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閑話『冬の過ごし方』
『失声の歌姫と聖夜の行進』
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水の中でごぼごぼと音がするみたいに、1度周りが見えなくなると音が聞こえなくなる。
けれど、そんななかでもたったひとつ拾える音があるのだ。
「桜良」
どうしてあなたの煩い声は、いつも優しく私に届くの?
「桜良?桜良さん?」
「ごめんなさい。少しぼうっとしていた」
「それならいいけど、病み上がりなんだし無理しないようにね」
今日は陽向との約束どおり、町でデートをしている。
体調が悪いんじゃないかと心配させたくなくて、町へ行こうと言われても断れなかった。
陽向は何度もちらちら私を見ていて、気にかけてくれているのだと理解する。
「この辺なら多分人がいないと思うんだけど…ほら、やっぱり」
また声が出なくなってしまった私と一緒にいても楽しくないだろうに、陽向はそんなこと気にしてないみたいに話しかけてくる。
「買い物するよりただ歩くくらいがいいかな?今のところは…入りたい店があったら言ってね」
「……」
「あのツリー、去年のより大きい?今年も飾りつけさせてもらえたりするのかな?」
「……」
「行ってみようか」
小さく頷いた私を見て、腕を引っ張って歩き出す。
どうしてあなたは、いつもそんなに楽しそうな顔で私の隣を歩いてくれるの?
あなたを苦しめているのはいつだって私なのに…今日だってそう。
本当は知っている。クラスの人たちの誘いを断ってデートしてくれていることを。
「桜良?」
「…【行ってきてもよかったのに】」
私と違って色々な人から頼りにされて、多分私が知らないところで友だちだっているはずだ。
勿論一緒にいたいけれど、負担になりたいわけじゃない。
陽向は何かを察したのか、ふっと笑ってさっきより強く腕を引っ張って歩きながら話しはじめた。
「俺、あのクラスの雰囲気苦手なんだよね。ぎすぎすしてるっていうか、なんていうか…。
それに、クラスメイトより恋人とふたりきりで過ごせる時間の方が圧倒的に足りてないし。俺はただ、桜良がいてくれればそれでいいんだ」
優しい言葉ではあるけれど、もっと自由に生きてほしいなんて言ったら怒られてしまうだろうか。
「お、やっぱり飾りつけできるみたいだ。桜良はどのオーナメントにする?」
「……」
星が描かれたものを手に取ると、陽向はそれの色違いを掴んだ。
「俺もこれにしようと思ってたんだ。以心伝心ってやつかな?」
「……」
「そんなに呆れた顔しなくてもいいのに…それとも照れてる?」
耳許でそんなことを言われて、恥ずかしくならないはずがない。
しばらくツリーを見上げていたけれど、そろそろ戻ろうという話になってマンションの一室に戻った。
「いやあ、隣の部屋空いててよかった」
最近、陽向が部屋のの契約更新になるからと私の部屋の隣に引っ越してきた。
はじめは驚いたけれど、今はなんとなく一緒に過ごす時間も増えてきて嬉しい。
「今夜はこっちに泊まっていいの?」
首を縦にふると、陽向は何故かガッツポーズをしていた。
疑問に思っていると、彼は無邪気に笑う。
「だって、一緒にいられる時間が増えるってことになるから。それに…こうやってくっつけるしね」
コートを脱いだ私を陽向は優しく包みこむように抱きしめる。
「ケーキも用意してきたけど、やっぱり先にこっちかな」
耳に冷たい指が触れてくすぐったい。
なんとか堪えていると、少しして陽向が満足げに笑った。
「はい、おそろい!」
自分の耳を触ってみたら、何か固いものが指先に当たる。
イヤーカフというものだろうか。
普段陽向がつけているのは金色のもので、鏡に写った自分の耳には銀色のものがついている。
完全にタイミングの逃していたけれど、今なら渡せるだろうか。
「……」
「これ、俺に?」
「【開けてみて】」
中にはマフラーとハンカチを入れておいたけれど、気に入ってもらえ…たらしい。
「ありがとう。大事にする!」
「……【ありがとう。楽しかった】」
「また今度、ゆっくり外を見て回ろうね」
なんだか恥ずかしくなって、小さく頷くことしかできない。
「今夜はどうやって過ごそうか」
毎年のように繰り返される会話と、事前に用意しておいた料理の数々。
噂によって消えかけていた聖夜の灯火は戻ってきたし、私も今すごく楽しんでいる。
「桜良」
それからゆっくりケーキを食べて、音楽を聴いて…いつもより心温まる時間を過ごしたのだった。
けれど、そんななかでもたったひとつ拾える音があるのだ。
「桜良」
どうしてあなたの煩い声は、いつも優しく私に届くの?
「桜良?桜良さん?」
「ごめんなさい。少しぼうっとしていた」
「それならいいけど、病み上がりなんだし無理しないようにね」
今日は陽向との約束どおり、町でデートをしている。
体調が悪いんじゃないかと心配させたくなくて、町へ行こうと言われても断れなかった。
陽向は何度もちらちら私を見ていて、気にかけてくれているのだと理解する。
「この辺なら多分人がいないと思うんだけど…ほら、やっぱり」
また声が出なくなってしまった私と一緒にいても楽しくないだろうに、陽向はそんなこと気にしてないみたいに話しかけてくる。
「買い物するよりただ歩くくらいがいいかな?今のところは…入りたい店があったら言ってね」
「……」
「あのツリー、去年のより大きい?今年も飾りつけさせてもらえたりするのかな?」
「……」
「行ってみようか」
小さく頷いた私を見て、腕を引っ張って歩き出す。
どうしてあなたは、いつもそんなに楽しそうな顔で私の隣を歩いてくれるの?
あなたを苦しめているのはいつだって私なのに…今日だってそう。
本当は知っている。クラスの人たちの誘いを断ってデートしてくれていることを。
「桜良?」
「…【行ってきてもよかったのに】」
私と違って色々な人から頼りにされて、多分私が知らないところで友だちだっているはずだ。
勿論一緒にいたいけれど、負担になりたいわけじゃない。
陽向は何かを察したのか、ふっと笑ってさっきより強く腕を引っ張って歩きながら話しはじめた。
「俺、あのクラスの雰囲気苦手なんだよね。ぎすぎすしてるっていうか、なんていうか…。
それに、クラスメイトより恋人とふたりきりで過ごせる時間の方が圧倒的に足りてないし。俺はただ、桜良がいてくれればそれでいいんだ」
優しい言葉ではあるけれど、もっと自由に生きてほしいなんて言ったら怒られてしまうだろうか。
「お、やっぱり飾りつけできるみたいだ。桜良はどのオーナメントにする?」
「……」
星が描かれたものを手に取ると、陽向はそれの色違いを掴んだ。
「俺もこれにしようと思ってたんだ。以心伝心ってやつかな?」
「……」
「そんなに呆れた顔しなくてもいいのに…それとも照れてる?」
耳許でそんなことを言われて、恥ずかしくならないはずがない。
しばらくツリーを見上げていたけれど、そろそろ戻ろうという話になってマンションの一室に戻った。
「いやあ、隣の部屋空いててよかった」
最近、陽向が部屋のの契約更新になるからと私の部屋の隣に引っ越してきた。
はじめは驚いたけれど、今はなんとなく一緒に過ごす時間も増えてきて嬉しい。
「今夜はこっちに泊まっていいの?」
首を縦にふると、陽向は何故かガッツポーズをしていた。
疑問に思っていると、彼は無邪気に笑う。
「だって、一緒にいられる時間が増えるってことになるから。それに…こうやってくっつけるしね」
コートを脱いだ私を陽向は優しく包みこむように抱きしめる。
「ケーキも用意してきたけど、やっぱり先にこっちかな」
耳に冷たい指が触れてくすぐったい。
なんとか堪えていると、少しして陽向が満足げに笑った。
「はい、おそろい!」
自分の耳を触ってみたら、何か固いものが指先に当たる。
イヤーカフというものだろうか。
普段陽向がつけているのは金色のもので、鏡に写った自分の耳には銀色のものがついている。
完全にタイミングの逃していたけれど、今なら渡せるだろうか。
「……」
「これ、俺に?」
「【開けてみて】」
中にはマフラーとハンカチを入れておいたけれど、気に入ってもらえ…たらしい。
「ありがとう。大事にする!」
「……【ありがとう。楽しかった】」
「また今度、ゆっくり外を見て回ろうね」
なんだか恥ずかしくなって、小さく頷くことしかできない。
「今夜はどうやって過ごそうか」
毎年のように繰り返される会話と、事前に用意しておいた料理の数々。
噂によって消えかけていた聖夜の灯火は戻ってきたし、私も今すごく楽しんでいる。
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