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第17章『鮮血のバレンタイン』
第128話
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《…で、私の仕事が増えるわけね》
報告し終えると、目を覚ましていた結月がうんざりしたように息を吐く。
「猫さん、縁結びがお仕事でしょ?ちゃんとやらないと駄目だよ…電話が悲しむから」
《やらないとは言ってないわよ。ただ、いい惚気とやばそうな奴が交ざってるから嫌になるって話をしただけ》
先生はほっとしたように笑うだけで、特に何か言葉を発することはなかった。
「桜良と陽向もありがとう。ふたりの協力がなかったらきっと解決できなかった」
『俺たちはいつもどおりにやっただけなんで全然ですよ!ただ、西野瑠奈って人を探すのに時間掛かりそうですね』
「…それが、そうでもなさそうなんだ」
私も伝えられるかどうか一瞬考えたが、通信制の生徒にそれらしき名前の人物がいたのを思い出した。
『もしかして、先輩の脳内名簿の中にいたんですか?』
「通信制4年次以降生にいたはずだ。不登校になって、通信制に転入したっていう記録を見た」
『…先輩、詳しすぎでしょ』
「これくらいやらないと、監査部として務まらない気がしたからやっただけだ。…特に私みたいな不良生徒は」
そこまでやらないと居場所を護れない。
後輩たちだって、ただ威張ってる奴についていこうとは思わないだろう。
私にできることはそれだけだった。
「詩乃ちゃんは記憶力がいいんだね」
「そこまでじゃない。先生が持ってきてくれた資料のがよくまとまっていただけだよ」
『今度俺にも教えてください』
「分かった。ふたりともありがとう。…また明日」
『お疲れ様でした!おやすみなさい』
その会話を最後にぷつりと音がして、ラジオから何も聞こえなくなった。
陽向が全て受け答えをしていたということは、桜良は声を出しづらい状態になっているのかもしれない。
「私もそろそろ行くよ。バスがなくなったら帰れなくなるから」
《…ありがと》
小さく呟かれた一言にただ嬉しくなる。
「また明日」
「またね」
「気をつけて帰るように」
いつもより早く帰れているとはいえ遅い時間なのでてっきり寝ていると思っていたが、穂乃は寝起き状態でふらふらと近づいてきた。
「おかえりなさい…」
「ごめん。起こしたか?」
「ううん。さっき起きて、ちょっと温かいものでも飲もうかなって思ってたところだったから…」
ふにゃふにゃの笑顔を見せる妹は今日も可愛らしい。
ずっと玄関で突っ立っていたせいか、穂乃からは不安が見え隠れしている。
「そんなに心配しなくても、今回は怪我はしてないよ」
「本当…?」
「本当。ほら、そろそろ寝ないと明日起きられないぞ」
「…今日は、一緒に寝てほしいな」
「分かった。着替えたらすぐ行く」
穂乃が甘えてくるなんて珍しいし、ひとりで寝たくないのには理由があるのだろう。
私にできることはそんなに多くないが、たったひとりの家族に感謝を伝えることはできる。
「まだ少し早いけど、受け取ってくれるか?」
「くまさん?可愛い…」
もふもふのぬいぐるみを欲しがっでいたのは知っていたが、まさかここまで喜んでもらえるとは思っていなかった。
「ありがとう。大事にするね」
「そうしてもらえたら嬉しい」
「…お姉ちゃん」
「どうした?」
「手、繋いでほしいな」
「穂乃がそう願ってくれるなら喜んで」
ありがとうと小さく言って、ゆっくり目を閉じる。
怖い夢でも見たのか、ひとりで寂しい思いをさせたのか。
…どっちもかもしれない。
寝間着のポケットに入れていた紅を取り出し、そのまま握りしめる。
【詩乃ならきっとできるわ。お母さんより強いから】
最近少しだけ思い出した母との会話。
丁度この時期にした話だからか、鮮明に思い返してしまう。
「…私、ちゃんとできてるかな」
答えなんて返ってこない。
それでも、零れる言葉を抑えられなかった。
今回の一件は、呪いの電話の噂が死霊を喰らおうとしていたと考えるべきだろう。
そんなことがあり得るなら、これからもっと強い相手が現れるかもしれない。
そのとき、私はどう戦えばいいんだろう。
いつまでもぐるぐる考えてしまい、私はまた迷子になったらしかった。
報告し終えると、目を覚ましていた結月がうんざりしたように息を吐く。
「猫さん、縁結びがお仕事でしょ?ちゃんとやらないと駄目だよ…電話が悲しむから」
《やらないとは言ってないわよ。ただ、いい惚気とやばそうな奴が交ざってるから嫌になるって話をしただけ》
先生はほっとしたように笑うだけで、特に何か言葉を発することはなかった。
「桜良と陽向もありがとう。ふたりの協力がなかったらきっと解決できなかった」
『俺たちはいつもどおりにやっただけなんで全然ですよ!ただ、西野瑠奈って人を探すのに時間掛かりそうですね』
「…それが、そうでもなさそうなんだ」
私も伝えられるかどうか一瞬考えたが、通信制の生徒にそれらしき名前の人物がいたのを思い出した。
『もしかして、先輩の脳内名簿の中にいたんですか?』
「通信制4年次以降生にいたはずだ。不登校になって、通信制に転入したっていう記録を見た」
『…先輩、詳しすぎでしょ』
「これくらいやらないと、監査部として務まらない気がしたからやっただけだ。…特に私みたいな不良生徒は」
そこまでやらないと居場所を護れない。
後輩たちだって、ただ威張ってる奴についていこうとは思わないだろう。
私にできることはそれだけだった。
「詩乃ちゃんは記憶力がいいんだね」
「そこまでじゃない。先生が持ってきてくれた資料のがよくまとまっていただけだよ」
『今度俺にも教えてください』
「分かった。ふたりともありがとう。…また明日」
『お疲れ様でした!おやすみなさい』
その会話を最後にぷつりと音がして、ラジオから何も聞こえなくなった。
陽向が全て受け答えをしていたということは、桜良は声を出しづらい状態になっているのかもしれない。
「私もそろそろ行くよ。バスがなくなったら帰れなくなるから」
《…ありがと》
小さく呟かれた一言にただ嬉しくなる。
「また明日」
「またね」
「気をつけて帰るように」
いつもより早く帰れているとはいえ遅い時間なのでてっきり寝ていると思っていたが、穂乃は寝起き状態でふらふらと近づいてきた。
「おかえりなさい…」
「ごめん。起こしたか?」
「ううん。さっき起きて、ちょっと温かいものでも飲もうかなって思ってたところだったから…」
ふにゃふにゃの笑顔を見せる妹は今日も可愛らしい。
ずっと玄関で突っ立っていたせいか、穂乃からは不安が見え隠れしている。
「そんなに心配しなくても、今回は怪我はしてないよ」
「本当…?」
「本当。ほら、そろそろ寝ないと明日起きられないぞ」
「…今日は、一緒に寝てほしいな」
「分かった。着替えたらすぐ行く」
穂乃が甘えてくるなんて珍しいし、ひとりで寝たくないのには理由があるのだろう。
私にできることはそんなに多くないが、たったひとりの家族に感謝を伝えることはできる。
「まだ少し早いけど、受け取ってくれるか?」
「くまさん?可愛い…」
もふもふのぬいぐるみを欲しがっでいたのは知っていたが、まさかここまで喜んでもらえるとは思っていなかった。
「ありがとう。大事にするね」
「そうしてもらえたら嬉しい」
「…お姉ちゃん」
「どうした?」
「手、繋いでほしいな」
「穂乃がそう願ってくれるなら喜んで」
ありがとうと小さく言って、ゆっくり目を閉じる。
怖い夢でも見たのか、ひとりで寂しい思いをさせたのか。
…どっちもかもしれない。
寝間着のポケットに入れていた紅を取り出し、そのまま握りしめる。
【詩乃ならきっとできるわ。お母さんより強いから】
最近少しだけ思い出した母との会話。
丁度この時期にした話だからか、鮮明に思い返してしまう。
「…私、ちゃんとできてるかな」
答えなんて返ってこない。
それでも、零れる言葉を抑えられなかった。
今回の一件は、呪いの電話の噂が死霊を喰らおうとしていたと考えるべきだろう。
そんなことがあり得るなら、これからもっと強い相手が現れるかもしれない。
そのとき、私はどう戦えばいいんだろう。
いつまでもぐるぐる考えてしまい、私はまた迷子になったらしかった。
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