夜紅の憲兵姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
141 / 302
閑話『冬の過ごし方』

『三者三様』

しおりを挟む
「相変わらず律儀だな…」
「どうかしたの?」
ポストを見た俺に桜良が問いかける。
入っていた3枚の葉書を見せながら話した。
「年賀状、毎年送ってくれるんだ。桜良も住所聞かれたでしょ?」
「入ってた」
「そっか…って、え、3枚!?」
「どうしてそんなに驚いているの?」
2枚なら分かる。一昨年くらいから恒例になっている詩乃先輩と、毎年何故か俺の担任になる室星先生からだ。
3枚目は誰だろう…なんて思いながら見てみると、達筆な文字が並んでいた。
【今年もよろしくね。あんまり死なないように、元気で過ごせますように】
「え、ちび!?」
「…そういえば、あの子が先生にキャラメルと交換で住所を教えてほしいと話していたわ」
直接聞いてくれれば教えたのに…なんて言わないけど、こんなに綺麗な字が書けるのは知らなかった。
詩乃先輩のは可愛らしいイラストが添えられていて、先生のは干支のスタンプが押されていて…ちびのは書道のお手本みたいな字の周りにシールが貼られている。
「…私のところにきてる」
「よかったね」
多分桜良には他の人から年賀状をもらうという経験がない。
先輩も先生もちびも、リサーチしたうえで送ってくれたのだろう。
「返事、どんなことを書こうかな」
その声はいつもより嬉しそうだ。
それから俺の部屋に移動して、毎年恒例になっていることの準備をした。
「雑煮完成!返事書けた?」
「先生への住所って、どうすればいいの?」
「何故かこの住所を書いておくて先生の手元に届いてるんだ。もしかすると運び屋か友だちの家なのかも?」
今年に入って初めて知ったけど、先生は怪異で特殊な結界みたいな場所で暮らしている。
どうして毎年教えてもらった住所宛に書くと届いているのか不思議だ。
「ちびの分も同じところに書いてみるか…」
「出してなかったの?」
「もらえると思ってなかったから。なんだかんだ、ちょっと嬉しい」
雑煮をテーブルに運んだところで年賀状を渡す。
「今年もよろしく、桜良」
「…毎年律儀ね」
「そういう桜良もでしょ?」
俺たちはお互い直接渡し合うことにしている。
帰れる家と呼べる場所がなくて独り暮らしの俺たちは、会うことで安心しているところがあるから…かもしれない。
そう思っているのは俺だけじゃないって自惚れてもいいだろうか。
「冷めないうちに食べよう」
「いただきます。…今年のお餅、柔らかい」
「ほんとだ、よく伸びる…」
こんなふうに何気ない時間を過ごせるのは嬉しい。
穏やかな時間なんて滅多にないから。
「桜良、初売りは、」
「いい。通販で注文したから」
三ヶ日に死んだことがないのは、こうやって出かけなくていいように桜良が気を遣ってくれているからだ。
桜良の分なら買い物にだっていくらでも付き合うのに、毎年通販で注文したからと出掛けるのを断られる。
「いつもありがとう」
「お礼を言われるようなことなんてしてない」
「相変わらずツンデレだな…。もしかして、本当は照れてる?」
「そういうわけじゃない」
そんなことを言いつつ、お椀を洗い終わった桜良はすぐクッションで顔を隠してしまった。
…どうして俺の彼女はこんなに可愛いんだろう。
「じゃあ、いつもみたいに花札でもする?それとも、この福袋開けるとか」
「それ…」
何が入っているかは分からないお楽しみ袋みたいなもので、可愛いものが多めに入っているとされているものを取り寄せてみた。
「見てるだけのつもりが買っちゃってたんだ。だから、もしよかったらもらってくれない?
俺が使うには可愛すぎるものもあるだろうし…」
「…ありがとう」
「え?なんのこと?」
中に入っているもののうち、十字架がついたネックレスやペンは使えそうなのでもらうことにした。
残りのもの…特にもふもふのケープなんて俺には似合わない。
「本当にいいの?」
「うん。好きなように使って」
「…相変わらず、気遣い上手ね」
桜良が笑ってくれればそれでいい。
その隣で俺も笑っていられれば…なんて願いながら、何より大切なものを抱き寄せる。
先輩たちも護りながら、穏やかな時間を過ごせればいい。
日が沈みはじめるのとほぼ同時に、ふたりで残りの袋を開けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...