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第13章『まどろみさんと具現化ノートの噂』
第92話
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嫌々授業に出席して3限目、近くの席の生徒たちがひそひそ話しはじめた。
「ねえ、まどろみさんって知ってる?」
「夢見心地な世界に連れていってくれるっていう、良さそうなやつ?」
「この学園のどこかにあるノートに名前と自分の理想を書いておくと、夢見心地になれるんだって」
「いいなあ…私もノート探してみようかな」
最悪の形で融合されていることは確認した。
次の授業は物理だから丁度いい。
「詩乃ちゃん、どうしたの?」
「先生に用があったんだけど、ご覧のとおり人気者だからな…」
「先生、今でもモテモテなんだね」
瞬の少し拗ねた様子が可愛らしくて、つい頭を撫でてしまう。
怒られると思ったのに、全く予想していなかった反応がかえってきた。
「詩乃ちゃんの手、温かいね」
「先生とは違うのか?」
「全然違うんよ。ひな君はぽかぽか太陽、詩乃ちゃんは静かな月、先生は1番ほっとするけど、どう表現したらいいのか分からない」
「…そうか。瞬は先生に撫でられるのが好きなんだな」
「うん。先生以外に褒めてもらえたこと、なかったから」
授業風景を見ていると生きていた頃を思い出すのかもしれない。
いつの間にか授業がはじまっていて、先生は瞬と小声で話す私をじっと見つめていた。
「まずは例題を解いてみよう。分からなかったら遠慮なく言ってくれ」
指示された部分だけ解いて瞬に向きなおる。
「…今、楽しいか?」
「うん!プリントを解いたり実験したり…なにより、先生が一緒だからね」
本当に楽しそうでよかったと思う。
そんな時間を壊すようなことはしたくないが、今の私は周りに手伝ってもらわないと問題を解決できそうにない。
「…まどろみさんの噂って知ってるか?」
「ちょっとだけなら。あの空き教室、時々人が来るんだ。休み時間になるといつも独りで色んなことをしてるみたい」
「その子が話していたのか?」
「うん。持ってるぬいぐるみに話しかけてた」
「そうか」
ぬいぐるみを持った生徒というのは数人いるはずだが、そのうち昼間制は3人ほどだったはずだ。
その中の誰かなのか、併修生なのか…何も分からなければ早急に探し出す必要があるかもしれない。
「今日の授業はここまで」
先生の声にはっとして顔をあげると、待っているようジェスチャーで伝えられた。
言われたとおり待ってみたものの、先生に話しかける生徒の列は途切れない。
ようやく落ち着いたところでひと息吐いていた。
「…監査室でいいか?」
「うん」
それからご飯を食べながら広まっている噂について話す。
先生は少し困った顔をしていたものの、最後まで聞いてくれた。
「まさかそんなことになってるとはな」
「うん。私も驚いたよ」
「ノートに書いたら絶対来て、書いていなかったとしても遭遇したら多分連れていかれるってこと?」
「そういう意味でいいんだと思う」
元々あった噂に、巻きこまれる条件がさらに追加されてしまうという最悪な状況…。
ただ、私にはまだ分からないことがあった。
「まどろみさんってどんな姿をしてるんだろう」
「僕は見たことないな…先生は?」
「恐らくない」
先生でさえ知らないなら、実際どんな姿をしているのかさえ分からないということだ。
ますます探しようがなくて困惑していると、大きな音を立てて戸が開かれた。
「やっぱりここにいた…」
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
陽向は息を切らしながらゆっくり話しはじめた。
「クラスメイトが、ひとり消えました。ノートに、名前書いたって話してた子がいて…悩んでるみたいだったって」
「他の人間は覚えているのか?」
「分かりません。話した子も委員会の仕事に行くって言って消えちゃったんです。美化委員の仕事は朝や休日のはずなのに…」
つまり、ふたりとも消えてしまった可能性があるということだ。
偶然だったとしても、証人ごと消し去るなんてなんて大胆なんだろう。
「夜仕事案件だな」
「先輩は帰ってください。怪我人が無理をするのは危ないです」
「そう言ってもらえるのはありがたいけど断る。…寧ろ今は少しでも動いていたい」
あの男について考えたくない。
そのためには、目の前のことに集中する以外の方法が思いつかなかった。
それに、独りだけ優雅に休んでいたくない。
陽向が授業を受けに行くのを見届け、監査室で杖を動かしながらまどろみさんについて考える。
そもそも何故まどろみさんはまどろみさんになる道を選んだんだろう。
それを知るためには、やはり1度会うしかない。
「ねえ、まどろみさんって知ってる?」
「夢見心地な世界に連れていってくれるっていう、良さそうなやつ?」
「この学園のどこかにあるノートに名前と自分の理想を書いておくと、夢見心地になれるんだって」
「いいなあ…私もノート探してみようかな」
最悪の形で融合されていることは確認した。
次の授業は物理だから丁度いい。
「詩乃ちゃん、どうしたの?」
「先生に用があったんだけど、ご覧のとおり人気者だからな…」
「先生、今でもモテモテなんだね」
瞬の少し拗ねた様子が可愛らしくて、つい頭を撫でてしまう。
怒られると思ったのに、全く予想していなかった反応がかえってきた。
「詩乃ちゃんの手、温かいね」
「先生とは違うのか?」
「全然違うんよ。ひな君はぽかぽか太陽、詩乃ちゃんは静かな月、先生は1番ほっとするけど、どう表現したらいいのか分からない」
「…そうか。瞬は先生に撫でられるのが好きなんだな」
「うん。先生以外に褒めてもらえたこと、なかったから」
授業風景を見ていると生きていた頃を思い出すのかもしれない。
いつの間にか授業がはじまっていて、先生は瞬と小声で話す私をじっと見つめていた。
「まずは例題を解いてみよう。分からなかったら遠慮なく言ってくれ」
指示された部分だけ解いて瞬に向きなおる。
「…今、楽しいか?」
「うん!プリントを解いたり実験したり…なにより、先生が一緒だからね」
本当に楽しそうでよかったと思う。
そんな時間を壊すようなことはしたくないが、今の私は周りに手伝ってもらわないと問題を解決できそうにない。
「…まどろみさんの噂って知ってるか?」
「ちょっとだけなら。あの空き教室、時々人が来るんだ。休み時間になるといつも独りで色んなことをしてるみたい」
「その子が話していたのか?」
「うん。持ってるぬいぐるみに話しかけてた」
「そうか」
ぬいぐるみを持った生徒というのは数人いるはずだが、そのうち昼間制は3人ほどだったはずだ。
その中の誰かなのか、併修生なのか…何も分からなければ早急に探し出す必要があるかもしれない。
「今日の授業はここまで」
先生の声にはっとして顔をあげると、待っているようジェスチャーで伝えられた。
言われたとおり待ってみたものの、先生に話しかける生徒の列は途切れない。
ようやく落ち着いたところでひと息吐いていた。
「…監査室でいいか?」
「うん」
それからご飯を食べながら広まっている噂について話す。
先生は少し困った顔をしていたものの、最後まで聞いてくれた。
「まさかそんなことになってるとはな」
「うん。私も驚いたよ」
「ノートに書いたら絶対来て、書いていなかったとしても遭遇したら多分連れていかれるってこと?」
「そういう意味でいいんだと思う」
元々あった噂に、巻きこまれる条件がさらに追加されてしまうという最悪な状況…。
ただ、私にはまだ分からないことがあった。
「まどろみさんってどんな姿をしてるんだろう」
「僕は見たことないな…先生は?」
「恐らくない」
先生でさえ知らないなら、実際どんな姿をしているのかさえ分からないということだ。
ますます探しようがなくて困惑していると、大きな音を立てて戸が開かれた。
「やっぱりここにいた…」
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
陽向は息を切らしながらゆっくり話しはじめた。
「クラスメイトが、ひとり消えました。ノートに、名前書いたって話してた子がいて…悩んでるみたいだったって」
「他の人間は覚えているのか?」
「分かりません。話した子も委員会の仕事に行くって言って消えちゃったんです。美化委員の仕事は朝や休日のはずなのに…」
つまり、ふたりとも消えてしまった可能性があるということだ。
偶然だったとしても、証人ごと消し去るなんてなんて大胆なんだろう。
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「そう言ってもらえるのはありがたいけど断る。…寧ろ今は少しでも動いていたい」
あの男について考えたくない。
そのためには、目の前のことに集中する以外の方法が思いつかなかった。
それに、独りだけ優雅に休んでいたくない。
陽向が授業を受けに行くのを見届け、監査室で杖を動かしながらまどろみさんについて考える。
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