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第15章『奪われかけの聖夜』
第107話
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「桜良、おはよう」
「……」
桜良は一礼して温かい飲み物を用意してくれた。
随分と大きな術を使ったらしいというのは聞いているが、ここまで長く響くとなると心配だ。
「【慣れればもう少し早く治るようになるって先生が言ってました】」
「慣れが必要なものなのか」
ひとりだけどういったものを使ったのか知らないので、どう声をかければいいのか分からない。
「【早く治します】」
「ゆっくりでいい。桜良に負担がかからないようにするのか1番だ」
申し訳なさそうにしている桜良の頭を撫でながら、クリスマスにと用意していた猫模様のひざ掛け兼肩掛けを渡した。
「…?」
「クリスマス、デートするんだろ?まだ早いけど、先にプレゼントを渡しておこうと思ったんだ」
「【ありがとうございます。私からも、これ…】」
少し恥ずかしそうに手渡されたのは、可愛らしいラッピングがされたものだった。
「ありがとう。開けてみてもいいか?」
頷いたのを確認して中を見てみると、猫のマグカップとマスコットが入っていた。
「可愛らしいな。大切に使わせてもらうよ」
「…【友だちとこういうことをするのは初めてなので、とても嬉しいです】」
「私も初めてだ」
そう、初めてだ。…人間の友人とクリスマスプレゼントを贈りあうのは。
「最近おかしな噂が広まってるみたいだから、気をつけておいてくれ」
桜良はゆっくり頷き、あるノートを見せてくれる。
そこにはブラックサンタの目撃情報についてびっしり書きこまれていた。
「これ、全部調べたのか?」
「【陽向が調べてくれました】」
「ふたりで、だろ?ありがとう。助かるよ」
陽向の字はこんなに丸みを帯びていない。
それに、先程から筆談ノートに書かれている文字と同じだ。
「…ごめん、副校長に呼ばれてるからもう行くよ。紅茶、ごちそうさま」
「……」
ブレザーの袖を掴むのは、嫌なことを言われないか心配してくれているからだろう。
「大丈夫だよ。もうすぐ陽向が来るはずだし、副校長は私を差別しないから」
職員室という場所は大変不愉快だが仕方ない。
重い腰をあげ、そのまま目的地へ向かう。
他の教師の白い目にくぐり抜け、『第2管理職室』の扉をたたいた。
「失礼します」
「折原さん、待ってましたよ」
この人のことだ、今回呼び出されたのは去年と同じ理由だろう。
「いつもお務めご苦労さまです。クッキーなら溶けないだろうと思って、監査部の皆さんに差し入れです」
「ありがとうございます」
監査部のメンバーは教師から警戒されることが多い。
信頼関係を築けなくなることもあるので、先生からスカウトされても断る生徒がいるのも事実だ。
そんななか分け隔てなく接してくれるのは、室星先生と白井先生の他に白鷺副校長先生がいる。
「他の部活動のように集まれる機会はなかなかないでしょうが、みなさんにお疲れ様とお伝えください」
「了解しました。ありがとうございます」
「それと、もうひとつ。学園内で騒ぎになっている不審者について調べてほしいのです。
ああ、捕まえろとか無茶苦茶なことは言いません。ただ、情報があれば共有してほしいんです。お願いできますか?」
「分かりました。それでは、私はこれで失礼します」
毎年クリスマスになると、副校長の差し入れで監査部は盛り上がる。
監査室で自由に食べていいと書き置きをしたところで、ふと疑問に思った。
「…不審者ってどんな奴だ?」
ただの噂程度のことを副校長が気にするとは思えない。
ましてや、怪異関連の噂が流行るのなんて日常茶飯事なのだ。
何故今回は情報共有をと頼まれたんだろう。
桜良がまとめてくれたノートの目撃情報をまとめているうち、明らかにいつもと違うことに気づく。
「詩乃ちゃん、今…なんか、大変そうだね」
「ああ…ごめん。どうしたんだ、瞬?」
「ちょっと渡したいものがあったんだけど…どうしてそんなに難しい顔してるの?」
「他のみんなにも共有したいから、もう少し人が集まったら話すよ」
この違和感を放っておけば、冗談抜きで死人が出る。
そう考えると胸がざわついた。
「……」
桜良は一礼して温かい飲み物を用意してくれた。
随分と大きな術を使ったらしいというのは聞いているが、ここまで長く響くとなると心配だ。
「【慣れればもう少し早く治るようになるって先生が言ってました】」
「慣れが必要なものなのか」
ひとりだけどういったものを使ったのか知らないので、どう声をかければいいのか分からない。
「【早く治します】」
「ゆっくりでいい。桜良に負担がかからないようにするのか1番だ」
申し訳なさそうにしている桜良の頭を撫でながら、クリスマスにと用意していた猫模様のひざ掛け兼肩掛けを渡した。
「…?」
「クリスマス、デートするんだろ?まだ早いけど、先にプレゼントを渡しておこうと思ったんだ」
「【ありがとうございます。私からも、これ…】」
少し恥ずかしそうに手渡されたのは、可愛らしいラッピングがされたものだった。
「ありがとう。開けてみてもいいか?」
頷いたのを確認して中を見てみると、猫のマグカップとマスコットが入っていた。
「可愛らしいな。大切に使わせてもらうよ」
「…【友だちとこういうことをするのは初めてなので、とても嬉しいです】」
「私も初めてだ」
そう、初めてだ。…人間の友人とクリスマスプレゼントを贈りあうのは。
「最近おかしな噂が広まってるみたいだから、気をつけておいてくれ」
桜良はゆっくり頷き、あるノートを見せてくれる。
そこにはブラックサンタの目撃情報についてびっしり書きこまれていた。
「これ、全部調べたのか?」
「【陽向が調べてくれました】」
「ふたりで、だろ?ありがとう。助かるよ」
陽向の字はこんなに丸みを帯びていない。
それに、先程から筆談ノートに書かれている文字と同じだ。
「…ごめん、副校長に呼ばれてるからもう行くよ。紅茶、ごちそうさま」
「……」
ブレザーの袖を掴むのは、嫌なことを言われないか心配してくれているからだろう。
「大丈夫だよ。もうすぐ陽向が来るはずだし、副校長は私を差別しないから」
職員室という場所は大変不愉快だが仕方ない。
重い腰をあげ、そのまま目的地へ向かう。
他の教師の白い目にくぐり抜け、『第2管理職室』の扉をたたいた。
「失礼します」
「折原さん、待ってましたよ」
この人のことだ、今回呼び出されたのは去年と同じ理由だろう。
「いつもお務めご苦労さまです。クッキーなら溶けないだろうと思って、監査部の皆さんに差し入れです」
「ありがとうございます」
監査部のメンバーは教師から警戒されることが多い。
信頼関係を築けなくなることもあるので、先生からスカウトされても断る生徒がいるのも事実だ。
そんななか分け隔てなく接してくれるのは、室星先生と白井先生の他に白鷺副校長先生がいる。
「他の部活動のように集まれる機会はなかなかないでしょうが、みなさんにお疲れ様とお伝えください」
「了解しました。ありがとうございます」
「それと、もうひとつ。学園内で騒ぎになっている不審者について調べてほしいのです。
ああ、捕まえろとか無茶苦茶なことは言いません。ただ、情報があれば共有してほしいんです。お願いできますか?」
「分かりました。それでは、私はこれで失礼します」
毎年クリスマスになると、副校長の差し入れで監査部は盛り上がる。
監査室で自由に食べていいと書き置きをしたところで、ふと疑問に思った。
「…不審者ってどんな奴だ?」
ただの噂程度のことを副校長が気にするとは思えない。
ましてや、怪異関連の噂が流行るのなんて日常茶飯事なのだ。
何故今回は情報共有をと頼まれたんだろう。
桜良がまとめてくれたノートの目撃情報をまとめているうち、明らかにいつもと違うことに気づく。
「詩乃ちゃん、今…なんか、大変そうだね」
「ああ…ごめん。どうしたんだ、瞬?」
「ちょっと渡したいものがあったんだけど…どうしてそんなに難しい顔してるの?」
「他のみんなにも共有したいから、もう少し人が集まったら話すよ」
この違和感を放っておけば、冗談抜きで死人が出る。
そう考えると胸がざわついた。
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