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閑話『夏の過ごし方』
流山 瞬の場合
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「これ、飲んで」
「え?」
「これに着替えたら校門前に集合」
「待って、僕はここから…」
「心配しなくていい」
いきなり言われて困惑したけど、指示に従って自宅を終える。
そうして数年ぶりに見た外の世界は、知らないことだらけになっていた。
「あんなお店、前はなかった」
「あそこは保護猫カフェ。里親探しをしながらその猫たちと触れ合える」
きらきらしていて入ってみたかったけど、そこまで先生の時間をとらせるわけにはいかない。
「行ってみるか?」
「え、いいの?」
「あの薬の効果は夜明けまでだ」
「そんなに効くんだ…」
せいぜい3時間が限界だと思っていたのに、僕が知らないところでそんなものを用意してくれていたなんて知らなかった。
「いらっしゃいま、せ」
詩乃ちゃんが固まっていたけど、思いきり手をふってみせる。
色々とやってもらってから猫さんの近くに座っていると、沢山の猫さんが近づいてきた。
「そんなに一気に来られても、おやつ持ってないよ…?」
「こうやって1匹だっこするともう少し落ち着くらしい」
最初から目が合っていた子を言われたとおりだっこしてみると、たしかに周りから猫さんが少し減った。
「先生、詳しいんだね」
「別に褒められるほど知識があるわけじゃない」
先生はそう言ってたけど、僕にとってはいつだってすごいんだ。
しばらくゆっくり過ごしてからお祭りをやっている場所まで連れていってくれた。
「好きなものをやってみればいい」
「え、でも、」
「俺はおまえがよければなんでもいい」
霊体だってお腹がすかないわけじゃないし、ましてや人間に紛れこむほどの何かを使っているわけだからお腹はぺこぺこだ。
たこ焼きにわたがし…どうして先生はこんなによくしてくれるんだろう。
「あ…」
「どうした?」
「僕、あれやりたい」
当たるかどうかなんて分からない。
それでも、何も返せないのは嫌だった。
「すみません、ふたり分お願いします」
そう話した先生は景品にコルク弾を仕込んだ銃を向ける。
「どれを狙う?」
「先生こそ、どれにするの?」
「特に決めてない」
まず1発、ぬいぐるみに当てた先生は楽しそうに笑っていた。
その後僕が撃った2発は狙っているものの隣に当たってしまう。
「箱を狙うならもう少し上に照準を合わせた方がいい。それから、ぶれないように両手で狙うこと」
「先生片手じゃん」
「慣れてるからな」
もう1発、どうしても当てたかった。
外れたかと思ったけど、真っ直ぐ箱に命中する。
「そんなにキャラメル好きだったか?」
先生は景品をひとまとめにしてくれたお兄さんから袋を受け取って、その中からキャラメルだけ渡してくれた。
「違うよ。今日のお礼」
「お礼?」
「先生、いつもキャラメル食べてたでしょ?だからこれは先生のだよ。ついでに他のもあげる」
お菓子しか置いていない列のものを狙ってよかった。
甘いものが大好きで、いつもポケットにキャラメルを入れていた先生に食べてほしかったんだ。
【疲れたときは甘いものだろ】
【教師がそんなこと言っていいの?】
【それもそうか…。じゃあ、おまえもこれで共犯な】
怪我をして保健室にいたあの日食べたキャラメルの味を、今でもずっと覚えている。
先生にとってはただの生徒との会話だったかもしれないけど、僕にとっては救いの言葉だった。
「授業中に食べるわけにはいかないし、ひとりでこんなには食べ切れない。
あと、授業中退屈ならこれでも持って待ってろ」
そう言って先生に渡されたのは、猫とくまの小さめなぬいぐるみだった。
「僕より詩乃ちゃんの方が喜ぶんじゃない?」
「おまえに持っててほしいんだ」
「…ありがとう」
「あと、キャラメルは持ち歩くが、残りのお菓子はふたりで食べればいい。…それで共犯な」
「…!うん!」
先生は覚えていてくれたのだろうか。
それとも、たまたま同じようなことを言ったのかな。
はっきりとは分からなかったけど、先生が楽しそうだからそれでいい。
「瞬」
「なに?」
「ほら」
手を差し出されてその手を迷わず握る。
先生のことを、もう疑ったりしない。
先生に迷惑をかけない程度に、一緒にいられるといいな。
「え?」
「これに着替えたら校門前に集合」
「待って、僕はここから…」
「心配しなくていい」
いきなり言われて困惑したけど、指示に従って自宅を終える。
そうして数年ぶりに見た外の世界は、知らないことだらけになっていた。
「あんなお店、前はなかった」
「あそこは保護猫カフェ。里親探しをしながらその猫たちと触れ合える」
きらきらしていて入ってみたかったけど、そこまで先生の時間をとらせるわけにはいかない。
「行ってみるか?」
「え、いいの?」
「あの薬の効果は夜明けまでだ」
「そんなに効くんだ…」
せいぜい3時間が限界だと思っていたのに、僕が知らないところでそんなものを用意してくれていたなんて知らなかった。
「いらっしゃいま、せ」
詩乃ちゃんが固まっていたけど、思いきり手をふってみせる。
色々とやってもらってから猫さんの近くに座っていると、沢山の猫さんが近づいてきた。
「そんなに一気に来られても、おやつ持ってないよ…?」
「こうやって1匹だっこするともう少し落ち着くらしい」
最初から目が合っていた子を言われたとおりだっこしてみると、たしかに周りから猫さんが少し減った。
「先生、詳しいんだね」
「別に褒められるほど知識があるわけじゃない」
先生はそう言ってたけど、僕にとってはいつだってすごいんだ。
しばらくゆっくり過ごしてからお祭りをやっている場所まで連れていってくれた。
「好きなものをやってみればいい」
「え、でも、」
「俺はおまえがよければなんでもいい」
霊体だってお腹がすかないわけじゃないし、ましてや人間に紛れこむほどの何かを使っているわけだからお腹はぺこぺこだ。
たこ焼きにわたがし…どうして先生はこんなによくしてくれるんだろう。
「あ…」
「どうした?」
「僕、あれやりたい」
当たるかどうかなんて分からない。
それでも、何も返せないのは嫌だった。
「すみません、ふたり分お願いします」
そう話した先生は景品にコルク弾を仕込んだ銃を向ける。
「どれを狙う?」
「先生こそ、どれにするの?」
「特に決めてない」
まず1発、ぬいぐるみに当てた先生は楽しそうに笑っていた。
その後僕が撃った2発は狙っているものの隣に当たってしまう。
「箱を狙うならもう少し上に照準を合わせた方がいい。それから、ぶれないように両手で狙うこと」
「先生片手じゃん」
「慣れてるからな」
もう1発、どうしても当てたかった。
外れたかと思ったけど、真っ直ぐ箱に命中する。
「そんなにキャラメル好きだったか?」
先生は景品をひとまとめにしてくれたお兄さんから袋を受け取って、その中からキャラメルだけ渡してくれた。
「違うよ。今日のお礼」
「お礼?」
「先生、いつもキャラメル食べてたでしょ?だからこれは先生のだよ。ついでに他のもあげる」
お菓子しか置いていない列のものを狙ってよかった。
甘いものが大好きで、いつもポケットにキャラメルを入れていた先生に食べてほしかったんだ。
【疲れたときは甘いものだろ】
【教師がそんなこと言っていいの?】
【それもそうか…。じゃあ、おまえもこれで共犯な】
怪我をして保健室にいたあの日食べたキャラメルの味を、今でもずっと覚えている。
先生にとってはただの生徒との会話だったかもしれないけど、僕にとっては救いの言葉だった。
「授業中に食べるわけにはいかないし、ひとりでこんなには食べ切れない。
あと、授業中退屈ならこれでも持って待ってろ」
そう言って先生に渡されたのは、猫とくまの小さめなぬいぐるみだった。
「僕より詩乃ちゃんの方が喜ぶんじゃない?」
「おまえに持っててほしいんだ」
「…ありがとう」
「あと、キャラメルは持ち歩くが、残りのお菓子はふたりで食べればいい。…それで共犯な」
「…!うん!」
先生は覚えていてくれたのだろうか。
それとも、たまたま同じようなことを言ったのかな。
はっきりとは分からなかったけど、先生が楽しそうだからそれでいい。
「瞬」
「なに?」
「ほら」
手を差し出されてその手を迷わず握る。
先生のことを、もう疑ったりしない。
先生に迷惑をかけない程度に、一緒にいられるといいな。
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