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第7章『夜回りと百物語』
第49話
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「ありがとうございました」
喫茶店の後は楽器屋で過ごし、今は猫カフェで子猫の相手をしている。
「折原さん、もうあがって大丈夫だよ」
「もう少しだけこの子のお世話をしてもいいですか?」
「ありがたいけど、他のところでもバイトしてきたでしょ?ちゃんと休まないと、妹さんに心配かけちゃうよ」
「猫相手だと癒やされるので…自分の為でもあるんです」
本心だった。人間相手はとても疲れる。
バイトで嫌なことがあっても普段はふたりで食事をして回復するが、穂乃がいない今猫相手が1番癒やされる時間だ。
「それじゃあ、あと15分くらいお願いしてもいいかな?」
「分かりました。ありがとうございます店長」
深夜0時、少し疲れたものの夕飯を軽く摂り終えた私は、ずっと校内を巡回していた。
今夜の見回りはひとりでおこなう為、少し退屈に感じている自分がいる。
「こんな時間に何を、」
「監査部です。お勤めご苦労様です」
「これは失礼しました。ありがとうございます」
警備員さんもいつもより少ない人数で回している。
だからなのか少し親近感がわいた。
「今夜はひとりか?」
「そうだよ。先生の方こそひとりなのか?」
「霊体は霊力を消費するから、今夜はエネルギー切れでもう休んでる」
瞬のことだからきっと日中はずっと活動していたんだろう。
想像すると少し微笑ましい。
「岡副はどうした?」
「桜良と過ごしてるんじゃないかな。まあ、私も見回りが休みの日を作らせてもらったから、」
そこで言葉を止めたのには理由がある。
ふたりで黙っていると、鍵が閉まっているはずの教室から明らかに生徒のものと思われる声がした。
「何その話、普通に怖いんだけど」
「あと5本か…ここからは真剣勝負な」
「何の真剣勝負をするんだ?」
「それは、勿論この遊びの締め…え、憲兵姫!?」
男子生徒が3人、呆然と立ち尽くしている。
その周りには大量の蝋燭がたてられていて、火が消された痕跡があった。
「もしかして、百物語でもしていたのか?」
「これは、えっと、その…」
「夜の学校でそんなことをしたら危ないだろう」
「室星先生もいる…なんでいるの?」
「監査部の見回り。先生は宿直だからだよ」
相手は少し焦っているように見えるが、途中でやめさせるわけにもいかない。
「先輩たちも参加してくださいよ」
「私たちには仕事がある。火事にならないように気をつけろ」
「分かりました!」
ふと3人の顔を見てぎょっとした。
何故こんなことになっているのか、頭が追いついていない。
まるで生気を吸われたような、今にも干からびそうな見た目をしている。
それと、もうひとつ問題が発生した。
「…先生」
「どうした?」
「ドアが開かない」
どうやら私たちも美味しそうなご飯として認識されてしまったらしい。
「最後までつきあうしかないみたいだな」
「生徒の監督という観点からもそれ以外なさそうだ」
3人には私たちの声が聞こえていないらしい。
集中して聞こえないというより、目の前のこと以外見えなくなっているようだ。
「百物語って遊び半分でやったら駄目なやつだよな?」
「ああ。来るのが低級ならいいが、万が一に備えて武器の用意はしておいた方がいい。…その手で弓を使うのは難しいか」
「ううん、やるよ。それしかないってなったらちゃんと撃つ」
先日の狸の妖ものたちにつけられた傷は思った以上に深かったらしく、時々先生に薬を塗ってもらっている。
「…ここで聞いた話、次の為に役立つかな?」
「知らないよりは知っておいた方がいいかもしれないな。だが、また戦うつもりなのか?」
「そうならないといいなって思うよ。けど、」
私たちが話している途中で男子生徒が高らかに宣言した。
「じゃあ俺から、あんまり怖くない話にしようかな!」
……できれば今すぐ抜け出したい状況で、百物語の終盤を聞くことになった。
喫茶店の後は楽器屋で過ごし、今は猫カフェで子猫の相手をしている。
「折原さん、もうあがって大丈夫だよ」
「もう少しだけこの子のお世話をしてもいいですか?」
「ありがたいけど、他のところでもバイトしてきたでしょ?ちゃんと休まないと、妹さんに心配かけちゃうよ」
「猫相手だと癒やされるので…自分の為でもあるんです」
本心だった。人間相手はとても疲れる。
バイトで嫌なことがあっても普段はふたりで食事をして回復するが、穂乃がいない今猫相手が1番癒やされる時間だ。
「それじゃあ、あと15分くらいお願いしてもいいかな?」
「分かりました。ありがとうございます店長」
深夜0時、少し疲れたものの夕飯を軽く摂り終えた私は、ずっと校内を巡回していた。
今夜の見回りはひとりでおこなう為、少し退屈に感じている自分がいる。
「こんな時間に何を、」
「監査部です。お勤めご苦労様です」
「これは失礼しました。ありがとうございます」
警備員さんもいつもより少ない人数で回している。
だからなのか少し親近感がわいた。
「今夜はひとりか?」
「そうだよ。先生の方こそひとりなのか?」
「霊体は霊力を消費するから、今夜はエネルギー切れでもう休んでる」
瞬のことだからきっと日中はずっと活動していたんだろう。
想像すると少し微笑ましい。
「岡副はどうした?」
「桜良と過ごしてるんじゃないかな。まあ、私も見回りが休みの日を作らせてもらったから、」
そこで言葉を止めたのには理由がある。
ふたりで黙っていると、鍵が閉まっているはずの教室から明らかに生徒のものと思われる声がした。
「何その話、普通に怖いんだけど」
「あと5本か…ここからは真剣勝負な」
「何の真剣勝負をするんだ?」
「それは、勿論この遊びの締め…え、憲兵姫!?」
男子生徒が3人、呆然と立ち尽くしている。
その周りには大量の蝋燭がたてられていて、火が消された痕跡があった。
「もしかして、百物語でもしていたのか?」
「これは、えっと、その…」
「夜の学校でそんなことをしたら危ないだろう」
「室星先生もいる…なんでいるの?」
「監査部の見回り。先生は宿直だからだよ」
相手は少し焦っているように見えるが、途中でやめさせるわけにもいかない。
「先輩たちも参加してくださいよ」
「私たちには仕事がある。火事にならないように気をつけろ」
「分かりました!」
ふと3人の顔を見てぎょっとした。
何故こんなことになっているのか、頭が追いついていない。
まるで生気を吸われたような、今にも干からびそうな見た目をしている。
それと、もうひとつ問題が発生した。
「…先生」
「どうした?」
「ドアが開かない」
どうやら私たちも美味しそうなご飯として認識されてしまったらしい。
「最後までつきあうしかないみたいだな」
「生徒の監督という観点からもそれ以外なさそうだ」
3人には私たちの声が聞こえていないらしい。
集中して聞こえないというより、目の前のこと以外見えなくなっているようだ。
「百物語って遊び半分でやったら駄目なやつだよな?」
「ああ。来るのが低級ならいいが、万が一に備えて武器の用意はしておいた方がいい。…その手で弓を使うのは難しいか」
「ううん、やるよ。それしかないってなったらちゃんと撃つ」
先日の狸の妖ものたちにつけられた傷は思った以上に深かったらしく、時々先生に薬を塗ってもらっている。
「…ここで聞いた話、次の為に役立つかな?」
「知らないよりは知っておいた方がいいかもしれないな。だが、また戦うつもりなのか?」
「そうならないといいなって思うよ。けど、」
私たちが話している途中で男子生徒が高らかに宣言した。
「じゃあ俺から、あんまり怖くない話にしようかな!」
……できれば今すぐ抜け出したい状況で、百物語の終盤を聞くことになった。
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