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第20章『蹴鞠の噂と幸福の鞠人形』
第146話
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相手の手の内全てが知りたかった。
紅が使えない以上、私の本気なんてたかが知れている。
だからこそチャンスなのだ。
《イクヨ。ちゃんト返しテネ!》
「無理に決まってるだろ」
真正面から受ければ最悪死ぬ。
勢いを抑えるには道具を使うしかない。
近くに落ちていた木の棒を当てると、一瞬で砕けてしまった。
《返しテくれなイト、遊ベナいじゃナイ!》
これ以上攻撃が強まったら流石に避けきれない。
着地したところで足を滑らせ、体勢を崩してしまう。
もう無理かもしれない…そんな事を考えながら目を閉じると、耳元で声が聞こえた。
「なにひとりで頑張ってるの」
目を開けると、黒電話を握った猫耳少女が私の前に立っていた。
「結月、どうして…」
「分が悪すぎる。逃げるわよ」
《遊ンデ!》
毬が増殖いているすきに結月がダイヤルを回す。
眩い光に包まれて、そのまま監査室の前まで辿り着いた。
「悪いな」
「別に。不器用教師の勘ってたまに当たるから怖いわよね」
先生が結月に頼んでくれたらしく、どこへでも持ち運べそうなお菓子を沢山渡していた。
陽向たちが慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる。
「先輩、大丈夫ですか!?」
「心配かけてごめん。私は平気だよ」
できるだけ笑顔を保ったつもりだったか、上手くできていなかったらしい。
「首の痕、どうしたんですか?」
「相手は糸が使えるみたいだ。先生のよりは鋭くないけど、結月の糸電話よりは強い。
それから、蹴鞠の噂と呼ばれるだけあって毬の威力が凄まじい。正面から喰らったら終わりだ」
「思ってたより深刻ですね。噂の広がりもいつもより早いみたいだし、ここで食い止められなかったらやばいです」
できるだけ細かく伝えると、その場にいた全員の表情が曇る。…ひとりを除いて。
《ご飯、ご飯》
「…その子、危機感なさすぎじゃない?」
《ごめんなさい。小鞠はいつもこんな感じなの》
いつの間にか起きていた手鞠と小さく息を吐く結月のやりとりに少し笑ってしまった。
「腹が減っては戦はできぬっていうし、冷める前に食べよう」
こんな大人数で食事を摂ることなんて滅多にないので、それだけで楽しい気分になる。
鞠人形たちもお腹がすいていたのか、もぐもぐと口を動かしていた。
「ちび、おまえやっぱりすごいな」
「僕は何も。ほとんど詩乃ちゃんがやってくれたんだ」
「瞬も沢山手伝ってくれたよ」
先程の出来事が嘘みたいに穏やかな時間を過ごす。
このまま襲われずに終わればいいが、相手はほぼ間違いなく小鞠を狙っていた。
そうじゃなかったとしても、誰かに危害をくわえるような噂を放っておくわけにはいかない。
瞬がもぐもぐとおにぎりを食べたところで、真剣な表情で話した。
「今日はそこのふたりを死守すればいいんだよね?できれば変な噂の対処もしたいけど、夜にならないと詩乃ちゃんはやりづらいだろうし…」
「今夜ケリをつけるなら俺たちは全力を出せない。ただ、それは向こうも同じなはずだ」
先生の言葉を聞いて桜良が私に相談した理由を理解した。
満月は霊力も妖力も満杯になるが、逆に新月になると霊力も妖力もかなり弱まる。
…私が把握している限り、自分のような特異体質の妖は見たことがない。
「新月は2番目に戦いやすい」
《あなたの力は満月にいっぱいになるものじゃないの?》
「私が1番本領発揮できるのは半月…特に偃月のときなんだ。その次が新月で、逆に満月が1番弱くなる」
《そういう人もいるのね》
弱体化してあの強さなら、やはり今日のうちに決着をつけるのがいいだろう。
「みんなにとってはかなり不利な戦いになると思うんだけど、それでも力を貸してくれるか?」
私の問に嫌だと答える人はひとりもいなくて、寧ろ申し訳なさそうにされた。
今回はいつも以上に私にかかっている。
みんなが弱まっていることを計算したうえで作戦をたてなければならない。
「作戦は夕方までに考えておくから、それまで待ってほしい。…必ずふたりを護りきろう」
「頑張ります!」
「やるしかない」
「私もできる限りサポートします」
頼もしい仲間に囲まれて、私は本当に幸せだ。
紅が使えない以上、私の本気なんてたかが知れている。
だからこそチャンスなのだ。
《イクヨ。ちゃんト返しテネ!》
「無理に決まってるだろ」
真正面から受ければ最悪死ぬ。
勢いを抑えるには道具を使うしかない。
近くに落ちていた木の棒を当てると、一瞬で砕けてしまった。
《返しテくれなイト、遊ベナいじゃナイ!》
これ以上攻撃が強まったら流石に避けきれない。
着地したところで足を滑らせ、体勢を崩してしまう。
もう無理かもしれない…そんな事を考えながら目を閉じると、耳元で声が聞こえた。
「なにひとりで頑張ってるの」
目を開けると、黒電話を握った猫耳少女が私の前に立っていた。
「結月、どうして…」
「分が悪すぎる。逃げるわよ」
《遊ンデ!》
毬が増殖いているすきに結月がダイヤルを回す。
眩い光に包まれて、そのまま監査室の前まで辿り着いた。
「悪いな」
「別に。不器用教師の勘ってたまに当たるから怖いわよね」
先生が結月に頼んでくれたらしく、どこへでも持ち運べそうなお菓子を沢山渡していた。
陽向たちが慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる。
「先輩、大丈夫ですか!?」
「心配かけてごめん。私は平気だよ」
できるだけ笑顔を保ったつもりだったか、上手くできていなかったらしい。
「首の痕、どうしたんですか?」
「相手は糸が使えるみたいだ。先生のよりは鋭くないけど、結月の糸電話よりは強い。
それから、蹴鞠の噂と呼ばれるだけあって毬の威力が凄まじい。正面から喰らったら終わりだ」
「思ってたより深刻ですね。噂の広がりもいつもより早いみたいだし、ここで食い止められなかったらやばいです」
できるだけ細かく伝えると、その場にいた全員の表情が曇る。…ひとりを除いて。
《ご飯、ご飯》
「…その子、危機感なさすぎじゃない?」
《ごめんなさい。小鞠はいつもこんな感じなの》
いつの間にか起きていた手鞠と小さく息を吐く結月のやりとりに少し笑ってしまった。
「腹が減っては戦はできぬっていうし、冷める前に食べよう」
こんな大人数で食事を摂ることなんて滅多にないので、それだけで楽しい気分になる。
鞠人形たちもお腹がすいていたのか、もぐもぐと口を動かしていた。
「ちび、おまえやっぱりすごいな」
「僕は何も。ほとんど詩乃ちゃんがやってくれたんだ」
「瞬も沢山手伝ってくれたよ」
先程の出来事が嘘みたいに穏やかな時間を過ごす。
このまま襲われずに終わればいいが、相手はほぼ間違いなく小鞠を狙っていた。
そうじゃなかったとしても、誰かに危害をくわえるような噂を放っておくわけにはいかない。
瞬がもぐもぐとおにぎりを食べたところで、真剣な表情で話した。
「今日はそこのふたりを死守すればいいんだよね?できれば変な噂の対処もしたいけど、夜にならないと詩乃ちゃんはやりづらいだろうし…」
「今夜ケリをつけるなら俺たちは全力を出せない。ただ、それは向こうも同じなはずだ」
先生の言葉を聞いて桜良が私に相談した理由を理解した。
満月は霊力も妖力も満杯になるが、逆に新月になると霊力も妖力もかなり弱まる。
…私が把握している限り、自分のような特異体質の妖は見たことがない。
「新月は2番目に戦いやすい」
《あなたの力は満月にいっぱいになるものじゃないの?》
「私が1番本領発揮できるのは半月…特に偃月のときなんだ。その次が新月で、逆に満月が1番弱くなる」
《そういう人もいるのね》
弱体化してあの強さなら、やはり今日のうちに決着をつけるのがいいだろう。
「みんなにとってはかなり不利な戦いになると思うんだけど、それでも力を貸してくれるか?」
私の問に嫌だと答える人はひとりもいなくて、寧ろ申し訳なさそうにされた。
今回はいつも以上に私にかかっている。
みんなが弱まっていることを計算したうえで作戦をたてなければならない。
「作戦は夕方までに考えておくから、それまで待ってほしい。…必ずふたりを護りきろう」
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「やるしかない」
「私もできる限りサポートします」
頼もしい仲間に囲まれて、私は本当に幸せだ。
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