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第17章『鮮血のバレンタイン』
番外篇『繁忙期とご褒美』
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「佐藤君、好きです!」
…今日だけで何度聞いたか分からない、似たりよったりな言葉。
仕事だから仕方ないと割り切ってはいるけれど、それにしても今年は数が多い。
呪いの電話の噂が嘘みたいにかき消えた影響もあってか、恋愛電話の話が予想以上に広まっているみたいだった。
「結月」
《…包帯を換える時間だったわね》
「離れられそうにないならここで換えるって先生が言ってたけど、伝えてこようか?」
《帰りの放送が流れてからにしてと伝えて》
流石に人様の恋バナを聞かせるわけにはいかないし、だからといって離れている間に悪戯をされても癪だ。
「憲兵姫、これ食べてください!」
「ああ…うん。ありがとう」
「憲兵姫、スポーツ専攻の一件、ありがとうございました!」
「あれで力になれたならよかったよ」
男女問わずモテているように見えるけれど、本人は相手の好意に鈍感なのかしら?
「あ、猫だ!可愛い…」
時折近寄ってくる人間が頭を撫でてくれることがある。
だけど、どの手もあの人のぬくもりには遠く及ばない。
感じ方は個人差があるというけれど、やっぱりもうあの人には会えないんだと少し虚しくなる。
「またね、猫ちゃん!」
気配を消していた夜紅の真横を通り過ぎて、女子生徒は走り去っていく。
…誰かに渡せなかった想いをその場に残して。
《まったく、世話の焼ける人間ね》
「それ、どうするんだ?」
《決まってるでしょ》
もう既に相手が…という場合は別だけど、伝わらない想いがあっていいはずがない。
「優しいんだな」
《仕事だから、仕方なくよ》
「そういうことにしておくよ」
夜紅はいつも真っ直ぐ家に帰らない。
今日も今日で、これからある人物に会うと聞いている。
「こんにちは。西野瑠奈さん、だよな?」
「そうですけど…」
「阿久津春吉さんから伝言を預かっています。信じてくれなくていいから、聞いてもらえないだろうか?」
「春君から?どうして今頃…」
「ありがとうって…大好きでしたって伝えてほしいと笑ってた」
「春君が、本当に言ってたの?」
「伝えてほしいと頼まれました」
そう言って相手にハンカチを差し出す夜紅は、なんだか話を聞くプロって感じがした。
監査部とやらの仕事をよく理解していなかったけれど、この子の他人の心を優しく包みこめる力が生かされるものなんだろう。
《よく信じてくれたわね》
「縋りたいって思ってたのかもな。大切な人がいなくなった後って、その人の痕跡を探したくなるだろ?」
そういえば、この子も大切な人を…家族を亡くしたんだった。
【結月、聞いて!私、初めて彼氏ができたの。明日デートするんだ。
…でも、結月のことも大事だから早く帰るね。お土産に好きなおやつを買ってくるから】
……もしあの子にこの電話を使わせられたら、あんなことにならなかったのかしら?
まあ、あの頃は恋愛電話自体が存在していなかったから嘆いても無駄だけど。
「飼い主さんのこと、思い出してたのか?」
《…まあね》
「私も時々考えるんだ。…ああいう寂しそうな人を見たら、特に」
小さくなっていく背中を見送りながら、らしくもなくたそがれる。
仕方ないからこの子に幸福でも訪れるように願っておこう、なんて思っていたら、話しかけづらそうにしているお茶友の顔がちらちら見えた。
《もう仕事は終わってるから、隠れている必要はないわ》
「桜良、お疲れ」
「……」
お茶友はただ微笑むばかりで何も喋らない。
また無茶なことをしたんでしょう。
「結月、少しでいいから一緒に来てくれないか?」
《何を企んでいるの?》
「いいから」
杖を使いながら歩く夜紅と、大きめのノートに色々書いているお茶友。
ふたりの誘いなら断ることもないだろう。
少しして辿り着いたのは放送室だった。
「あ、結月!」
《あんたたちもいる、の…》
呆然としてしまったのは、パーティーをやれるくらいに料理が並べられていたからだ。
そこには瞬もいて、私を見るなり目を輝かせる。
「猫さんの慰労会を開こうって話になったんだ。来てくれてよかった」
《慰労会?そんなの聞いてな、》
「つきあってくれるって言ってただろ?」
夜紅はわざと教えなかったのね。
まあ、たまにはこういうのも悪くない。
《…お茶は甘めのじゃないと飲まないから》
「今日は私が淹れるよ」
こんなふうにわいわい過ごす日がくるなんて思っていなかった。
あなたに会えたら一緒に騒いでくれるかしら…なんて、またらしくないことを考えてしまう。
「猫さん、これどうぞ」
《あら、私が好きなお菓子なんてよく覚えてたわね》
「友だち、だから」
その一言で、夕日と共に沈みそうになった心は再び上を向いた。
…今日だけで何度聞いたか分からない、似たりよったりな言葉。
仕事だから仕方ないと割り切ってはいるけれど、それにしても今年は数が多い。
呪いの電話の噂が嘘みたいにかき消えた影響もあってか、恋愛電話の話が予想以上に広まっているみたいだった。
「結月」
《…包帯を換える時間だったわね》
「離れられそうにないならここで換えるって先生が言ってたけど、伝えてこようか?」
《帰りの放送が流れてからにしてと伝えて》
流石に人様の恋バナを聞かせるわけにはいかないし、だからといって離れている間に悪戯をされても癪だ。
「憲兵姫、これ食べてください!」
「ああ…うん。ありがとう」
「憲兵姫、スポーツ専攻の一件、ありがとうございました!」
「あれで力になれたならよかったよ」
男女問わずモテているように見えるけれど、本人は相手の好意に鈍感なのかしら?
「あ、猫だ!可愛い…」
時折近寄ってくる人間が頭を撫でてくれることがある。
だけど、どの手もあの人のぬくもりには遠く及ばない。
感じ方は個人差があるというけれど、やっぱりもうあの人には会えないんだと少し虚しくなる。
「またね、猫ちゃん!」
気配を消していた夜紅の真横を通り過ぎて、女子生徒は走り去っていく。
…誰かに渡せなかった想いをその場に残して。
《まったく、世話の焼ける人間ね》
「それ、どうするんだ?」
《決まってるでしょ》
もう既に相手が…という場合は別だけど、伝わらない想いがあっていいはずがない。
「優しいんだな」
《仕事だから、仕方なくよ》
「そういうことにしておくよ」
夜紅はいつも真っ直ぐ家に帰らない。
今日も今日で、これからある人物に会うと聞いている。
「こんにちは。西野瑠奈さん、だよな?」
「そうですけど…」
「阿久津春吉さんから伝言を預かっています。信じてくれなくていいから、聞いてもらえないだろうか?」
「春君から?どうして今頃…」
「ありがとうって…大好きでしたって伝えてほしいと笑ってた」
「春君が、本当に言ってたの?」
「伝えてほしいと頼まれました」
そう言って相手にハンカチを差し出す夜紅は、なんだか話を聞くプロって感じがした。
監査部とやらの仕事をよく理解していなかったけれど、この子の他人の心を優しく包みこめる力が生かされるものなんだろう。
《よく信じてくれたわね》
「縋りたいって思ってたのかもな。大切な人がいなくなった後って、その人の痕跡を探したくなるだろ?」
そういえば、この子も大切な人を…家族を亡くしたんだった。
【結月、聞いて!私、初めて彼氏ができたの。明日デートするんだ。
…でも、結月のことも大事だから早く帰るね。お土産に好きなおやつを買ってくるから】
……もしあの子にこの電話を使わせられたら、あんなことにならなかったのかしら?
まあ、あの頃は恋愛電話自体が存在していなかったから嘆いても無駄だけど。
「飼い主さんのこと、思い出してたのか?」
《…まあね》
「私も時々考えるんだ。…ああいう寂しそうな人を見たら、特に」
小さくなっていく背中を見送りながら、らしくもなくたそがれる。
仕方ないからこの子に幸福でも訪れるように願っておこう、なんて思っていたら、話しかけづらそうにしているお茶友の顔がちらちら見えた。
《もう仕事は終わってるから、隠れている必要はないわ》
「桜良、お疲れ」
「……」
お茶友はただ微笑むばかりで何も喋らない。
また無茶なことをしたんでしょう。
「結月、少しでいいから一緒に来てくれないか?」
《何を企んでいるの?》
「いいから」
杖を使いながら歩く夜紅と、大きめのノートに色々書いているお茶友。
ふたりの誘いなら断ることもないだろう。
少しして辿り着いたのは放送室だった。
「あ、結月!」
《あんたたちもいる、の…》
呆然としてしまったのは、パーティーをやれるくらいに料理が並べられていたからだ。
そこには瞬もいて、私を見るなり目を輝かせる。
「猫さんの慰労会を開こうって話になったんだ。来てくれてよかった」
《慰労会?そんなの聞いてな、》
「つきあってくれるって言ってただろ?」
夜紅はわざと教えなかったのね。
まあ、たまにはこういうのも悪くない。
《…お茶は甘めのじゃないと飲まないから》
「今日は私が淹れるよ」
こんなふうにわいわい過ごす日がくるなんて思っていなかった。
あなたに会えたら一緒に騒いでくれるかしら…なんて、またらしくないことを考えてしまう。
「猫さん、これどうぞ」
《あら、私が好きなお菓子なんてよく覚えてたわね》
「友だち、だから」
その一言で、夕日と共に沈みそうになった心は再び上を向いた。
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