154 / 302
第17章『鮮血のバレンタイン』
第125話
しおりを挟む
今日は学校に行きたくない、もし休みだったら…なんて、大抵の人間は考えたことがあるだろう。
ただ、今回の相手にとってその感情は好物だ。
「……というわけで、多分誰彼構わず入りこんで呪いの基盤を造ろうとしているんだと思う」
「え、怖っ!いつもよりやばそうな奴ですね」
「事態が深刻になる前に止めたいところだけど、バレンタインやホワイトデーは想いを伝える為に必要な日だろ?
それに、へたな止め方をしたら恋愛電話に影響が出かねない」
結月の体を蝕もうとしたあれはさっきこそ祓えたが、次も大丈夫だとは限らない。
「こいつは俺が見てるから、恋愛電話を定期的に確認してもらっていいか?」
「分かった。…結月、お大事に」
結月は疲れてしまったのか、体を丸めてぐっすり寝ている。
「桜良に放送室に行っていいか、訊いておいてもらえるか?」
「それは構わないですけど…あ、俺先に放送室行ってますね」
陽向はこれから何をするか察したのか、そのまま監査室を出ていく。
その直後、足に鈍痛がはしった。
「また無茶したな」
「そんなつもりはなかったんだけど、悪化してるのか?」
「自覚症状がないわけじゃないだろ」
たしかに動かすと普段より痛みがはしるものの、それ以外におかしな点は特にない。
先生はため息を吐き、私の心をよんだようにはっきり言った。
「いつもより痛かったらそれは異変なんだよ」
「そうなのか…。たしかに痛みは少し酷い」
「薬と包帯を変える。別のものにした方が治りが早くなるかもしれない」
「それじゃあ、」
「診察料はいらない」
いい加減お金を払わせてほしいのに、先生は当然のことをしているだけだからといつも拒否される。
またこうなることを予想していた私は、鞄からキャラメルの箱をいくつか取り出した。
「それじゃあ、これを受け取ってくれないか?何かしないと気が済まないんだ」
「…分かった。ありがたくもらっておく」
これから先も、お菓子なら受け取ってもらえるかもしれない。
先生の腕はかなりいいように見える。
「先生、医師免許とか持ってるのか?」
「そんなことをしていた時期も一応あったな。養護教諭の免許も持っていたが、数年前に失効した」
「なんでも器用にこなすんだな」
「おまえたちほど人と関わるのは上手くない。…できた」
「ありがとう。放送室に行ってみるよ」
結月を見る先生の目が苦しそうな色を帯びていたのが頭から離れない。
定時制の生徒たちの楽しそうな声を聞きながら杖を動かしているうちに、いつの間にか放送室に辿り着いていた。
「詩乃先輩、こんばんは」
「入れてくれてありがとう。お邪魔します」
桜良は何やら古い事件の資料が集められたスクラップ帳を手に取り、ある記事を指さした。
「これ、今回の一件と関係しているでしょうか?」
【いじめ加害者4人死亡 亡くなった生徒の呪いか】
そんな物騒なタイトルの記事だが、被害生徒が亡くなったとされる時期が今と一致している。
噂の影響が大きく出やすいこの町で、偶然という一言で片づけてはいけないような気がした。
「もう少し詳しい内容が分かるものがあればなんとかできるかもしれないな」
「先輩、これとかどうですか?」
陽向が奥の方から持ってきてくれたのは、数枚の写真と当時の調査記録と思われるものだった。
本来こんな場所に保管してあるはずがないのに、どうしてふたりはこんなに沢山情報を仕入れられるのだろう。
「この真ん中の子がいじめを受けていた子か…。今はでかぶつになっているから確認しようがないな」
「それを確認できたら、戦わずに済むかもしれません」
「そうだな」
悲しみのあまり暴走してしまったということなら、消滅ではなく成仏してほしいと思う。
もう少し事件当時のことを調べる必要はあるが、何か心残りがあるなら解決の手伝いをしたい。
「けど、問題は今の時期ですよね」
「どうしてそう思う?」
陽向は苦笑しながらはっきり答えた。
「だって、バレンタインならふられる人間も出てくるでしょ?負の感情が集まり続けたら、先輩が視たでかぶつの姿どころじゃない何かに変わるんじゃないかって思うんです」
ただ、今回の相手にとってその感情は好物だ。
「……というわけで、多分誰彼構わず入りこんで呪いの基盤を造ろうとしているんだと思う」
「え、怖っ!いつもよりやばそうな奴ですね」
「事態が深刻になる前に止めたいところだけど、バレンタインやホワイトデーは想いを伝える為に必要な日だろ?
それに、へたな止め方をしたら恋愛電話に影響が出かねない」
結月の体を蝕もうとしたあれはさっきこそ祓えたが、次も大丈夫だとは限らない。
「こいつは俺が見てるから、恋愛電話を定期的に確認してもらっていいか?」
「分かった。…結月、お大事に」
結月は疲れてしまったのか、体を丸めてぐっすり寝ている。
「桜良に放送室に行っていいか、訊いておいてもらえるか?」
「それは構わないですけど…あ、俺先に放送室行ってますね」
陽向はこれから何をするか察したのか、そのまま監査室を出ていく。
その直後、足に鈍痛がはしった。
「また無茶したな」
「そんなつもりはなかったんだけど、悪化してるのか?」
「自覚症状がないわけじゃないだろ」
たしかに動かすと普段より痛みがはしるものの、それ以外におかしな点は特にない。
先生はため息を吐き、私の心をよんだようにはっきり言った。
「いつもより痛かったらそれは異変なんだよ」
「そうなのか…。たしかに痛みは少し酷い」
「薬と包帯を変える。別のものにした方が治りが早くなるかもしれない」
「それじゃあ、」
「診察料はいらない」
いい加減お金を払わせてほしいのに、先生は当然のことをしているだけだからといつも拒否される。
またこうなることを予想していた私は、鞄からキャラメルの箱をいくつか取り出した。
「それじゃあ、これを受け取ってくれないか?何かしないと気が済まないんだ」
「…分かった。ありがたくもらっておく」
これから先も、お菓子なら受け取ってもらえるかもしれない。
先生の腕はかなりいいように見える。
「先生、医師免許とか持ってるのか?」
「そんなことをしていた時期も一応あったな。養護教諭の免許も持っていたが、数年前に失効した」
「なんでも器用にこなすんだな」
「おまえたちほど人と関わるのは上手くない。…できた」
「ありがとう。放送室に行ってみるよ」
結月を見る先生の目が苦しそうな色を帯びていたのが頭から離れない。
定時制の生徒たちの楽しそうな声を聞きながら杖を動かしているうちに、いつの間にか放送室に辿り着いていた。
「詩乃先輩、こんばんは」
「入れてくれてありがとう。お邪魔します」
桜良は何やら古い事件の資料が集められたスクラップ帳を手に取り、ある記事を指さした。
「これ、今回の一件と関係しているでしょうか?」
【いじめ加害者4人死亡 亡くなった生徒の呪いか】
そんな物騒なタイトルの記事だが、被害生徒が亡くなったとされる時期が今と一致している。
噂の影響が大きく出やすいこの町で、偶然という一言で片づけてはいけないような気がした。
「もう少し詳しい内容が分かるものがあればなんとかできるかもしれないな」
「先輩、これとかどうですか?」
陽向が奥の方から持ってきてくれたのは、数枚の写真と当時の調査記録と思われるものだった。
本来こんな場所に保管してあるはずがないのに、どうしてふたりはこんなに沢山情報を仕入れられるのだろう。
「この真ん中の子がいじめを受けていた子か…。今はでかぶつになっているから確認しようがないな」
「それを確認できたら、戦わずに済むかもしれません」
「そうだな」
悲しみのあまり暴走してしまったということなら、消滅ではなく成仏してほしいと思う。
もう少し事件当時のことを調べる必要はあるが、何か心残りがあるなら解決の手伝いをしたい。
「けど、問題は今の時期ですよね」
「どうしてそう思う?」
陽向は苦笑しながらはっきり答えた。
「だって、バレンタインならふられる人間も出てくるでしょ?負の感情が集まり続けたら、先輩が視たでかぶつの姿どころじゃない何かに変わるんじゃないかって思うんです」
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
イノセンス
梨
ライト文芸
田舎町に住む男子高校生、山吹柾はバス停にて榎本楓音と出会おう。
彼女の誘いにより、異世界へと飛ばされる。そこは、現実と一緒であるが一面の花畑。
そんな幸せそうな空間で聞かされるのは死んでしまった人が不安定になることで現実にも影響し、数日後には街が壊滅的な状況になるということだった。
それを止められるのは、死者の願い「忘れてしまった生前四日間を思い出す」こと。
街を守るとため、異世界での情報収集から始めるがファンタジーに敵う訳もなく苦戦する柾と楓音。しかし、柾の推理のこともあり、少しずつ解明していく。
激動の二日間を過ごした後、現実世界へと戻り四日間を調べようとするが、品川駅周辺の事件が手間取っているということもあり、楓音が所属している死者を成仏させる組織も混乱してしまうため情報を集めるのに苦労する二人。
異世界と現実で手に入れた手掛かりを元に調査を進め、浮かび上がる過去の事件とのつながりを見つけるが、タイムリミットが近づくにつれ、現実にも影響が夥しく出てくる。
根気強く調べ、とうとう全てのつながりを見つけるが、証拠不十分で反論されてしまう。
しかし、街の安全を守るために二人は探し続け、品川の事件で最後のピースを見つけることができ、何とか突き止めることができる。
そして、最後若菜に伝えるために荒れ狂った異世界で走り回る。
その結果、やっとの思いで伝えることができ異世界は徐々に最後を迎えていくのであった。
お題に挑戦した短編・掌編集
黒蜜きな粉
ライト文芸
某サイトさまのお題に挑戦した物語です。
どれも一話完結の短いお話となっております。
一応ライト文芸にいたしましたが、ポエムっぽい感じのものも多いです。
【完結】人形と皇子
かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。
戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。
性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。
第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる