夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第16章『幽冥への案内人』

番外篇『華やぐ雪遊び』

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「つきあうって、こんなことでいいの?」
「私にとっては大事なんだ。ありがとう」
隣でにこにこしている穂乃とふたりで、学園近くの公園にやってきた。
物騒な事件が片づいたのだから、たまにはこういうのも悪くないだろう。
リハビリも兼ねて行きたい旨を話すと、穂乃は快くついてきてくれた。
昨日の雪がつもっているからか、地面はいつもよりふかふかだ。
「歩きづらくない?」
「これに慣れたらもう少し杖使いが上手くなりそうだからやれるだけやってみるよ。心配してくれてありがとう」
他愛のない会話をしながら歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「こう?」
「ああ。それで綺麗に丸めたら完成だ」
「できた。雪玉って作るの難しいんだね」
少しずつ距離を縮めていくと、兄弟のように話すふたりの姿が目に入る。
声をかけるか迷っていたが、先生と目が合った。
「…折原?」
「詩乃ちゃんと穂乃ちゃんだ!」
「今日は外に出てるんだな」
「うん。先生に雪遊びを教えてってお願いしたんだ」
瞬が楽しそうに話すのを、先生は少し恥ずかしそうに黙っている。
…かと思えば、しゃがんで穂乃と視線を合わせた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「…雪は好きか?」
「は、はい。この時期にしか見られないから…」
ぎこちない会話を隣で聞きながら瞬に目をやる。
身につけている手袋とマフラーは、間違いなくクリスマスに贈ったものだ。
この時期、学園の外なら必須になるであろうそれを使ってくれている本人に思い切って訊いてみた。
「マフラーと手袋、どんな感じだ?」
「寒いけど温かい…変な感じがする」
「そうか」
「詩乃ちゃんがくれたものだからかな?ありがとう。大切にするね」
喜んでもらえたならよかった。
瞬の笑顔が心からのものだと見ているだけで分かる。
ちらっとこちらに視線を向けた穂乃の手を指さし、瞬が興味津々に尋ねた。
「穂乃ちゃん、それ何?」
「雪うさぎさんだよ。一緒に作る?」
「作りたい。やり方教えて…!」
何度か会っているうちにふたりも打ち解けてきたのか、その場で仲良く雪うさぎを作りはじめた。
「…すごいな、人っていうのは」
「そうだな。あんなに仲良しになってるなんて知らなかった」
先生に同意すると、苦笑いしながら教えてくれた。
「おまえの忘れ物を届けにきたり、怪我の経過観察を軽く話したり…そのときたまたまあいつが居合わせてることがあったんだ」
「え、そんなことしてたのか?」
「だいぶ前から簡単な報告だけはしてる」
全然気づいていなかった。
また穂乃に我慢させていないか不安になる。
「いい家族だな」
「ありがとう。…大切な妹なんだ」
クリスマスにはなんとか欲しかったであろうバッグと文房具セットを贈ったが、それだけでは足りないほど支えられている。
普通じゃない私を真っ先に受け入れてくれたのは穂乃だった。
【お姉ちゃんはお姉ちゃんだもん。だから、一緒に行く。置いていかないで…】
神宮寺の家でもそうだった。
逃げるか考えていたとき、穂乃が背中を押してくれたおかげで今がある。
「先生にも家族っているのか?」
「いたにはいたぞ」
「…そうか」
いた、ということはこれ以上詮索されたくないのかもしれない。
「もし先生たちがいいなら、一緒に鍋でも──」
そこまでで言葉が切れたのは、雪玉が先生の顔にヒットしたからだ。
「あ…先生、ごめ、」
「…わざとだったら許さないところだが、そういうわけではなさそうだ」
「足に当てようとしたんだ」
「当てようとはしていたのか」
ふたりが仲良く話しているところを見ている私の手に、穂乃が雪うさぎをのせた。
「どうかな?」
「上手にできたな」
先生の方に視線を送ると、小さく首を縦にふったのが見えた。
「これから買い出しに行くから手伝ってほしい。学園内で鍋にしよう」
「私も行っていいの?」
「穂乃にいてほしいんだ」
「ありがとう、なんだか嬉しいな…」
瞬には先生が説明して、穂乃と同じように目を輝かせている。
月がうっすら見えはじめるなか、スーパーへ足を運ぶ。
…こんなに賑やか夕食は久しぶりで少しだけ昔を思い出したのは、ここだけの話だ。
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