102 / 302
第12章『収穫祭と逃れられない因縁』
第86話
しおりを挟む
「今日は静かですね…」
「定時制が休みらしいから、別棟にも人がいないんだろうな」
「そういえば、新校舎ってあんまり行ったことなかったですね」
「普通は新校舎の方が使ってる回数が多いはずなんだけどな」
放送室や保健室、理科室に音楽室…そして、監査部室も旧校舎にある。
新校舎北棟が定時制や通信制の教室、南棟が昼間制の教室なのだ。
授業に単位ぎりぎりしか出席しない私たちは、いつも旧校舎に籠もっている。
「怖がって人が来ないからいいじゃないですか!まあ、時々悪ふざけで入ってくる人がいるのが玉に瑕ですけど」
「そうだな。肝試しなんてはじめられたら、人間がそうじゃないかいまひとつ見分けがつかなくなる」
久しぶりにゆったり話しながら校舎を見回れていることに安堵しつつ、先生たちのことが気になった。
「…ちびのこと、気になりますよね」
「顔に出てたか?」
「見てたらなんとなく分かりました」
陽向はにっこり笑って瞬がいた教室へ走っていく。
「きっとここです。ここじゃなかったら屋上に行きましょう」
「そうだな」
陽向の予想どおり、空き教室にはふたりの姿があった。
盗み聞きみたいだと思いつつ、瞬の気持ちを知りたくてそのまま身を隠す。
「詩乃ちゃん、元気だった?」
「ああ。今のところ変わった様子はない。…おまえはどうなんだ?」
「僕?いつもどおりだよ」
「嘘だな」
私の過去を1番近くで見てしまったのは瞬だ。
平気でいられるはずがない。
「……詩乃ちゃんは優しいから気にしなくていいって言ってたけど、本当は僕の過去が流れるはずだったんだ。
それに、あんな重いものをたったひとりで抱えて、ずっと苦しかったのかなって…頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃった」
「俺がおまえの立場でもきっと似たようなことを考えていたと思う。ただ、それをずっと気にしていると誰が1番傷つくと思う?」
先生は真剣な顔で瞬に問いかけている。
この位置からでは瞬の表情は分からないが、きっとどう答えるか悩んでいるだろう。
「先輩、あれ…」
陽向が小声で指さした方向から、微かにチェーンソーの音が響いた。
暗くて顔こそ確認できないが、間違いなく巷を騒がせている奴だ。
「…陽向、万が一のことがあったら頼む」
「え、先輩!?」
札を3枚ほど闇に向かって投げつける。
「──爆ぜろ」
煙っている間に校舎の階段を駆け下りた。
気配で追ってくるタイプなら対応はこれで間違っていないはずだ。
「狙いは私だろう?…どこまでも追いかけてこいよ」
校舎の外か中庭か、あるいは屋上でもよかったのかもしれない。
素早くリップを塗り直し、組み立て式の弓を掲げる。
近距離戦闘はあまり得意ではないが、相手は何故か私と一定距離をとっていた。
《う、ヴマゾウ…》
「あんたも食べるタイプなのか」
私はそんなに美味しくないはずなのに、どうしてここまでしつこく追ってくるんだろう。
《リ…リズムチェーンソー》
「え?」
相手が距離をとっていた理由が分かった。
可愛らしいネーミングとは裏腹に、大量の小さなチェーンソーが降ってくる。
なんとか避けつつ、折りたたみナイフを使って跳ね返していく。
無数に向かってくる小さなチェーンソーを全部避けきれるか不安しかない。
後退しているうちに背中が壁についた。
「…これならどうだ」
火矢を放つと、流石に相手も後退る。
攻撃がやんだ一瞬の隙にナイフを投げつけた。
《痛…イダイヨオ!》
まっすぐ投げつけられたチェーンソーの刃に、近くにあったモップの柄の部分を斜めにあてる。
からからと音をたてて刃が外れた武器を拾うと、相手は更に後退しはじめた。
撤退するつもりなのだろうか。
相手をじっと見つめていると、すぐ近くで声がした。
「伏せて!」
言われたとおりにすると、鋭い槍が顔を掠めた。
「詩乃ちゃん、大丈夫?」
「うん。ありがとう瞬…」
「話は後にして、場所を移そう」
瞬に言われたとおりにしようと立ちあがる。
ゆっくり顔を上げたとき、目の前には暗闇しかなかった。
「定時制が休みらしいから、別棟にも人がいないんだろうな」
「そういえば、新校舎ってあんまり行ったことなかったですね」
「普通は新校舎の方が使ってる回数が多いはずなんだけどな」
放送室や保健室、理科室に音楽室…そして、監査部室も旧校舎にある。
新校舎北棟が定時制や通信制の教室、南棟が昼間制の教室なのだ。
授業に単位ぎりぎりしか出席しない私たちは、いつも旧校舎に籠もっている。
「怖がって人が来ないからいいじゃないですか!まあ、時々悪ふざけで入ってくる人がいるのが玉に瑕ですけど」
「そうだな。肝試しなんてはじめられたら、人間がそうじゃないかいまひとつ見分けがつかなくなる」
久しぶりにゆったり話しながら校舎を見回れていることに安堵しつつ、先生たちのことが気になった。
「…ちびのこと、気になりますよね」
「顔に出てたか?」
「見てたらなんとなく分かりました」
陽向はにっこり笑って瞬がいた教室へ走っていく。
「きっとここです。ここじゃなかったら屋上に行きましょう」
「そうだな」
陽向の予想どおり、空き教室にはふたりの姿があった。
盗み聞きみたいだと思いつつ、瞬の気持ちを知りたくてそのまま身を隠す。
「詩乃ちゃん、元気だった?」
「ああ。今のところ変わった様子はない。…おまえはどうなんだ?」
「僕?いつもどおりだよ」
「嘘だな」
私の過去を1番近くで見てしまったのは瞬だ。
平気でいられるはずがない。
「……詩乃ちゃんは優しいから気にしなくていいって言ってたけど、本当は僕の過去が流れるはずだったんだ。
それに、あんな重いものをたったひとりで抱えて、ずっと苦しかったのかなって…頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃった」
「俺がおまえの立場でもきっと似たようなことを考えていたと思う。ただ、それをずっと気にしていると誰が1番傷つくと思う?」
先生は真剣な顔で瞬に問いかけている。
この位置からでは瞬の表情は分からないが、きっとどう答えるか悩んでいるだろう。
「先輩、あれ…」
陽向が小声で指さした方向から、微かにチェーンソーの音が響いた。
暗くて顔こそ確認できないが、間違いなく巷を騒がせている奴だ。
「…陽向、万が一のことがあったら頼む」
「え、先輩!?」
札を3枚ほど闇に向かって投げつける。
「──爆ぜろ」
煙っている間に校舎の階段を駆け下りた。
気配で追ってくるタイプなら対応はこれで間違っていないはずだ。
「狙いは私だろう?…どこまでも追いかけてこいよ」
校舎の外か中庭か、あるいは屋上でもよかったのかもしれない。
素早くリップを塗り直し、組み立て式の弓を掲げる。
近距離戦闘はあまり得意ではないが、相手は何故か私と一定距離をとっていた。
《う、ヴマゾウ…》
「あんたも食べるタイプなのか」
私はそんなに美味しくないはずなのに、どうしてここまでしつこく追ってくるんだろう。
《リ…リズムチェーンソー》
「え?」
相手が距離をとっていた理由が分かった。
可愛らしいネーミングとは裏腹に、大量の小さなチェーンソーが降ってくる。
なんとか避けつつ、折りたたみナイフを使って跳ね返していく。
無数に向かってくる小さなチェーンソーを全部避けきれるか不安しかない。
後退しているうちに背中が壁についた。
「…これならどうだ」
火矢を放つと、流石に相手も後退る。
攻撃がやんだ一瞬の隙にナイフを投げつけた。
《痛…イダイヨオ!》
まっすぐ投げつけられたチェーンソーの刃に、近くにあったモップの柄の部分を斜めにあてる。
からからと音をたてて刃が外れた武器を拾うと、相手は更に後退しはじめた。
撤退するつもりなのだろうか。
相手をじっと見つめていると、すぐ近くで声がした。
「伏せて!」
言われたとおりにすると、鋭い槍が顔を掠めた。
「詩乃ちゃん、大丈夫?」
「うん。ありがとう瞬…」
「話は後にして、場所を移そう」
瞬に言われたとおりにしようと立ちあがる。
ゆっくり顔を上げたとき、目の前には暗闇しかなかった。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
お題に挑戦した短編・掌編集
黒蜜きな粉
ライト文芸
某サイトさまのお題に挑戦した物語です。
どれも一話完結の短いお話となっております。
一応ライト文芸にいたしましたが、ポエムっぽい感じのものも多いです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
雨が乾くまで
日々曖昧
ライト文芸
元小学校教師のフリーター吉名楓はある大雨の夜、家の近くの公園でずぶ濡れの少年、立木雪に出会う。
雪の欠けてしまった記憶を取り戻す為に二人は共同生活を始めるが、その日々の中で楓は自分自身の過去とも対峙することになる。
揺れる波紋
しらかわからし
ライト文芸
この小説は、高坂翔太が主人公で彼はバブル崩壊直後の1991年にレストランを開業し、20年の努力の末、ついに成功を手に入れます。しかし、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故によって、経済環境が一変し、レストランの業績が悪化。2014年、創業から23年の55歳で法人解散を決断します。
店内がかつての賑わいを失い、従業員を一人ずつ減らす中、翔太は自身の夢と情熱が色褪せていくのを感じます。経営者としての苦悩が続き、最終的には建物と土地を手放す決断を下すまで追い込まれます。
さらに、同居の妻の母親の認知症での介護が重なり、心身共に限界に達した時、近所の若い弁護士夫婦との出会いが、レストランの終焉を迎えるきっかけとなります。翔太は自分の決断が正しかったのか悩みながらも、恩人であるホテルの社長の言葉に救われ、心の重荷が少しずつ軽くなります。
本作は、主人公の長年の夢と努力が崩壊する中でも、新たな道を模索し、問題山積な中を少しずつ幸福への道を歩んでいきたいという願望を元にほぼ自分史の物語です。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる