夜紅の憲兵姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
160 / 302
第18章『夜な夜な雛』

第130話

しおりを挟む
「そうか。雛人形の話なら聞いたが、まさかそんなことになっているとはな」
「どうやって消えたか、先生は知っているのか?」
「今から話すのはあくまで憶測だが、それでいいなら」
先生によると、雛人形を仕舞ってある箱の近くでふざけて遊んでいた生徒が複数人いたらしい。
男雛が足りないと騒ぎになったのが同じくらいのことだったが、怪しいだけでは監査部が介入するわけにもいかず生徒会預かりになったそうだ。
「生徒会長様がそれを了承したとは思えないんだけど、もしかして副会長の仕業か?」
「恐らく。一時的な隠蔽なんてすぐばれるのに、いつの時代も似たような奴がいるんだな」
そこに自分の知り合いが絡んでいたのか、他の理由が隠されているのか。
今はまだ断定できることがない。
「先生、あともうひとつ聞きたいことがあるんですけど…。増えてるひな壇って誰が持ってきたものなんですか?」
「2年に1回のペースである妖が飾ってる。ホワイトデーのあたりまで楽しんでるはずだ」
「2セットも飾るなんて豪華だな」
私の一言に先生は眉をひそめる。
そして、息をひとつ吐いて深刻そうな顔で話しはじめた。
「2セット?確か今頃飾り終わっていはずだが、1セットだったはずだ」
「もう1セット、飾り終わってないやつがあった」
「それは知らないな。生徒玄関なんて滅多に行かないから、確認してなかった」
「まさか、また変な噂がたちはじめてるんじゃ…」
陽向の言葉に同意せざるを得ない。
噂の種になっている可能性もあるし、このまま放っておくわけにはいかないだろう。
「今日の夜仕事、決まったな」
「ですね。いなくなったお内裏様問題と、謎の雛壇問題…どっちかだけでも解決したいところです」
「そうだな」
新しい噂が広まるペースが少し早い気もするが、今は気のせいだと思っておこう。
「これって、なくなったお内裏様の呪いってことありませんか?
壊されて隠されてるなら、その可能性も考えられるかなって思ったんですけど…」
「ないとはいえないが、断定するには早い」
「せめて壊されたっていう男雛があればどうにかできるんだろうけど、今回はそれを探すところからだから厳しいな」
「ですよね…」
時間を確認して、最低限の荷物だけ持って監査室の扉に手をかける。
「先輩?」
「ごめん。今からバイトだからちょっといってくる」
「できるだけ走らないように」
「気をつける」
それから猫カフェでひと仕事して学校に戻ると、生徒玄関にある飾り終えていない雛壇の人形が増えていた。
まだ3時間ほどしか経っていないはずなのに、その間に飾りにきた人がいるということだろうか。
それにしても、普通の雛人形とは随分違った。
「あ、先輩!おかえりなさい」
「もう資料を作っていたのか」
「はい。早く先輩に追いつきたいので」
陽向が作ってくれていたのは来年度監査部で使うものだ。
白紙の束は残っていた分の更に半分ほどになっていた。
「私がやるから無理しなくても大丈夫だよ。去年だって間に合ってただろ?」
「いいんです。俺がやりたいだけだし…」
「ありがとう。助かるよ」
話が一区切りついたところで、念の為陽向に報告した。
「…下の人形、増えてた」
「誰かが飾ったってことですか?」
「そういうことでいいんだと思う。ただ、着物の形が変わってて…」
「どう違ったんですか?」
「なんていうか、現代風な模様だった。それこそ、制服を着物の形にしたような…。ごめん、この表現でいいのか分からない」
「被服室から盗んで作ったんですかね?だとしたら、一体何の意味があるんでしょう?」
自分で言っておいて気づいた。…違和感の正体は恐らくそれだ。
もし私の仮説があたっているなら、今学園にいるのはかなりまずい。
「先輩?」
「今夜は絶対桜良の側を離れないように。それから、夜仕事は休みにする。今すぐ帰れ。いいな?」
「変な先輩ですね」
荷物をまとめる陽向にはっきり告げる。
「…明日になれば意味が分かるはずだ」
翌日、私の予想があたってしまったことが確定した。
学校中がその話題で持ちきりだ。
「ねえ、新聞見た?」
「見た見た!この学園の生徒、3人消えたらしいね。いつもやんちゃしてた人たちだって…」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:14

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:123

新しい廃墟

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

君と30日のまた明日

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:3

処理中です...