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第17章『鮮血のバレンタイン』
第126話
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人間の負の感情の力というのは凄まじい。
だからこそ、あの男は人間の心の闇へつけこむことができるのだ。
「…早急に調査する必要がありそうだな」
「私はここで記事を調べてみます」
「頼む。私は恋愛電話の様子を見てくるよ」
「あの…何かあったらすぐ呼んでください。ラジオをいつでも繋げるようにしておきますから」
「うん。ありがとう。陽向は桜良と一緒に資料をあたってみてくれ。…私は大丈夫だから」
「…了解です」
渋々了承してくれたことに申し訳なく思いながらも、心配してくれている陽向と桜良にチョコレートを渡す。
「え、もらっていいんですか!?」
「夜食くらいにはなるだろ?時間がなくてあんまり綺麗にできなかったけど、そっちの袋に入ってるのは店のものだから美味しいよ」
「ありがとうございます」
「いつバイト行ってたんですか…」
「つい数時間前」
手作りの方は見た目がいまひとつだが、レシピどおりにやったので味は大丈夫なはずだ。
いくつかあるまだ渡せていない分をポケットに入れ、真っ直ぐ恋愛電話へ向かう。
ふたりに調べてもらっている間、恋愛電話を護るくらいのことはできるはずだ。
できるだけ音をたてないように注意しながら階段を曲がったところで、立ち尽くす人の姿が目に入った。
「瞬?」
「あ、詩乃ちゃん…」
「こんなところでどうしたんだ?」
瞬は少し迷っていたようだったが、少し間をおいてはっきり告げた。
「恋愛電話、探そうと思ったんだ。猫さんの力が不安定になるなら、僕が護ろうって…」
「そうか。それじゃあ手伝ってくれ」
「え?」
鍵をかざすと、目の前に恋愛電話と扉が現れる。
強い想いを持っているか、所定の場所で鍵を使うかでないと視えない仕組みになっているらしい。
私にはそういう感情がないし、恐らく瞬も恋というものをしたい相手がいないから見つけられなかったのだろう。
「今のって、魔法?」
「結月に頼まれたんだ。恋愛電話を見てほしいって…。夜の間にやばいやつが来ても困るから、取り敢えず様子を見に来た」
「そっか…。僕も一緒にいていい?」
「勿論。きっと結月も喜ぶ」
見張り時間の間に食べられるだろうと、ポケットから袋を取り出す。
「もうすぐバレンタインだから、これやるよ」
「え、また僕がもらっていいの?」
「私がもらってほしいんだ」
以前までの私なら、誰かとこんなふうに楽しく過ごすことなんてなかった。
悪い奴は祓って、いい奴は成仏して…友人を作るなんて絶対できないと思っていたのに、随分と周りがにぎやかになった気がする。
「おっきい奴、来るかな?」
「バレンタインまでは噂が暴れやすいだろうから、どうにかして落ち着いてもらわないとな」
「消し飛ばさなくていいの?」
「今回の噂は訳ありみたいなんだ」
「そうなんだ…。それじゃあ今回はロープが役に立つかな?」
「まずい状況になったら力を借りることになるかもしれない」
なんとなく瞬と環境が似ているのかもしれない。
嫌なことを思い出させてしまいそうで、そこまでで話を止めることにした。
忘れがちだが、瞬だって苦しんだ死者なのだ。
できれば、辛いことを思い返させるようなことをして傷つけたくない。
「ねえ、詩乃ちゃん。もし大きなのが来たら──」
その後の声は周りの音にかき消されてよく聞こえなかった。
轟音が鳴り響くのとほぼ同時にリップを塗り終える。
「昼間より大きくなっているのかもしれない。…瞬、これで桜良に報告してくれ」
「分かった」
瞬にラジオを託し、その場から離れる。
歩くだけであれだけの衝撃波がはしるなら、今回は様子見と恋愛電話の死守が限界だろうか。
「…遊び相手を探してるなら私がやるよ」
背後から声をかけると、予想どおりこちらに向かって恐竜のような足を動かす。
《ア、アゾプ…?ホジイ、チカラ!》
校舎が崩れないか心配になりつつ、なんとか距離をとって階段を駆け下りる。
杖を使っているにも関わらず、相手は追いつけないようだった。
「そんなに力が欲しいなら、見せてみろよ。…おまえの苦しみを受け止めてやる」
声が届いたのか、喧しい声にまざって別の声が耳に響いた。
《俺ハ強イ!俺ハ【傷つけたクナい】…チガウ、俺は、【助けて】》
少年のすすり泣く声がはっきり聞こえる。
なんとか彼の話を聞きたい。…噂に呑まれてしまう前に。
だからこそ、あの男は人間の心の闇へつけこむことができるのだ。
「…早急に調査する必要がありそうだな」
「私はここで記事を調べてみます」
「頼む。私は恋愛電話の様子を見てくるよ」
「あの…何かあったらすぐ呼んでください。ラジオをいつでも繋げるようにしておきますから」
「うん。ありがとう。陽向は桜良と一緒に資料をあたってみてくれ。…私は大丈夫だから」
「…了解です」
渋々了承してくれたことに申し訳なく思いながらも、心配してくれている陽向と桜良にチョコレートを渡す。
「え、もらっていいんですか!?」
「夜食くらいにはなるだろ?時間がなくてあんまり綺麗にできなかったけど、そっちの袋に入ってるのは店のものだから美味しいよ」
「ありがとうございます」
「いつバイト行ってたんですか…」
「つい数時間前」
手作りの方は見た目がいまひとつだが、レシピどおりにやったので味は大丈夫なはずだ。
いくつかあるまだ渡せていない分をポケットに入れ、真っ直ぐ恋愛電話へ向かう。
ふたりに調べてもらっている間、恋愛電話を護るくらいのことはできるはずだ。
できるだけ音をたてないように注意しながら階段を曲がったところで、立ち尽くす人の姿が目に入った。
「瞬?」
「あ、詩乃ちゃん…」
「こんなところでどうしたんだ?」
瞬は少し迷っていたようだったが、少し間をおいてはっきり告げた。
「恋愛電話、探そうと思ったんだ。猫さんの力が不安定になるなら、僕が護ろうって…」
「そうか。それじゃあ手伝ってくれ」
「え?」
鍵をかざすと、目の前に恋愛電話と扉が現れる。
強い想いを持っているか、所定の場所で鍵を使うかでないと視えない仕組みになっているらしい。
私にはそういう感情がないし、恐らく瞬も恋というものをしたい相手がいないから見つけられなかったのだろう。
「今のって、魔法?」
「結月に頼まれたんだ。恋愛電話を見てほしいって…。夜の間にやばいやつが来ても困るから、取り敢えず様子を見に来た」
「そっか…。僕も一緒にいていい?」
「勿論。きっと結月も喜ぶ」
見張り時間の間に食べられるだろうと、ポケットから袋を取り出す。
「もうすぐバレンタインだから、これやるよ」
「え、また僕がもらっていいの?」
「私がもらってほしいんだ」
以前までの私なら、誰かとこんなふうに楽しく過ごすことなんてなかった。
悪い奴は祓って、いい奴は成仏して…友人を作るなんて絶対できないと思っていたのに、随分と周りがにぎやかになった気がする。
「おっきい奴、来るかな?」
「バレンタインまでは噂が暴れやすいだろうから、どうにかして落ち着いてもらわないとな」
「消し飛ばさなくていいの?」
「今回の噂は訳ありみたいなんだ」
「そうなんだ…。それじゃあ今回はロープが役に立つかな?」
「まずい状況になったら力を借りることになるかもしれない」
なんとなく瞬と環境が似ているのかもしれない。
嫌なことを思い出させてしまいそうで、そこまでで話を止めることにした。
忘れがちだが、瞬だって苦しんだ死者なのだ。
できれば、辛いことを思い返させるようなことをして傷つけたくない。
「ねえ、詩乃ちゃん。もし大きなのが来たら──」
その後の声は周りの音にかき消されてよく聞こえなかった。
轟音が鳴り響くのとほぼ同時にリップを塗り終える。
「昼間より大きくなっているのかもしれない。…瞬、これで桜良に報告してくれ」
「分かった」
瞬にラジオを託し、その場から離れる。
歩くだけであれだけの衝撃波がはしるなら、今回は様子見と恋愛電話の死守が限界だろうか。
「…遊び相手を探してるなら私がやるよ」
背後から声をかけると、予想どおりこちらに向かって恐竜のような足を動かす。
《ア、アゾプ…?ホジイ、チカラ!》
校舎が崩れないか心配になりつつ、なんとか距離をとって階段を駆け下りる。
杖を使っているにも関わらず、相手は追いつけないようだった。
「そんなに力が欲しいなら、見せてみろよ。…おまえの苦しみを受け止めてやる」
声が届いたのか、喧しい声にまざって別の声が耳に響いた。
《俺ハ強イ!俺ハ【傷つけたクナい】…チガウ、俺は、【助けて】》
少年のすすり泣く声がはっきり聞こえる。
なんとか彼の話を聞きたい。…噂に呑まれてしまう前に。
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