夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第17章『鮮血のバレンタイン』

第125話

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今日は学校に行きたくない、もし休みだったら…なんて、大抵の人間は考えたことがあるだろう。
ただ、今回の相手にとってその感情は好物だ。
「……というわけで、多分誰彼構わず入りこんで呪いの基盤を造ろうとしているんだと思う」
「え、怖っ!いつもよりやばそうな奴ですね」
「事態が深刻になる前に止めたいところだけど、バレンタインやホワイトデーは想いを伝える為に必要な日だろ?
それに、へたな止め方をしたら恋愛電話に影響が出かねない」
結月の体を蝕もうとしたあれはさっきこそ祓えたが、次も大丈夫だとは限らない。
「こいつは俺が見てるから、恋愛電話を定期的に確認してもらっていいか?」
「分かった。…結月、お大事に」
結月は疲れてしまったのか、体を丸めてぐっすり寝ている。
「桜良に放送室に行っていいか、訊いておいてもらえるか?」
「それは構わないですけど…あ、俺先に放送室行ってますね」
陽向はこれから何をするか察したのか、そのまま監査室を出ていく。
その直後、足に鈍痛がはしった。
「また無茶したな」
「そんなつもりはなかったんだけど、悪化してるのか?」
「自覚症状がないわけじゃないだろ」
たしかに動かすと普段より痛みがはしるものの、それ以外におかしな点は特にない。
先生はため息を吐き、私の心をよんだようにはっきり言った。
「いつもより痛かったらそれは異変なんだよ」
「そうなのか…。たしかに痛みは少し酷い」
「薬と包帯を変える。別のものにした方が治りが早くなるかもしれない」
「それじゃあ、」
「診察料はいらない」
いい加減お金を払わせてほしいのに、先生は当然のことをしているだけだからといつも拒否される。
またこうなることを予想していた私は、鞄からキャラメルの箱をいくつか取り出した。
「それじゃあ、これを受け取ってくれないか?何かしないと気が済まないんだ」
「…分かった。ありがたくもらっておく」
これから先も、お菓子なら受け取ってもらえるかもしれない。
先生の腕はかなりいいように見える。
「先生、医師免許とか持ってるのか?」
「そんなことをしていた時期も一応あったな。養護教諭の免許も持っていたが、数年前に失効した」
「なんでも器用にこなすんだな」
「おまえたちほど人と関わるのは上手くない。…できた」
「ありがとう。放送室に行ってみるよ」
結月を見る先生の目が苦しそうな色を帯びていたのが頭から離れない。
定時制の生徒たちの楽しそうな声を聞きながら杖を動かしているうちに、いつの間にか放送室に辿り着いていた。
「詩乃先輩、こんばんは」
「入れてくれてありがとう。お邪魔します」
桜良は何やら古い事件の資料が集められたスクラップ帳を手に取り、ある記事を指さした。
「これ、今回の一件と関係しているでしょうか?」
【いじめ加害者4人死亡 亡くなった生徒の呪いか】
そんな物騒なタイトルの記事だが、被害生徒が亡くなったとされる時期が今と一致している。
噂の影響が大きく出やすいこの町で、偶然という一言で片づけてはいけないような気がした。
「もう少し詳しい内容が分かるものがあればなんとかできるかもしれないな」
「先輩、これとかどうですか?」
陽向が奥の方から持ってきてくれたのは、数枚の写真と当時の調査記録と思われるものだった。
本来こんな場所に保管してあるはずがないのに、どうしてふたりはこんなに沢山情報を仕入れられるのだろう。
「この真ん中の子がいじめを受けていた子か…。今はでかぶつになっているから確認しようがないな」
「それを確認できたら、戦わずに済むかもしれません」
「そうだな」
悲しみのあまり暴走してしまったということなら、消滅ではなく成仏してほしいと思う。
もう少し事件当時のことを調べる必要はあるが、何か心残りがあるなら解決の手伝いをしたい。
「けど、問題は今の時期ですよね」
「どうしてそう思う?」
陽向は苦笑しながらはっきり答えた。
「だって、バレンタインならふられる人間も出てくるでしょ?負の感情が集まり続けたら、先輩が視たでかぶつの姿どころじゃない何かに変わるんじゃないかって思うんです」
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