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第18章『夜な夜な雛』
第129話
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ようやく杖無しで歩く許可が出た頃には、もうテストも終わり桃の節句が近づいていた。
「高等部の学年末ってこんなに早いんですね」
「中学の頃と比べればそうかもしれない」
「先輩が通ってた学校ってどんなところだったんですか?」
「何の変哲もない中学校だったよ」
「どこも似たようなものなんですかね…」
生徒玄関まで来たところで、見覚えのない雛人形が飾られているのが目にはいる。
例年であれば5セットのはずが、今目の前には7セット並んでいた。
「へえ、高等部の玄関ってこんなに沢山飾られるんですね!」
「まあ、去年もこんな感じだったな。去年より2セット増えてるけど」
「増えたなんて話、聞きませんけどね…。というか、生徒会が飾ってるんですよね?
勝手に買い足すなんてことはできないだろうけど、そんな会計届は出てなかったはずですけど…」
「寄付された記録もなかったはずだ」
他の生徒たちが一礼して走り去っていった瞬間、ふと違和感を覚える。
一見普通に雛壇を囲んで会話しているように見えるが、その内容が目の前でおきている事実と噛み合っていない。
「毎年見るけど綺麗だよね」
「今にも動き出しそうでちょっと怖いけど、5セットとも傷ひとつついてないのがすごいよね」
「たしかに…。どうやって仕舞ってるんだろう?」
視線を横にやると、陽向がいつもとは違うぎこちない笑顔を向けていた。
肩をたたいたが、それにさえ反応がかえってこない。
生徒たちが下校するのを見送ったところで声をかけた。
「陽向?」
「…あ、」
「ん?」
「あれ、他の人たちには視えてないってことですか!?まさかまた新しい事件なんじゃ…」
「調べてみるしかないな」
よく見ると、恐らく他の人間たちが気づいていない2セットのうちひとつは飾り終わっていない。
「なんでこのひとつだけ飾り終わってないんですかね?」
「ここまでしか飾れない事情があるのか、少しずつ飾っているのかもな」
近づいてみたものの、今のところ邪悪な気配は感じられない。
「取り敢えず放送室に行こう。桜良が待ってるだろ?」
「ですね…」
足早に放送室まで向かうと、中からばらばらと何かが崩れる音が聞こえた。
「桜良、大丈、」
「詩乃先輩」
「どうした?」
「お内裏様って作れるものですか?」
陽向の言葉を遮ったまま、桜良は困った顔でそんなことを尋ねてくる。
「まさか、俺のことが嫌いになったとか…」
「生徒玄関にある雛人形のうち、1人だけお内裏様が姿を消したそうです」
「さっき見たときは全部揃ってるように見えたけど、足りてないのか…」
「今は代わりの人形を置いてあるって、生徒会の人たちが話していました。
だけど、お雛様にとってお内裏様はたったひとりだから、どうにかしてあげたいんです」
寂しそうな顔をしている陽向を一瞥して、改めて桜良に向きなおる。
その表情は真剣で、茶化してはいけないことだと察した。
「残念だけど、私にはできない。それに、長く存在している人形には魂が宿りやすいっていうだろ?」
「もしかして、魂から探さないといけなかったり…」
「そういうことになるな。体が新しくなっても、女雛がそれで喜んでくれるなら──」
「先輩!」
陽向に突き飛ばされた直後、硝子が割れる音がする。
頭を上げると、桜良を庇うように抱きしめる陽向の顔が歪んだ。
「陽向、どうして」
「怪我したら危ないから」
「でも、その怪我…」
「不安がらなくても大丈夫!俺、丈夫だし」
「そのまま動かないでくれ」
刺さった破片を抜くと、陽向はやはり痛むのを我慢しているらしいというのがよく分かった。
桜良に心配をかけたくないのは分かるが、こんなにタイミングよく突然硝子が割れたりしない。
「先生に連絡してみる。桜良、ここに先生なら入れてもいいかな?」
小さく首が縦にふられたのを確認して、ポケットからスマホを取り出す。
そんなに時間が経っていないはずなのに、先生はもう陽向の処置を済ませている。
「ありがとうございました」
散らばったガラス片に、人為的に割られたにしては不自然な窓…それらを見た先生は小さく息を吐いた。
「…別に構わないが、何があったか説明してもらおうか」
「高等部の学年末ってこんなに早いんですね」
「中学の頃と比べればそうかもしれない」
「先輩が通ってた学校ってどんなところだったんですか?」
「何の変哲もない中学校だったよ」
「どこも似たようなものなんですかね…」
生徒玄関まで来たところで、見覚えのない雛人形が飾られているのが目にはいる。
例年であれば5セットのはずが、今目の前には7セット並んでいた。
「へえ、高等部の玄関ってこんなに沢山飾られるんですね!」
「まあ、去年もこんな感じだったな。去年より2セット増えてるけど」
「増えたなんて話、聞きませんけどね…。というか、生徒会が飾ってるんですよね?
勝手に買い足すなんてことはできないだろうけど、そんな会計届は出てなかったはずですけど…」
「寄付された記録もなかったはずだ」
他の生徒たちが一礼して走り去っていった瞬間、ふと違和感を覚える。
一見普通に雛壇を囲んで会話しているように見えるが、その内容が目の前でおきている事実と噛み合っていない。
「毎年見るけど綺麗だよね」
「今にも動き出しそうでちょっと怖いけど、5セットとも傷ひとつついてないのがすごいよね」
「たしかに…。どうやって仕舞ってるんだろう?」
視線を横にやると、陽向がいつもとは違うぎこちない笑顔を向けていた。
肩をたたいたが、それにさえ反応がかえってこない。
生徒たちが下校するのを見送ったところで声をかけた。
「陽向?」
「…あ、」
「ん?」
「あれ、他の人たちには視えてないってことですか!?まさかまた新しい事件なんじゃ…」
「調べてみるしかないな」
よく見ると、恐らく他の人間たちが気づいていない2セットのうちひとつは飾り終わっていない。
「なんでこのひとつだけ飾り終わってないんですかね?」
「ここまでしか飾れない事情があるのか、少しずつ飾っているのかもな」
近づいてみたものの、今のところ邪悪な気配は感じられない。
「取り敢えず放送室に行こう。桜良が待ってるだろ?」
「ですね…」
足早に放送室まで向かうと、中からばらばらと何かが崩れる音が聞こえた。
「桜良、大丈、」
「詩乃先輩」
「どうした?」
「お内裏様って作れるものですか?」
陽向の言葉を遮ったまま、桜良は困った顔でそんなことを尋ねてくる。
「まさか、俺のことが嫌いになったとか…」
「生徒玄関にある雛人形のうち、1人だけお内裏様が姿を消したそうです」
「さっき見たときは全部揃ってるように見えたけど、足りてないのか…」
「今は代わりの人形を置いてあるって、生徒会の人たちが話していました。
だけど、お雛様にとってお内裏様はたったひとりだから、どうにかしてあげたいんです」
寂しそうな顔をしている陽向を一瞥して、改めて桜良に向きなおる。
その表情は真剣で、茶化してはいけないことだと察した。
「残念だけど、私にはできない。それに、長く存在している人形には魂が宿りやすいっていうだろ?」
「もしかして、魂から探さないといけなかったり…」
「そういうことになるな。体が新しくなっても、女雛がそれで喜んでくれるなら──」
「先輩!」
陽向に突き飛ばされた直後、硝子が割れる音がする。
頭を上げると、桜良を庇うように抱きしめる陽向の顔が歪んだ。
「陽向、どうして」
「怪我したら危ないから」
「でも、その怪我…」
「不安がらなくても大丈夫!俺、丈夫だし」
「そのまま動かないでくれ」
刺さった破片を抜くと、陽向はやはり痛むのを我慢しているらしいというのがよく分かった。
桜良に心配をかけたくないのは分かるが、こんなにタイミングよく突然硝子が割れたりしない。
「先生に連絡してみる。桜良、ここに先生なら入れてもいいかな?」
小さく首が縦にふられたのを確認して、ポケットからスマホを取り出す。
そんなに時間が経っていないはずなのに、先生はもう陽向の処置を済ませている。
「ありがとうございました」
散らばったガラス片に、人為的に割られたにしては不自然な窓…それらを見た先生は小さく息を吐いた。
「…別に構わないが、何があったか説明してもらおうか」
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