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第17章『鮮血のバレンタイン』
第123話
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「いつもだったらちゃら男って声かけてくるのに、それがないと結構寂しいもんですね」
監査室まで来てくれた陽向は、眠ったままの黒猫の頭を撫でながら寂しそうに呟く。
ふたりは顔を合わせる度わいわい話していたのを知っている。
「ごめん。所用があるから結月のことを頼んでもいいか?」
「了解です。俺はここで情報収集と結月の様子見ときますね」
「うん。頼む」
足早に監査室を出て、微かに溢れる気配を感じ取りながら恋愛電話への道を探す。
「どうか、岸本君に想いが届きますように」
女子生徒が使っているのは黒電話で、間違いなく見たことがあるものだった。
生徒が去ったのを確認してから恋愛電話の受話器を持ち上げてみたが、やはり私じゃ何もおこらない。
「…血痕か?」
前に来たときにはなかった地溜まりが、ここで起こったことの悲惨さを物語っている。
残念ながら、それ以外の痕跡を見つけることはできなかった。
「人間嫌いのくせに、人間の為に頑張ってくれてたんだろうな」
その場に残されていたメモには、どんな人間が来たか細かく書かれていた。
最後の一文にはやばそうなでかぶつとだけ記されているノートを拾い、そのまま来た道を戻る。
「ただいま」
「どこ行ってたんですか?」
「ちょっとな。結月はどうだ?」
「さっきまでうなされてたんで、桜良がいい夢を見られるようにおまじないをかけてくれました」
「そうか」
そんな話をした直後、静かに扉が開かれる。
顔色がよくなった瞬と深刻そうな顔をした先生がゆっくり入ってきた。
「詩乃ちゃん、さっきはごめんね」
「謝らなくていい。先生、どうしたんだ?」
「…最近は不吉なものがよく当たるからな」
そう言って見せてくれた頁には、早急に対処しなければならないことが書かれていた。
【2月14日、烏合学園を呪いが襲う】
「バレンタインの呪いってことは、結月が襲われたことと関係してるんだろうな…」
「俺もそう思う。単純にカップルに恨みがあるというより、力を蓄えやすいから狙ったんだろう。
こいつは右目の視力が少し弱くてな。右側から襲われたら対応しきれないんだ」
そんなこと、初めて知った。
先生や瞬のことと同じくらい結月のことも詳しくない。
「相手っぽいのは視たけど、相当でかい図体の奴だった。どうするのがいいんだろうな」
「俺が相手してひきつけるのはいいとして、問題は相手が現れてくれるかどうかですよね?」
いくら陽向が無敵でも、流石に今回は相手が悪い。
ただ、呪いの影響で生徒が血祭りになるのは避けたい…なんて欲張りだろうか。
「僕はどうしたらいいかな?」
「今できるのは情報収集だ。引き続きふたりに頼みたい」
「先輩はどうするんですか?」
「ちょっと試してみたい戦法があるんだ。下準備がいるけどそれをやってみるよ」
『私も情報を集めます』
「ありがとう」
ラジオ越しの声に感謝を伝え、授業に間に合わなくなることもあってそのまま解散した。
勿論私は行くつもりがないので、その足で屋上へ向かう。
「…頼む、力を貸してくれ」
四隅に矢を突き刺し、それに力を注ぎこむ。
桜良に無理をさせたくなくて、即席の結界を作ってみることにした。
それに、これがあれば相手の動きを封じこめるくらいはできるかもしれない。
小さな範囲ではあったものの、なんとか結界を作ることに成功した。
「…監査部の資料、まとめ終わってなかったな」
また戻るのは面倒だが仕方ない。
そう思って立ちあがった瞬間、視界の端で何かが光った。
飛んできたナイフを思わず素手で受け止めてしまう。
「正々堂々仕掛けてこいよ。私ならいつでも相手してやるから」
怒りのあまり術で造られたものであろうナイフを燃やす。
なんとなく予感はしていた。
あの男…神宮寺義仁が関わっているのではと。
杖を握ると手に痛みがはしったが、そんなことはどうでもいい。
とにかく今は目の前のことに集中しよう。…でないと、不安に喰われてしまいそうだ。
監査室まで来てくれた陽向は、眠ったままの黒猫の頭を撫でながら寂しそうに呟く。
ふたりは顔を合わせる度わいわい話していたのを知っている。
「ごめん。所用があるから結月のことを頼んでもいいか?」
「了解です。俺はここで情報収集と結月の様子見ときますね」
「うん。頼む」
足早に監査室を出て、微かに溢れる気配を感じ取りながら恋愛電話への道を探す。
「どうか、岸本君に想いが届きますように」
女子生徒が使っているのは黒電話で、間違いなく見たことがあるものだった。
生徒が去ったのを確認してから恋愛電話の受話器を持ち上げてみたが、やはり私じゃ何もおこらない。
「…血痕か?」
前に来たときにはなかった地溜まりが、ここで起こったことの悲惨さを物語っている。
残念ながら、それ以外の痕跡を見つけることはできなかった。
「人間嫌いのくせに、人間の為に頑張ってくれてたんだろうな」
その場に残されていたメモには、どんな人間が来たか細かく書かれていた。
最後の一文にはやばそうなでかぶつとだけ記されているノートを拾い、そのまま来た道を戻る。
「ただいま」
「どこ行ってたんですか?」
「ちょっとな。結月はどうだ?」
「さっきまでうなされてたんで、桜良がいい夢を見られるようにおまじないをかけてくれました」
「そうか」
そんな話をした直後、静かに扉が開かれる。
顔色がよくなった瞬と深刻そうな顔をした先生がゆっくり入ってきた。
「詩乃ちゃん、さっきはごめんね」
「謝らなくていい。先生、どうしたんだ?」
「…最近は不吉なものがよく当たるからな」
そう言って見せてくれた頁には、早急に対処しなければならないことが書かれていた。
【2月14日、烏合学園を呪いが襲う】
「バレンタインの呪いってことは、結月が襲われたことと関係してるんだろうな…」
「俺もそう思う。単純にカップルに恨みがあるというより、力を蓄えやすいから狙ったんだろう。
こいつは右目の視力が少し弱くてな。右側から襲われたら対応しきれないんだ」
そんなこと、初めて知った。
先生や瞬のことと同じくらい結月のことも詳しくない。
「相手っぽいのは視たけど、相当でかい図体の奴だった。どうするのがいいんだろうな」
「俺が相手してひきつけるのはいいとして、問題は相手が現れてくれるかどうかですよね?」
いくら陽向が無敵でも、流石に今回は相手が悪い。
ただ、呪いの影響で生徒が血祭りになるのは避けたい…なんて欲張りだろうか。
「僕はどうしたらいいかな?」
「今できるのは情報収集だ。引き続きふたりに頼みたい」
「先輩はどうするんですか?」
「ちょっと試してみたい戦法があるんだ。下準備がいるけどそれをやってみるよ」
『私も情報を集めます』
「ありがとう」
ラジオ越しの声に感謝を伝え、授業に間に合わなくなることもあってそのまま解散した。
勿論私は行くつもりがないので、その足で屋上へ向かう。
「…頼む、力を貸してくれ」
四隅に矢を突き刺し、それに力を注ぎこむ。
桜良に無理をさせたくなくて、即席の結界を作ってみることにした。
それに、これがあれば相手の動きを封じこめるくらいはできるかもしれない。
小さな範囲ではあったものの、なんとか結界を作ることに成功した。
「…監査部の資料、まとめ終わってなかったな」
また戻るのは面倒だが仕方ない。
そう思って立ちあがった瞬間、視界の端で何かが光った。
飛んできたナイフを思わず素手で受け止めてしまう。
「正々堂々仕掛けてこいよ。私ならいつでも相手してやるから」
怒りのあまり術で造られたものであろうナイフを燃やす。
なんとなく予感はしていた。
あの男…神宮寺義仁が関わっているのではと。
杖を握ると手に痛みがはしったが、そんなことはどうでもいい。
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