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第16章『幽冥への案内人』
第120話
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次に目が覚めたときには、空の上を走っていたはずの列車が2両だけを残して見覚えがある外壁に向かってゆっくり動いていた。
「…ごめん」
「起きたか」
《もうすぐ着くよ。…そうしたら車掌としてはお別れだ》
少し寂しそうに話す車掌に先生が話しかける。
「世話になった」
《それはこっちの台詞だよ。噂の夜紅の実力も見られたしね》
「折原は普段から無理しすぎるから、本気を出せばもっと強い」
《あれを追い返すだけでもすごいのに、まだ隠し玉があるのか…すごいね、君は》
「そんなことないよ」
体を起こそうとすると先生に止められてしまう。
それとほぼ同時にインカムから陽気な声が聞こえた。
『先輩、ちゃんと生きてる人間は帰し終わりましたよ』
「ありがとう」
『こんな作戦だったなんて聞いてない。…先生もお仕置きだよ』
「何する気なんだ…」
「折原は怪我人だぞ」
先生は苦笑しながら、恐らく線路の近くで待っている瞬に呟く。
陽向より瞬から怒りを感じたものの、その後に続いた言葉は予想していないものだった。
『詩乃ちゃん、なんか元気ない?』
「そうか?少し疲れてるからかな…」
どうしてもかなのことが頭から離れない。
ただ、それを誰にも悟られたくなかった。
今回は型破りな作戦で心配をかけているのに、更に心配させるようなことを言いたくない。
それに、かなとの出会いと別れは私だけが知っていればいいと思った。
自分も母に会いたいと思った気持ちと共に押しこめ、できるだけいつもどおりに話しかけてみる。
「人間相手も大変だったんじゃないか?」
『色んな人がいたけど、ひな君が魔法をかけてたよ』
『普通に話しただけだろ?…怪しいことは何もしてませんからね!』
「はじめから疑ってないよ」
ふたりの楽しそうな雰囲気のおかげでなんとかやり過ごせそうだ。
「今は無理に笑顔を作らなくていい」
…目の前にいる先生を除いては。
『先生、何か言った?』
「何も」
敢えてインカム越しの相手には聞こえないように言ってくれたことに感謝しかない。
「一旦切る」
接続を切ってくれたおかげで、少しだけ緊張がとけた。
自分の感情に正直になりすぎて、落ちこんでいるのが声に出そうだったから。
ゆっくり体を起こして背もたれに体を預けていると、車掌がこちらに近づいてきた。
「もしかして、他にも何かやることが残ってるとか…」
《違うよ。今回は本当にありがとう。列車の噂のことも、あの子のことも。
…もしよかったら、お礼、受け取ってくれる?》
それは、車掌が襟につけているのと同じピンバッジだった。
「いいのか?貴重なものなんじゃ…」
《君ならなくしそうにないから。因みに室星も持ってるよ》
「…これがあればいつでもこいつと話ができる」
「通信機ってことか?」
《というよりは、呼鈴に近いかもしれない。困ったときは呼んで。力になるから》
「ありがとう。…なあ、最後にひとつ教えてくれ」
私には、どうしても訊いてみたいことがあった。
《それは、俺に答えられることかな?》
「うん。寧ろ他の人には訊けないことだよ。…どうして車掌になろうと思ったんだ?」
車掌は少し驚いた顔をしていたが、やがて帽子をかぶり直しながら言った。
《この仕事なら約束を叶えられそうだから》
「約束?」
《俺がここにいる理由なんてそれしかないよ》
車両が陸に到着するのとほぼ同時に、車掌の姿が煙に包まれ消えていく。
表情は帽子に隠れていたが、笑っていたに違いない。
「おかえり、ふたりとも」
「ただいま」
先生に支えられながらいつもどおりの階段に降りる。
その直後、瞬がむすっとした顔で先生に詰め寄った。
「なんで列車に乗るって教えてくれなかったの?」
「おまえについてこられたら困るから」
「詩乃ちゃんはいいの?」
「…おまえみたいに強制成仏になる可能性はない」
ふたりの会話にほっこりしつつ、背後から忍び寄ってきた陽向に手を伸ばす。
「俺も聞いてないんですけど?」
「ごめん。ちゃんと説明したら止められると思ったから、つい」
「命はひとつなんですから、自分から死にに行かないでください」
「気をつけるよ」
ひとりの迷子と先生の友人の話は、列車からの絶景と共に心に閉じこめておこう。
いつもの賑やかさな声に紛れ、遠くから汽笛の音が聞こえた気がした。
「…ごめん」
「起きたか」
《もうすぐ着くよ。…そうしたら車掌としてはお別れだ》
少し寂しそうに話す車掌に先生が話しかける。
「世話になった」
《それはこっちの台詞だよ。噂の夜紅の実力も見られたしね》
「折原は普段から無理しすぎるから、本気を出せばもっと強い」
《あれを追い返すだけでもすごいのに、まだ隠し玉があるのか…すごいね、君は》
「そんなことないよ」
体を起こそうとすると先生に止められてしまう。
それとほぼ同時にインカムから陽気な声が聞こえた。
『先輩、ちゃんと生きてる人間は帰し終わりましたよ』
「ありがとう」
『こんな作戦だったなんて聞いてない。…先生もお仕置きだよ』
「何する気なんだ…」
「折原は怪我人だぞ」
先生は苦笑しながら、恐らく線路の近くで待っている瞬に呟く。
陽向より瞬から怒りを感じたものの、その後に続いた言葉は予想していないものだった。
『詩乃ちゃん、なんか元気ない?』
「そうか?少し疲れてるからかな…」
どうしてもかなのことが頭から離れない。
ただ、それを誰にも悟られたくなかった。
今回は型破りな作戦で心配をかけているのに、更に心配させるようなことを言いたくない。
それに、かなとの出会いと別れは私だけが知っていればいいと思った。
自分も母に会いたいと思った気持ちと共に押しこめ、できるだけいつもどおりに話しかけてみる。
「人間相手も大変だったんじゃないか?」
『色んな人がいたけど、ひな君が魔法をかけてたよ』
『普通に話しただけだろ?…怪しいことは何もしてませんからね!』
「はじめから疑ってないよ」
ふたりの楽しそうな雰囲気のおかげでなんとかやり過ごせそうだ。
「今は無理に笑顔を作らなくていい」
…目の前にいる先生を除いては。
『先生、何か言った?』
「何も」
敢えてインカム越しの相手には聞こえないように言ってくれたことに感謝しかない。
「一旦切る」
接続を切ってくれたおかげで、少しだけ緊張がとけた。
自分の感情に正直になりすぎて、落ちこんでいるのが声に出そうだったから。
ゆっくり体を起こして背もたれに体を預けていると、車掌がこちらに近づいてきた。
「もしかして、他にも何かやることが残ってるとか…」
《違うよ。今回は本当にありがとう。列車の噂のことも、あの子のことも。
…もしよかったら、お礼、受け取ってくれる?》
それは、車掌が襟につけているのと同じピンバッジだった。
「いいのか?貴重なものなんじゃ…」
《君ならなくしそうにないから。因みに室星も持ってるよ》
「…これがあればいつでもこいつと話ができる」
「通信機ってことか?」
《というよりは、呼鈴に近いかもしれない。困ったときは呼んで。力になるから》
「ありがとう。…なあ、最後にひとつ教えてくれ」
私には、どうしても訊いてみたいことがあった。
《それは、俺に答えられることかな?》
「うん。寧ろ他の人には訊けないことだよ。…どうして車掌になろうと思ったんだ?」
車掌は少し驚いた顔をしていたが、やがて帽子をかぶり直しながら言った。
《この仕事なら約束を叶えられそうだから》
「約束?」
《俺がここにいる理由なんてそれしかないよ》
車両が陸に到着するのとほぼ同時に、車掌の姿が煙に包まれ消えていく。
表情は帽子に隠れていたが、笑っていたに違いない。
「おかえり、ふたりとも」
「ただいま」
先生に支えられながらいつもどおりの階段に降りる。
その直後、瞬がむすっとした顔で先生に詰め寄った。
「なんで列車に乗るって教えてくれなかったの?」
「おまえについてこられたら困るから」
「詩乃ちゃんはいいの?」
「…おまえみたいに強制成仏になる可能性はない」
ふたりの会話にほっこりしつつ、背後から忍び寄ってきた陽向に手を伸ばす。
「俺も聞いてないんですけど?」
「ごめん。ちゃんと説明したら止められると思ったから、つい」
「命はひとつなんですから、自分から死にに行かないでください」
「気をつけるよ」
ひとりの迷子と先生の友人の話は、列車からの絶景と共に心に閉じこめておこう。
いつもの賑やかさな声に紛れ、遠くから汽笛の音が聞こえた気がした。
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