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第14章『生死の花嫁』
番外篇『弔い』
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「折原」
「ごめん。倒れるほど無理をするつもりじゃなかったんだ」
先生の静かな怒りを感じて思わず後退る。
だが、手負いの体では先生から逃げるなんてことはできなかった。
「…今度は壊さないように気をつけろ。体も、杖も」
いつの間に新しいものを用意してくれていたのか、先生はむすっとした表情のまま手渡してくれた。
なんだかんだ、先生はいつも優しい。
「ありがとう。大切にする」
先生のすぐ後ろで折れた杖が傷を負って鎮座しているのが目に入り、心の中でごめんと呟く。
傷をつけずに戦える方法を模索していこうと密かに決め、もうバスがなく帰れないので監査室に泊まることにした。
「詩乃ちゃん」
「瞬…手伝ってくれてありがとう」
学園内を護るため、おかしなものがいたら倒してほしいとお願いしておいたのだ。
その結果、先生の協力もあって上手くいったんだと思う。
「ここで寝たら体壊すよ?そこにそうなった人がいるから…こっち」
「え?」
瞬に手を引かれたとき、すれ違いざまに先生の苦い表情を確認した。
知られていたなんて、と考えていそうだ。
エスコートしてもらって辿り着いたのは、瞬の部屋の扉の前だった。
「ここならベッドがあるし、ある程度快適に過ごせると思うよ」
「けど、瞬はどうするんだ?」
「先生と夜ふかし…?まあ、詩乃ちゃんなら部屋を荒らすことはないだろうから、鍵を閉めておくね」
「ちょっと待、」
「おやすみ」
扉が閉じられ、がちゃりという音が大きく響く。
中から開けようにもそれらしい場所がない。
星々が今にも降ってきそうな部屋で、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
可愛らしいマスコットや星座の本、お菓子…ここでちゃんと生きているんだと安心する。
ベッドに横になったまま、そのまま寝てしまっていた。
翌日、着の身着のままある場所へ向かう。
「え、この花でブーケを作るの?」
「はい。お願いしてもいいですか?」
「勿論。折原さんにはいつもお世話になってるからね」
バイト先のひとつである花屋で、シフトをこなしながらブーケを3つ頼んだ。
本当はそんな数じゃ全然足りてないだろうけど、何かしないと気がすまない。
仕事終わり、バスに揺られながらふと窓を見る。
そこに写りこんでいたのは、明らかに生者ではない何かだった。
《どこ…どこにイるの……》
まだ完全な悪霊とまではいかないが、このまま放っておいても大丈夫だろうか。
声をかけようとしたところで学園近くに着いてしまい、結局そのまま降りることにした。
……そして月が真上にのぼる頃、私はひとり枯れ井戸跡の前に立つ。
どうしてとか赦せないとか、恐らく贄にされた少女たちの声がはっきり聞こえていたから。
花を備え、両手を合わせる。
目を閉じようとしたところで後ろから声をかけられた。
「詩乃ちゃん、また学校に来てたの?」
「ちょっとやりたいことがあってな」
瞬は私が備えた花を見つけて、その横にマシュマロを並べて両手を合わせた。
犠牲になったという意味では瞬も似たようなものだ。
ふたりでしばらく祈り、その場をゆっくり離れる。
「なんでマシュマロを持ってたんだ?」
「昔から好きなんだ。先生が多めに買ってきてくれたから、あの人たちにもおすそ分け!」
「そうか」
「詩乃ちゃんは弔い?」
「弔いと感謝かな。あの人たちのおかげで今風習がなくなって、しかもこの町を護ってくれてるわけだろ?
本来ならもっとちゃんとお礼を言いたかったんだけど、それはできないから…せめて気持ちだけでも伝えたかった」
これが気休めだとしても、ずっと陰で支えてくれている少女たちの…特に、菘に感謝を伝えたい。
そして私は、今日も救えなかった人たちのことを忘れず生きていく。
「詩乃ちゃんも一緒にお菓子食べよう。先生、いつものキャラメルがなかったからって拗ねて大量のお菓子を買い込んだらしいんだ」
「今日はお泊り会で穂乃は友だちと仲良くやってるだろうし、お邪魔させてもらおうかな」
そよそよと優しい風が吹く。
いつもの凍りつくような冷たさは感じなくて、寧ろ温かいような気がした。
「ごめん。倒れるほど無理をするつもりじゃなかったんだ」
先生の静かな怒りを感じて思わず後退る。
だが、手負いの体では先生から逃げるなんてことはできなかった。
「…今度は壊さないように気をつけろ。体も、杖も」
いつの間に新しいものを用意してくれていたのか、先生はむすっとした表情のまま手渡してくれた。
なんだかんだ、先生はいつも優しい。
「ありがとう。大切にする」
先生のすぐ後ろで折れた杖が傷を負って鎮座しているのが目に入り、心の中でごめんと呟く。
傷をつけずに戦える方法を模索していこうと密かに決め、もうバスがなく帰れないので監査室に泊まることにした。
「詩乃ちゃん」
「瞬…手伝ってくれてありがとう」
学園内を護るため、おかしなものがいたら倒してほしいとお願いしておいたのだ。
その結果、先生の協力もあって上手くいったんだと思う。
「ここで寝たら体壊すよ?そこにそうなった人がいるから…こっち」
「え?」
瞬に手を引かれたとき、すれ違いざまに先生の苦い表情を確認した。
知られていたなんて、と考えていそうだ。
エスコートしてもらって辿り着いたのは、瞬の部屋の扉の前だった。
「ここならベッドがあるし、ある程度快適に過ごせると思うよ」
「けど、瞬はどうするんだ?」
「先生と夜ふかし…?まあ、詩乃ちゃんなら部屋を荒らすことはないだろうから、鍵を閉めておくね」
「ちょっと待、」
「おやすみ」
扉が閉じられ、がちゃりという音が大きく響く。
中から開けようにもそれらしい場所がない。
星々が今にも降ってきそうな部屋で、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
可愛らしいマスコットや星座の本、お菓子…ここでちゃんと生きているんだと安心する。
ベッドに横になったまま、そのまま寝てしまっていた。
翌日、着の身着のままある場所へ向かう。
「え、この花でブーケを作るの?」
「はい。お願いしてもいいですか?」
「勿論。折原さんにはいつもお世話になってるからね」
バイト先のひとつである花屋で、シフトをこなしながらブーケを3つ頼んだ。
本当はそんな数じゃ全然足りてないだろうけど、何かしないと気がすまない。
仕事終わり、バスに揺られながらふと窓を見る。
そこに写りこんでいたのは、明らかに生者ではない何かだった。
《どこ…どこにイるの……》
まだ完全な悪霊とまではいかないが、このまま放っておいても大丈夫だろうか。
声をかけようとしたところで学園近くに着いてしまい、結局そのまま降りることにした。
……そして月が真上にのぼる頃、私はひとり枯れ井戸跡の前に立つ。
どうしてとか赦せないとか、恐らく贄にされた少女たちの声がはっきり聞こえていたから。
花を備え、両手を合わせる。
目を閉じようとしたところで後ろから声をかけられた。
「詩乃ちゃん、また学校に来てたの?」
「ちょっとやりたいことがあってな」
瞬は私が備えた花を見つけて、その横にマシュマロを並べて両手を合わせた。
犠牲になったという意味では瞬も似たようなものだ。
ふたりでしばらく祈り、その場をゆっくり離れる。
「なんでマシュマロを持ってたんだ?」
「昔から好きなんだ。先生が多めに買ってきてくれたから、あの人たちにもおすそ分け!」
「そうか」
「詩乃ちゃんは弔い?」
「弔いと感謝かな。あの人たちのおかげで今風習がなくなって、しかもこの町を護ってくれてるわけだろ?
本来ならもっとちゃんとお礼を言いたかったんだけど、それはできないから…せめて気持ちだけでも伝えたかった」
これが気休めだとしても、ずっと陰で支えてくれている少女たちの…特に、菘に感謝を伝えたい。
そして私は、今日も救えなかった人たちのことを忘れず生きていく。
「詩乃ちゃんも一緒にお菓子食べよう。先生、いつものキャラメルがなかったからって拗ねて大量のお菓子を買い込んだらしいんだ」
「今日はお泊り会で穂乃は友だちと仲良くやってるだろうし、お邪魔させてもらおうかな」
そよそよと優しい風が吹く。
いつもの凍りつくような冷たさは感じなくて、寧ろ温かいような気がした。
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