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第16章『幽冥への案内人』
第114話
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「先輩、おはようございます」
「おはよう。今年もよろしく」
「はい。任せてください!」
白い息を吐きながら、ようやく慣れてきた杖をてきぱき動かす。
「なんか動き速くないですか?」
「そこまでじゃないと思う」
先生から絶対杖を使うように念を押されてしまい、新学期になってもこの有様だ。
迷惑をかけたくないから早く走れるようになりたいのに、どうしてこんなに上手くいかないんだろう。
「そういえば、新学期早々また噂が流行ってますね」
「冥界への扉がどうのってやつか?」
「冥界への扉がというより、あの世行の列車がやってくるらしいですよ。
場所は旧校舎の3階と屋上の間の階段…この学校って階段に関する噂が多いですよね」
それは私も感じていたことだった。
異界への道がある影響なのか、それともあの男がやりやすいように仕組んでいるのか…。
「いない人のことを考えても仕方ありません。というか、現れないことを願いましょ?」
「そうだな。ごめん」
陽向に察されてしまうほど顔に出ていたのだろうか。
噂について詳しく聞こうとすると、後ろから声をかけられた。
「ふたりともおはよう」
「おはよう」
「年賀状ありがとう。友だちからもらうのって初めてだったから、すごく嬉しかった」
本当に嬉しかったのか、持ち歩いているらしかった。
先生からももらったのだろうが、喜んでもらえてなによりだ。
「そういえば、ちびがひとりでここに来るなんて珍しいな」
陽向の言葉に瞬は一瞬むすっとした表情をして、いつものようににこり笑ってはっきり言った。
「先生に頼まれたからひな君にも話しておこうと思ったのに、やっぱり詩乃ちゃんにだけ教えようかな…」
「すみませんでした」
「先生は今職員会議中で来られないから、代わりに説明するね」
まずは新学期早々広まってきた噂について。
その内容は陽向から聞いたものとほとんど同じだったが、車掌についての情報が詳しく知らされた。
「それって、今回の噂を広めたのはその車掌ってことになるのか?1発で仕留められるんじゃ…」
「違うよ。車掌さんも停車するはずじゃない場所に繋がっちゃうから困ってるんだって」
「てことは、やっぱ他にいるのか」
「どうして車掌が困ってるのを知ってるんだ?」
「先生の知り合いが乗ってるんだって」
つまり、噂によって怪異化している列車に乗っている車掌は妖ものということでいいのだろうか。
「列車は大量の車両で編成されていて、そこには元人間だった車掌もいるらしいよ」
「死者も採用されるのか。けど、流石に生きてる人間が乗ることはできないんだろ?」
「噂のせいでどうなるか分からないって、先生が困ってた」
人間の世界では大量の行方不明者が出てしまう可能性がある。
車掌たちは誤って生者ごと運んでしまいかねない…どちらにとっても厄介な話だ。
「線路をなくす方法を探すしかないってことか」
「そうなるね」
「ちびは今回あんまり近づけないな」
「どうして?」
「一応死者だろ?間違えてあの世まで行ったら戻ってこられなくなるかもしれないだろ?」
「それはひな君もでしょ?何回も死んでるんだし…」
瞬も陽向も、実はお互いのことをかなりよく思っているのだろう。
まだ母が生きていた頃にそんな絵本を読んでもらったような気がするが、記憶が曖昧でよく思い出せない。
「詩乃ちゃん?」
「ごめん、なんでもない。車掌と話はできそうか?」
「先生が会えるように手配してるって言ってた。ただ、非番の日じゃないと自由に動けないんだって」
それだけ仕事に誇りを持っているという認識でいいのだろうか。
「つまり、それまでは夜仕事案件確定だな」
「ですね。線路って勝手に増減できるものでもないだろうし、俺たちで生きてる人間を押さえないと」
気合十分な陽向の隣で瞬が小さく息を吐く。
こうなってしまえば、後輩を帰るよう説得するのは無理そうだ。
夜学校にいても不自然じゃないのは定時制の生徒だが、そこに昼間制の生徒が紛れこむ可能性もある。
「どうするか考えないとな」
「おはよう。今年もよろしく」
「はい。任せてください!」
白い息を吐きながら、ようやく慣れてきた杖をてきぱき動かす。
「なんか動き速くないですか?」
「そこまでじゃないと思う」
先生から絶対杖を使うように念を押されてしまい、新学期になってもこの有様だ。
迷惑をかけたくないから早く走れるようになりたいのに、どうしてこんなに上手くいかないんだろう。
「そういえば、新学期早々また噂が流行ってますね」
「冥界への扉がどうのってやつか?」
「冥界への扉がというより、あの世行の列車がやってくるらしいですよ。
場所は旧校舎の3階と屋上の間の階段…この学校って階段に関する噂が多いですよね」
それは私も感じていたことだった。
異界への道がある影響なのか、それともあの男がやりやすいように仕組んでいるのか…。
「いない人のことを考えても仕方ありません。というか、現れないことを願いましょ?」
「そうだな。ごめん」
陽向に察されてしまうほど顔に出ていたのだろうか。
噂について詳しく聞こうとすると、後ろから声をかけられた。
「ふたりともおはよう」
「おはよう」
「年賀状ありがとう。友だちからもらうのって初めてだったから、すごく嬉しかった」
本当に嬉しかったのか、持ち歩いているらしかった。
先生からももらったのだろうが、喜んでもらえてなによりだ。
「そういえば、ちびがひとりでここに来るなんて珍しいな」
陽向の言葉に瞬は一瞬むすっとした表情をして、いつものようににこり笑ってはっきり言った。
「先生に頼まれたからひな君にも話しておこうと思ったのに、やっぱり詩乃ちゃんにだけ教えようかな…」
「すみませんでした」
「先生は今職員会議中で来られないから、代わりに説明するね」
まずは新学期早々広まってきた噂について。
その内容は陽向から聞いたものとほとんど同じだったが、車掌についての情報が詳しく知らされた。
「それって、今回の噂を広めたのはその車掌ってことになるのか?1発で仕留められるんじゃ…」
「違うよ。車掌さんも停車するはずじゃない場所に繋がっちゃうから困ってるんだって」
「てことは、やっぱ他にいるのか」
「どうして車掌が困ってるのを知ってるんだ?」
「先生の知り合いが乗ってるんだって」
つまり、噂によって怪異化している列車に乗っている車掌は妖ものということでいいのだろうか。
「列車は大量の車両で編成されていて、そこには元人間だった車掌もいるらしいよ」
「死者も採用されるのか。けど、流石に生きてる人間が乗ることはできないんだろ?」
「噂のせいでどうなるか分からないって、先生が困ってた」
人間の世界では大量の行方不明者が出てしまう可能性がある。
車掌たちは誤って生者ごと運んでしまいかねない…どちらにとっても厄介な話だ。
「線路をなくす方法を探すしかないってことか」
「そうなるね」
「ちびは今回あんまり近づけないな」
「どうして?」
「一応死者だろ?間違えてあの世まで行ったら戻ってこられなくなるかもしれないだろ?」
「それはひな君もでしょ?何回も死んでるんだし…」
瞬も陽向も、実はお互いのことをかなりよく思っているのだろう。
まだ母が生きていた頃にそんな絵本を読んでもらったような気がするが、記憶が曖昧でよく思い出せない。
「詩乃ちゃん?」
「ごめん、なんでもない。車掌と話はできそうか?」
「先生が会えるように手配してるって言ってた。ただ、非番の日じゃないと自由に動けないんだって」
それだけ仕事に誇りを持っているという認識でいいのだろうか。
「つまり、それまでは夜仕事案件確定だな」
「ですね。線路って勝手に増減できるものでもないだろうし、俺たちで生きてる人間を押さえないと」
気合十分な陽向の隣で瞬が小さく息を吐く。
こうなってしまえば、後輩を帰るよう説得するのは無理そうだ。
夜学校にいても不自然じゃないのは定時制の生徒だが、そこに昼間制の生徒が紛れこむ可能性もある。
「どうするか考えないとな」
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