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第8章『ローレライの告白-異界への階段・壱-』
番外篇『合同体育祭』
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『本日は天候にも恵まれ…』
そんな放送からはじまった1日は少し忙しく感じる。
『続いてのプログラムは、障害物競争です』
桜良の放送とともに沢山の生徒がわらわらと集まり、楽しそうに競技に参加している。
経済事情からジャージで通える定時制に通っている同い年くらいの人から、子連れでやってきた通信制に通っている30代の人まで、参加者は様々だ。
「参加者名簿にはひととおり目を通したんですけど、こんなに参加してもらえるとは思っていませんでした」
「そうだな」
例年であればもっと少ない人数になるのだが、定時制の監査部メンバーが呼びかけてくれたらしい。
種目こそ少ないものの、人数は多いし昼食代わりになりそうな屋台が沢山出ているのでそちらでも盛りあがるだろう。
『続いては、桜塚小学校の児童たちのダンスです。この日のために沢山練習してきた小学生たちを温回拍手でおむかえください』
「今年はそういうのもあるんですね」
「私も知らなかった。プログラムには書かれてなかったみたいだけど…」
そこまでで言葉を止めたのは、今日は友だちと遊びに行くと話していた穂乃の姿があったからだ。
「穂乃ちゃんも出る予定だったんですか?」
「…いや、聞いてなかった」
ワイシャツに監査部のバッジと腕章という微妙な学校でうろつきながら、撮影用に持ってきていたビデオで穂乃の姿を写してみる。
きらきらはじけるような笑顔で踊るその姿を見ていると、妹の成長を感じてこみあげてくるものがあった。
『桜塚小学校の皆さん、ありがとうございました』
周りから拍手をおくられ、児童たちはとてもやりきった顔をしている。
友だちと話し終えたところに後ろから突撃した。
「監査部です。少しお話いいですか?」
「え、お姉ちゃん!?」
「ダンスを披露するなんて聞いてなかったんだけど」
「それは、えっと…お姉ちゃんを吃驚させたかったの」
恥ずかしそうに話す穂乃は、腕章を見てきらきら目を輝かせた。
「私も監査部の人になれるかな?」
「余程の素行不良じゃなければ、先生から話がくるんじゃないかな?」
「陽向君もいる…」
「今日は私たちで手伝いをしているんだ。放送しているのは桜良お姉さんだし、あそこの救護テントにいるのは室星先生だ」
「知らなかった…」
先生の周りには人だかりができていて、なんだか困っているように見える。
「穂乃、ちょっと陽向と待っててくれ。…或いはこれで友だちと好きなものを買って食べてくれ」
「ありがとう!」
先生の方に近づくと、部活動が休みなはずの普通科の生徒たちが囲んでいる。
「室星先生、私たちも手当てしてください」
「先生にお菓子持ってきたんです!」
「先生、ぜひ俺と話を…」
…これもある意味トラブルか。
「何故部外生徒が交ざっているんですか?…先生が本当に大切なら仕事の邪魔をするな」
私の言葉が耳に届いたらしく、周囲に集まっていた人間たちの目がこちらに向く。
「け、憲兵姫!?」
「まさかこんなに近くで見られるなんて…」
「関係のない生徒は今すぐ下校してください」
今日の体育祭の参加者には、大人数が苦手ななか特別出席点を稼ぐために出席している生徒もいる。
こんなに人が群がっていては次は参加してくれないかもしれない。
「部長、お疲れ様です」
「手伝ってくれてありがとう。すごく助かってる」
「部長、そろそろ抜けないといけなくて…」
「妹さんのお迎えだろ?ここは大丈夫だから行ってこい」
「ありがとうございます…!」
私と陽向以外にもほとんどの監査部員が参加してくれているおかげで、なんとか仕事をまわせている。
「悪い。助かった」
「別に先生のせいじゃないだろ。それに、そんなにむくれた子が近くにいたらな…」
「……別にむくれてないもん」
瞬は素直に言えないのか、俯いたまま先生の服を掴んでいる。
ふたりに仕事があるからと別れを告げ、そのまま小走りで立ち位置に戻った。
そうしているうちにアナウンスが流れる。
『これにて閉会式を終わります』
「特に大きな問題もなく終わってよかったです」
「そうだな」
陽向と話しながら放送テントに向かうと、桜良が沢山の大人に囲まれていた。
「木嶋さん、本当にありがとう」
「実況や放送、とても聞きやすかったわ」
「…ありがとうございます」
その様子を見ていた陽向は、大声で恋人の名前を呼ぶ。
「桜良!機材片づけるんだろ?そっちのマイク持ってきて」
「分かった」
「桜良、引き受けてくれて本当に助かった」
「いえ…」
仲良く話すふたりの邪魔をしたくなくて、そのまま競技で使った道具の片づけをする。
この後は各自解散でいいと伝えてあるので問題ないだろう。
穂乃の姿を探してみたものの、結局見つけられなかった。
「…お疲れ」
今日は片づけを早く済ませて帰ろう。
見ていて楽しい気分になるダンスだったと、穂乃に伝えるために。
そんな放送からはじまった1日は少し忙しく感じる。
『続いてのプログラムは、障害物競争です』
桜良の放送とともに沢山の生徒がわらわらと集まり、楽しそうに競技に参加している。
経済事情からジャージで通える定時制に通っている同い年くらいの人から、子連れでやってきた通信制に通っている30代の人まで、参加者は様々だ。
「参加者名簿にはひととおり目を通したんですけど、こんなに参加してもらえるとは思っていませんでした」
「そうだな」
例年であればもっと少ない人数になるのだが、定時制の監査部メンバーが呼びかけてくれたらしい。
種目こそ少ないものの、人数は多いし昼食代わりになりそうな屋台が沢山出ているのでそちらでも盛りあがるだろう。
『続いては、桜塚小学校の児童たちのダンスです。この日のために沢山練習してきた小学生たちを温回拍手でおむかえください』
「今年はそういうのもあるんですね」
「私も知らなかった。プログラムには書かれてなかったみたいだけど…」
そこまでで言葉を止めたのは、今日は友だちと遊びに行くと話していた穂乃の姿があったからだ。
「穂乃ちゃんも出る予定だったんですか?」
「…いや、聞いてなかった」
ワイシャツに監査部のバッジと腕章という微妙な学校でうろつきながら、撮影用に持ってきていたビデオで穂乃の姿を写してみる。
きらきらはじけるような笑顔で踊るその姿を見ていると、妹の成長を感じてこみあげてくるものがあった。
『桜塚小学校の皆さん、ありがとうございました』
周りから拍手をおくられ、児童たちはとてもやりきった顔をしている。
友だちと話し終えたところに後ろから突撃した。
「監査部です。少しお話いいですか?」
「え、お姉ちゃん!?」
「ダンスを披露するなんて聞いてなかったんだけど」
「それは、えっと…お姉ちゃんを吃驚させたかったの」
恥ずかしそうに話す穂乃は、腕章を見てきらきら目を輝かせた。
「私も監査部の人になれるかな?」
「余程の素行不良じゃなければ、先生から話がくるんじゃないかな?」
「陽向君もいる…」
「今日は私たちで手伝いをしているんだ。放送しているのは桜良お姉さんだし、あそこの救護テントにいるのは室星先生だ」
「知らなかった…」
先生の周りには人だかりができていて、なんだか困っているように見える。
「穂乃、ちょっと陽向と待っててくれ。…或いはこれで友だちと好きなものを買って食べてくれ」
「ありがとう!」
先生の方に近づくと、部活動が休みなはずの普通科の生徒たちが囲んでいる。
「室星先生、私たちも手当てしてください」
「先生にお菓子持ってきたんです!」
「先生、ぜひ俺と話を…」
…これもある意味トラブルか。
「何故部外生徒が交ざっているんですか?…先生が本当に大切なら仕事の邪魔をするな」
私の言葉が耳に届いたらしく、周囲に集まっていた人間たちの目がこちらに向く。
「け、憲兵姫!?」
「まさかこんなに近くで見られるなんて…」
「関係のない生徒は今すぐ下校してください」
今日の体育祭の参加者には、大人数が苦手ななか特別出席点を稼ぐために出席している生徒もいる。
こんなに人が群がっていては次は参加してくれないかもしれない。
「部長、お疲れ様です」
「手伝ってくれてありがとう。すごく助かってる」
「部長、そろそろ抜けないといけなくて…」
「妹さんのお迎えだろ?ここは大丈夫だから行ってこい」
「ありがとうございます…!」
私と陽向以外にもほとんどの監査部員が参加してくれているおかげで、なんとか仕事をまわせている。
「悪い。助かった」
「別に先生のせいじゃないだろ。それに、そんなにむくれた子が近くにいたらな…」
「……別にむくれてないもん」
瞬は素直に言えないのか、俯いたまま先生の服を掴んでいる。
ふたりに仕事があるからと別れを告げ、そのまま小走りで立ち位置に戻った。
そうしているうちにアナウンスが流れる。
『これにて閉会式を終わります』
「特に大きな問題もなく終わってよかったです」
「そうだな」
陽向と話しながら放送テントに向かうと、桜良が沢山の大人に囲まれていた。
「木嶋さん、本当にありがとう」
「実況や放送、とても聞きやすかったわ」
「…ありがとうございます」
その様子を見ていた陽向は、大声で恋人の名前を呼ぶ。
「桜良!機材片づけるんだろ?そっちのマイク持ってきて」
「分かった」
「桜良、引き受けてくれて本当に助かった」
「いえ…」
仲良く話すふたりの邪魔をしたくなくて、そのまま競技で使った道具の片づけをする。
この後は各自解散でいいと伝えてあるので問題ないだろう。
穂乃の姿を探してみたものの、結局見つけられなかった。
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