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第15章『奪われかけの聖夜』
第106話
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「先輩、おはようございます!」
「おはよう。相変わらず朝から元気だな」
監査室に入った陽向は、いつもより機嫌良さげに見える。
「何かいいことでもあったのか?」
「桜良とクリスマスデートするんです!もう約束取り付けちゃいました」
「そうか。そういえばそんな時期だな」
穂乃が見ていたカタログは把握している。
印をつけることも多いので、欲しいものが何かも大体見当をつけられるだろう。
「先輩は穂乃ちゃんと過ごすんですか?」
「穂乃に予定がなければそうしようと思ってる。この足じゃ遠出は厳しいだろうから、行けてレストランが限界か」
「大事な人との時間があるってやっぱいいですね」
「そうだな」
それが決して当たり前ではないことを、私たちはよく知っている。
だからこそ、こうして穏やかな日常を満喫できるのはとても楽しい。
このまま何もおこらないよう願っていたが、そうはいかないようだ。
「ふたりとも、少しいいか?」
先生が深刻そうな顔をして入ってくるとき、考えられる理由はふたつ。
監査部が動かなければならないほど大きな生徒や教師間で問題がおきたときか、夜仕事案件が舞いこんできたときだ。
「先生、どうしたんですか?」
「…ブラックサンタって知ってるか?」
「悪い子のところに生ゴミとかお仕置きするためのプレゼントを持っていく奴だろ?」
「本来の意味ならそうなんだが、今年は学園内で全く別物の噂として流れている」
先生の話によると、黒いサンタクロース姿をしたピエロがカップルの前に現れるらしいというものだった。
「現れるだけならしばらく様子見でも大丈夫そうですね」
「…恋心を切り刻まれてしまうらしい」
「そんなことができるのか?」
「いる。実際、縁を結べる奴がここにいるだろ」
先生は肩の上に乗っていた黒猫を机に寝転がせ、小さく息を吐いた。
縁を結べる存在がいるなら、逆に断ち切る存在がいても不思議じゃない。
「おはよう結月。今日も省エネモードなんだな」
《こっちの方が人間たちに姿が見えて、観察しがいがあるのよ》
「クリスマスになると町にカップルが溢れるはずだ。部活によってはクリスマス会を早めにやるところもあるはずだし…様子見って訳にもいかないな」
私には恋愛感情というものが備わっていない。
これから先もこのままだろうが、知らないからこそ尊いものなんだろうと想像することはできる。
「何から調べます?」
「まずは目撃者を探したいところだな」
噂というものは時々いい加減で、誰も見ていないのにそんな気がするで話が広まってしまうことがある。
それだけ具体的に話が出てきているなら、ふはとりくらい遭遇した人間がいると信じたい。
「じゃあ俺、クラスで聞き込みしてきます」
「頼む。終業式までにカタをつけよう」
先生と陽向が教室に向かうのを確認してから杖を持つ。
「…恋愛電話、狙われたりしないか?」
《相手が余程自分に自信があるなら来るでしょうね。まあ、返り討ちにしてやるけど》
「相手の事情も探りたいところだな」
何故そんな格好をする必要があったのか、何故カップル限定で襲うのか…まだ分からないことだらけだ。
「教室に行ってくる。ホームルームくらいは出ておかないとまずいだろうから」
《気をつけなさい。今のあんた、いつもより美味しそうに見えてるだろうから》
「分かった」
妖の話をしているのか、生者以外全てについて言っているのか…どのみち忠告は素直に受け止めておくことにした。
ホームルーム中どこから情報を集めようか考えていたが、その必要はなくなったらしい。
「…ねえ、隣のクラスの佐藤がブラックサンタに会ったらしいよ。その場で別れさせられたって…」
「何それ、怖っ!今日午前で授業終わりだから彼氏とデートする予定だったんだけど、また今度にしてもらおうかな…」
「私も部活の先輩たちと買い出しがあるんだけど、付き合ってる人たちがいるから心配」
このクラスは本当に噂好きが多くてありがたい。
隣のクラスに佐藤はふたりいるが、恐らく近くの席のふたりと面識があるのはひとりだけだ。
午前の授業を半分さぼって監査部の資料を作り、時間はあっという間に帰りのホームルームが終わる。
できるだけ早歩きで目的の人物がいる場所まで向かい、なんとか引き止めた。
「佐藤麻里奈さん、だよな?ちょっと聞かせてほしい話があるんだ。いいかな?」
「おはよう。相変わらず朝から元気だな」
監査室に入った陽向は、いつもより機嫌良さげに見える。
「何かいいことでもあったのか?」
「桜良とクリスマスデートするんです!もう約束取り付けちゃいました」
「そうか。そういえばそんな時期だな」
穂乃が見ていたカタログは把握している。
印をつけることも多いので、欲しいものが何かも大体見当をつけられるだろう。
「先輩は穂乃ちゃんと過ごすんですか?」
「穂乃に予定がなければそうしようと思ってる。この足じゃ遠出は厳しいだろうから、行けてレストランが限界か」
「大事な人との時間があるってやっぱいいですね」
「そうだな」
それが決して当たり前ではないことを、私たちはよく知っている。
だからこそ、こうして穏やかな日常を満喫できるのはとても楽しい。
このまま何もおこらないよう願っていたが、そうはいかないようだ。
「ふたりとも、少しいいか?」
先生が深刻そうな顔をして入ってくるとき、考えられる理由はふたつ。
監査部が動かなければならないほど大きな生徒や教師間で問題がおきたときか、夜仕事案件が舞いこんできたときだ。
「先生、どうしたんですか?」
「…ブラックサンタって知ってるか?」
「悪い子のところに生ゴミとかお仕置きするためのプレゼントを持っていく奴だろ?」
「本来の意味ならそうなんだが、今年は学園内で全く別物の噂として流れている」
先生の話によると、黒いサンタクロース姿をしたピエロがカップルの前に現れるらしいというものだった。
「現れるだけならしばらく様子見でも大丈夫そうですね」
「…恋心を切り刻まれてしまうらしい」
「そんなことができるのか?」
「いる。実際、縁を結べる奴がここにいるだろ」
先生は肩の上に乗っていた黒猫を机に寝転がせ、小さく息を吐いた。
縁を結べる存在がいるなら、逆に断ち切る存在がいても不思議じゃない。
「おはよう結月。今日も省エネモードなんだな」
《こっちの方が人間たちに姿が見えて、観察しがいがあるのよ》
「クリスマスになると町にカップルが溢れるはずだ。部活によってはクリスマス会を早めにやるところもあるはずだし…様子見って訳にもいかないな」
私には恋愛感情というものが備わっていない。
これから先もこのままだろうが、知らないからこそ尊いものなんだろうと想像することはできる。
「何から調べます?」
「まずは目撃者を探したいところだな」
噂というものは時々いい加減で、誰も見ていないのにそんな気がするで話が広まってしまうことがある。
それだけ具体的に話が出てきているなら、ふはとりくらい遭遇した人間がいると信じたい。
「じゃあ俺、クラスで聞き込みしてきます」
「頼む。終業式までにカタをつけよう」
先生と陽向が教室に向かうのを確認してから杖を持つ。
「…恋愛電話、狙われたりしないか?」
《相手が余程自分に自信があるなら来るでしょうね。まあ、返り討ちにしてやるけど》
「相手の事情も探りたいところだな」
何故そんな格好をする必要があったのか、何故カップル限定で襲うのか…まだ分からないことだらけだ。
「教室に行ってくる。ホームルームくらいは出ておかないとまずいだろうから」
《気をつけなさい。今のあんた、いつもより美味しそうに見えてるだろうから》
「分かった」
妖の話をしているのか、生者以外全てについて言っているのか…どのみち忠告は素直に受け止めておくことにした。
ホームルーム中どこから情報を集めようか考えていたが、その必要はなくなったらしい。
「…ねえ、隣のクラスの佐藤がブラックサンタに会ったらしいよ。その場で別れさせられたって…」
「何それ、怖っ!今日午前で授業終わりだから彼氏とデートする予定だったんだけど、また今度にしてもらおうかな…」
「私も部活の先輩たちと買い出しがあるんだけど、付き合ってる人たちがいるから心配」
このクラスは本当に噂好きが多くてありがたい。
隣のクラスに佐藤はふたりいるが、恐らく近くの席のふたりと面識があるのはひとりだけだ。
午前の授業を半分さぼって監査部の資料を作り、時間はあっという間に帰りのホームルームが終わる。
できるだけ早歩きで目的の人物がいる場所まで向かい、なんとか引き止めた。
「佐藤麻里奈さん、だよな?ちょっと聞かせてほしい話があるんだ。いいかな?」
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