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第18章『夜な夜な雛』
第131話
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『お姉ちゃん、大丈夫?』
「うん。ごめん」
これから学校に行くであろう穂乃が、ニュースを見て心配になったらしく連絡してくれた。
『もしかして、人間じゃない何かがやったの?』
「今はなんとも言えない。申し訳ないけど、今日も夕飯一緒に食べられないと思う」
『不審者に会ったら逃げてね。お姉ちゃんは強いけど、絶対逃げて』
「ありがとう。気をつけておくよ」
電話を切った後、真っ黒な画面に小さく呟く。
「…ごめん。それは無理そうだ」
朝のショートホームで不審者に関する注意を受けた後、すぐに監査室へ向かう。
「先生、やっぱりあの人形って…」
「さっき岡副にも訊かれた。…間違いなさそうだ」
先生が予知日記を見せてくれるときは、大抵良くないことが書かれているときだ。
【男雛の器を破壊した者、──により雛壇に飾られる】
「このぐしゃぐしゃってなってるのはどういう意味なんだ?」
「書き残したくないと思ったのか、まだ特定できていないのかのどちらかだ」
「気まぐれなところもあるんだな」
未来予知日記は絶対ではないことが瞬の一件で証明されている。
それでも、ほぼ百発百中で当ててくるのだからまだ犠牲者は出るだろう。
「複数人って、何人いたんだろうな」
「はっきりとは分からないが、少なくともあと3人はいるだろう」
「その生徒たちは怯えてるだろうな」
顔も名前も分からないのでは、呼び出すこともできない。
先生に尋ねたいことはそれだけではなかった。
「あと、もうひとつ。昇降口のあたりで夜な夜なすすり泣く声が聞こえるらしいとかいう噂が流れてる」
「人間っていうのは本当に噂が好きなんだな」
「みんながみんなそうってわけじゃないだろうけど、否定はできない」
事実かなんてどうでもいい。
というより、怪異が生まれるその瞬間というのはいつだっていい加減な噂がきっかけだ。
実在する人間相手の噂なら監査部で真偽を調べ、嘘なら呼びかけなどで抑えることができる。
だが、よく分からない噂を相手にしてくれる大人なんてほとんどいない。
「今日もここにいるのか?」
「うん。もう課題の提出は終わったし、テストだって片づいた。特待の全額免除も決まったし問題ない」
「…こんな朝から来るってことは、何かあったんじゃないか?」
「先生って本当に勘が鋭いな」
実を言うと、朝からあまり顔を見たくなかった相手に出くわした。
生徒会長様の周りにいる連中は、何故か私が気に食わないらしい。
特に副会長には敵視されている。
地味な嫌がらせを受けることもあり、最近でこそあまり気にしなくなったが少し前まで辛かった。
「男雛が欠けた雛壇を睨みつけてる奴がいたけど、話しかけられなかったんだ。
声をかけたら何か情報をくれたかなって考えてた」
「…そうか」
先生はそれ以上深く訊いてこなかったが、相手が誰か分かったからなんだろう。
いつも配慮してもらってばかりで申し訳なかった。
「詩乃ちゃん」
「おはよう、瞬」
瞬は先生の顔をじっと見つめている。
書類から目を離した先生が心配そうに声をかけた。
「…どうした?」
「宿題を提出しに来ただけ。あと、キャラメル渡したかったから…」
「それはありがたいな」
瞬はただ照れていただけで、先生の安心しきった表情を見て私もほっとする。
片づけなければならない問題は山積みなのに、解決できる気がしてきた。
「一先ず、今日の夜仕事の内容は決まった」
「岡副に伝えなくていいのか?」
「伝えるけど、今は桜良と一緒だろうから」
邪魔をしてはいけない気がして、連絡を後回しにした。
問題は、目の前にある事件がいくつあるかだ。
男雛を破壊したとされる生徒たちが行方不明になった事件、雛壇に増えていた今風の柄の着物の人形、夜な夜な聞こえるという泣き声…。
まずは泣き声の主を探ってみよう。
正体が分かれば、事件が一気に片づくかもしれないから。
「うん。ごめん」
これから学校に行くであろう穂乃が、ニュースを見て心配になったらしく連絡してくれた。
『もしかして、人間じゃない何かがやったの?』
「今はなんとも言えない。申し訳ないけど、今日も夕飯一緒に食べられないと思う」
『不審者に会ったら逃げてね。お姉ちゃんは強いけど、絶対逃げて』
「ありがとう。気をつけておくよ」
電話を切った後、真っ黒な画面に小さく呟く。
「…ごめん。それは無理そうだ」
朝のショートホームで不審者に関する注意を受けた後、すぐに監査室へ向かう。
「先生、やっぱりあの人形って…」
「さっき岡副にも訊かれた。…間違いなさそうだ」
先生が予知日記を見せてくれるときは、大抵良くないことが書かれているときだ。
【男雛の器を破壊した者、──により雛壇に飾られる】
「このぐしゃぐしゃってなってるのはどういう意味なんだ?」
「書き残したくないと思ったのか、まだ特定できていないのかのどちらかだ」
「気まぐれなところもあるんだな」
未来予知日記は絶対ではないことが瞬の一件で証明されている。
それでも、ほぼ百発百中で当ててくるのだからまだ犠牲者は出るだろう。
「複数人って、何人いたんだろうな」
「はっきりとは分からないが、少なくともあと3人はいるだろう」
「その生徒たちは怯えてるだろうな」
顔も名前も分からないのでは、呼び出すこともできない。
先生に尋ねたいことはそれだけではなかった。
「あと、もうひとつ。昇降口のあたりで夜な夜なすすり泣く声が聞こえるらしいとかいう噂が流れてる」
「人間っていうのは本当に噂が好きなんだな」
「みんながみんなそうってわけじゃないだろうけど、否定はできない」
事実かなんてどうでもいい。
というより、怪異が生まれるその瞬間というのはいつだっていい加減な噂がきっかけだ。
実在する人間相手の噂なら監査部で真偽を調べ、嘘なら呼びかけなどで抑えることができる。
だが、よく分からない噂を相手にしてくれる大人なんてほとんどいない。
「今日もここにいるのか?」
「うん。もう課題の提出は終わったし、テストだって片づいた。特待の全額免除も決まったし問題ない」
「…こんな朝から来るってことは、何かあったんじゃないか?」
「先生って本当に勘が鋭いな」
実を言うと、朝からあまり顔を見たくなかった相手に出くわした。
生徒会長様の周りにいる連中は、何故か私が気に食わないらしい。
特に副会長には敵視されている。
地味な嫌がらせを受けることもあり、最近でこそあまり気にしなくなったが少し前まで辛かった。
「男雛が欠けた雛壇を睨みつけてる奴がいたけど、話しかけられなかったんだ。
声をかけたら何か情報をくれたかなって考えてた」
「…そうか」
先生はそれ以上深く訊いてこなかったが、相手が誰か分かったからなんだろう。
いつも配慮してもらってばかりで申し訳なかった。
「詩乃ちゃん」
「おはよう、瞬」
瞬は先生の顔をじっと見つめている。
書類から目を離した先生が心配そうに声をかけた。
「…どうした?」
「宿題を提出しに来ただけ。あと、キャラメル渡したかったから…」
「それはありがたいな」
瞬はただ照れていただけで、先生の安心しきった表情を見て私もほっとする。
片づけなければならない問題は山積みなのに、解決できる気がしてきた。
「一先ず、今日の夜仕事の内容は決まった」
「岡副に伝えなくていいのか?」
「伝えるけど、今は桜良と一緒だろうから」
邪魔をしてはいけない気がして、連絡を後回しにした。
問題は、目の前にある事件がいくつあるかだ。
男雛を破壊したとされる生徒たちが行方不明になった事件、雛壇に増えていた今風の柄の着物の人形、夜な夜な聞こえるという泣き声…。
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正体が分かれば、事件が一気に片づくかもしれないから。
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