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第13章『まどろみさんと具現化ノートの噂』
第96話
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うねうねと不自然な動きをする長い髪、動揺している表情…まどろみさんは伴田に向かって手をかざす。
私のすぐ後ろでソファーに向かってゆっくり倒れる音がした。
《どうしてこの楽園から出ていこうとするの?》
「私はおまえの話が聞きたくて来たんだ。人間を殺さなかったってことは、食事用に集めたわけじゃないんだろ?
それならどうして次々人間を攫っていくのか知りたいと思った」
誰かにとっての安らぎを簡単に壊してしまえばいいとは思えない。
《だって人間は愚かでしょう?すぐに他の人間を傷つける。そうなると、現実は辛すぎて耐えられない人間が何人が出てくる…。
それなら私はその子たちが望む世界を見せてあげたい。私みたいな思いをしなくてすむように》
「やっぱり死霊なんだな」
噂と融合されたのか、死んだ後身についていた能力なのかまでは分からない。
それでも、人々の悲しみを消し去りたいという想いはきっと本物だ。
《劣悪な環境、報われない努力、変えようがない絶望…私はただ、そういう人たちの想いを救いたいの。
私にとっては眠ることがそれだったから…あなたも苦しいんでしょう?だったらここで夢を見ればいい》
とんできたのは、見覚えのあるぬいぐるみ。
恐らく昔大切にしていたものに似ているものだ。
《あなたの大切は理不尽な人間たちに壊された。形見のうちのひとつだったのに、引きちぎられた》
「そんなこともあったな」
《助けを求めたら妹が危害をくわえられた。あの家の人たち最低》
「そういう人種なんだ。ただ、妹には申し訳なかったと思ってる」
神宮寺本家との苦い思い出の中に、穂乃への虐待という経験がある。
私に対してだけならともかく、あんなに理不尽な思いをさせるくらいなら二度と近づくつもりはない。
たまたま優しい性格のお母さんがいただけで、世界は私たちに優しくなかった。
…だから大人に期待するのをやめたんだ。
《だったら、ここで暮らした方が幸せになれるわ》
「…それは違う」
相手に悪気がないのは分かってる。
それでも私は相手を完全肯定するわけにはいかない。
「中学の頃の私ならその誘いにのったかもしれない。現実なんていらない、消えたいって思ってたから。
けど、今は現実が色鮮やかになったんだ。ここはたしかに休憩所としてはいい場所だけど、ずっと閉じ込められることが幸せだとは思わない」
放っておけない妹、一緒にいて楽しい仲間たち…大切なものを手に入れた今なら、現実だって怖くない。
《だってここにいれば、もう傷つけられないんだよ?》
「おまえは傷つけられてきたんだろうけど、ここに留まるか選ぶのはここにいる人間たちだ。
だから、閉じ込めるんじゃなくてみんなが笑顔でいられる場所を創るのはどうだろう」
《…あなたは私を消そうとしないのね》
「憩いの場が必要な人間だっているからな。けど…おまえはずっと寂しかったんだろうな」
もし自分が目の前の少女の立場なら、こうして抱きしめてほしい。
まどろみさんの目から涙がぽろぽろ零れ、そのまま強く抱きつかれた。
《この子たちも傷つけない、私も癒やされる…そういう場所がほしかったの。ごめんなさい》
「今ならまだやり直せる。この人たちを現実に帰してほしい。それから、また困っている人を見かけたら休ませてやってくれ。
この場所に救われた人が沢山いるはずだから」
《でも、上手くできないの》
まどろみさんが俯いた直後、ポケットからじじじと音がした。
『【こんな噂を知っていますか?…辛い現実、叶わぬ望み、それらから解放される癒しの空間があることを。
その場所にはとても寂しがり屋なまどろみさんという管理人が住んでいて……】』
いつから聞かれていたのだろう。
桜良の心地よい声が響くなか、まどろみさんは優しく微笑んだ。
《ありがとう。これで私も寂しくないわ》
周囲がきらきら光りだしたかと思うと、次の瞬間には広がっていた部屋がただの廊下に変わっていた。
倒れている人間たちも続々と起きていて、放っておいても大丈夫そうだ。
周囲の人間たちに声をかけず、空間が崩れる寸前のまどろみさんの言葉を思い出していた。
──もっと周りを頼っていいと思うの。でないと、あなたの心は今度こそ壊れてしまうだろうから。
私のすぐ後ろでソファーに向かってゆっくり倒れる音がした。
《どうしてこの楽園から出ていこうとするの?》
「私はおまえの話が聞きたくて来たんだ。人間を殺さなかったってことは、食事用に集めたわけじゃないんだろ?
それならどうして次々人間を攫っていくのか知りたいと思った」
誰かにとっての安らぎを簡単に壊してしまえばいいとは思えない。
《だって人間は愚かでしょう?すぐに他の人間を傷つける。そうなると、現実は辛すぎて耐えられない人間が何人が出てくる…。
それなら私はその子たちが望む世界を見せてあげたい。私みたいな思いをしなくてすむように》
「やっぱり死霊なんだな」
噂と融合されたのか、死んだ後身についていた能力なのかまでは分からない。
それでも、人々の悲しみを消し去りたいという想いはきっと本物だ。
《劣悪な環境、報われない努力、変えようがない絶望…私はただ、そういう人たちの想いを救いたいの。
私にとっては眠ることがそれだったから…あなたも苦しいんでしょう?だったらここで夢を見ればいい》
とんできたのは、見覚えのあるぬいぐるみ。
恐らく昔大切にしていたものに似ているものだ。
《あなたの大切は理不尽な人間たちに壊された。形見のうちのひとつだったのに、引きちぎられた》
「そんなこともあったな」
《助けを求めたら妹が危害をくわえられた。あの家の人たち最低》
「そういう人種なんだ。ただ、妹には申し訳なかったと思ってる」
神宮寺本家との苦い思い出の中に、穂乃への虐待という経験がある。
私に対してだけならともかく、あんなに理不尽な思いをさせるくらいなら二度と近づくつもりはない。
たまたま優しい性格のお母さんがいただけで、世界は私たちに優しくなかった。
…だから大人に期待するのをやめたんだ。
《だったら、ここで暮らした方が幸せになれるわ》
「…それは違う」
相手に悪気がないのは分かってる。
それでも私は相手を完全肯定するわけにはいかない。
「中学の頃の私ならその誘いにのったかもしれない。現実なんていらない、消えたいって思ってたから。
けど、今は現実が色鮮やかになったんだ。ここはたしかに休憩所としてはいい場所だけど、ずっと閉じ込められることが幸せだとは思わない」
放っておけない妹、一緒にいて楽しい仲間たち…大切なものを手に入れた今なら、現実だって怖くない。
《だってここにいれば、もう傷つけられないんだよ?》
「おまえは傷つけられてきたんだろうけど、ここに留まるか選ぶのはここにいる人間たちだ。
だから、閉じ込めるんじゃなくてみんなが笑顔でいられる場所を創るのはどうだろう」
《…あなたは私を消そうとしないのね》
「憩いの場が必要な人間だっているからな。けど…おまえはずっと寂しかったんだろうな」
もし自分が目の前の少女の立場なら、こうして抱きしめてほしい。
まどろみさんの目から涙がぽろぽろ零れ、そのまま強く抱きつかれた。
《この子たちも傷つけない、私も癒やされる…そういう場所がほしかったの。ごめんなさい》
「今ならまだやり直せる。この人たちを現実に帰してほしい。それから、また困っている人を見かけたら休ませてやってくれ。
この場所に救われた人が沢山いるはずだから」
《でも、上手くできないの》
まどろみさんが俯いた直後、ポケットからじじじと音がした。
『【こんな噂を知っていますか?…辛い現実、叶わぬ望み、それらから解放される癒しの空間があることを。
その場所にはとても寂しがり屋なまどろみさんという管理人が住んでいて……】』
いつから聞かれていたのだろう。
桜良の心地よい声が響くなか、まどろみさんは優しく微笑んだ。
《ありがとう。これで私も寂しくないわ》
周囲がきらきら光りだしたかと思うと、次の瞬間には広がっていた部屋がただの廊下に変わっていた。
倒れている人間たちも続々と起きていて、放っておいても大丈夫そうだ。
周囲の人間たちに声をかけず、空間が崩れる寸前のまどろみさんの言葉を思い出していた。
──もっと周りを頼っていいと思うの。でないと、あなたの心は今度こそ壊れてしまうだろうから。
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