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第12章『収穫祭と逃れられない因縁』
第83話
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翌日、穂乃が遊びに行っている間学園内に忍びこむ。
「おはよう。先生、もう来てたのか」
「昨日は大丈夫だったか?」
「うん。穂乃の悩みも一応解決したし、連れ去りさんの被害者たちも元気だった。昨日はありがとう」
幸い視える人が交ざっていなかったらしく、子どもたちは何があったか覚えていないらしかった。
怖い思いをしただろうし、その方がいいかもしれない。
「週末、もし予定が空いていたらでいいんだが、イベントを手伝ってくれないか?」
「定時制と通信制のハロウィンイベント、もうすぐだったな。私でよければ引き受けるよ」
定時制と通信制の生徒会主体で企画されるイベントではあるが、監査部の人数もそこまで多いわけではないので毎回人手が足りない。
運動するわけでもないので、特別点を稼ぐ為に参加する生徒も少なくはないだろう。
「何か用意するものは、」
「お菓子とジュース、あとビンゴ大会の景品の買い出しですよね!」
「陽向…もう来てたのか」
「はい!おはようございます」
陽向が抱えているダンボールには、はみ出しそうなほどのお菓子が入っていた。
全部幼児や乳児向けで、さりげない気遣いと大胆な実行力に驚く。
「ほら、通信制は特にですけど、子育てしながら通ってる人とか多いだろうなって思ったんです。
だったら、誰でも食べられるたまごボーロとかアレルギーの子用のお菓子があった方がいいかなって思って、知り合いから安く仕入れました」
「そんな知り合いがいるのか…」
顔の広さに驚かされたものの、人と話すのが上手い陽向ならそんなこともあるだろうと納得した。
「岡副は木嶋についていた方がいいんじゃないか」
「もしかして、桜良は能力を使ったのか?」
「少しなんですけど、今日1日は響くと思います」
陽向の話では、外部からの侵入者を食い止めるため、入った瞬間持っている力を全て失うというとんでもないものを学園全体にかけたらしい。
「それなのに1日で治るのか?」
「建物にかけるときって、生き物相手より動かすのが簡単なんだって言ってました。
付喪神がいるなら別だけど、ただの学校にかけるには充分だって」
「後で放送室にも顔を出す」
迷惑をかけたお詫びとありったけの感謝をこめて、好きだと言っていたチョコレートを持っていってみよう。
先生の方を見ると、また深刻そうな顔をして日記を覗きこんでいた。
「何か悪いことでも書いてあるのか?」
「…折原、他に抱えている問題があるんじゃないか?」
何故そんなことを、なんて訊かなくても分かる。
予知日記に何が書かれているかは知らないが、抱えている問題なんてひとつしか浮かばない。
「まあ、あるにはあるけど…今は言いたくない」
できれば優しい周りの人間を巻きこみたくない。
ただ、ふたりを1度夜降ってきた槍との鬼ごっこにつきあわせてしまっている。
「先輩が言いたくないなら無理に聞いちゃ駄目なのは分かってます。けど、もしまたひとりで抱えこんでるなら、」
「…ふたりとも、槍と鬼ごっこしたのを覚えてるか?」
先生は陽向を見てゆっくり頷く。
一旦深呼吸をして、はっきり告げた。
「私はあの槍使いと昔から知り合いだ。遠隔では初めてだったけど、狙われたのも初めてじゃなかった。
相容れない考えの人間を消すことしか考えてない、相当やばい奴だ」
昔から狙われていた。いつかは決着をつけるつもりでいるが、居場所を知られるわけにはいかない。
「その人から接触があったとか…」
「最近はないな。…まあ、神宮寺本家から目の敵にされてるけど」
「何かあったらすぐ言うように。…何もなくても知らせろ」
「ありがとう」
私は今嘘を吐いた。
もう何かがおこる予感がしている。というより、おこるのは確定だ。
靴箱の中に入っていた手紙の字は、間違いなくあの家の人間からだった。
【夜紅とか言われているらしいけど、あまり調子に乗らない方がいい。君を粛清する。
おまえさえいなければ、俺はあいつに負けていなかった】
「おはよう。先生、もう来てたのか」
「昨日は大丈夫だったか?」
「うん。穂乃の悩みも一応解決したし、連れ去りさんの被害者たちも元気だった。昨日はありがとう」
幸い視える人が交ざっていなかったらしく、子どもたちは何があったか覚えていないらしかった。
怖い思いをしただろうし、その方がいいかもしれない。
「週末、もし予定が空いていたらでいいんだが、イベントを手伝ってくれないか?」
「定時制と通信制のハロウィンイベント、もうすぐだったな。私でよければ引き受けるよ」
定時制と通信制の生徒会主体で企画されるイベントではあるが、監査部の人数もそこまで多いわけではないので毎回人手が足りない。
運動するわけでもないので、特別点を稼ぐ為に参加する生徒も少なくはないだろう。
「何か用意するものは、」
「お菓子とジュース、あとビンゴ大会の景品の買い出しですよね!」
「陽向…もう来てたのか」
「はい!おはようございます」
陽向が抱えているダンボールには、はみ出しそうなほどのお菓子が入っていた。
全部幼児や乳児向けで、さりげない気遣いと大胆な実行力に驚く。
「ほら、通信制は特にですけど、子育てしながら通ってる人とか多いだろうなって思ったんです。
だったら、誰でも食べられるたまごボーロとかアレルギーの子用のお菓子があった方がいいかなって思って、知り合いから安く仕入れました」
「そんな知り合いがいるのか…」
顔の広さに驚かされたものの、人と話すのが上手い陽向ならそんなこともあるだろうと納得した。
「岡副は木嶋についていた方がいいんじゃないか」
「もしかして、桜良は能力を使ったのか?」
「少しなんですけど、今日1日は響くと思います」
陽向の話では、外部からの侵入者を食い止めるため、入った瞬間持っている力を全て失うというとんでもないものを学園全体にかけたらしい。
「それなのに1日で治るのか?」
「建物にかけるときって、生き物相手より動かすのが簡単なんだって言ってました。
付喪神がいるなら別だけど、ただの学校にかけるには充分だって」
「後で放送室にも顔を出す」
迷惑をかけたお詫びとありったけの感謝をこめて、好きだと言っていたチョコレートを持っていってみよう。
先生の方を見ると、また深刻そうな顔をして日記を覗きこんでいた。
「何か悪いことでも書いてあるのか?」
「…折原、他に抱えている問題があるんじゃないか?」
何故そんなことを、なんて訊かなくても分かる。
予知日記に何が書かれているかは知らないが、抱えている問題なんてひとつしか浮かばない。
「まあ、あるにはあるけど…今は言いたくない」
できれば優しい周りの人間を巻きこみたくない。
ただ、ふたりを1度夜降ってきた槍との鬼ごっこにつきあわせてしまっている。
「先輩が言いたくないなら無理に聞いちゃ駄目なのは分かってます。けど、もしまたひとりで抱えこんでるなら、」
「…ふたりとも、槍と鬼ごっこしたのを覚えてるか?」
先生は陽向を見てゆっくり頷く。
一旦深呼吸をして、はっきり告げた。
「私はあの槍使いと昔から知り合いだ。遠隔では初めてだったけど、狙われたのも初めてじゃなかった。
相容れない考えの人間を消すことしか考えてない、相当やばい奴だ」
昔から狙われていた。いつかは決着をつけるつもりでいるが、居場所を知られるわけにはいかない。
「その人から接触があったとか…」
「最近はないな。…まあ、神宮寺本家から目の敵にされてるけど」
「何かあったらすぐ言うように。…何もなくても知らせろ」
「ありがとう」
私は今嘘を吐いた。
もう何かがおこる予感がしている。というより、おこるのは確定だ。
靴箱の中に入っていた手紙の字は、間違いなくあの家の人間からだった。
【夜紅とか言われているらしいけど、あまり調子に乗らない方がいい。君を粛清する。
おまえさえいなければ、俺はあいつに負けていなかった】
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