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閑話『冬の過ごし方』
『三者三様』
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「相変わらず律儀だな…」
「どうかしたの?」
ポストを見た俺に桜良が問いかける。
入っていた3枚の葉書を見せながら話した。
「年賀状、毎年送ってくれるんだ。桜良も住所聞かれたでしょ?」
「入ってた」
「そっか…って、え、3枚!?」
「どうしてそんなに驚いているの?」
2枚なら分かる。一昨年くらいから恒例になっている詩乃先輩と、毎年何故か俺の担任になる室星先生からだ。
3枚目は誰だろう…なんて思いながら見てみると、達筆な文字が並んでいた。
【今年もよろしくね。あんまり死なないように、元気で過ごせますように】
「え、ちび!?」
「…そういえば、あの子が先生にキャラメルと交換で住所を教えてほしいと話していたわ」
直接聞いてくれれば教えたのに…なんて言わないけど、こんなに綺麗な字が書けるのは知らなかった。
詩乃先輩のは可愛らしいイラストが添えられていて、先生のは干支のスタンプが押されていて…ちびのは書道のお手本みたいな字の周りにシールが貼られている。
「…私のところにきてる」
「よかったね」
多分桜良には他の人から年賀状をもらうという経験がない。
先輩も先生もちびも、リサーチしたうえで送ってくれたのだろう。
「返事、どんなことを書こうかな」
その声はいつもより嬉しそうだ。
それから俺の部屋に移動して、毎年恒例になっていることの準備をした。
「雑煮完成!返事書けた?」
「先生への住所って、どうすればいいの?」
「何故かこの住所を書いておくて先生の手元に届いてるんだ。もしかすると運び屋か友だちの家なのかも?」
今年に入って初めて知ったけど、先生は怪異で特殊な結界みたいな場所で暮らしている。
どうして毎年教えてもらった住所宛に書くと届いているのか不思議だ。
「ちびの分も同じところに書いてみるか…」
「出してなかったの?」
「もらえると思ってなかったから。なんだかんだ、ちょっと嬉しい」
雑煮をテーブルに運んだところで年賀状を渡す。
「今年もよろしく、桜良」
「…毎年律儀ね」
「そういう桜良もでしょ?」
俺たちはお互い直接渡し合うことにしている。
帰れる家と呼べる場所がなくて独り暮らしの俺たちは、会うことで安心しているところがあるから…かもしれない。
そう思っているのは俺だけじゃないって自惚れてもいいだろうか。
「冷めないうちに食べよう」
「いただきます。…今年のお餅、柔らかい」
「ほんとだ、よく伸びる…」
こんなふうに何気ない時間を過ごせるのは嬉しい。
穏やかな時間なんて滅多にないから。
「桜良、初売りは、」
「いい。通販で注文したから」
三ヶ日に死んだことがないのは、こうやって出かけなくていいように桜良が気を遣ってくれているからだ。
桜良の分なら買い物にだっていくらでも付き合うのに、毎年通販で注文したからと出掛けるのを断られる。
「いつもありがとう」
「お礼を言われるようなことなんてしてない」
「相変わらずツンデレだな…。もしかして、本当は照れてる?」
「そういうわけじゃない」
そんなことを言いつつ、お椀を洗い終わった桜良はすぐクッションで顔を隠してしまった。
…どうして俺の彼女はこんなに可愛いんだろう。
「じゃあ、いつもみたいに花札でもする?それとも、この福袋開けるとか」
「それ…」
何が入っているかは分からないお楽しみ袋みたいなもので、可愛いものが多めに入っているとされているものを取り寄せてみた。
「見てるだけのつもりが買っちゃってたんだ。だから、もしよかったらもらってくれない?
俺が使うには可愛すぎるものもあるだろうし…」
「…ありがとう」
「え?なんのこと?」
中に入っているもののうち、十字架がついたネックレスやペンは使えそうなのでもらうことにした。
残りのもの…特にもふもふのケープなんて俺には似合わない。
「本当にいいの?」
「うん。好きなように使って」
「…相変わらず、気遣い上手ね」
桜良が笑ってくれればそれでいい。
その隣で俺も笑っていられれば…なんて願いながら、何より大切なものを抱き寄せる。
先輩たちも護りながら、穏やかな時間を過ごせればいい。
日が沈みはじめるのとほぼ同時に、ふたりで残りの袋を開けた。
「どうかしたの?」
ポストを見た俺に桜良が問いかける。
入っていた3枚の葉書を見せながら話した。
「年賀状、毎年送ってくれるんだ。桜良も住所聞かれたでしょ?」
「入ってた」
「そっか…って、え、3枚!?」
「どうしてそんなに驚いているの?」
2枚なら分かる。一昨年くらいから恒例になっている詩乃先輩と、毎年何故か俺の担任になる室星先生からだ。
3枚目は誰だろう…なんて思いながら見てみると、達筆な文字が並んでいた。
【今年もよろしくね。あんまり死なないように、元気で過ごせますように】
「え、ちび!?」
「…そういえば、あの子が先生にキャラメルと交換で住所を教えてほしいと話していたわ」
直接聞いてくれれば教えたのに…なんて言わないけど、こんなに綺麗な字が書けるのは知らなかった。
詩乃先輩のは可愛らしいイラストが添えられていて、先生のは干支のスタンプが押されていて…ちびのは書道のお手本みたいな字の周りにシールが貼られている。
「…私のところにきてる」
「よかったね」
多分桜良には他の人から年賀状をもらうという経験がない。
先輩も先生もちびも、リサーチしたうえで送ってくれたのだろう。
「返事、どんなことを書こうかな」
その声はいつもより嬉しそうだ。
それから俺の部屋に移動して、毎年恒例になっていることの準備をした。
「雑煮完成!返事書けた?」
「先生への住所って、どうすればいいの?」
「何故かこの住所を書いておくて先生の手元に届いてるんだ。もしかすると運び屋か友だちの家なのかも?」
今年に入って初めて知ったけど、先生は怪異で特殊な結界みたいな場所で暮らしている。
どうして毎年教えてもらった住所宛に書くと届いているのか不思議だ。
「ちびの分も同じところに書いてみるか…」
「出してなかったの?」
「もらえると思ってなかったから。なんだかんだ、ちょっと嬉しい」
雑煮をテーブルに運んだところで年賀状を渡す。
「今年もよろしく、桜良」
「…毎年律儀ね」
「そういう桜良もでしょ?」
俺たちはお互い直接渡し合うことにしている。
帰れる家と呼べる場所がなくて独り暮らしの俺たちは、会うことで安心しているところがあるから…かもしれない。
そう思っているのは俺だけじゃないって自惚れてもいいだろうか。
「冷めないうちに食べよう」
「いただきます。…今年のお餅、柔らかい」
「ほんとだ、よく伸びる…」
こんなふうに何気ない時間を過ごせるのは嬉しい。
穏やかな時間なんて滅多にないから。
「桜良、初売りは、」
「いい。通販で注文したから」
三ヶ日に死んだことがないのは、こうやって出かけなくていいように桜良が気を遣ってくれているからだ。
桜良の分なら買い物にだっていくらでも付き合うのに、毎年通販で注文したからと出掛けるのを断られる。
「いつもありがとう」
「お礼を言われるようなことなんてしてない」
「相変わらずツンデレだな…。もしかして、本当は照れてる?」
「そういうわけじゃない」
そんなことを言いつつ、お椀を洗い終わった桜良はすぐクッションで顔を隠してしまった。
…どうして俺の彼女はこんなに可愛いんだろう。
「じゃあ、いつもみたいに花札でもする?それとも、この福袋開けるとか」
「それ…」
何が入っているかは分からないお楽しみ袋みたいなもので、可愛いものが多めに入っているとされているものを取り寄せてみた。
「見てるだけのつもりが買っちゃってたんだ。だから、もしよかったらもらってくれない?
俺が使うには可愛すぎるものもあるだろうし…」
「…ありがとう」
「え?なんのこと?」
中に入っているもののうち、十字架がついたネックレスやペンは使えそうなのでもらうことにした。
残りのもの…特にもふもふのケープなんて俺には似合わない。
「本当にいいの?」
「うん。好きなように使って」
「…相変わらず、気遣い上手ね」
桜良が笑ってくれればそれでいい。
その隣で俺も笑っていられれば…なんて願いながら、何より大切なものを抱き寄せる。
先輩たちも護りながら、穏やかな時間を過ごせればいい。
日が沈みはじめるのとほぼ同時に、ふたりで残りの袋を開けた。
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