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第18章『夜な夜な雛』
番外篇『修了式の後で』
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「また来月、皆さんと教室で会えることを楽しみにしています」
外部進学の生徒たちは授業内容が途中から変わるものの、あの教師の様子から察するにクラス変動はないようだ。
成績が悪かった場合や本人の希望があれば准選抜クラスや一般クラスに移動することもあるが、今回はその可能性は低い。
「折原さん」
「伴田?」
何故かご機嫌の伴田から1枚の画用紙を渡される。
「それ、よかったらもらってほしいな」
「見てもいい?」
「勿論」
そこには、美しいなんて一言では言い表せない桜が描かれていた。
舞い散る花びら1枚1枚丁寧に仕上げられていて、時間をかけてくれたことがよく分かる。
「ありがとう。すごく嬉しい」
「折原さんのおかげで色々吹っ切れたから…。こういうとき、どうやって感謝を伝えたらいいのか分からなくて、考えた末できたのがこれなの。
テストが大変だし美術専科クラスに移動しようとも思ったんだけど、折原さんがいてくれるならここでもやっていけそうだよ」
「…そうか」
あれからも時間があるときに絵を見に行って、ある程度の交流はしてきた…つもりだ。
伴田は美術専攻で色々やるからと教室を出ていった。
周りの騒がしい雰囲気に呑まれる前に監査室へ向かうと、見覚えのない飾りつけがされている。
「監査部長、お疲れ様です」
「…ごめん。状況が飲みこめてない」
困惑する私に陽向がふっと笑って答えてくれた。
「ささやかな慰労会をやろうってらなしになって、先輩には内緒で準備させてもらいました。
普段あんまり集まれないから、みんなから先輩への感謝の気持ちです」
監査部の面々だって部活動で打ち上げがあったり家庭の事情で忙しいはずなのに、いつの間にこんなものを用意してくれたんだろう。
「ありがとう。楽しませてもらうよ」
色々な事情があるから30分ほどでお開きになったものの、かなり楽しめた。
片づけも自分たちが、と話す後輩たちを押し切って今はひとり黙々と片づけている。
陽向だけ残るのも不自然なので、桜良のところへ行くよう遠回しに伝えた。
片づけながら、しみじみ感じたことがある。
「…ここまでなんだな」
私は来年の同じ時期、ここに立っているか分からない。
高入試験ほど難しくはないであろう試験をパスしたら大学にも行ける。
だが、私には目標がない。
明確になりたいものがあるわけではないし、今みたいに穂乃とふたりきりの時間や友人たちとの時間も大切だ。
バイトを辞めたいと思ったこともないし、監査部の仕事も楽しんでいる。
今がずっと続いてほしいと思うほど幸せだ。
「詩乃ちゃん」
「瞬か。昨日はどこにいたんだ?」
「昨日は部屋に隠れてたんだ。いつもの女の子が来てたから、もし出ていって視られたら気まずいと思って…僕に何か用事?」
「急ぎの用があったわけじゃない。また4月からもよろしくって伝えたかったんだ」
「そっか。…僕の方こそよろしくね。詩乃ちゃんのおかげですごく楽しく過ごせたから」
瞬にとっても楽しい1年になっただろうか。
先生と話して、沢山の人と繋がって…辛いことが薄れるくらい楽しいことに溢れてほしい。
「先生なら職員室にいるはずだ」
「あ…先生にもだけど、詩乃ちゃんにも声をかけたくてきたんだ」
「私に?」
「お願いを叶えてほしくて…駄目?」
瞬を見ていると穂乃にお願いされている気分になるのは何故だろう。
「何をすればいい?」
「31日の夜、学校に来てほしいんだ。準備はこっちでやっておくから」
「分かった。その日なら穂乃は友だちと小旅行中だし構わないよ」
「やった、ありがとう!」
この時期に準備といわれて思いつくものはひとつしかない。
料理を持ってくるくらいならできるだろう。…多分。
残り半分を切った紅を握りしめながら、幼い頃の記憶を呼び起こす。
【詩乃も穂乃も、本当にこれが好きね…。お母さん、今年も頑張って作っちゃおうかな。勿論来年もね】
…あのレシピなら再現できるかもしれない。
あのときこなかった『母がいる来年』とは違った感覚を味わえるだろうか。
外部進学の生徒たちは授業内容が途中から変わるものの、あの教師の様子から察するにクラス変動はないようだ。
成績が悪かった場合や本人の希望があれば准選抜クラスや一般クラスに移動することもあるが、今回はその可能性は低い。
「折原さん」
「伴田?」
何故かご機嫌の伴田から1枚の画用紙を渡される。
「それ、よかったらもらってほしいな」
「見てもいい?」
「勿論」
そこには、美しいなんて一言では言い表せない桜が描かれていた。
舞い散る花びら1枚1枚丁寧に仕上げられていて、時間をかけてくれたことがよく分かる。
「ありがとう。すごく嬉しい」
「折原さんのおかげで色々吹っ切れたから…。こういうとき、どうやって感謝を伝えたらいいのか分からなくて、考えた末できたのがこれなの。
テストが大変だし美術専科クラスに移動しようとも思ったんだけど、折原さんがいてくれるならここでもやっていけそうだよ」
「…そうか」
あれからも時間があるときに絵を見に行って、ある程度の交流はしてきた…つもりだ。
伴田は美術専攻で色々やるからと教室を出ていった。
周りの騒がしい雰囲気に呑まれる前に監査室へ向かうと、見覚えのない飾りつけがされている。
「監査部長、お疲れ様です」
「…ごめん。状況が飲みこめてない」
困惑する私に陽向がふっと笑って答えてくれた。
「ささやかな慰労会をやろうってらなしになって、先輩には内緒で準備させてもらいました。
普段あんまり集まれないから、みんなから先輩への感謝の気持ちです」
監査部の面々だって部活動で打ち上げがあったり家庭の事情で忙しいはずなのに、いつの間にこんなものを用意してくれたんだろう。
「ありがとう。楽しませてもらうよ」
色々な事情があるから30分ほどでお開きになったものの、かなり楽しめた。
片づけも自分たちが、と話す後輩たちを押し切って今はひとり黙々と片づけている。
陽向だけ残るのも不自然なので、桜良のところへ行くよう遠回しに伝えた。
片づけながら、しみじみ感じたことがある。
「…ここまでなんだな」
私は来年の同じ時期、ここに立っているか分からない。
高入試験ほど難しくはないであろう試験をパスしたら大学にも行ける。
だが、私には目標がない。
明確になりたいものがあるわけではないし、今みたいに穂乃とふたりきりの時間や友人たちとの時間も大切だ。
バイトを辞めたいと思ったこともないし、監査部の仕事も楽しんでいる。
今がずっと続いてほしいと思うほど幸せだ。
「詩乃ちゃん」
「瞬か。昨日はどこにいたんだ?」
「昨日は部屋に隠れてたんだ。いつもの女の子が来てたから、もし出ていって視られたら気まずいと思って…僕に何か用事?」
「急ぎの用があったわけじゃない。また4月からもよろしくって伝えたかったんだ」
「そっか。…僕の方こそよろしくね。詩乃ちゃんのおかげですごく楽しく過ごせたから」
瞬にとっても楽しい1年になっただろうか。
先生と話して、沢山の人と繋がって…辛いことが薄れるくらい楽しいことに溢れてほしい。
「先生なら職員室にいるはずだ」
「あ…先生にもだけど、詩乃ちゃんにも声をかけたくてきたんだ」
「私に?」
「お願いを叶えてほしくて…駄目?」
瞬を見ていると穂乃にお願いされている気分になるのは何故だろう。
「何をすればいい?」
「31日の夜、学校に来てほしいんだ。準備はこっちでやっておくから」
「分かった。その日なら穂乃は友だちと小旅行中だし構わないよ」
「やった、ありがとう!」
この時期に準備といわれて思いつくものはひとつしかない。
料理を持ってくるくらいならできるだろう。…多分。
残り半分を切った紅を握りしめながら、幼い頃の記憶を呼び起こす。
【詩乃も穂乃も、本当にこれが好きね…。お母さん、今年も頑張って作っちゃおうかな。勿論来年もね】
…あのレシピなら再現できるかもしれない。
あのときこなかった『母がいる来年』とは違った感覚を味わえるだろうか。
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