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第8章『ローレライの告白-異界への階段・壱-』
第56話『導き出された方程式』
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なんでそんな単純なことに気づかなかったんだろう。
家での存在理由がない俺を見てくれたのは桜良だけだった。
どんなに消えたくても、大事な人が側にいるから頑張れたんだ。
「陽向…?」
「今の話聞いてすっきりした」
一旦少し後ろに視線をやるけど、そこにはもう詩乃先輩の姿はなかった。
気を遣わせてしまったと思うと申し訳ない気持ちになると同時に、ここまでつきあってくれた感謝がこみあげる。
そして、覚悟を決めて桜良に視線を戻した。
「俺はずっと消えたかった。自分が死ねなくなったのがそんなことを考えていたからかもしれないって思ってた」
家に帰れば、毎日のように暴力が待っている。
今でこそ色々な人と話せるようになったけど、昔は人間相手に話すことが苦手だった。
俺にしか視えないものを伝えるのは難しく、どうせ誰とも分かりあえないって諦めることにしていたんだ。
けど、そんななか同じ景色を見て一緒に過ごしてくれる相手がいた。
「俺、いつも桜良に助けられてたんだな」
「…怒ってないの?」
「全然」
ずっと居場所がなかった俺が人でいられたのは桜良のおかげだ。
今でこそ先輩や先生がいるけど、小さい頃からずっと孤独を抱えて生きてきた。
それを癒やしてくれたのは、この世界で1番大切な人だ。
「さっきの話を総合すると、俺は不死身じゃなかったってことになる。桜良が死んだら俺だって死ぬんだから」
「でも、死んでも死にきれない苦しさがずっと続くことになる。…嫌じゃないの?」
「まあ、昔は嫌だったけど…頑丈な体なの、今では結構助かってるんだ」
消えたがりの俺にとって、どんなに頑張っても死ねないのは正直苦しかった。
何故自分なのかと思ったことも1度や2度じゃない。
けど、この体質は呪いなんかじゃなくて愛だったんだ。
不安げに瞳を揺らす桜良を抱きしめた。
「恋人ってさ、普通なら絶対どっちかが先に死んじゃうじゃん?残った方はずっと寂しい思いをしながら生きていくことになる。
けど、俺たちが死ぬときも一緒なら一生一緒にいられるってことでしょ?」
無価値な俺に生きる意味なんてない…ずっとそう思っていた。
けど、桜良と一緒にいる為だと思えば頑張れる。
「…陽向に、生きていてほしかったの」
「うん」
「それが私の勝手な願いだとしても、死なせたくなかった」
「…うん」
「あのとき私がしたことは、間違ってなかった?」
「勿論。今の俺は桜良でできてるから」
桜良の寿命尽きるその日まで一緒にいられる…そんな幸せなことがあっていいのだろうか。
「今までひとりで抱えさせてごめん。ちゃんと思い出せないけど、やっぱり桜良の側にいたい。
『ふたりの物語が終わるまで一緒にいてほしい』…あのときの気持ちは変わらないよ。…いや、もしかしたら今の方が好きになってるかもしれない」
本当にふたりの物語が終わるまで一緒にいられるならそれでいい。
「俺と一緒に幸せになろう」
大粒の涙を零す桜良にそう声をかけて、背中に回した腕に力をいれる。
彼女のか弱い腕が俺を抱きしめかえした。
「まさか桜良が泣き出すなんて思わなかったな」
「…別に、泣いてない」
気づいたときには朝日がさしこんでいて、ある用事を思い出す。
「そういえば監査部の資料を作るの、全部先輩に任せきりだ…!」
「資料ならもう作り終わったよ」
「え、先輩!?」
いつの間に戻ってきていたのか、にこにこ笑う先輩の姿が目にうつる。
桜良は恥ずかしそうに俯いて、俺の胸に顔をうずめた。
「話、まとまったみたいだな」
「ありがとうございます、先輩」
「私は何もしてないよ」
今の俺は独りじゃなくなった。
先輩がいて先生がいて、ちびたちがいて…1番大事な桜良が隣にいてくれる。
あのパーカーのことはよく思い出せないままだけど、桜良とずっと一緒に生きられるんだ。
罪悪感じゃなくて、純粋に好意で隣にいてほしい。
「陽向」
「どうかした?」
「…好き」
小さく呟かれたその一言に、俺はいつだって射抜かれてしまうんだ。
「俺も愛してる!」
家での存在理由がない俺を見てくれたのは桜良だけだった。
どんなに消えたくても、大事な人が側にいるから頑張れたんだ。
「陽向…?」
「今の話聞いてすっきりした」
一旦少し後ろに視線をやるけど、そこにはもう詩乃先輩の姿はなかった。
気を遣わせてしまったと思うと申し訳ない気持ちになると同時に、ここまでつきあってくれた感謝がこみあげる。
そして、覚悟を決めて桜良に視線を戻した。
「俺はずっと消えたかった。自分が死ねなくなったのがそんなことを考えていたからかもしれないって思ってた」
家に帰れば、毎日のように暴力が待っている。
今でこそ色々な人と話せるようになったけど、昔は人間相手に話すことが苦手だった。
俺にしか視えないものを伝えるのは難しく、どうせ誰とも分かりあえないって諦めることにしていたんだ。
けど、そんななか同じ景色を見て一緒に過ごしてくれる相手がいた。
「俺、いつも桜良に助けられてたんだな」
「…怒ってないの?」
「全然」
ずっと居場所がなかった俺が人でいられたのは桜良のおかげだ。
今でこそ先輩や先生がいるけど、小さい頃からずっと孤独を抱えて生きてきた。
それを癒やしてくれたのは、この世界で1番大切な人だ。
「さっきの話を総合すると、俺は不死身じゃなかったってことになる。桜良が死んだら俺だって死ぬんだから」
「でも、死んでも死にきれない苦しさがずっと続くことになる。…嫌じゃないの?」
「まあ、昔は嫌だったけど…頑丈な体なの、今では結構助かってるんだ」
消えたがりの俺にとって、どんなに頑張っても死ねないのは正直苦しかった。
何故自分なのかと思ったことも1度や2度じゃない。
けど、この体質は呪いなんかじゃなくて愛だったんだ。
不安げに瞳を揺らす桜良を抱きしめた。
「恋人ってさ、普通なら絶対どっちかが先に死んじゃうじゃん?残った方はずっと寂しい思いをしながら生きていくことになる。
けど、俺たちが死ぬときも一緒なら一生一緒にいられるってことでしょ?」
無価値な俺に生きる意味なんてない…ずっとそう思っていた。
けど、桜良と一緒にいる為だと思えば頑張れる。
「…陽向に、生きていてほしかったの」
「うん」
「それが私の勝手な願いだとしても、死なせたくなかった」
「…うん」
「あのとき私がしたことは、間違ってなかった?」
「勿論。今の俺は桜良でできてるから」
桜良の寿命尽きるその日まで一緒にいられる…そんな幸せなことがあっていいのだろうか。
「今までひとりで抱えさせてごめん。ちゃんと思い出せないけど、やっぱり桜良の側にいたい。
『ふたりの物語が終わるまで一緒にいてほしい』…あのときの気持ちは変わらないよ。…いや、もしかしたら今の方が好きになってるかもしれない」
本当にふたりの物語が終わるまで一緒にいられるならそれでいい。
「俺と一緒に幸せになろう」
大粒の涙を零す桜良にそう声をかけて、背中に回した腕に力をいれる。
彼女のか弱い腕が俺を抱きしめかえした。
「まさか桜良が泣き出すなんて思わなかったな」
「…別に、泣いてない」
気づいたときには朝日がさしこんでいて、ある用事を思い出す。
「そういえば監査部の資料を作るの、全部先輩に任せきりだ…!」
「資料ならもう作り終わったよ」
「え、先輩!?」
いつの間に戻ってきていたのか、にこにこ笑う先輩の姿が目にうつる。
桜良は恥ずかしそうに俯いて、俺の胸に顔をうずめた。
「話、まとまったみたいだな」
「ありがとうございます、先輩」
「私は何もしてないよ」
今の俺は独りじゃなくなった。
先輩がいて先生がいて、ちびたちがいて…1番大事な桜良が隣にいてくれる。
あのパーカーのことはよく思い出せないままだけど、桜良とずっと一緒に生きられるんだ。
罪悪感じゃなくて、純粋に好意で隣にいてほしい。
「陽向」
「どうかした?」
「…好き」
小さく呟かれたその一言に、俺はいつだって射抜かれてしまうんだ。
「俺も愛してる!」
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