夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第16章『幽冥への案内人』

第116話

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「気づいていたのか」
「少し前から。それで、陽向が帰ってくるまでに終わらせないといけない話なんだろ?」
先生はとても言いづらそうに手元のチケットを机に置く。
「いいものが手に入ったが、人数分じゃない」
「それで、私が幽冥行列車に乗ってみるしかないわけだな」
「…すまない」
「先生は悪くない」
陽向に見せたら喜んで乗るだろうが、万が一死んでしまったらどうなるか分からない。
死霊である瞬は、乗っただけで影響が出かねないのでもっと危険だ。
そうなると、消去法で私が行くしかない。
「あのふたりを近づけさせるわけにはいかない。だから、そのための作戦を考えてほしい」
「分かってる。まあ、線路が消えたかどうか確認してほしいってふたりには説明するとして…私たちはどうやって降りればいいんだ?」
「俺の糸を使う。万が一のことがあっても、この切符をくれた知り合いが手助けしてくれる約束だ」
普通の死者は切符なんて持っていないだろうから、切符そのものに意味があるのだろう。
「分かった。乗るよ」
「危険なことに巻きこむことになるが…」
「大丈夫だよ。慣れてるから」
興味本位か本気で死ぬつもりで乗ったただの人間が紛れこんでいる可能性だってある。
それなら、連れ戻すためにも乗ることは避けられない。
「先生がしょぼくれてたら瞬が心配する」
「それもそうか。…いつもどおり振る舞うよう気をつけておく」
「先生、あんまり無理しないようにな。顔色が悪い」
「それはお互い様だろ」
先生から受け取った切符を胸ポケットに入れ、つけ忘れていた監査部バッジをつける。
そのまま保健室に向かうと、白井先生が困惑していた。
「どうしたんだ、先生」
「包帯が減る理由は分かったんだけど、どうしようかなって…」
先生の話によると、夜の列車を見る為に必要だと持っていった生徒がいたらしい。
ハロウィンじゃないんだから、そんな格好をしても生者だとすぐ分かる。
「取り敢えず、注意喚起の放送を流すよ。包帯だらけの不審者が…とか言った方が効果あるかな?」
「包帯をとった人は保健室に名乗り出てくださいって放送してもらえないかな?
流石に嘘を吐くのはよくないだろうし、これ以上包帯が勝手に減らなければそれで充分なの」
「分かった。放送部の子にお願いしてみる」
「詩乃ちゃん」
保健室を出ようとしたところを呼び止められ、そのまま振り返る。
「困ったことがあれば、いつでも相談しに来てね」
「ありがとう、先生」
最近怪我ばかりしているからだろうか。
白井先生の顔には心配の色が滲んでいるような気がして、なんだか申し訳なかった。
「先輩、今夜はどうします?」
監査室に戻ると、陽向と瞬がふたり仲よくお菓子を食べていた。
「ふたりとも、やっぱり仲がいいな」
「まあ、友だちですから」
「ひな君は、僕みたいなのにも友だちって言ってくれるんだね」
「俺からすれば生きてる人間が1番怖いし、一緒にいて楽しく過ごせてるってことは友だちだろ?」
「ありがとう。ひな君はやっぱり優しいね」
瞬は笑っているが、本当にすごく嬉しかったんだろう。
仲間や友人がいるのはすごく嬉しい…今ならその気持ちが分かる。
「それで、今回の作戦だけど…ふたりには線路付近に立っていてほしい」
「それだけでいいんですか?」
「うん。乗ろうとした生者がいたら列車が発車するまで時間を稼いでくれ」
「詩乃ちゃんはどうするの?」
「…人間が多く乗ることを知った奴が列車を狙っているらしいから、そっちの討伐にまわるよ」
私はまた半分嘘を吐いた。
狙ってくる妖ものを遠ざけるのも目的のひとつだが、陽向たちに気づかれないように列車に近づく必要がある。
「分かりました。1時11分に列車が来るってことは、30分前には来ておいた方がいいですよね?」
「そういうことになるな。来られそうか?」
「俺は平気です。今夜でカタ、つけましょうね」
「うん」
「僕も頑張る」
「頼りにしてる」
こうしてなんとか作戦を固め、午後からは授業に出席した。
今月中だけ参加しておけば進級資格は得られる。
「…となるので、この問題は……」
教師の窮屈な言葉なんて全く耳に入ってこないまま、時間だけが過ぎていった。
…穂乃に今夜も帰りが遅くなると連絡だけして。
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