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第9章『中庭の守護神と一夜草』
第62話
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「おまたせしました!」
「私も今来たばかりだから、取り敢えずお茶でも飲んだ方がいい」
放送の機材を運んでいたのか、クラスで何か頼まれたのか…陽向ならどちらもあり得る。
「ごめん。これから先に点検作業をすませないといけないんだ」
「今日はどこでバイトだったんですか?」
「深夜帯が1番忙しくなる書店。古い本も置いてあるから割と楽しい」
「先輩、働きづめなんじゃ…」
「このくらいなら別に平気だ。心配しなくても倒れない程度に考えてる。…そろそろ行こう」
真っ暗ななか作業している何人かに一礼しながら先を急ぐ。
各部活の露店の確認をしながら陽向に尋ねてみた。
「そういえば、放送部の露店は何にするか決まったのか?」
「ラジオとか楽しいかなって話はしたんですけど、来てくれた人たちに曲をリクエストしてもらう方法を模索中です。
アンケートボックスだと集めるのに回収に時間がかかっちゃいますし…」
「露店や出しものを宣伝したい生徒を募ってみる。時間を区切っておけばラジオも進行しやすいだろ?」
「あと、毎年迷子の連絡をしてほしいってくる人がいるんですよね…」
お客さんたちにも楽しんでもらえる内容がいいとは思うが、少ない人数でリクエストをとるのは難しい。
「巡回時間に回収できる場所にボックスを置くのはどうだ?定時制や通信制のメンバーにも協力してもらえないか頼んでみるよ。
私は大抵本部にいるし、見回りの時間にボックスを確認するくらいはできる」
「ありがとうございます…!それができたら桜良が喜びます」
桜良も私と似たような状況なのだろうか。
もしクラスの出しものに参加しない予定なら、ラジオを手伝わせてもらうのもいいかもしれない。
「深碧、少しいいか?」
《あ…こんばんは夜紅》
「俺もいるんだけどなあ…」
《失礼いたしました、陽向様》
「妖精に様づけで呼ばれるなんて、畏れ多いことなんじゃないか?」
「ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、俺って影が薄いから認識されてないのかなって…」
私たちの会話を深碧は微笑みながら聞いている。
そういえば、彼女はずっとここに独りでいたのだろうか。
「深碧ってさ、話し相手いなくて寂しくならない?」
「…流石にその聞き方は直球すぎないか?」
《私は大丈夫ですよ。話し相手がいないわけではありません。小鳥の精霊がひとり、ずっと側にいてくれる者がいます。
今はある人と交流して楽しく過ごしているようなので、会える日は減っていますが…あの子が見つけた幸せがあるならそれでいいのです》
深碧はずっとここから動けないまま暮らしていたとなると、片翼ずつ色が違う小鳥だけが友人と呼べる相手だったのかもしれない。
「一夜草について調べてはみたんだけど、一夜草そのものが必要なんだよな?」
《はい。私は蜜が欲しいわけではなく、どちらかといえば花そのものが必要なのです》
「分かった。もう少し探してみるよ」
《ありがとうございます》
先生の推理が当たっているのかもしれない。
悪いことをするような妖精なら、たったひとりを待ち続けたりしないだろう。
「…先輩」
「どうした?」
「俺が死んだら、骨まで拾ってくれますか?」
「そもそも死なせるつもりがないっていったら信じてくれるか?」
深碧は心配そうな表情で私たちを見ているが、大丈夫だと一声かけて中庭を後にする。
いつもどおりリップを塗り、弓を構えた。
「悪いけど、あんたの相手は私たちだ」
《美味シソう、夜紅…!》
狙いが私ということは、またあの男が絡んでいるのかもしれない。
矢を放つ間もなく攻撃を受け、そのまま札を数枚投げる。
「──爆ぜろ」
陽向は周りにいる言葉さえ通じない人間ではない何かの相手をしている。
この炎で一気にカタをつけられれば、後輩への負担を減らせるかもしれない。
「おりゃ!」
《ナンだ、こノ怪力ハ…》
「俺のパンチって結構痛いらしいぜ?」
にこにこ笑いながらやっていることはかなりえげつない。
《食べテ、強くなル…まダ、終ワラなイ!》
「待て!」
炎を伸ばそうとしたが、1番後ろにいる奴にだけ攻撃が届かなかったらしい。
結局そのまま逃げられてしまった。
「やった、久しぶりに死にませんでした!」
「いつも死なないように心がけてくれ。…今学園内で流行ってる噂、何があるか?」
「すっかり忘れてたんですけど、小耳に挟んだ話ならあります」
陽向はにやにやしながら端的に告げた。
「こそドロみたいな怪異連中が、何か宝を狙ってこの学園に潜んでいるらしい…みたいな話です」
…これはかなりまずいことになったかもしれない。
「私も今来たばかりだから、取り敢えずお茶でも飲んだ方がいい」
放送の機材を運んでいたのか、クラスで何か頼まれたのか…陽向ならどちらもあり得る。
「ごめん。これから先に点検作業をすませないといけないんだ」
「今日はどこでバイトだったんですか?」
「深夜帯が1番忙しくなる書店。古い本も置いてあるから割と楽しい」
「先輩、働きづめなんじゃ…」
「このくらいなら別に平気だ。心配しなくても倒れない程度に考えてる。…そろそろ行こう」
真っ暗ななか作業している何人かに一礼しながら先を急ぐ。
各部活の露店の確認をしながら陽向に尋ねてみた。
「そういえば、放送部の露店は何にするか決まったのか?」
「ラジオとか楽しいかなって話はしたんですけど、来てくれた人たちに曲をリクエストしてもらう方法を模索中です。
アンケートボックスだと集めるのに回収に時間がかかっちゃいますし…」
「露店や出しものを宣伝したい生徒を募ってみる。時間を区切っておけばラジオも進行しやすいだろ?」
「あと、毎年迷子の連絡をしてほしいってくる人がいるんですよね…」
お客さんたちにも楽しんでもらえる内容がいいとは思うが、少ない人数でリクエストをとるのは難しい。
「巡回時間に回収できる場所にボックスを置くのはどうだ?定時制や通信制のメンバーにも協力してもらえないか頼んでみるよ。
私は大抵本部にいるし、見回りの時間にボックスを確認するくらいはできる」
「ありがとうございます…!それができたら桜良が喜びます」
桜良も私と似たような状況なのだろうか。
もしクラスの出しものに参加しない予定なら、ラジオを手伝わせてもらうのもいいかもしれない。
「深碧、少しいいか?」
《あ…こんばんは夜紅》
「俺もいるんだけどなあ…」
《失礼いたしました、陽向様》
「妖精に様づけで呼ばれるなんて、畏れ多いことなんじゃないか?」
「ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、俺って影が薄いから認識されてないのかなって…」
私たちの会話を深碧は微笑みながら聞いている。
そういえば、彼女はずっとここに独りでいたのだろうか。
「深碧ってさ、話し相手いなくて寂しくならない?」
「…流石にその聞き方は直球すぎないか?」
《私は大丈夫ですよ。話し相手がいないわけではありません。小鳥の精霊がひとり、ずっと側にいてくれる者がいます。
今はある人と交流して楽しく過ごしているようなので、会える日は減っていますが…あの子が見つけた幸せがあるならそれでいいのです》
深碧はずっとここから動けないまま暮らしていたとなると、片翼ずつ色が違う小鳥だけが友人と呼べる相手だったのかもしれない。
「一夜草について調べてはみたんだけど、一夜草そのものが必要なんだよな?」
《はい。私は蜜が欲しいわけではなく、どちらかといえば花そのものが必要なのです》
「分かった。もう少し探してみるよ」
《ありがとうございます》
先生の推理が当たっているのかもしれない。
悪いことをするような妖精なら、たったひとりを待ち続けたりしないだろう。
「…先輩」
「どうした?」
「俺が死んだら、骨まで拾ってくれますか?」
「そもそも死なせるつもりがないっていったら信じてくれるか?」
深碧は心配そうな表情で私たちを見ているが、大丈夫だと一声かけて中庭を後にする。
いつもどおりリップを塗り、弓を構えた。
「悪いけど、あんたの相手は私たちだ」
《美味シソう、夜紅…!》
狙いが私ということは、またあの男が絡んでいるのかもしれない。
矢を放つ間もなく攻撃を受け、そのまま札を数枚投げる。
「──爆ぜろ」
陽向は周りにいる言葉さえ通じない人間ではない何かの相手をしている。
この炎で一気にカタをつけられれば、後輩への負担を減らせるかもしれない。
「おりゃ!」
《ナンだ、こノ怪力ハ…》
「俺のパンチって結構痛いらしいぜ?」
にこにこ笑いながらやっていることはかなりえげつない。
《食べテ、強くなル…まダ、終ワラなイ!》
「待て!」
炎を伸ばそうとしたが、1番後ろにいる奴にだけ攻撃が届かなかったらしい。
結局そのまま逃げられてしまった。
「やった、久しぶりに死にませんでした!」
「いつも死なないように心がけてくれ。…今学園内で流行ってる噂、何があるか?」
「すっかり忘れてたんですけど、小耳に挟んだ話ならあります」
陽向はにやにやしながら端的に告げた。
「こそドロみたいな怪異連中が、何か宝を狙ってこの学園に潜んでいるらしい…みたいな話です」
…これはかなりまずいことになったかもしれない。
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