夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第10章『連続失踪事件』

第66話

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目を開けると穂乃がいて、沢山心配をかけてしまったと反省した。
もっと早く戻るつもりだったのに、やっぱり意識を飛ばしていたらしい。
「深碧、この子の絵のモデルになってくれないか?」
《本当に私でいいんですか?》
「穂乃はどう思う?」
「こんな綺麗な人をちゃんと描けるか自信はないけど…。嫌じゃないなら、描いてもいいですか?」
《私でよければお願いします》
ふたりの会話が微笑ましいのと対照的に、少し離れた場所にいる先生たちの表情が険しいのが気になる。
「お姉ちゃん?」
「ごめん、なんでもないんだ。道具は持ってきたか?」
「うん。頑張って描くね」
明かりが少ないなか、穂乃はすらすらと下書きを完成させた。
「できた…。色塗りはまた今度にします」
《お役に立てましたか?》
「お姉さんのおかげで楽しく絵を描けました。ありかとうございました」
《私も楽しかったです》
ふたりが楽しそうに話しているのを見ているだけで疲れが吹き飛ぶ。
「よかった、みんな元気そうだね。…詩乃ちゃん、あの子は誰?」
「私の妹だよ」
「そっか、お姉ちゃんなんだもんね」
瞬は穂乃に近づき声をかけた。
「こんばんは。君の名前は?」
「穂乃、です」
「僕は瞬。よろしくね穂乃ちゃん」
包丁を隠し持っているということは、何かあったことを察知して駆けつけてくれたのだろう。
「あの…あなたは死んでるの?」
「そんな直球で訊くのってひな君だけだと思ってた。…そうだよ、僕は死んでる。
けど、誰かを呪ったり襲ったりするつもりはないから安心してね」
向こうは向こうで盛りあがっているし問題なさそうだ。
その場に座ると黒猫がこちらに走ってくる。
《怪我、大丈夫なの?》
「これくらいなら問題ない。霊力もすぐ回復するから大丈夫だよ。
いつもなら猫娘みたいになるのに、どうして今日は猫のままなんだ?」
《瞬間移動の反動よ。あっちの姿を保つには結構力が削られるの。省エネモードってやつかしら》
「…ごめん」
一瞬で目の前に現れたように見えたのはどうやら本当におきた現象だったらしい。
《もうちょっと妹に心配かけないことから覚えなさい》
「そうだな」
全てを祓いきれたわけではないうえに、力を喰らえば強くなれるという思想…早めに対処しなければ確実にあいつがでてくる。
《この町で人間が消えてるって本当?》
「そっちの方が詳しいんじゃないのか?」
《向こうで話しているのを盗み聞きしただけなの。ただの失踪にしては不可思議な消え方をしているらしいわ》
「ありがとう。後で詳しく聞いてみるよ」
結月は疲れているのか、撫でているうちに眠ってしまったらしい。
顔をあげると、陽向が穂乃を横抱きにしてこちらに歩いてきた。
「もう少し寝かせておきましょう」
「そうだな」
『詩乃先輩』
「桜良か。どうした?」
『さっきの失踪事件の噂、今日ラジオブースに来たお客さんが話していました。
何かを見たら引きずりこまれるとか、何かに出くわしたら骨の髄までしゃぶられるとか…とにかく曖昧なんです』
「そういえば、そんなえげつない話してる子いたな…」
考えるまでもない。
「先生、失踪事件ってこの学園の生徒も関係してるか?」
「…ふたり、存在それ自体消えてるやつがいる。それからもうひとつ、偶然かもしれないが同じ時期から学校に姿を見せなくなった定時制の生徒がひとり…。
記憶から抹消されてないってことは事件に巻きこまれていない可能性が高い」
先生が渋い顔をするのは私がまた倒れたからだろう。
周りが心配してくれるのはありがたいけど、何もせずに見ているだけなんてできない。
「さっきその人に助けてもらったんだ。だから私は学園内部から調べてみるよ」
「まだ怪我が、」
「大丈夫だよ。倒れるようなことはしないから」
それでも不安なのか、先生は首を縦にふろうとしない。
「…頼む。そろそろケリをつけないといけないことなんだ」
そう告げると、先生は渋々といった様子で了承してくれた。
「ただし、俺たちも見回りを増やす。それがこの話をする条件だ」
「ありがとう」
「僕も参加していいの?」
「おまえが嫌じゃないなら」
「やった、ありがとう先生!」
陽向の方を見ると、何やらラジオと会話をしているのか全く目が合わない。
話が終わったのかこちらに小走りでやってきて、がっしり腕を掴まれた。
「先輩、ちょっと一緒に来てください」
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