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第11章『夜紅の昔話-異界への階段・弐-』
第78話
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「あがり」
「え、また負けた…」
資料を片づけ、瞬がよく分からなかったという先生からの宿題を一緒に解き、今はちょっとした花札大会をしている。
「猫さん、今日はそのままなの?」
《なんとなくそういう気分なのよ》
「ふうん…」
瞬と結月は一緒に花札をしたことがあるらしく、思っていた以上に仲がいいようだ。
「…ごめん。少しだけ留守番しててもらっていいか?」
「どこ行くの?」
不安そうにこちらを見つめる瞬の頭を撫で、できるだけいつもどおりに笑ってみせた。
「大丈夫。少し家の様子を見てくるだけだから」
《…気をつけなさい》
「うん」
自転車を家のすぐ近くまで走らせたところで、見覚えのある手提げを見つけた。
…間違いない。いつも穂乃が持っているものだ。
その側にはお守りが半分だけ転がっていて、拾いあげた直後ぼろぼろに崩れてしまった。
「…ただいま」
当然誰もいないであろう家に声をかけ、ただ虚しさを感じる。
いつも穂乃からのおかえりに支えられていた。
一緒にいられることが普通じゃないことは私が1番分かっていたはずなのに、どうしてこんなことになったんだろう。
時間を確認しようとスマートフォンを見ると、1通のメッセージが表示された。
【折原さん
担任の吉川です。本日、穂乃はお休みでしょうか?
最近色々あったから疲れちゃったのかな?メッセージを読んだら連絡してください】
「…色々?」
今日は用事があって休ませていること、連絡が遅れたことへのお詫び…そして、最近学校の様子を聞けていないので先生が知っていることを教えてほしいと返信した。
何か痕跡が残っていればと思ったが、残念ながら相手について分かることは何もない。
「…いってきます」
再び監査室まで戻ると、本来であればいないはずの人物が静かに座っていた。
「先生、明日まで帰れないんじゃなかったのか?」
「早めに終わったから朝市の電車に乗った。…何をすればいい?」
「え?」
先生は柔らかい表情のまま話しはじめた。
「ツンデレ猫と瞬…流山から話は聞いた。おまえは恩人みたいなものだし、俺だけ何もせず見ているわけにはいかない。
…半怪異の妖でも、先生だからな」
私の周りには、いつの間にか心強い仲間が集まっていたらしい。
「…異界への階段にはもう1度接触しないといけないと思う。それ以外は今のところノープランだ」
「そうか。なら俺の仕事は外の噂を抑えることだな」
「外の噂?」
「噂は良くも悪くも怪異に影響を及ぼす。…連れ去りさんの噂が凶暴化する方に傾くのを止める」
桜良以外にそんなことができる人がいるとは思っていなかった。
「結月にも手伝ってもらわないといけないが、なんとかしてみせる。おまえは大事なものを護る覚悟がひと一倍強いが、その分人に弱いところを見せられない。
…平気じゃないとき、もっと周りに大丈夫じゃないって言っていい」
「結月にも言われたんだ。もっと周りを頼れって…」
それってどうすればできるんだろう。
この疑問に対する答えを、いつか見つけられるだろうか。
「…ありがとう。先生、手伝ってくれるか?」
「ああ。ただ、ひとつだけ報告しておきたいことがある」
先生が開いた日記の頁には、あまり良くないことが書かれていた。
【折原詩乃は対価を支払うことになる】
「随分抽象的だな」
「これ以上のことは分からないが気をつけろ」
「うん。ありがとう」
それからは特に変わったことなく放課後を迎え、陽向や他の監査部メンバーと会議をして…忙しなく動いていると空には月が浮かんでいた。
「ひな君は先生と残って。僕の方が足が速いから、もし連れ去りさんが逃げ回っても追いかけられる」
「ちびが残った方がいいんじゃないのか?」
「…桜良ちゃんの近くにいられた方がいいでしょ?」
深夜3時、最終的な作戦を決め終わると、先生が不安そうな顔をしていた。
大切な相手と一時的にでも離れるのは不安になる。
瞬が結月と話しているすきに近づき、小声で話しかけた。
「大丈夫。瞬は私が護る」
「……頼む」
もうすぐ異界への階段に行ける時間になる。
『私もできる限りサポートします』
「ありがとう」
《困ったときはここに連絡しなさい。無理矢理にでも引っ張り出してあげる》
「うん」
「先輩、絶対帰ってきてくださいね」
「勿論だ。そっちこそ死ぬなよ」
階段の前に立っていると、上の方で不気味な影がゆらりと動いた。
「…夜仕事の時間だ」
「え、また負けた…」
資料を片づけ、瞬がよく分からなかったという先生からの宿題を一緒に解き、今はちょっとした花札大会をしている。
「猫さん、今日はそのままなの?」
《なんとなくそういう気分なのよ》
「ふうん…」
瞬と結月は一緒に花札をしたことがあるらしく、思っていた以上に仲がいいようだ。
「…ごめん。少しだけ留守番しててもらっていいか?」
「どこ行くの?」
不安そうにこちらを見つめる瞬の頭を撫で、できるだけいつもどおりに笑ってみせた。
「大丈夫。少し家の様子を見てくるだけだから」
《…気をつけなさい》
「うん」
自転車を家のすぐ近くまで走らせたところで、見覚えのある手提げを見つけた。
…間違いない。いつも穂乃が持っているものだ。
その側にはお守りが半分だけ転がっていて、拾いあげた直後ぼろぼろに崩れてしまった。
「…ただいま」
当然誰もいないであろう家に声をかけ、ただ虚しさを感じる。
いつも穂乃からのおかえりに支えられていた。
一緒にいられることが普通じゃないことは私が1番分かっていたはずなのに、どうしてこんなことになったんだろう。
時間を確認しようとスマートフォンを見ると、1通のメッセージが表示された。
【折原さん
担任の吉川です。本日、穂乃はお休みでしょうか?
最近色々あったから疲れちゃったのかな?メッセージを読んだら連絡してください】
「…色々?」
今日は用事があって休ませていること、連絡が遅れたことへのお詫び…そして、最近学校の様子を聞けていないので先生が知っていることを教えてほしいと返信した。
何か痕跡が残っていればと思ったが、残念ながら相手について分かることは何もない。
「…いってきます」
再び監査室まで戻ると、本来であればいないはずの人物が静かに座っていた。
「先生、明日まで帰れないんじゃなかったのか?」
「早めに終わったから朝市の電車に乗った。…何をすればいい?」
「え?」
先生は柔らかい表情のまま話しはじめた。
「ツンデレ猫と瞬…流山から話は聞いた。おまえは恩人みたいなものだし、俺だけ何もせず見ているわけにはいかない。
…半怪異の妖でも、先生だからな」
私の周りには、いつの間にか心強い仲間が集まっていたらしい。
「…異界への階段にはもう1度接触しないといけないと思う。それ以外は今のところノープランだ」
「そうか。なら俺の仕事は外の噂を抑えることだな」
「外の噂?」
「噂は良くも悪くも怪異に影響を及ぼす。…連れ去りさんの噂が凶暴化する方に傾くのを止める」
桜良以外にそんなことができる人がいるとは思っていなかった。
「結月にも手伝ってもらわないといけないが、なんとかしてみせる。おまえは大事なものを護る覚悟がひと一倍強いが、その分人に弱いところを見せられない。
…平気じゃないとき、もっと周りに大丈夫じゃないって言っていい」
「結月にも言われたんだ。もっと周りを頼れって…」
それってどうすればできるんだろう。
この疑問に対する答えを、いつか見つけられるだろうか。
「…ありがとう。先生、手伝ってくれるか?」
「ああ。ただ、ひとつだけ報告しておきたいことがある」
先生が開いた日記の頁には、あまり良くないことが書かれていた。
【折原詩乃は対価を支払うことになる】
「随分抽象的だな」
「これ以上のことは分からないが気をつけろ」
「うん。ありがとう」
それからは特に変わったことなく放課後を迎え、陽向や他の監査部メンバーと会議をして…忙しなく動いていると空には月が浮かんでいた。
「ひな君は先生と残って。僕の方が足が速いから、もし連れ去りさんが逃げ回っても追いかけられる」
「ちびが残った方がいいんじゃないのか?」
「…桜良ちゃんの近くにいられた方がいいでしょ?」
深夜3時、最終的な作戦を決め終わると、先生が不安そうな顔をしていた。
大切な相手と一時的にでも離れるのは不安になる。
瞬が結月と話しているすきに近づき、小声で話しかけた。
「大丈夫。瞬は私が護る」
「……頼む」
もうすぐ異界への階段に行ける時間になる。
『私もできる限りサポートします』
「ありがとう」
《困ったときはここに連絡しなさい。無理矢理にでも引っ張り出してあげる》
「うん」
「先輩、絶対帰ってきてくださいね」
「勿論だ。そっちこそ死ぬなよ」
階段の前に立っていると、上の方で不気味な影がゆらりと動いた。
「…夜仕事の時間だ」
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