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第12章『収穫祭と逃れられない因縁』
第87話
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瞬がいる空き教室に入ると、そこでは先生と血まみれの服を着た陽向が話していた。
私たちに気づいた先生が声をかけてくれる。
「怪我は…ちょっと見せてみろ」
頬に冷たい感覚があった後、ぴりっと痛みがはしる。
切られた直後痛くなかったということは、あの槍を操っているのはやはりあの男だ。
「え、切られたんですか?」
「…避けきれなかったんだ。まあ、この程度ですんだのは瞬のおかげなんだけどな」
「そうなんですね。すごいなちび!」
「ちょっとひな君、いきなり頭わしゃわしゃしないで…」
私から見たふたりは以前より打ち解けていて、会話が微笑ましく感じられる。
先生は訝しげな表情で私の顔にガーゼを貼りつけ、ため息を吐いた。
「もう少し怪我を減らそうか」
「ごめん」
「妹が心配するだろ」
「そうだな。せめて見えない位置なら、」
「そういう問題じゃない」
「そうだよ詩乃ちゃん。…人間って、案外簡単に死んじゃうんだから」
死んだ本人とその事実を目の当たりにして死ぬほど後悔した先生に言われると、他の誰が言うより説得力がある。
「…気をつけるよ」
「そうですよ。先輩は万が一のことがあったら死んじゃうんですから」
「その服、今夜も死んだんだろ?…いくら死なないからって何度も死ぬと心がすり減るぞ」
「それを言われたら言い返せませんね」
陽向はにっこり笑って小さなラジオを取り出した。
『みなさんこんばんは』
「桜良…もうよくなったのか?」
『今回はそんなに力を使わなかったので、治りも速かったみたいです』
「それはよかった」
誰かと一緒にいるのか、何かを探してくれていたのか。
ぱらぱらと本の頁を捲るような音がして、桜良の報告がはじまった。
『まず、去年出没した殺人ピエロについてですが、今年は大丈夫そうです。噂も一切出回っていません。
それから、引き裂きジャック・オ・ランタンですが…噂の広まりがとても早いです。まるで誰かが意図的に流しているみたいに、町中がその話題で持ちきりです』
今年も町まで逃げられてしまったら勝ち目がない。
ただ、さっきの槍や町への広まり具合で確定したことがある。
「…定時制と通信制の合同ハロウィンの日、多分学園内に現れるからそこでどうにかするしかない」
「なんで分かるんですか?去年といい今年といい、先輩はどこ情報で予想してるんですか?」
「直感と経験」
そうとしか答えようがない。
嫌がらせのようにかかってくる電話、留守電に吹きこまれていた呪詛、脅迫めいた文言が並んだ手紙…そういったものを厭というほど相手にしてきた。
留守電呪詛の回数が増えたとき、大抵あの男が動いている。
『どうか、気をつけてください』
「ありがとう」
「桜良ちゃんも気をつけてね」
『…そうするわ』
ぷつりと切れた直後、瞬が何か言いたげな顔でこちらを見ていたけど、先生が先に話しはじめた。
「…で、夜紅姫。俺たちはどう動けばいい?」
「その呼び方はやめてくれ。そうだな…現れるなら多分夜だと思うんだ。しかも、当日は相手にとって好都合な満月」
「先輩の力が1番弱まる満月ですか!?」
「え、普通は満月が1番強いんじゃ…」
「先輩はちょっと特殊なんだよ」
瞬のいうとおり、通常の術者や妖ものたちは満月が1番強くなる。
だが、私はどういうわけか偃月…下弦の月の日が1番夜紅としての力を発揮できるのだ。
もっといえば、夜紅本来の力は新月が最も引き出せる。…できれば知られたくないが。
「それは初耳だな」
「ごめん。作戦を練るうえでは必要なことなのに、話すタイミングを逃してた。
当日は夕方まで監査部の仕事があるから、夜監査部室で落ち合おう。当日は監査部用の無線を貸すよ」
「僕も使える?」
「勿論」
攻撃が何種類あるか分からないため、もっと詳しい作戦は現れてみてからじゃないとたてられないという結論に至った。
「この話はまた当日に」
「あ…」
瞬が私に何を訊きたいのかは分かっている。
ただ、その問いに今は答えたくない。
……それから数日、忙しなく動き回っているうちにハロウィン当日を迎えた。
私たちに気づいた先生が声をかけてくれる。
「怪我は…ちょっと見せてみろ」
頬に冷たい感覚があった後、ぴりっと痛みがはしる。
切られた直後痛くなかったということは、あの槍を操っているのはやはりあの男だ。
「え、切られたんですか?」
「…避けきれなかったんだ。まあ、この程度ですんだのは瞬のおかげなんだけどな」
「そうなんですね。すごいなちび!」
「ちょっとひな君、いきなり頭わしゃわしゃしないで…」
私から見たふたりは以前より打ち解けていて、会話が微笑ましく感じられる。
先生は訝しげな表情で私の顔にガーゼを貼りつけ、ため息を吐いた。
「もう少し怪我を減らそうか」
「ごめん」
「妹が心配するだろ」
「そうだな。せめて見えない位置なら、」
「そういう問題じゃない」
「そうだよ詩乃ちゃん。…人間って、案外簡単に死んじゃうんだから」
死んだ本人とその事実を目の当たりにして死ぬほど後悔した先生に言われると、他の誰が言うより説得力がある。
「…気をつけるよ」
「そうですよ。先輩は万が一のことがあったら死んじゃうんですから」
「その服、今夜も死んだんだろ?…いくら死なないからって何度も死ぬと心がすり減るぞ」
「それを言われたら言い返せませんね」
陽向はにっこり笑って小さなラジオを取り出した。
『みなさんこんばんは』
「桜良…もうよくなったのか?」
『今回はそんなに力を使わなかったので、治りも速かったみたいです』
「それはよかった」
誰かと一緒にいるのか、何かを探してくれていたのか。
ぱらぱらと本の頁を捲るような音がして、桜良の報告がはじまった。
『まず、去年出没した殺人ピエロについてですが、今年は大丈夫そうです。噂も一切出回っていません。
それから、引き裂きジャック・オ・ランタンですが…噂の広まりがとても早いです。まるで誰かが意図的に流しているみたいに、町中がその話題で持ちきりです』
今年も町まで逃げられてしまったら勝ち目がない。
ただ、さっきの槍や町への広まり具合で確定したことがある。
「…定時制と通信制の合同ハロウィンの日、多分学園内に現れるからそこでどうにかするしかない」
「なんで分かるんですか?去年といい今年といい、先輩はどこ情報で予想してるんですか?」
「直感と経験」
そうとしか答えようがない。
嫌がらせのようにかかってくる電話、留守電に吹きこまれていた呪詛、脅迫めいた文言が並んだ手紙…そういったものを厭というほど相手にしてきた。
留守電呪詛の回数が増えたとき、大抵あの男が動いている。
『どうか、気をつけてください』
「ありがとう」
「桜良ちゃんも気をつけてね」
『…そうするわ』
ぷつりと切れた直後、瞬が何か言いたげな顔でこちらを見ていたけど、先生が先に話しはじめた。
「…で、夜紅姫。俺たちはどう動けばいい?」
「その呼び方はやめてくれ。そうだな…現れるなら多分夜だと思うんだ。しかも、当日は相手にとって好都合な満月」
「先輩の力が1番弱まる満月ですか!?」
「え、普通は満月が1番強いんじゃ…」
「先輩はちょっと特殊なんだよ」
瞬のいうとおり、通常の術者や妖ものたちは満月が1番強くなる。
だが、私はどういうわけか偃月…下弦の月の日が1番夜紅としての力を発揮できるのだ。
もっといえば、夜紅本来の力は新月が最も引き出せる。…できれば知られたくないが。
「それは初耳だな」
「ごめん。作戦を練るうえでは必要なことなのに、話すタイミングを逃してた。
当日は夕方まで監査部の仕事があるから、夜監査部室で落ち合おう。当日は監査部用の無線を貸すよ」
「僕も使える?」
「勿論」
攻撃が何種類あるか分からないため、もっと詳しい作戦は現れてみてからじゃないとたてられないという結論に至った。
「この話はまた当日に」
「あ…」
瞬が私に何を訊きたいのかは分かっている。
ただ、その問いに今は答えたくない。
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