の実力と少しの霊力になるってことか」
瞬が驚いた声をあげる。
「ひな君の生き返るやつ、死にかえりっていうの!?」
「ゾンビとか狂人とか勝手に名乗ってたんだけど、いい妖に怖がられて…。桜良につけてもらったんだ。字はこうな」
「帰宅の帰るなんだ…。桜良ちゃんはひな君に帰ってきてほしいっていつも思ってるんだね」
桜良は突っこまれると思っていなかったようで、頬を赤らめたまま黙ったまま俯いてしまった。
「あれ、もしかして照れて、」
「照れてない」
桜良が即答した直後、陽向の携帯が鳴った。
何が書かれているかまでは分からなかったが、その評定は徐々に険しいものになっていく。
「何か問題か?」
「八尋さんからなんですけど、学生バイトの子が肝試しに行った友人たちが行方不明になったって話してたらしいです。
生徒は全員烏合学園定時制にいるはずの生徒なんですけど…記録、調べてみてもいいですか?」
「生徒の名前を教えてくれたらすぐ調べられる」
陽向が読みあげた3つの名前を探していたものの、そんな名前の生徒は見つからない。
…ただ、バインダーの不自然な場所に真っ白な紙が3枚挟まっていること以外は。
「まずいな。昨日は旧校舎しか見てなかったから…。もしかすると別棟で襲われたのかもしれない」
「だとすると厄介ですね。学園内ならどこでも現れるってことに…」
「相手を呼び出せばいいなら私がやる」
桜良が真っ先にそう告げ、監査室にある放送器具で放送しはじめた。
「【暖かくなってきたとはいえ、まだ日が落ちる時間が早いです。部活動の生徒の皆さんも早くお家に帰りましょう。
…蹴鞠の噂は本日午後11時、体育館に現れます。遭遇しないうちに後片づけをすませましょう】」
まだ昼になったばかりだが、生徒たちが一斉に下校していく様子が見える。
これだけ無茶苦茶な使い方をすれば大変なことになるのではないだろうか…そう思っていたのに、桜良はふっと微笑んだ。
「人間相手に話すくらいなら平気です。これで蹴鞠の噂は必ず体育館に現れます」
「ありがとう。体育館なら作戦が組みやすい」
広い分相手を止めておくには丁度いいが、今回は1度逃してしまえば手鞠たちが狙われる可能性がある。
しばらく考えこんでいると、眉間に小さな手が添えられる。
《小鞠、それは流石に失礼よ》
《えいえいおー》
《もう…。あなたが考え事をしているのを見ているだけなのが嫌だったみたい》
「ありがとう。励ましてくれたのか」
小鞠は楽しそうに両手をぶんぶん振っていて、手鞠はそれを見守っているようだ。
ふたりを狙っているなら、ふたりの近くを止められそうな人で固めておくのがいいだろう。
「決めた。今夜の作戦は──」
はじめはみんな首を縦にふらなかったが、なんとか説得した。
いつもどおり戦う以外、選択肢がないのだ。
「折原、無理だと思ったらすぐ連絡するように」
「分かった」
手鞠と小鞠が不安がっているなか、綺麗に櫛で梳かれたふたりの髪に優しく触れる。
「心配しなくても、私たちがちゃんと護るから」
相手も最低限の力しか使えなくなっているが、祓い屋や術者も力を発揮できないのだ。
《あがり》
「え、もうあがっちゃったの!?小鞠強いな…」
陽向が小鞠の相手をしてくれている間に桜良と話をする。
「ごめんなさい、詩乃先輩」
「謝る必要なんてない。今夜が新月だってこと、すっかり忘れてたんだ」
「私のはちょっとよく分からないけれど、陽向は息を吹き返すのが遅くなります」
「はじめから陽向ばかりに負担をかけるつもりなんてないから心配しないでくれ」
新月に戦うのを避けてきたので、作戦を組むのが予想以上に大変だった。
まともに動けるのは私だけ、あとの面々はいつもより動けない可能性が高い…。
「僕、包丁さばきはそのままだよ!縄とか薬を出せるかは怪しいけど…」
「俺も本数は減るがある程度の糸なら使いこなせる」
鞠人形たちが結月と遊んでいる隙に陽向が近づいてきて、
「俺は死に帰りが遅くなります。あと、多分パンチの威力が弱まります」
「あのグローブに霊力を注ぎこまないといけないんだったな。…つまり今夜は自分の実力と少しの霊力になるってことか」
瞬が驚いた声をあげる。
「ひな君の生き返るやつ、死にかえりっていうの!?」
「ゾンビとか狂人とか勝手に名乗ってたんだけど、いい妖に怖がられて…。桜良につけてもらったんだ。字はこうな」
「帰宅の帰るなんだ…。桜良ちゃんはひな君に帰ってきてほしいっていつも思ってるんだね」
桜良は突っこまれると思っていなかったようで、頬を赤らめたまま黙ったまま俯いてしまった。
「あれ、もしかして照れて、」
「照れてない」
桜良が即答した直後、陽向の携帯が鳴った。
何が書かれているかまでは分からなかったが、その評定は徐々に険しいものになっていく。
「何か問題か?」
「八尋さんからなんですけど、学生バイトの子が肝試しに行った友人たちが行方不明になったって話してたらしいです。
生徒は全員烏合学園定時制にいるはずの生徒なんですけど…記録、調べてみてもいいですか?」
「生徒の名前を教えてくれたらすぐ調べられる」
陽向が読みあげた3つの名前を探していたものの、そんな名前の生徒は見つからない。
…ただ、バインダーの不自然な場所に真っ白な紙が3枚挟まっていること以外は。
「まずいな。昨日は旧校舎しか見てなかったから…。もしかすると別棟で襲われたのかもしれない」
「だとすると厄介ですね。学園内ならどこでも現れるってことに…」
「相手を呼び出せばいいなら私がやる」
桜良が真っ先にそう告げ、監査室にある放送器具で放送しはじめた。
「【暖かくなってきたとはいえ、まだ日が落ちる時間が早いです。部活動の生徒の皆さんも早くお家に帰りましょう。
…蹴鞠の噂は本日午後11時、体育館に現れます。遭遇しないうちに後片づけをすませましょう】」
まだ昼になったばかりだが、生徒たちが一斉に下校していく様子が見える。
これだけ無茶苦茶な使い方をすれば大変なことになるのではないだろうか…そう思っていたのに、桜良はふっと微笑んだ。
「人間相手に話すくらいなら平気です。これで蹴鞠の噂は必ず体育館に現れます」
「ありがとう。体育館なら作戦が組みやすい」
広い分相手を止めておくには丁度いいが、今回は1度逃してしまえば手鞠たちが狙われる可能性がある。
しばらく考えこんでいると、眉間に小さな手が添えられる。
《小鞠、それは流石に失礼よ》
《えいえいおー》
《もう…。あなたが考え事をしているのを見ているだけなのが嫌だったみたい》
「ありがとう。励ましてくれたのか」
小鞠は楽しそうに両手をぶんぶん振っていて、手鞠はそれを見守っているようだ。
ふたりを狙っているなら、ふたりの近くを止められそうな人で固めておくのがいいだろう。
「決めた。今夜の作戦は──」
はじめはみんな首を縦にふらなかったが、なんとか説得した。
いつもどおり戦う以外、選択肢がないのだ。
「折原、無理だと思ったらすぐ連絡するように」
「分かった」
手鞠と小鞠が不安がっているなか、綺麗に櫛で梳かれたふたりの髪に優しく触れる。
「心配しなくても、私たちがちゃんと護るから」
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