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第12.5章『夜紅救出作戦』
第90.5話『襲来』
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「先生、材料って──」
ちびが部屋から出てきていた先生に声をかけようとしたところで、少し離れた場所から咆哮が聞こえた。
「…気のせいじゃなかったか」
「ひな君も気づいてたの?」
俺の思い違いだと思っていたかったけど、そういうわけにはいかないらしい。
「ちび、先生に蓬莱の玉の枝を先に返しとけ。それから、薬草も渡しておいて大丈夫だと思う。
あれは俺が引きつけておくから、後のこと頼むな」
「え、ひな君…!?」
取り敢えずちびと先生さえ逃がせれば先輩を起こせるはずだ。
桜良たちはもう帰ってるはずだし、ここで食い止められれば俺の勝ちってことになる。
《ぐああ!》
巨大な熊もどきは俺の後を追いはじめる。
ちょっと可哀想な気もするけど、ここで足を止めるわけにはいかない。
「森の匂いがするんだろ?そのまま俺についてこい!」
言葉が通じているかは分からないけど、相手は大きな体を動かして俺に向かって走ってくる。
広い場所で戦わないと被害が出てしまうかもしれない。
《ぐるる…》
「うわ!」
なんとか体育館まで先導したものの、大きな爪が肩に深く突き刺さっている。
…これは1回死ぬの確定だな。
けど、倒れている間に先輩たちのところに行かれるのは困る。
《まったく…人使いが荒すぎるのよ、あの不器用教師は》
いつの間にか足元にいた猫が人型形態になる。
その直後、光る箒で大熊の額を殴った。
「治療のために必要な薬草しか持ってきてないの。悪用するつもりなんてないから早く帰りなさい」
結月の力は恋愛電話関連だけだと思っていたのに、あんなに妖力できらきらした箒まで使えるとは思わなかった。
《ぐるる…》
「言葉が分からないの?さっさと帰りなさいって言ってるの」
大熊はしばらく動かなかったけど、やがて来た道を戻りはじめる。
「結月、桜良は…」
「心配しなくてもちゃんと帰ってるわよ」
「そっか……」
目の前がだんだん暗くなっていく。
そこに何もなかったように闇だけになって、これから死ぬんだと気づいた。
今日は死なないように頑張ろうと思ってたのに、上手くいかないな…なんて呑気なことを考えながら意識を手放す。
結月が俺を運ぶとなると、きっと重いんだろうな…。
次に目を開けたとき、視界いっぱいに桜良の顔が広がった。
「ごめん。俺また死んじゃったんだったな…気をつけないと」
「…馬鹿」
怒られても仕方ない。今回のは攻撃されるとよんでいなかった俺のミスだ。
「次から気をつけるよ」
「うん」
「そうだ、先輩は?」
「……」
桜良は無言で俺が寝かせられていたベッドとは反対方向を指さす。
そこには死んだように眠る先輩の姿があった。
「解毒剤は完成したんですよね?」
「ああ。おまえが時間を稼いでくれたおかげだ。…心配しなくても折原はもうすぐ起きる」
「よかった…」
これでもう穂乃ちゃんに嘘を吐き続けなくていい。
それに、先輩が無事で本当によかった。
「結月はあれの知り合いなの?」
「知り合いってわけじゃないわ。ただ、過去に持ち主がいて誰もいない場所になった場合、悪用されないように番人がいることがあるからその類だろうと思っただけ」
熊に襲われた経験さえないのに、先に番人に襲われることになるとは…ある意味ラッキーなのかもしれない。
「…今、何日?」
「詩乃ちゃん!」
先輩が体をゆっくり起こした直後、抱きつくようにちびが駆け寄った。
涙ぐむちびをなだめながら、こっちを向いた先輩と目があう。
「みんなに苦労させたみたいでごめん」
「次からはもう少し気をつけるように」
「うん。…そうするよ」
足の傷が深かったからか、立ちあがるだけでも大変そうだ。
力になりたくて立ちあがろうとすると、先生が片手杖を渡して症状を淡々と告げた。
「しばらく歩くときはこれを使うように。万能薬を使ったとはいえ、そう簡単に人間の傷は塞がらない」
「ありがとう」
先輩はあっという間に使いこなして、部屋中をぐるぐる歩いている。
「瞬、怖い思いをさせてごめん。あと、陽向たちもありがとう。私は仲間に恵まれたらしい」
にっこり笑ってそう言った先輩は、もうすっかり元気になったように見えた。
「…ごめん、今夜は帰ってもいいかな?穂乃が待ってるはずだから」
「穂乃ちゃんなら、俺の家でのんびり過ごしてもらってますよ」
こんなに早くかたがつくとは思っていなかった。
みんなやれやれという顔をしてるけど、ちゃんと目を覚ましてくれて安心しているのは分かる。
「詳しい話はまた明日ってことで…先輩、行きましょう!」
「そうだな」
八尋さんからの連絡内容と、俺が知らない先輩の話。
それらを照らしあわせたら嫌な現実が見えてくるかもしれない。
桜良に後で放送室に行くと連絡して、先輩の荷物を半分持つ。
これから先、また戦っていかないといけないと思うと少し苦しくなる。
だけど、怪異たちを放っておけない。
それに…俺だって先輩の力になりたいんだ。
ちびが部屋から出てきていた先生に声をかけようとしたところで、少し離れた場所から咆哮が聞こえた。
「…気のせいじゃなかったか」
「ひな君も気づいてたの?」
俺の思い違いだと思っていたかったけど、そういうわけにはいかないらしい。
「ちび、先生に蓬莱の玉の枝を先に返しとけ。それから、薬草も渡しておいて大丈夫だと思う。
あれは俺が引きつけておくから、後のこと頼むな」
「え、ひな君…!?」
取り敢えずちびと先生さえ逃がせれば先輩を起こせるはずだ。
桜良たちはもう帰ってるはずだし、ここで食い止められれば俺の勝ちってことになる。
《ぐああ!》
巨大な熊もどきは俺の後を追いはじめる。
ちょっと可哀想な気もするけど、ここで足を止めるわけにはいかない。
「森の匂いがするんだろ?そのまま俺についてこい!」
言葉が通じているかは分からないけど、相手は大きな体を動かして俺に向かって走ってくる。
広い場所で戦わないと被害が出てしまうかもしれない。
《ぐるる…》
「うわ!」
なんとか体育館まで先導したものの、大きな爪が肩に深く突き刺さっている。
…これは1回死ぬの確定だな。
けど、倒れている間に先輩たちのところに行かれるのは困る。
《まったく…人使いが荒すぎるのよ、あの不器用教師は》
いつの間にか足元にいた猫が人型形態になる。
その直後、光る箒で大熊の額を殴った。
「治療のために必要な薬草しか持ってきてないの。悪用するつもりなんてないから早く帰りなさい」
結月の力は恋愛電話関連だけだと思っていたのに、あんなに妖力できらきらした箒まで使えるとは思わなかった。
《ぐるる…》
「言葉が分からないの?さっさと帰りなさいって言ってるの」
大熊はしばらく動かなかったけど、やがて来た道を戻りはじめる。
「結月、桜良は…」
「心配しなくてもちゃんと帰ってるわよ」
「そっか……」
目の前がだんだん暗くなっていく。
そこに何もなかったように闇だけになって、これから死ぬんだと気づいた。
今日は死なないように頑張ろうと思ってたのに、上手くいかないな…なんて呑気なことを考えながら意識を手放す。
結月が俺を運ぶとなると、きっと重いんだろうな…。
次に目を開けたとき、視界いっぱいに桜良の顔が広がった。
「ごめん。俺また死んじゃったんだったな…気をつけないと」
「…馬鹿」
怒られても仕方ない。今回のは攻撃されるとよんでいなかった俺のミスだ。
「次から気をつけるよ」
「うん」
「そうだ、先輩は?」
「……」
桜良は無言で俺が寝かせられていたベッドとは反対方向を指さす。
そこには死んだように眠る先輩の姿があった。
「解毒剤は完成したんですよね?」
「ああ。おまえが時間を稼いでくれたおかげだ。…心配しなくても折原はもうすぐ起きる」
「よかった…」
これでもう穂乃ちゃんに嘘を吐き続けなくていい。
それに、先輩が無事で本当によかった。
「結月はあれの知り合いなの?」
「知り合いってわけじゃないわ。ただ、過去に持ち主がいて誰もいない場所になった場合、悪用されないように番人がいることがあるからその類だろうと思っただけ」
熊に襲われた経験さえないのに、先に番人に襲われることになるとは…ある意味ラッキーなのかもしれない。
「…今、何日?」
「詩乃ちゃん!」
先輩が体をゆっくり起こした直後、抱きつくようにちびが駆け寄った。
涙ぐむちびをなだめながら、こっちを向いた先輩と目があう。
「みんなに苦労させたみたいでごめん」
「次からはもう少し気をつけるように」
「うん。…そうするよ」
足の傷が深かったからか、立ちあがるだけでも大変そうだ。
力になりたくて立ちあがろうとすると、先生が片手杖を渡して症状を淡々と告げた。
「しばらく歩くときはこれを使うように。万能薬を使ったとはいえ、そう簡単に人間の傷は塞がらない」
「ありがとう」
先輩はあっという間に使いこなして、部屋中をぐるぐる歩いている。
「瞬、怖い思いをさせてごめん。あと、陽向たちもありがとう。私は仲間に恵まれたらしい」
にっこり笑ってそう言った先輩は、もうすっかり元気になったように見えた。
「…ごめん、今夜は帰ってもいいかな?穂乃が待ってるはずだから」
「穂乃ちゃんなら、俺の家でのんびり過ごしてもらってますよ」
こんなに早くかたがつくとは思っていなかった。
みんなやれやれという顔をしてるけど、ちゃんと目を覚ましてくれて安心しているのは分かる。
「詳しい話はまた明日ってことで…先輩、行きましょう!」
「そうだな」
八尋さんからの連絡内容と、俺が知らない先輩の話。
それらを照らしあわせたら嫌な現実が見えてくるかもしれない。
桜良に後で放送室に行くと連絡して、先輩の荷物を半分持つ。
これから先、また戦っていかないといけないと思うと少し苦しくなる。
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それに…俺だって先輩の力になりたいんだ。
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