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第10章『連続失踪事件』
第70話
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それから約1時間後、予定どおり作戦が決行されることになった。
「俺、こんなに後ろでいいの?」
「多分防御系の能力だろうと思ったから後衛を頼んだんだけど、もしかして間違ってたか?」
「そうじゃなくて、その…あの子、陽向君はあんなに前でいいの?」
「陽向は寧ろ前衛の方が向いてる。パンチの威力が凄まじいから」
そう話した直後、陽向は真っ直ぐ体育館倉庫へ突撃した。
「悪いことしてる奴等がいるのはここか?」
《エサ、エサ!》
「え、俺餌なの?」
何発も拳を喰らわせているのが見えるけど、陽向が疲れている様子は全くない。
《随分食欲旺盛なんですね》
「精霊の目って人間とは別の視え方をするらしいけど、どんなふうに視えるんだ?」
《欲望でどす黒いです》
「違う見え方をするなんて初めて知った…。瑠璃、なんで教えてくれなかったんだ?」
《訊かれなかったからです》
ふたりの仲睦まじい会話を聞いている間、陽向はぼろぼろの状態で立っていた。
《オマエカラ、食ウ!》
「それは困るな…。帰りたい場所があるから」
数が多い盗賊団相手に、これ以上陽向ひとりで頑張らせるわけにはいかない。
相手に向かって札を投げつけ、ただ一言小さく告げる。
「──爆ぜろ」
悲鳴が聞こえるなか、そのなかで1番まともに話ができそうな奴を捕まえた。
「消えた人間たちについて、知ってることがあれば教えてほしい。
それから、本来であれば居住地を変えるはずのあんたたちがこの場所に留まってる理由は?」
《……おかシな噂ガ、呑み込ンで、次は、俺…?》
かろうじで正気を保っているみたいだけど、そう長くは持たないだろう。
「フードをかぶった男に会ったか?赤い眼鏡をかけている、本を持った奴だ」
《あ、会っタ…。頼ム、マだ人であレルうちニ…》
「そんな、まだ何か方法が、」
「八尋さん。悪いけど、私はそんなに優しくないんだ。だから頼まれたことをやる」
一気に火力を上げて周りのものごと炎で包みこもうとすると、後ろから肩を掴まれた。
「待ってくれ、あと少しだけ…お願いだ」
生身の人間を焼くわけにもいかないので炎を緩めるしかなかった。
それが命取りになることがあると、私が1番知っていたはずなのに。
「先輩!」
陽向に八尋さんごと突き飛ばされ、目の前で血飛沫が飛ぶ。
足がありえない方向に曲がった後輩の悲鳴がその場に響き渡った。
「陽向!」
「だいじょぶ、俺、死……」
今回はほぼ即死だったのか、目を開けたまま動かなくなった。
ゆっくり目を閉じさせていると、八尋さんは頭を抱えて膝をつく。
「…俺が間違ってたんだ」
「八尋さん、立って」
「俺のせいで、人間がひとり死んだ」
《八尋》
「どうしよう、どう償えば、」
「翡翠八尋!陽向を抱えて逃げろ!そいつは死なない。だから今は一旦ふたりで後退してくれ」
「え…」
「そこのまともそうな奴等を助けたいなら、そいつらにこの前の光を当ててみてほしい。…大丈夫、上手くいくよ」
八尋さんに抱えられた陽向はまだ動かない。
ひとりで残り全員を一気に火葬するとなると、またあれに頼るしかないだろう。
「…まあ、打てる手があるだけマシか」
目の前でうじゃうじゃと合体していく何かを見ながら、いつもどおりリップを塗り直す。
『【合体した後、5分は動けなくなります】』
「ありがとう桜良」
『私にはこれくらいしかできないので…。ラジオ越しで申し訳ないです』
「いや、充分だ」
札の残りはあと10枚ほど、火炎刃をしっかり使えるのは1度だけ…そこを逃せば終わりだ。
「何勝手にひとりでやろうとしてるの?僕もいるんだけど」
「…瞬」
「詩乃ちゃんはさ、色々頑張りすぎだと思うんだよね。だから今日は僕にも半分背負わせてよ」
「ありがとう。心強いよ」
瞬は前だけを見て包丁を構える。
その間に札を並べて、いつでも火炎刃が使えるように体制を整えた。
「合体し終わったみたい。あと5分だっけ?」
「ああ。その間になんとかしないとな」
後ろで神々しい光が降り注いだ気がしたが、そちらは確認せずに目の前の巨大怪異に集中した。
……翡翠八尋ならあの妖たちをどうにか助けてくれると信じて。
「俺、こんなに後ろでいいの?」
「多分防御系の能力だろうと思ったから後衛を頼んだんだけど、もしかして間違ってたか?」
「そうじゃなくて、その…あの子、陽向君はあんなに前でいいの?」
「陽向は寧ろ前衛の方が向いてる。パンチの威力が凄まじいから」
そう話した直後、陽向は真っ直ぐ体育館倉庫へ突撃した。
「悪いことしてる奴等がいるのはここか?」
《エサ、エサ!》
「え、俺餌なの?」
何発も拳を喰らわせているのが見えるけど、陽向が疲れている様子は全くない。
《随分食欲旺盛なんですね》
「精霊の目って人間とは別の視え方をするらしいけど、どんなふうに視えるんだ?」
《欲望でどす黒いです》
「違う見え方をするなんて初めて知った…。瑠璃、なんで教えてくれなかったんだ?」
《訊かれなかったからです》
ふたりの仲睦まじい会話を聞いている間、陽向はぼろぼろの状態で立っていた。
《オマエカラ、食ウ!》
「それは困るな…。帰りたい場所があるから」
数が多い盗賊団相手に、これ以上陽向ひとりで頑張らせるわけにはいかない。
相手に向かって札を投げつけ、ただ一言小さく告げる。
「──爆ぜろ」
悲鳴が聞こえるなか、そのなかで1番まともに話ができそうな奴を捕まえた。
「消えた人間たちについて、知ってることがあれば教えてほしい。
それから、本来であれば居住地を変えるはずのあんたたちがこの場所に留まってる理由は?」
《……おかシな噂ガ、呑み込ンで、次は、俺…?》
かろうじで正気を保っているみたいだけど、そう長くは持たないだろう。
「フードをかぶった男に会ったか?赤い眼鏡をかけている、本を持った奴だ」
《あ、会っタ…。頼ム、マだ人であレルうちニ…》
「そんな、まだ何か方法が、」
「八尋さん。悪いけど、私はそんなに優しくないんだ。だから頼まれたことをやる」
一気に火力を上げて周りのものごと炎で包みこもうとすると、後ろから肩を掴まれた。
「待ってくれ、あと少しだけ…お願いだ」
生身の人間を焼くわけにもいかないので炎を緩めるしかなかった。
それが命取りになることがあると、私が1番知っていたはずなのに。
「先輩!」
陽向に八尋さんごと突き飛ばされ、目の前で血飛沫が飛ぶ。
足がありえない方向に曲がった後輩の悲鳴がその場に響き渡った。
「陽向!」
「だいじょぶ、俺、死……」
今回はほぼ即死だったのか、目を開けたまま動かなくなった。
ゆっくり目を閉じさせていると、八尋さんは頭を抱えて膝をつく。
「…俺が間違ってたんだ」
「八尋さん、立って」
「俺のせいで、人間がひとり死んだ」
《八尋》
「どうしよう、どう償えば、」
「翡翠八尋!陽向を抱えて逃げろ!そいつは死なない。だから今は一旦ふたりで後退してくれ」
「え…」
「そこのまともそうな奴等を助けたいなら、そいつらにこの前の光を当ててみてほしい。…大丈夫、上手くいくよ」
八尋さんに抱えられた陽向はまだ動かない。
ひとりで残り全員を一気に火葬するとなると、またあれに頼るしかないだろう。
「…まあ、打てる手があるだけマシか」
目の前でうじゃうじゃと合体していく何かを見ながら、いつもどおりリップを塗り直す。
『【合体した後、5分は動けなくなります】』
「ありがとう桜良」
『私にはこれくらいしかできないので…。ラジオ越しで申し訳ないです』
「いや、充分だ」
札の残りはあと10枚ほど、火炎刃をしっかり使えるのは1度だけ…そこを逃せば終わりだ。
「何勝手にひとりでやろうとしてるの?僕もいるんだけど」
「…瞬」
「詩乃ちゃんはさ、色々頑張りすぎだと思うんだよね。だから今日は僕にも半分背負わせてよ」
「ありがとう。心強いよ」
瞬は前だけを見て包丁を構える。
その間に札を並べて、いつでも火炎刃が使えるように体制を整えた。
「合体し終わったみたい。あと5分だっけ?」
「ああ。その間になんとかしないとな」
後ろで神々しい光が降り注いだ気がしたが、そちらは確認せずに目の前の巨大怪異に集中した。
……翡翠八尋ならあの妖たちをどうにか助けてくれると信じて。
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