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第12.5章『夜紅救出作戦』
第90.1話『深哀』
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突然消えたかぼちゃに驚いていると、耳元で先生の声が響いた。
インカム越しに話したとおり、監査室の扉を2回たたく。
「失礼します」
「…来たか。こっちだ」
監査室の奥、本来なら存在するはずのない部屋に足を踏み入れる。
その空間には大量の本と天体観測のための道具が並べられている。
整頓されてて先生らしい…なんて思ってたのに、もっと奥には物騒なものがあった。
「これ、先生が使う武器なんですか?」
「預かりものや先代が使っていたものもある」
「そうなんですね」
うん、やっぱり先生らしい部屋だ。
本当はもう少し詳しく話を聞きたかったけど、今はそれどころじゃない。
「先輩がやられたって本当ですか?」
「ああ。流山を庇ったらしい。暴走状態に陥りそうになったところも止めてもらったと聞いた」
「怪我、どのくらい酷いんですか?」
「……右ももを槍が掠ったようだ。他にも打撲や擦り傷があるが、それが1番酷い。そして、さらに厄介なのがこれだ」
案内された最深部には大きなベッドがあって、先輩がぐったりしていた。
どうやら魘されているようで、時折苦しそうにしている。
そのすぐ横でちびは小さく丸まっていた。
「僕のせいだ。僕が、もっと早く槍に気づけていたら…」
「ちび」
「会ったときからずっと助けられてばかりで、どうして何の役にも立たない僕なんかがここにいるんだろう」
「ちび」
「こんなことになるなら、あのとき、」
「ふざけるな」
俺は勢いでついちびの胸倉を掴んでいた。
「先輩は、どんな相手でも最善策を死ぬ気で探すんだ。おまえのときもそう。なんでもかんでも消せば早いのに、絶対にそんなことはしない」
先生が止めに入ろうとするのも無視して、そのまま話を続ける。
「おまえを先生と引き逢わせられたとき、なんて言ったと思う?…『ふたりはばらばらにならなくてすむ、これから新しい想い出を増やしていける。助けられてよかった』って…。
そんな先輩の想いを踏みにじるのか?自分が消えておけばよかったなんて言ったら俺が許さない」
「ひな君…」
やっと落ち着いたのか、こちらをじっと見つめる眼差しには絶望が浮かんでいない。
ゆっくり床におろすと、勢いよく抱きつかれた。
「ごめんなさい」
「…先輩は、自分のことなんか全然考えてないんだ。俺が初めて会ったときからそれは変わってない。だからせめて側で支えようって思った。
それに、ちびがいなかったら今頃町はジャック・オ・ランタンが滅茶苦茶にしてるところだよ。本当に感謝してる」
表情が明るくなったところで、ちびは先生の方を向いて恐る恐る問いかける。
「…ねえ先生。僕にもまだできることあるかな?」
「ある。というか、ひとりでこの量を集めるのは無理だ。手伝ってくれ」
血がべっとりついたメモ用紙には、先輩の字でこんなことが書かれていた。
【昼間、ある人物から毒攻撃を受けた。効果が出るまでにそんなに時間はかからない。
症状は、痺れや手に力が入らなくなってくること。解毒が遅れれば麻痺が残ることもある。
解毒剤の材料と作り方は以下のとおり。万が一私が自分で作る前に負けたら、これを読んでる誰かにお願いするよ】
先輩らしい言葉と、丁寧なレシピ。
これを書いているときには、もうすでにこうなる可能性があることに気づいていたんだろう。
「すみません、ちょっとだけ抜けます。穂乃ちゃんに迎えに行くって連絡しておかないと」
「ああ。頼む」
ちびを先生に任せて部屋を出る。
メッセージを打つ手を一旦止めて、嘘つきになる覚悟を決めて送信した。
「…何やってるんですか、先輩」
俺が知る限り先輩が負けたことなんてなかったけど、きっと知らないところで沢山負けてきたからだ。
ぼんやり朝日を浴びていると、桜良が駆け寄ってきた。
「ごめん。俺がしょげてる場合じゃないよな。先生に話を聞いて、できることをやろうと思う」
「わ、たし…」
「できることがないか、一緒に聞きに行こう」
ジャック・オ・ランタンの噂を中途半端に捻じ曲げた俺の恋人は、少ししか声を発せない状態になっている。
【不死身だからって別になんとも思わない。…痛くて苦しいのに死ねないのは、辛いな。
できるだけ死なずにすむような作戦を考えるって約束するよ。それは個性だけど、きっと心がすり減ってしまうだろうから】
先輩はいつだって親身になってくれた。
俺を化け物と呼ばずにいい後輩なんて言ってもらえて、すごく救われたんだ。
その先輩がピンチなら、今度は俺が護ってみせる。
インカム越しに話したとおり、監査室の扉を2回たたく。
「失礼します」
「…来たか。こっちだ」
監査室の奥、本来なら存在するはずのない部屋に足を踏み入れる。
その空間には大量の本と天体観測のための道具が並べられている。
整頓されてて先生らしい…なんて思ってたのに、もっと奥には物騒なものがあった。
「これ、先生が使う武器なんですか?」
「預かりものや先代が使っていたものもある」
「そうなんですね」
うん、やっぱり先生らしい部屋だ。
本当はもう少し詳しく話を聞きたかったけど、今はそれどころじゃない。
「先輩がやられたって本当ですか?」
「ああ。流山を庇ったらしい。暴走状態に陥りそうになったところも止めてもらったと聞いた」
「怪我、どのくらい酷いんですか?」
「……右ももを槍が掠ったようだ。他にも打撲や擦り傷があるが、それが1番酷い。そして、さらに厄介なのがこれだ」
案内された最深部には大きなベッドがあって、先輩がぐったりしていた。
どうやら魘されているようで、時折苦しそうにしている。
そのすぐ横でちびは小さく丸まっていた。
「僕のせいだ。僕が、もっと早く槍に気づけていたら…」
「ちび」
「会ったときからずっと助けられてばかりで、どうして何の役にも立たない僕なんかがここにいるんだろう」
「ちび」
「こんなことになるなら、あのとき、」
「ふざけるな」
俺は勢いでついちびの胸倉を掴んでいた。
「先輩は、どんな相手でも最善策を死ぬ気で探すんだ。おまえのときもそう。なんでもかんでも消せば早いのに、絶対にそんなことはしない」
先生が止めに入ろうとするのも無視して、そのまま話を続ける。
「おまえを先生と引き逢わせられたとき、なんて言ったと思う?…『ふたりはばらばらにならなくてすむ、これから新しい想い出を増やしていける。助けられてよかった』って…。
そんな先輩の想いを踏みにじるのか?自分が消えておけばよかったなんて言ったら俺が許さない」
「ひな君…」
やっと落ち着いたのか、こちらをじっと見つめる眼差しには絶望が浮かんでいない。
ゆっくり床におろすと、勢いよく抱きつかれた。
「ごめんなさい」
「…先輩は、自分のことなんか全然考えてないんだ。俺が初めて会ったときからそれは変わってない。だからせめて側で支えようって思った。
それに、ちびがいなかったら今頃町はジャック・オ・ランタンが滅茶苦茶にしてるところだよ。本当に感謝してる」
表情が明るくなったところで、ちびは先生の方を向いて恐る恐る問いかける。
「…ねえ先生。僕にもまだできることあるかな?」
「ある。というか、ひとりでこの量を集めるのは無理だ。手伝ってくれ」
血がべっとりついたメモ用紙には、先輩の字でこんなことが書かれていた。
【昼間、ある人物から毒攻撃を受けた。効果が出るまでにそんなに時間はかからない。
症状は、痺れや手に力が入らなくなってくること。解毒が遅れれば麻痺が残ることもある。
解毒剤の材料と作り方は以下のとおり。万が一私が自分で作る前に負けたら、これを読んでる誰かにお願いするよ】
先輩らしい言葉と、丁寧なレシピ。
これを書いているときには、もうすでにこうなる可能性があることに気づいていたんだろう。
「すみません、ちょっとだけ抜けます。穂乃ちゃんに迎えに行くって連絡しておかないと」
「ああ。頼む」
ちびを先生に任せて部屋を出る。
メッセージを打つ手を一旦止めて、嘘つきになる覚悟を決めて送信した。
「…何やってるんですか、先輩」
俺が知る限り先輩が負けたことなんてなかったけど、きっと知らないところで沢山負けてきたからだ。
ぼんやり朝日を浴びていると、桜良が駆け寄ってきた。
「ごめん。俺がしょげてる場合じゃないよな。先生に話を聞いて、できることをやろうと思う」
「わ、たし…」
「できることがないか、一緒に聞きに行こう」
ジャック・オ・ランタンの噂を中途半端に捻じ曲げた俺の恋人は、少ししか声を発せない状態になっている。
【不死身だからって別になんとも思わない。…痛くて苦しいのに死ねないのは、辛いな。
できるだけ死なずにすむような作戦を考えるって約束するよ。それは個性だけど、きっと心がすり減ってしまうだろうから】
先輩はいつだって親身になってくれた。
俺を化け物と呼ばずにいい後輩なんて言ってもらえて、すごく救われたんだ。
その先輩がピンチなら、今度は俺が護ってみせる。
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