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第15章『奪われかけの聖夜』
第108話
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「どうしたんですか、いきなり会議なんて…」
夕方、バイト終わりにみんなに連絡しておいた。
集まってくれていた面々は首を傾げている。
それはそうだろう。こんな事態、誰も想定していない。
「今学園内で流行ってる噂について、ちょっと共有しておきたいことがある」
「共有?」
全員の視線が一気に集まるのを感じながら、まず結論から言うことにした。
「…今回の件、犯人はふたりいる」
「どういうことだ?」
「はじめは分身を疑ったんだ。けど…同じ時間、全く別の場所で発生してる」
佐藤麻里奈はいきなり尋ねたにも関わらず、素直に答えてくれた。
その日時と桜良のノートを照らし合わせたところ、明らかに出現不可能であることが分かったのだ。
「けど、分身の可能性もありますよね?」
「…今日、副校長からお菓子をもらうときに情報共有をお願いされた」
「それってつまり、本当にやばい奴と鉢合わせた生徒がいるってことですか?」
「私はそう考えてる。犯人を捕まえろなんて無茶は言わないって言ってたから」
副校長がただの噂だと目を潰れないほどの何かがおこっている可能性が高い。
視えるわけではない人間から頼まれたそれは、怪異案件以外のものだろう。
「もし生きてる方と遭遇したら逃げろ。…特に桜良は危ない」
普段のように能力を使えるなら相手を落ち着かせるくらいはできるかもしれないが、声が出ない状態でただの女子生徒が屈強な人間と戦うのは難しい。
「桜良に伝えときます」
「頼む。陽向はできるだけ桜良の側を離れないように」
「了解です。…で、今夜の見回りはどうしますか?」
「先生、今日は宿直室にいるんだろ?もし人間のやばい方が来たら行ってもいいかな?」
先生は頭を掻きながらゆっくり頷いた。
「色々準備しておく」
「僕も手伝うよ。生きてる人間相手じゃできることは限られるけど、悪い人は捕まえなくちゃ」
瞬はなんだかいつもより楽しそうな声でそう話す。
悪い人間を相手する可能性があることに、怖さを感じていないのだろうか。
「流石に夜の学園内だと狙えないだろうから、今夜探すのはブラックサンタの噂だな」
「早く見つけてカップルブレイカーをやっつけましょう!」
「そうだな」
どちらにも共通しているのがカップルを憎んでいるという点だが、恐らく生きている人間が現れるのは生徒会主催のクリスマスイベントだろう。
この学園は数年前の生徒会が作りあげた催し物が沢山残っている。
今の校長になって何度か潰されそうになっているものの、なんとか今の生徒会が踏ん張っていると聞いた。
「…折原、くれぐれも無茶はするなよ」
「杖が壊れない程度にしておくよ」
監査室を出ると、定時制の生徒たちが楽しそうに話す声が聞こえてくる。
監査部メンバーを見つけたかったものの、そんな場合ではなくなってしまった。
「俺がやりますね」
「え?」
目の前から迫ってきた妖に陽向が重いパンチを喰らわせる。
《美味しイモの、食べたカッたノに…》
こちらを恨めしそうに睨みつけ、ダメージを負った体で消えていく。
学園内で負の感情が溜まりやすくなっているのか、最近怪異や妖が増えたような気がする。
「平気か?」
「大丈夫です。先輩こそ怪我してませんか?」
「何もなかった」
流石に小物を撒いた程度のことで倒れたりはしない。
ただ、これだけ数が多いと瞬や桜良が襲われないか心配だ。
「…先輩、あれ」
指さされた方向を見ると、そこには真っ黒な袋がごそごそ動いていくのが目に入った。
「あれってもしかして、ブラックサンタの…」
「ですね。中に人が入ってるとかじゃなければいいけど…追いかけます?」
「そうだな」
ゆっくりしか歩けない私に歩幅をあわせてくれる陽向に感謝しつつ、きっと他の人間には視えていない袋を追いかける。
だが、廊下を曲がったところで相手の姿が消えた。
「見失いましたね…」
「…ただ見失っただけならよかったんだけどな」
「え?」
その先は行き止まりで、どう考えても通り抜けることはできない。
陽向は顔を青くして私を見つめた。
「私は大丈夫だから、桜良のところへ行ってこい」
「はい!」
陽向の足ならブラックサンタがどれだけ速くても間に合うだろう。
私は放送室へ向かう前に真っ直ぐ宿直室へ向かった。
夕方、バイト終わりにみんなに連絡しておいた。
集まってくれていた面々は首を傾げている。
それはそうだろう。こんな事態、誰も想定していない。
「今学園内で流行ってる噂について、ちょっと共有しておきたいことがある」
「共有?」
全員の視線が一気に集まるのを感じながら、まず結論から言うことにした。
「…今回の件、犯人はふたりいる」
「どういうことだ?」
「はじめは分身を疑ったんだ。けど…同じ時間、全く別の場所で発生してる」
佐藤麻里奈はいきなり尋ねたにも関わらず、素直に答えてくれた。
その日時と桜良のノートを照らし合わせたところ、明らかに出現不可能であることが分かったのだ。
「けど、分身の可能性もありますよね?」
「…今日、副校長からお菓子をもらうときに情報共有をお願いされた」
「それってつまり、本当にやばい奴と鉢合わせた生徒がいるってことですか?」
「私はそう考えてる。犯人を捕まえろなんて無茶は言わないって言ってたから」
副校長がただの噂だと目を潰れないほどの何かがおこっている可能性が高い。
視えるわけではない人間から頼まれたそれは、怪異案件以外のものだろう。
「もし生きてる方と遭遇したら逃げろ。…特に桜良は危ない」
普段のように能力を使えるなら相手を落ち着かせるくらいはできるかもしれないが、声が出ない状態でただの女子生徒が屈強な人間と戦うのは難しい。
「桜良に伝えときます」
「頼む。陽向はできるだけ桜良の側を離れないように」
「了解です。…で、今夜の見回りはどうしますか?」
「先生、今日は宿直室にいるんだろ?もし人間のやばい方が来たら行ってもいいかな?」
先生は頭を掻きながらゆっくり頷いた。
「色々準備しておく」
「僕も手伝うよ。生きてる人間相手じゃできることは限られるけど、悪い人は捕まえなくちゃ」
瞬はなんだかいつもより楽しそうな声でそう話す。
悪い人間を相手する可能性があることに、怖さを感じていないのだろうか。
「流石に夜の学園内だと狙えないだろうから、今夜探すのはブラックサンタの噂だな」
「早く見つけてカップルブレイカーをやっつけましょう!」
「そうだな」
どちらにも共通しているのがカップルを憎んでいるという点だが、恐らく生きている人間が現れるのは生徒会主催のクリスマスイベントだろう。
この学園は数年前の生徒会が作りあげた催し物が沢山残っている。
今の校長になって何度か潰されそうになっているものの、なんとか今の生徒会が踏ん張っていると聞いた。
「…折原、くれぐれも無茶はするなよ」
「杖が壊れない程度にしておくよ」
監査室を出ると、定時制の生徒たちが楽しそうに話す声が聞こえてくる。
監査部メンバーを見つけたかったものの、そんな場合ではなくなってしまった。
「俺がやりますね」
「え?」
目の前から迫ってきた妖に陽向が重いパンチを喰らわせる。
《美味しイモの、食べたカッたノに…》
こちらを恨めしそうに睨みつけ、ダメージを負った体で消えていく。
学園内で負の感情が溜まりやすくなっているのか、最近怪異や妖が増えたような気がする。
「平気か?」
「大丈夫です。先輩こそ怪我してませんか?」
「何もなかった」
流石に小物を撒いた程度のことで倒れたりはしない。
ただ、これだけ数が多いと瞬や桜良が襲われないか心配だ。
「…先輩、あれ」
指さされた方向を見ると、そこには真っ黒な袋がごそごそ動いていくのが目に入った。
「あれってもしかして、ブラックサンタの…」
「ですね。中に人が入ってるとかじゃなければいいけど…追いかけます?」
「そうだな」
ゆっくりしか歩けない私に歩幅をあわせてくれる陽向に感謝しつつ、きっと他の人間には視えていない袋を追いかける。
だが、廊下を曲がったところで相手の姿が消えた。
「見失いましたね…」
「…ただ見失っただけならよかったんだけどな」
「え?」
その先は行き止まりで、どう考えても通り抜けることはできない。
陽向は顔を青くして私を見つめた。
「私は大丈夫だから、桜良のところへ行ってこい」
「はい!」
陽向の足ならブラックサンタがどれだけ速くても間に合うだろう。
私は放送室へ向かう前に真っ直ぐ宿直室へ向かった。
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